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第二十一話

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「まずは、これをつけてもらおうかな」
 それは収納魔法で取り出した腕輪であり、ピンクゴールドの色合いをした金属でできたそれはシンプルなデザインだが、とある効果が込められた魔道具だった。

「はい…………これは、どういう?」
 何も言われずに手渡されて促されるままに身に着けるが、特に何も変化が見られないため、きょとんとしたセシリアが確認する。

「これに、俺が魔力を流してっと……こっちと、そっちも」
 この魔道具は、リツが彼女の両手につけた腕輪に魔力を流し込んでいくことで、それは効果を発揮していく。

「っ……えっ!?」
 急に腕輪が重くなったため、セシリアは腕が重さに引っ張られてしまい、腕の位置が一気に下がった。

「腕に魔力を流していくんだ。そうすれば重さが軽減していくから」
「こ、こうでしょうか……あ、本当です。軽くなりました!」
 戸惑いながらもセシリアが魔力を流すと、淡く光った腕輪は彼女の魔力に呼応して重量が消えていき、腕をあげてもなんの重みも感じられなくなった。

「そうそう、でも魔力を流しすぎると体内の魔力が枯渇するから流す量は少なめに調整して」
「は、はい……おもたっ!」
 魔力量を調節するセシリアだったが、今度は少なすぎたため、腕輪の重量が復活してしまう。

「少なすぎるとそうなるから、安定して一定量流す必要がある。つまり、いい感じの量を流し続ける特訓だな」
「くっ……では、こ、これくらいで……」
 これだけ長い時間魔力を発動した経験のないセシリアは覚束ない様子ではあったが、魔力を増やしていくことで、なんとか重さを回避していく。

「こ、これなら大丈夫ですね!」
 腕を何度か動かして、魔力が流れていることを確認することでセシリアは安心している。

「うーん、いいけど、いいんだけどねえ……」
 少し無理をしている様子のセシリアを見ながら、リツは渋い顔をしている。
 彼が想定しているよりもセシリアが腕輪に流している魔力量は多く、魔力の枯渇を心配して腕組みをしながら彼女の様子を確認していく。

「だ、ダメでしょうか……って、あれ、なんだか、目が回って……」
「あー、やっぱり。ほら魔力を解除して、重さも解除するから……」
 予想していた事態が起こったため、リツが近づいたところで、魔力が切れたセシリアは意識を手放し、ふらっと前方に倒れていく。

「危なっ! ナイスキャッチだな、俺。……って完全に魔力切れか、よいしょっと」
 リツはなるべく彼女に負担がないように、ゆっくりと抱えあげてベッドへ寝かせていく。
 深く寝入っているセシリアの顔色は悪くないなと思いながら、ほっとしたように息を吐く。

「とりあえず、腕輪の機能は解除しておこう」
 再度彼女の腕輪に触れていき、重量機能を解除して彼女が安全に休めるようにする。

(にしても、綺麗な顔だな……モテてきただろうに、魔王なんかに見初められたせいで)
 布団をかけて眠っているセシリアの寝顔を隣のベッドから見ているリツは心を痛めていた。

 魔王がセシリアのことを欲しさに自軍の戦力を街に送りつけ、脅しのようなことをしたこと。
 魔王に狙われていることを知った街の貴族は彼女のことを良く思っておらず、手ごまとして使おうとしていたこと。

 それらを考えると、リツは苛立ちを覚えていた。
 ただ美しく愛らしい見た目だったがゆえに魔王に狙われただけで、彼女自身は何も悪いことをしていないのだ。

(とにかく、彼女を鍛えて魔王の手先に負けないようにしないとだな)
 街での戦いを見たか限りでは、彼女の戦闘レベルは中の下程度。
 魔王の近くにいるような強力な魔物や、複数の魔物が現れれば恐らくは倒すことができない。

 だから、一人でもある程度の状況を打破できるくらいにはなってもらいたかった。

「――ま、あせっても仕方ないからゆっくりやっていこう……」
 恐らく魔王は未だセシリアの詳細な位置は把握できていないはずである。
 その猶予期間中に少しでも彼女が強くなれれば十分だった。

(とりえず、今日は色々あったから休もう……)
 セシリアがすやすやと寝息をたてているのを聞いて、部屋の明かりを落とし、リツも自分のベッドで眠りにつくことにしたのだった……。






 翌朝

(一体、どうしてこうなった?)
 リツが自分のベッドで目を覚ますと、目の前にはなぜか隣のベッドで寝ていたはずのセシリアが寄り添うようにぐっすりと寝ている。

 夜中に寝ぼけてセシリアのベッドに入ってしまったかと、一瞬の不安に襲われたリツは彼女を起こさないようにゆっくりと身体を起こして位置関係を確認する。

(……うん、ちゃんと俺のベッドだ。ってことは)
 セシリアが寝ぼけてリツのベッドに入って来たか、もしくは人肌恋しくてぬくもりを求めてやってきたのか――そのどちらかだとリツは予想する。

 そして、このままにしておいた場合の結末で一番容易に想像できるのが、リツがベッドに入り込んできたと勘違いしたセシリアがリツに怒りだすであろう光景である。

(静かにベッドから抜け出るのが一番……)
 と思ってゆっくり身体を動かそうとしたところで、それが叶わないことに気づく。

(おい! なんでセシリアは俺の服を思い切り握ってるんだ!)
 たった一秒で作戦が破綻してしまったことに、痛む頭を押さえながらツッコミを心の中でいれる。
 リツはツッコミが喉まででかかったが、なんとか声に出さず飲み込んだことを自分で褒めたい気持ちになっている。
 
「あっ……」
 しかし、その努力もむなしく声が出てしまう。
 その理由は、目の前で寝ているはずだったセシリアと完全に目が合ってしまったからである。

「お、おはよ」
 リツはなんとか引きつりながらも笑顔を作って挨拶を絞り出す。

「お、おはようございます……あの、す、すみません。昨日、夜中に起きたんですけど、一人で寝るのが怖くて、思わずリツさんのベッドに……」
 昨夜は眠気と不安と恐怖から、そんな大胆な行動に出てしまったセシリアだったが、落ち着いて冷静になった今は顔を真っ赤にしている。
 どうやらこの事態は彼女が起こしたようで、リツが怒られる未来は回避できたようだった。
 安堵したリツはセシリアにふっと笑いかける。

「そうだったのか。いや、気にしなくていいよ。俺も可愛い寝顔を見られたから役得というところで……」
「か、可愛いだなんて、は、恥ずかしいです……っ」
 セシリアは寝顔を見られてしまったという事実を改めて認識して、顔を枕で隠している。

「でも、よかった。最初は俺が寝ぼけてそっちのベッドに入ったかと思ったからさ。そんなことしてたら、セシリアに怒られても仕方ないかな、なんて不安だったんだよ」
 リツが冗談めかして言うと、セシリアは枕をどかして大きく首を横に振る。

「そんなくらいで怒りません! リツさんは、私にとって命の恩人で、故郷の救世主ですから……あと、別にリツさんにだったらいいかなって……」
 後半は近距離でも聞こえないくらいには小さな声だったため、リツは首を傾げている。

「最後、何て言ったんだ?」
「な、なんでもないです! さ、さあ、起きましょう!」
 セシリアはリツの質問から逃れるように、無理やり起きてでかける支度を始めていく。

「……ま、いっか」
 誰にでも深く突っ込まれたくないこともあるだろうとあっけなく引き下がり、このあたりの細かいことを気にしないのがリツだった。
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