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第十五話
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三人はそれぞれ順番に水浴びをする。
この世界に来てからというもの、リュウとガトはゆっくりと宿に泊まることもできず、ずっと移動していた。リュウは身体を清潔にする習慣がある生活だった為、水浴びができるというのは願ったりかなったりだった。
ガトは飼い猫だった時よりも大きくなった猫獣人の体をグルーミングするのは大変なようで、水浴びをすることに抵抗はない。またハルカも急な女神の呼び出しに答えたため、清潔にできるのはありがたかった。
「お二人の服も少々汚れが目立ちますね」
水浴びを終えたハルカが髪の毛を魔法で乾かしながら、先に水浴びをして着替え終えていた二人の服を見て困ったような表情をしていた。
「そういえばそうだな。ずっとこれを着てるし、洗ったりする暇もなかったからな……さっき洗えばよかったか」
リュウは池で洗濯をすれば……そう思ったが、洗剤もないためどうしたものかと足を止める。
「大丈夫です。私の魔法があるのでご安心下さい」
ハルカは自らの杖を手にすると何やら呪文を唱える。すると、みるみるうちにリュウたちの服が綺麗になっていく。
「お、おぉぉ、すごいな!」
「すごいのにゃ! これはハルカさんの魔法ですにゃ?」
リュウもガトも汚れもにおいもない自分たちの服を見て驚き、興奮していた。
「ふふっ、喜んでもらえたみたいでよかっです。これは魔法なんですけど恐らく私しか使えないと思います。一人暮らしをする中で編み出した魔法なので」
それを聞いてガトはしばらく彼女を褒めちぎり、リュウは目を大きくして驚いていた。
「すごいのにゃ!」
「やばいな……これはすごい仲間が増えたみたいだ」
リュウもこれまでに忍術をいくつか考案していたが、まずどんなものにするか、どうすればいいか、前段階としてそれらを考える。
次に、それを何度も試行錯誤して使える忍術として昇華させていくが、実用に至るのは難しいことだった。
「まあ、汚れた服を綺麗にするだけなんで全然すごくなんてないんですけどね、ははっ……」
今まで自分の魔法を誰にも認められたことがないハルカは頬を掻きながら自虐的な笑いを浮かべる。
それを見たリュウは彼女の心の傷は根が深いと感じ取った。
「そんなことはない。他のやつらはどうか知らんし、確かに俺たちはこの世界の魔法にも詳しくはない。だが、俺はさっきの魔法はすごいものだと思う」
「頭領、それは違うにゃ」
ハルカの頑張りをきちんと評価したつもりのリュウ。だがチッチッチとガトが指を一本たてて横に振る。
「俺たち、なのにゃ。拙者もハルカさんの魔法に感動したにゃ!」
ガトもハルカの魔法に目を輝かせていた。こちらの世界に猫人族として転生したガトは魔法を使う難しさをわかっているため、先ほどの魔法がすごいものであるとわかっていた。
「まあ、そういうわけだからそう自分を卑下しないでくれ。俺の仲間はすごいんだって、俺たちがちゃんと思っているんだからな」
ガトの発言に乗っかるように頷いたリュウはハルカの肩に手をポンっと置いて励ました。
「は、はいっ! すごく……すごく嬉しいです!」
自分の魔法を認めてくれたこと、自分自身を仲間と認めてくれたこと、ハルカはそれら全てを嬉しく思っていた。
リュウとガトは魔法に感動していたのは事実であり、先ほどの言葉に嘘偽りはなかった。こんな言葉が自然と出てきたのも夜遅くまで互いの身の上について語り合ったためだった。
自然と互いの話になったわけだったが、互いのことを知る上でとても大切なやりとりだった。
「よし、それじゃ街に向かうぞ!」
身支度を整えることができた三人は、一晩世話になった池に頭を下げ、それぞれが女神に対しての気持ちを心の中で伝えた。そして周囲にいる動物に手を振ってこの場をあとにした。
