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第三十一話

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 冒険者ギルドに戻った二人は少し硬い表情でギルドマスタールームに案内され、テーブルを挟んでギルドマスターと向かい合って座っている。

「いやあ、お二人が出て行ってしまったと聞いて慌てて追いかけたんですよ。ギルドカードの魔力からお二人が持ち主だとわかったので……追いつけてよかった」
 ギルドマスターはクレイという名で長い緑の髪を後ろで束ねている。
 改めて彼のことを見ると、優男という言葉がピッタリのエルフの美形である。
 身体も細身だったが、あれだけ距離が空いていたにも関わらず追いつけるだけの脚力を持っているのはかなりのギャップだった。

「あれだけ離れたのにまさか追いつかれるとは思いませんでした……にしても、逃げたりして申し訳ありません。てっきり俺たちのことを追っているのかと思ってしまって……」
 悪いことをしたような気持になったリツは素直にクレイに謝罪する。

「いえいえ、私も用件を伝えずにここに来るようにだけ言ったので言葉足らずでした。すみません」
 苦笑するクレイも同様に二人に謝罪し、頭を下げる。

 リツとクレイ、二人が顔をあげたところでニコリと笑いあい、話が始まる。

「さて、お二人に来てもらったのは他でもありません。今回のゴブリン討伐依頼に関してです」
 そう言って、穏やかな笑顔をしたクレイはテーブルの上に二人の冒険者ギルドカードを置く。

「あなた方の討伐記録にはゴブリンとの戦闘が記されていました。これがただのゴブリンや、ゴブリンアーチャー程度であれば問題なかったのですが……ゴブリンソルジャーと、ゴブリンキングとも戦っていますね?」
 上位種との戦いも全て記録されているため、真剣な表情のクレイはこのあたりを確認したかった。

(記録が残っているんじゃ嘘をついても仕方ないか……)
 冒険者ギルドカードには討伐数がきちんと計測されるシステムだというのはあらかじめ受付嬢から説明されていた。
 受付嬢があの時顔色を変えて飛び出していったのはそういうことだったのだとリツは納得していた。

「はい、最初は普通のゴブリンだけだったんですけど、奥に進むにつれてゴブリンの数が増えてきて……最後には上位種たちが群れをなしていました。それで、まあそのままにしておくと危ないので倒した感じですね」
 最後の部分、危ないから倒したとだけ説明するリツを見て、頭を押さえながらクレイはため息をつく。

「……あなた方は一体何者なのでしょうか? ゴブリンキングなんてAランク冒険者でもソロ討伐は難しいんですよ?」
 登録したてのリツとセシリア、当然冒険者ランクはFである。
 そんな二人がゴブリンキングという、討伐隊を組織して倒すような魔物を倒してきたことに驚き、そしてそんなことができる二人の正体を知りたいとクレイは思っていた。

「何者、と言われると困りますね。俺はリツ、ただの登録したての冒険者です」
「私はセシリアです、同じく登録したばかりの冒険者です」
 真っすぐにクレイの目を見る二人はそれ以上語るつもりもなく、ただ自分たちが冒険者だということだけ告げる。

「……ふう、そうですね。それだけの力をお持ちの方が、初めて会った私などに何者か知りたいと言われてうかつに漏らすことはないですよね――わかりました、これ以上は正体に関しては聞きません……ですが別の質問をします」
 諦めたように一息ついたクレイのその言葉に二人は頷く。
 どうあっても、自分が元勇者であることや、セシリアが街を追われた貴族であることは話せない。
 
 だから、話題が変わるのはありがたかった。

 クレイの質問は主に森でのゴブリンの行動についてだった。
 これに関しては二人は正直に答えることにした。

 森の入り口でセシリアが引き込まれ、そこをゴブリンアーチャーが狙ったこと。
 それ以降も、続々とゴブリンたちは現れ、倒していくと森の中心部へと誘導されたこと。
 そこでゴブリンソルジャーを率いるゴブリンキングがいたこと。 
 そして、誘導した相手を上位種が倒す――それがゴブリンキングたちの作戦だった。

「……なるほど、明らかに戦術的な動きですね。ゴブリンは繁殖力が高いので、下位のゴブリンを使い捨てにするのは理解できます。そして、サクサク倒せれば冒険者も気分よく戦っていけるでしょうから」

 納得いったように頷きながらクレイは難しい顔をしている。

「ここ最近、森にゴブリンが多い報告は聞いていました。まさかキングまでいたとは……そうだ! もしゴブリンキングの魔核をお持ちであれば譲っていただけないでしょうか?」
 魔核というのはその魔物の力を象徴するもので、ランクが高ければ高いほどその価値は高い。
 だからこそ、なんとしてもクレイはここで魔核を手に入れておきたかった。

「別に構いませんが、さすがにタダというわけには、ね?」
 冒険者としてやっていく以上、金額という誠意を見せてもらえないと譲るつもりはない――その想いをリツは言葉と視線に乗せる。

「も、もちろんです。十分なお金は支払いますので……そ、それから、お二人のランクですがCランクまであげましょう!」
 クレイは乗って来てくれたことに内心でニヤリとして、なんとかこの機会を逃すまいと金額にランクのことをつけ加えていく。

 冒険者であれば、ランクアップは誰しもが望むことであり、FからCともなれば彼らにとっても有用であると判断している。

「あー、それはいいです。もしあげるとしてもEランクくらいで十分ですよ」
「ですね。あまり悪目立ちはしたくありませんし……」
 リツとセシリアの反応は渋く、クレイの思惑は思いっきり外れてしまう。
 そもそも正体を隠している二人からすれば、一気にランクアップしたなどという目立つ噂を広めたくなかった。

「そ、そうですか……で、では、買取金額に色をつけさせていただくのと、ランクはお二人とも一つあげるということでお願いします」
「わかりました。それじゃ、これをどうぞ」
 リツはカバンからゴブリンキングの魔核を取り出してテーブルに置く。

「お、おぉ、こ、これは見事ですね。これほどのサイズの魔核は初めて見ました」
 通常のゴブリンの魔核は拳と同サイズくらいで、これがキングのものとなるとサッカーボールサイズになる。
 だが、今回のものはそれよりも更に大きいサイズだった。

 魔核のサイズは、魔物の力量を推し量るものさしとなっている。
 つまり、今回のゴブリンキングの実力は群を抜いて強いことがわかる。

「それじゃ、手続きと報酬のほうをお願いしますね」
「わかりました!」
 内心の興奮を隠せていないクレイは、嬉しそうに二人のカードを持って立ち上がるとすぐに手続きに向かった。

 戻って来た彼は、運ぶのが困難なほどに大量の金貨が詰まった袋を持って来た。
 これを支払ってもギルドに得があるほど見事な魔核であるため、クレイは支払い中も常時ニコニコしていた。
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