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第十八話

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「うわあ、すごいなあ。内装もすごく綺麗だ」
 家の中に入ってからもテオドールは造りを見て感心していた。
 手作りといっていたがきちんと整備がされているため、木々の優しい色合いが温かい雰囲気をにじませており、彼女と母親の思い出が悪いものばかりではなかったのだと伝わってくるものだった。

「ありがとうございます。お茶を用意しますね!」
「ありがと。それじゃ、家に感心してばかりいても話が進まないから色々と突っ込んだ話をしようか。その前に……」
 キッチンに向かうリザベルトを横目に、テオドールは近くにあったテーブルの椅子に腰かけ、家の周りを風の結界で覆う。

「えっ? 今のは……?」
 何かが変わったことだけはわかったが、何をしたのかまではリザベルトにはわからなかった。

「僕たちの声は外に漏れないように、それから誰かが近づいて来てもすぐにわかるようにしたんだ。少し、込み入った話をしようと思っているからね……」
 テオドールはここまでリザベルトと行動をともにしてきて、こんな状況になっても彼女から悪意や嫌な気持ちは感じずに、自分のことを信頼してくれていることを理解していた。

 なら、自分のことを話してもいいんじゃないか? そう考えていた。

「す、すごいです……そんなことまで、しかも一瞬でできるなんて……改めて聞きますけど、テオさんは一体何者なんですか? 商人志望だなんてはぐらかさないで下さいね?」
 テーブルに戻ってきたリザベルトはお茶を用意しながらいつものように煙にまくような言い方をされないように、先に逃げ道を潰す。

「ははっ、わかってるよ。そのへんも含めて色々と話しておこうと思ってね。僕が普通の十四歳と違うのはここまで一緒にいて薄々わかってるだろうけど、今日はその理由を話すつもりさ」
 一口お茶をすすったテオドールも今回は腰を据えて話そうと考えていた。

「僕が商人の息子で一流の大商人を目指してのは本当のことで、それは商人である父さんに憧れていたからなんだ。その父さんが亡くなって、多額の借金があるっていう手紙が学院の寮に届いて――その時ビックリしちゃって勢いよくのけ反った時に柱に頭をぶつけたんだよ」
 そう言いながらテオドールは後頭部をさする。
 目覚めた時には肉体が勇者時代のそれになっていたため、もう傷はない。

「それが思った以上に強い衝撃だったみたいで気絶しちゃったんだよ」
「ええっ!?」
 なんてことないように言うテオドールに対して、気絶するほどの衝撃ということにリザベルトは驚いていた。

「その気絶しているうちに僕に大きな変化があったんだ。これは……信じてもらえないかもしれないけど、僕の前世は多くの魔法や知識を修める賢者だったんだ」
 自分の身に秘める力、記憶から、その事実を口にする。

「…………」
 何を言うのが正解なのかわからないリザベルトは、とりあえず無言で頷く。

 テオドールの特異性を考えると、確かにそれくらいのことを秘めていなければおかしい。
 しかし、それにしても前世という話は突拍子もなさすぎた。

「で、それには続きがあって、賢者の更に前世は勇者と呼ばれる存在で世界を救う旅をしていたんだよ。つまり、賢者と勇者という二つの前世を持ってる商人が僕、テオドール=ホワイトなんだ」
 更なる事実を告げられても、およそ信じられるような話ではない。
 それでも、なんとか理解しようとリザベルトは話を何度も自分の中で繰り返していく。

「信じられないかもしれないけど、ただの商人の子どもだった僕が魔法を使ったり、色々なものを作ったりできるのはそこらへんが理由なんだ。記憶だけじゃなく、力も僕の身体に融合したんだよ」
「な、なるほど……」
 ここまでくると『信じられない』から半周して、テオドールだったらありえるんじゃないかと思わされていた。
 これまでリザベルトが見てきたテオドールという人物ならば、常人にはありえないことをしてきてばかりだったからだ。
 