聖域となった池の周りから出ると空気が変わる。
「あの池はすごいですね。これなら魔物が入り込めないのもわかります」
ハルカは境界線にそっと手を触れて感動したように口にする。
「もしかしたら、あの池の底にあるという魔道具は女神に関係するものなのかもしれないな。それだけの力を持つものがただ放置されているというのもおかしな話だ」
リュウたちが入ったところですぐに女神が現れたことを考えると、あながちこの考えも外れていないと思えた。
「そうかもしれませんね。私の転移もスムーズに行えたのも、あの場所につなげていたからかもしれません」
転移魔法ともなれば、世界でも使える人間がいるのかどうかというレベルの高等魔法であり、ハルカが住んでいた場所からここまでの長距離移動を簡単に行えたのはそういった場所との相性もあったのではないか。それがハルカの考えだった。
「なるほどな。俺たちがここに引き寄せられたのも偶然じゃなかったのかも知れないな」
事実はわからないが、女神の力、もしくは運命がリュウたちをあの池に導いたのではないかと考えられた。
「頭領、ハルカさん、こっちへ行けば森から抜け出られそうにゃ」
ガトは目に見えているものと耳から聞こえる音から、前方に森とは違う開けた場所があることを事前に感じ取っていた。
「わかった。――少し足を速めるが大丈夫か?」
「もちろんです!」
ハルカが住んでいた場所も森の中であり、男性であるリュウの歩幅に合わせるのも苦ではないくらいには体力もあった。
「早く、早く行こうにゃ!」
ガトはやっと抜け出られることに喜び、二人から距離をとってしまうほどに先行していた。
森をいち早く抜けたガトはそこでぴたりと足を止める。
ガトは後ろから来るリュウたちを振り返るでもなく、ただ茫然と立っているようだった。
「おい、ガト少し早いぞ……どうした?」
ガトの様子がおかしいことに気づいて、リュウも前方に視線を向ける。
「これは……すごいな」
「すごいです……」
語彙力を失ったかのようにリュウとハルカもそれだけ言って、ガトの少し後ろでじっと前方を見ていた。
この世界に来てからというもの、リュウとガトはゆっくりと宿に泊まることもできず、ずっと移動していた。リュウは身体を清潔にする習慣がある生活だった為、水浴びができるというのは願ったりかなったりだった。
ガトは飼い猫だった時よりも大きくなった猫獣人の体をグルーミングするのは大変なようで、水浴びをすることに抵抗はない。またハルカも急な女神の呼び出しに答えたため、清潔にできるのはありがたかった。
「お二人の服も少々汚れが目立ちますね」
水浴びを終えたハルカが髪の毛を魔法で乾かしながら、先に水浴びをして着替え終えていた二人の服を見て困ったような表情をしていた。
「そういえばそうだな。ずっとこれを着てるし、洗ったりする暇もなかったからな……さっき洗えばよかったか」
リュウは池で洗濯をすれば……そう思ったが、洗剤もないためどうしたものかと足を止める。
「大丈夫です。私の魔法があるのでご安心下さい」
ハルカは自らの杖を手にすると何やら呪文を唱える。すると、みるみるうちにリュウたちの服が綺麗になっていく。
「お、おぉぉ、すごいな!」
「すごいのにゃ! これはハルカさんの魔法ですにゃ?」
リュウもガトも汚れもにおいもない自分たちの服を見て驚き、興奮していた。
「ふふっ、喜んでもらえたみたいでよかっです。これは魔法なんですけど恐らく私しか使えないと思います。一人暮らしをする中で編み出した魔法なので」
それを聞いてガトはしばらく彼女を褒めちぎり、リュウは目を大きくして驚いていた。
「すごいのにゃ!」
「やばいな……これはすごい仲間が増えたみたいだ」
リュウもこれまでに忍術をいくつか考案していたが、まずどんなものにするか、どうすればいいか、前段階としてそれらを考える。
次に、それを何度も試行錯誤して使える忍術として昇華させていくが、実用に至るのは難しいことだった。
