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第二十三話

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 二人は昨日の食堂に到着すると、早速昨日あったことをウェイトレスに話していく。
 リツがやや大きめの声で話し、ウェイトレスが大袈裟なリアクションをすると、ソワソワした様子で店長が奥から聞き耳を立てていた。

「な、なあ、さっきから少し聞こえていたんだが、宿は、女将さんは大丈夫だったのか?」
 料理のオーダーが入っていたことで、話を途切れ途切れにしか聞くことができなかったため、店長は心ここにあらずといった様子でリツたちのテーブルにやってくる。

「あぁ、なかなかしっかりした女将さんだったよ。無茶な要望を出してくるやつらに毅然とした態度をとっていたし」
「はい、同じ女としてあの姿には憧れます!」
 二人は昨日の宿での出来事を思い出しながら話していく。

「そうだろそうだろ。女将さんは、力こそ強くはないが、誰にも優しくて心の強い人でな。宿を守ろうとする気持ちは強くて……」
 女将が無事であることを聞けてホッとした様子の店長は、彼女のことを思い浮かべながら優しい顔をしている。

 そこからはしばらく、店長による女将褒めトークが続く。
 結果として、リツたちが助けたことや、文句を言っていた男たちは警備兵に連れていかれたことを話すと店長は満足して厨房に戻って行った。
 この日の二人の食事代がタダになったのは言うまでもない。




 お腹が満たされた二人は店を出ると、人行きかう街並みを話をしながら武器屋を探して歩いていく。

「じゃあまずは装備から見ていこう。街の防衛戦では少し大きめの片手剣を使っていたけど、なにか理由があったりするのか?」
 片手剣とはいえそれなりの重量であり、セシリアは両手でなければ扱うことができなかった。

「……その、あれ以外の武器を使ったことがなくて、あの剣もお父様の形見だったので……」
 つまり、他に選択肢がなかった――というのが彼女がアレを使っていた理由だった。

「そうだったんだな……。それじゃあ色々試してみようか。別にうまく使えなくてもいいし、もしかしたら気に入る武器もあるかもしれないからな――っと、ここが武器屋か?」
 さほど大きくない個人店ではあるが、良店の空気をリツは感じ取っていた。

 これまでに多くの街を旅したリツはそれだけ多くの店に立ち寄っている。
 その中で、なんとなくこの店はいい店なのでは? という直感が働く店が存在する。
 それが、今回のこの武器屋だった。

「あまり大きくないみたいですが、なんだか良さそうなお店ですね」
 人の出入りは多くないようだが、職人がやっているお店独特の佇まいがあり、それはセシリアも薄っすらと感じ取っているようだった。

「俺もそう思う。それじゃ、二人の意見があったところでこの店を見てみようか」
「はい!」
 リツの言葉にセシリアは笑顔で返答し、二人は店の中へと入っていく。

 一歩足を踏み入れると、静かで少し雑多に物が置かれたそれほど大きくない場所で、金属の匂いを感じる。

「……いらっしゃい、適当に見ていってくんな。気になる物があれば聞いてくれれば説明する」
 店主はドワーフの男性で、渋い職人の雰囲気の彼はナイフを布で拭く手を止めて顔を上げると低く落ち着いた声音でリツたちに声をかける。
 そしてそのまま再び作業へと視線を移していた。

 決して邪魔はせず、必要な時には説明する。
 客にゆっくりと見てもらおうという考えであるようだった。
 その対応はゆっくり見たいリツたちにとっては心地よい対応だった。

「それじゃ、一旦それぞれで見てみるか。そのあと合流して買うものを決めよう」
「わかりましたっ」
 返事をしながらも、セシリアは既に並んでいる武器に心惹かれていた。

 剣術を学んだ時点で、他にはどんな剣があるのか、他にはどんな武器があるのかと好奇心を持っていたが、その先に行くことを両親は良しとはしなかった。

 自分の身を守るために学ばせたが、それ以上のことは淑女がするものではない、と。

 だから、自由に武器を見ることができる今はワクワクしている。

「……乱暴に扱わなければ手に取ってもらって構わない」
「あっ、ありがとうございます!」
 好奇心に導かれるままにセシリアが見ていると、店主が独り言のようにつぶやく。
 気を遣わないように言ってくれた店主に感謝しながら、まるで宝物を手に取るかのようにセシリアは目に留まった一本のナイフを持って鞘から抜いてみる。