「まあ、だから戦闘もできるし、ポーションの時のようなこともできるんだ。自信と力と知識があるから、いざという時に動くこともできる……借金を肩代わりした時みたいにね」
 そう言われて、テオドールがポンっと五百万支払って、一千万の借金を背負った時のことを思い出す。
 おそらく記憶を取り戻す前のテオドールなら可哀そうだとは思うが、自分のことでいっぱいいっぱいだっただろうことは想像に難くなかった。

「確かに……最初は話を聞いていても、現実味がありませんでしたけど、テオさんのこれまでの行動を見ていたらそうでもなければ不自然とまで思えるようなものでした」
 いまだ信じられない部分もあるが、納得はさせられたリザベルトはお茶の入ったカップを見つめ、小さくうなずく。

 テオドールのこれまでの行動と今の真剣な態度。
 他の人が言ったなら夢物語だと、一蹴するようなありえないようなことだったが、彼ならば当然のことかもしれないとまで思う様になっていた。

「まあ、僕に関して何かあるとしたら、それくらいかなあ。他には借金が四千万ゴルドあるから、なんとか返さないとってところだね。これはリザも知ってることだけど」
 テオドールの確認に、顔を上げたリザベルトは頷いて返す。
 この時点で彼の話が終わりだと察した彼女は、今度は自分の番であると、悲しみの入り混じった真剣な表情になっていた。

「――私は……本当なら死ぬはずだったんです」
 重たいリザベルトの口から語られたのは、幼いころから今にいたるまで、悲しさと辛さの続く話だった。





「私の住んでいた集落では厳しい掟の元で暮らし、数年に一度森の神様にいけにえを捧げるという風習が未だに残っていました……私が四歳になった年、その年のいけにえが私に決まりったんです」

 そこで一度言葉が止まる。
 幼かったが、当時のことを今でも鮮明に覚えているリザベルトは話しながら、その時の光景、空気、匂いを思い出していた。

 森の長から告げられられたいけにえの話は幼いながらにも衝撃的で、大きくなった今でも忘れられるものではなかった。

「……辛いなら、そのへんでいいよ?」
 恐らくはその後も色々な問題を抱えながら、この街に流れ着いた。
 結果がわかっていることであるため、彼女が口にするのをためらうのであれば無理に話す必要はない。

 そうテオドールは考えていた。

「……いえ、大丈夫です」
 しかし、自らの秘密を明かしてくれたテオドールに対して、自分も話すとリザベルトは決意をしている。

 少しゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせた彼女は、真剣な表情で続きを話し始めた。

「いけにえとして捧げられる晩に、父と母が私を逃がそうとしてくれたのですが、それが村の人たちにばれてしまって……父が私を逃がすために村の人たちとの戦いになって亡くなってしまいました……」
 ここでも彼女は辛い顔をする。父親が逃げろと叫んでいた声はリザベルトの脳裏に深く焼き付いていた。

 それでも、今回は言葉は止まらない。

「なんとか母と二人で逃げ延びたのですが、村を裏切った私たちは追われることとなりました。エルフは、特に私がいた場所では掟を破ったものは許さないという考えが未だに根強いんです。そして、元来戦闘能力が高い種族で、暗殺に特化した人もいたので、私たちは必死で追っ手から逃げて逃げて――逃げ続けたんです」
 普通に森を抜けるだけではなく、その手のスペシャリストに近い人たちに追われて、隠れながら逃げるというのはストレスもたまり、表立って行動もできないため、それだけでも辛いということがわかる。

「ばれないように色々移動する中で、お金も必要になったので色々な場所で借りることになったんですが、それを今回取り立てに来た借金取りさんが一つにまとめて、母から取り立てていたみたいなんです」
「僕と同じだね。返済する側としても返す先が一つにまとまってるのは助かる」
 借金取りがどんな考えでそうしたのかわからないが、この対応に関しては彼のことを見なおしていた。


借金:4000万
所持金:400万+約30万
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