「まあ、汚れた服を綺麗にするだけなんで全然すごくなんてないんですけどね、ははっ……」
今まで自分の魔法を誰にも認められたことがないハルカは頬を掻きながら自虐的な笑いを浮かべる。
それを見たリュウは彼女の心の傷は根が深いと感じ取った。
「そんなことはない。他のやつらはどうか知らんし、確かに俺たちはこの世界の魔法にも詳しくはない。だが、俺はさっきの魔法はすごいものだと思う」
「頭領、それは違うにゃ」
ハルカの頑張りをきちんと評価したつもりのリュウ。だがチッチッチとガトが指を一本たてて横に振る。
「俺たち、なのにゃ。拙者もハルカさんの魔法に感動したにゃ!」
ガトもハルカの魔法に目を輝かせていた。こちらの世界に猫人族として転生したガトは魔法を使う難しさをわかっているため、先ほどの魔法がすごいものであるとわかっていた。
「まあ、そういうわけだからそう自分を卑下しないでくれ。俺の仲間はすごいんだって、俺たちがちゃんと思っているんだからな」
ガトの発言に乗っかるように頷いたリュウはハルカの肩に手をポンっと置いて励ました。
「は、はいっ! すごく……すごく嬉しいです!」
自分の魔法を認めてくれたこと、自分自身を仲間と認めてくれたこと、ハルカはそれら全てを嬉しく思っていた。
リュウとガトは魔法に感動していたのは事実であり、先ほどの言葉に嘘偽りはなかった。こんな言葉が自然と出てきたのも夜遅くまで互いの身の上について語り合ったためだった。
自然と互いの話になったわけだったが、互いのことを知る上でとても大切なやりとりだった。
「よし、それじゃ街に向かうぞ!」
身支度を整えることができた三人は、一晩世話になった池に頭を下げ、それぞれが女神に対しての気持ちを心の中で伝えた。そして周囲にいる動物に手を振ってこの場をあとにした。
聖域となった池の周りから出ると空気が変わる。
「あの池はすごいですね。これなら魔物が入り込めないのもわかります」
ハルカは境界線にそっと手を触れて感動したように口にする。
「もしかしたら、あの池の底にあるという魔道具は女神に関係するものなのかもしれないな。それだけの力を持つものがただ放置されているというのもおかしな話だ」
リュウたちが入ったところですぐに女神が現れたことを考えると、あながちこの考えも外れていないと思えた。
「そうかもしれませんね。私の転移もスムーズに行えたのも、あの場所につなげていたからかもしれません」
転移魔法ともなれば、世界でも使える人間がいるのかどうかというレベルの高等魔法であり、ハルカが住んでいた場所からここまでの長距離移動を簡単に行えたのはそういった場所との相性もあったのではないか。それがハルカの考えだった。
「なるほどな。俺たちがここに引き寄せられたのも偶然じゃなかったのかも知れないな」
事実はわからないが、女神の力、もしくは運命がリュウたちをあの池に導いたのではないかと考えられた。
「頭領、ハルカさん、こっちへ行けば森から抜け出られそうにゃ」
ガトは目に見えているものと耳から聞こえる音から、前方に森とは違う開けた場所があることを事前に感じ取っていた。
「わかった。――少し足を速めるが大丈夫か?」
「もちろんです!」
ハルカが住んでいた場所も森の中であり、男性であるリュウの歩幅に合わせるのも苦ではないくらいには体力もあった。
「早く、早く行こうにゃ!」
ガトはやっと抜け出られることに喜び、二人から距離をとってしまうほどに先行していた。
森をいち早く抜けたガトはそこでぴたりと足を止める。
ガトは後ろから来るリュウたちを振り返るでもなく、ただ茫然と立っているようだった。
「おい、ガト少し早いぞ……どうした?」
ガトの様子がおかしいことに気づいて、リュウも前方に視線を向ける。
「これは……すごいな」
「すごいです……」
語彙力を失ったかのようにリュウとハルカもそれだけ言って、ガトの少し後ろでじっと前方を見ていた。
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