「わあっ」
 刀身は青く輝いており、これまで見たことのない美しさを誇っている。

「それは作る際に魔鉱を使っているんだ。青ってことは、水の力を多く持っている鉱石だろうな。魔鉱は取り扱いが難しいから、それだけでも作り手の技術の高さがわかる」
 セシリアが興味を持った武器を見ようとリツが近づいてきて、武器について解説してくれる。
 昔、魔鉱を使った鍛冶を教えてもらったことがあったが、かなりの難易度で、上手に作ることができなかった思い出があった。

「ふわあ、すごいですねえ……」
 ふっと笑ってリツはそれだけ説明すると、店の奥の方へと向かって行った。

 すごいと彼女が言ったのは武器にではなく、それを知っているリツにだった。

(あれだけ色々なことを知っているのは、きっとそれだけ大変な経験をしてきたんでしょうね……私も頑張らないと!)
 せめて知らないことを少しでも減らしていこうと、セシリアは店に並んでいる武器を順番に手にとっていく。

 先ほどのナイフ、片手剣、大剣、槍、弓、斧など、色々勉強するために一通り見ていた。
 この店には様々な種類の武器が並んでおり、見るだけでもセシリアにとっては収穫になっていた。



 ひと通り見て回ったあと、二人は入り口あたりで合流する。

「いやあ、なかなかいい店だなあ。気に入った剣が三本も見つかったよ」
 嬉しそうに笑うリツは片手剣を一本、槍を一本、ナイフを一本持って戻って来ていた。

「すごいですね。リツさんのお眼鏡にかなう武器がそんなにあるなんて……」
 元勇者の彼が使えると判断した武器なら、平均以上、むしろかなりの良品であることが容易に予想できる。

「ここまでいいものがあるとは俺も思ってなかったよ。しかも、他の武器と一緒に普通に並べられているんだからビックリだ」
 ほくほく顔のリツが持っている武器を見て、店主は立ち上がって驚いていた。

「あ、あんた、それを選んだのか? この数ある武器の中から、その三本を意図的に?」
 この店の中には小さいながらも、数百を超える武器が並んでいる。
 その中にあって、リツが選んだのは高性能商品のトップ3だった。

「えぇ、これはかなりいい武器ですね。ただ……」
「ただ……?」
 リツが何か含みのある様子を見せたため、不安になった店主が聞き返す。

「安すぎでしょ。いや、いくらなんでもこのレベルの武器がこの値段で買えるわけがないですよ!」
 どうやらリツは適正な料金で売られていないことに憤慨していたようだった。

 リツが選んだこの武器を作るには長年の修業に加えて、珍しい金属も必要になる。
 それがそこらに置いてある、一般的な鉄の剣と同等の価格で並んでいた。
 それでは職人の苦労も素材も報われないと思っているようだった。

「は、はは……それをちゃんと意図的に見つける客が現れる日が来るなんてな……。いや、本当にそれはその値段で構わないんだ。そいつらは俺がこの店を開いた時からずっと並べてあるものだ。客なんてどれもこれも適当に見て本物には気づかないだろうってな。でも、もし気づいてくれる人がいたら、敬意をこめてその人にはその値段で売るつもりだったんだ」

 それを見つける人物がついに現れた。
 しかも、その人物は店主が紛れ込ませていた三つ全てを発見していた。
 それがどれだけ嬉しいか、寡黙そうな彼と初めて会ったリツたちにはわかりにくいが、店主はどこか嬉しそうだった。

「わかるやつにはわかると思うけど、ここにはそんなやつがこれまでこなかっただけだ。これは本当にいい武器だから、適正価格で買わせてもらうよ」
「いや、それは……」
 それでは気が済まないと言いたい店主だったが、リツは手を前に出してそれを遮る。

「その代わり、少し頼みがあるんだ」
 ニヤリと笑うリツ。
 彼の頼み――それは、リツにとってこの武器の分の料金を払っても価値のあることだった。
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