上 下
14 / 26

第十四話

しおりを挟む
「あの、みなさんをお連れしました」
 受付嬢は控えめに数回ノックしてから声をかける。

『みなさん? ……入ってもらいなさい』
 ギルドマスターは受付嬢の言葉に一瞬考え込むが、ジャーノが会いに来たと聞いているため、部屋に迎え入れることにした。

「おう、エイレム。急に来てすまんな」
 受付嬢は下がり、ジャーノはずかずかと中に入って気軽な様子でギルドマスターに声をかける。

「えぇ、それは構いませんが……一人だと思っていましたよ」
 慣れた様子で対応するギルドマスターエイレムは、ジャーノの後ろにいるテオドールとリザベルトに視線を向けていた。

 エイレムはすらりと長身のエルフの男性で、眼鏡の奥には鋭い眼差しがある。
 丁寧な言葉使いだが冷ややかな声音で冷静な人物を思わせる。質の良いローブを身にまとい、落ち着いた雰囲気だ。

 見た目の年齢は青年のソレだが、ジャーノの知り合いでギルドマスターという立場から考えて、恐らくはかなりの年齢なのだと想像ができた。

「あぁ、今日はこいつらがお前に用事があってな。こいつらには別件で世話になったから、取次ぎを請け負ったというわけだ」
 あくまで今回の主はテオドールたちだとジャーノが言う。

「ほう、あなたが世話に……それはなかなか興味深いですね」
 このジャーノの一言だけで、エイレムはテオドールたちに興味を持っていた。

「とりあえず話を聞きましょう。三人ともそちらにかけて下さい」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます!」
 テオドールとリザベルトは礼を言いながらソファに座り、ジャーノは無言でドカリと腰掛ける。
 ジャーノは、場を整えるのが役目であるため、あとのことはテオドールに任せていた。

「まずは自己紹介からしましょう。私は冒険者ギルドのギルドマスターをしているエイレムと申します」
 丁寧に頭を下げながらエイレムは自ら自己紹介を始める。

「ジャーノさんとは旧知の間柄といったところですね。お二人の名前を伺ってもよろしいですか?」
 その問いかけにテオドールとリザベルトは頷いた。

「僕の名前はテオドール=ホワイトです。一応商人志望ということで、商売のまねごとをさせてもらっています」
 それを聞いたエイレムは、テオドールがどんな目的で来たのかおおよそを把握する。

「私はリザベルトです。先日まで錬金術師ギルドの受付をやっていました。今はテオさんの相方? みたいな立場だと思います」
 どうにも歯切れの悪い言い方のリザベルトだったが、自分が微妙な立場でいることを鑑みると、この言い方が適切だとも思えていた。

「ふむ、テオドールさんにリザベルトさんですね。それで、本日はどういったご用向きでしょうか?」
 やっとここで本題に入れると、テオドールが真剣な表情になる。

「今日は武器を売りに来ました。特別な能力を持っている武器なので、買って頂けると助かります」
 テオドールがストレートに、今回やってきた理由について口にする。

 エイレムは眼鏡の奥にある目を細めて冷ややかにテオドールのことを見ていた。
 ジャーノの知り合いだから話を聞いてはいたが、ただ武器を売りつけに来たということだけでは興味を惹かれなかった。

 子どもが持ってくるものなら、どうせ大したことないだろうという先入観が働いている。

「その武器がこれです」
 そんな気持ちの変化に気づいたテオドールはテーブルの上に武器を取り出していく。
 置かれたのはマジックウェポンである四本の武器。片手剣はしまったままにしてある。

「む、これはなかなか」
 実際に物を見てみると、エイレムはそれらに食いつき、手を伸ばそうとする。

 しかし、勝手に触っていいものか一度テオドールに視線を送り、テオドールは無言で頷く。

「ほうほう、このナイフは手にしたものの魔力に応じて切れ味を増すのですね……こっちは、魔力さえあればナイフを通して魔法を発動することができる……」
 エイレムは試しに魔力を流すことで、実際の能力を確認し、あっという間にテオドールが持ちこんだ武器に夢中になっていた。
 マジックウェポンはダンジョン内などの魔素の影響によって生まれることが多く、手に入れるのはたやすくない。

 その様子を見てテオドールは内心でガッツポーズをしている。

「いかがですか?」
 ただし、表面上は平静を装って、落ち着いた口調でエイレムに尋ねる。

「いやいや、まさかこれほどのものを持ってきていたとは思ってもみなかったもので、もし態度に出ていたら申し訳ありません」
 テオドールとリザベルトは、エイレムの第一印象をクールそのものとしていた。
 しかし、今のエイレムはマジックウェポン四つを前に興奮を隠せずにいる。

「それでは、買い取ってもらえますか?」
「もちろんです! いかほどでしょうか?」
 テオドールの質問にエイレムは即答した。

「えーっと……」
 ここで、一つ問題にぶち当たる。
 テオドールはこれらがどれほどの相場になるものかわかっておらず、視線をジャーノに向けた。

「うーむ、そうだな。これほどの武器だったら一つ百万でどうだ?」
 武器屋としての経験から、ジャーノは妥当な値段を算出する。

「ひゃく!」
「まん!」
 テオドールとリザベルトは予想していなかった高額に驚いて大きな声を出してしまった。
 フルヒールポーションが五十万だったため、それと同じかそれより安いだろうと二人ともが予想していた。

「まあ、あなたの見立てなら間違いないでしょうし、実際そんなところかな。じゃあ、四つで四百万ですね。今、用意するので少々お待ち下さい」
 特に問題ないだろうとエイレムはそう言うと立ち上がり、金を持ちに行った。

「……これで少しは借金の足しになるだろ」
 エイレムが部屋から出たタイミングでジャーノが呟く。
 その隣でテオドールとリザベルトは何度も頷いて返していた。
 
 しばらくするとエイレムが大きめの袋を持って戻ってくる。

「お待たせしました。こちらが代金になります」
 ドサリと音をたてて置かれた袋は、重量感があり、中に詰まった金貨が擦れる音がする。

「あ、ありがとうございます!」
 ただで手に入れた武器。それがこれほどの大金になるとは想定以上の結果であり、さすがのテオドールも動揺していた。

「いや、こちらこそいい取引をさせてもらいました。また何かあったら持って来て下さい」
 事前にジャーノは、冒険者との交渉に使うと説明していたが、実のところエイレムは武器マニアである。
 特に今回のようなマジックウェポンには特に目がなかった。だからこそ彼を紹介したのだ。

 話がひと段落し、良いものが手に入ったため、エイレムは目に見えてほくほく顔だ。

「さて、それでは本題に入りましょう」
 そこを商機と見たテオドールが笑顔でそんなことを言う。

「えっ? 本題、ですか?」
 虚を突かれたエイレムはキョトンとしている。

 もう一つ大物をまだ出していないことを彼以外はわかっているため、エイレムがどんな反応をするのかと楽しみにしていた。

借金:4000万
所持金:400万+約30万
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...