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第十三話

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 結局フェリシアは、セシリアの住んでいた街から遠く離れた場所にある巨大樹の天辺に降り立った。

「いやあ、なかなかいい眺めだ」
「ちょ、ちょっと良すぎるような気も……」
 強い風が吹けば落ちるのではないかという不安で、怯えた表情のセシリアはリツの服を掴んでいる。
 フェリシアは一度小さい姿になり、リツの肩に乗っていた。

「セシリアさん、フェリシアが風の結界を張ってくれているから俺たちになにか影響が起こることはないので安心して下さい。それよりも、話を始めましょう」
 一緒に行動するならば、ある程度の情報を彼女に教えておく必要があるため、まずは誰の邪魔も入らないところでしっかり話をしておきたかった。

「お願いします……でも、その前に一つだけ。ずっと私に敬語で話されていますが、私はリツ様に仕える立場になりますので、どうぞ話しやすい言葉でお願いします」
 彼女はあれほどの力を持ち、精霊とも契約をしており、自分のことをここまで連れ出してくれたリツに恩義を感じている。
 だからこそ、リツ本来の話し方でフェリシアと話しているような砕けた言葉で話して欲しかった。

「わかった、それじゃセシリアも話しやすい口調でいいし、様付けは禁止にしよう。……それで何から話したらいいか……」
『リツの情報を誰かに漏らさない約束をするのが先じゃないかな』
 リツが頭を悩ませていると、フェリシアが助言をしてくれる。

(なるほどな、確かに俺に関する情報は機密レベルが過ぎる。そこは釘を刺しておくか)

「あー、ということで……」
「承知しました。リツさんの情報は誰にも漏らしません! なんだったら、誓約の魔法で縛って頂いても構いません!」
 元々そんなつもりもなく、彼女はリツに関する情報は自分の中にだけとどめておこうと強く心に誓っている。

「なるほどな……操られた時のことを考えるとそれも一つの手だな……まあ、それはあとにするとして色々と話していこうか」
 ここならば誰に邪魔されることもなく、ゆっくりと話ができるため、昔を懐かしむように記憶をたどりながらリツは遠い遠い昔話から始めていく。



 今から五百年前ほどの前の世界には魔物が溢れかえっていた。
 それは魔界と呼ばれる場所から召喚された魔物たちであり、元々こちらの世界に住んでいた魔物たちよりも遥かに強力な力を持っていた。

 その魔物たちを召喚したのが、当時の魔族たちを束ねる魔王ウラティウスだった。
 史上最強といわれるほどに強力な魔王で、ありとあらゆる魔法と武器を使いこなし、どんな魔物でも彼の前には跪いてしまうほどだったという。

 そんな魔王によって、世界は絶望の淵に叩き落とされていた。
 しかし、ある国が魔王の勢力に抵抗するため、異世界からの勇者召喚の儀式を執り行うこととなった。

 その結果、一人の少年がこちらの世界に召喚される。
 名を「リツ=マサカド」。

 異世界からきた勇者の力を持っていても、元の世界ではただの学生だった彼は戦いの素人であり、一人で魔王軍に勝てるはずもない。
 そんな彼のもとに、運命に導かれた六人の強者が集った。

『私がリツさんやみなさんの怪我、全て治します!』
 治癒魔法の使い手である人族の王女。慈愛に満ちた聖女のような彼女は誰からも愛されていた。
 彼女はリツを召喚した当人であり、彼女はリツの旅を最後まで見届ける責任があると参加することとなる。

『……まだ動きに無駄がある』
 竜人の英雄とも言われた古強者。細身ながらも鍛え上げられた屈強な肉体から放たれる攻撃はすさまじいものだった。
 現役を引退して尚、彼に勝てる竜人はおらず、人生の最期を魔王討伐に費やすことを決め、参戦する。

『魔王倒したらお金一杯もらえるかな?』
 猫人族の元盗賊の少女。元気いっぱいの大きい耳をした軽装の彼女のスピードに追い付けるものはそういなかった。
 孤児だった彼女は、最初はリツをからかうために同行するが、彼らが本気で魔王軍と戦っていることを理解すると自分も本気で戦いに参加することを決めた。
 彼女自身は知らなかったが、獣王族という最強の獣人の末裔であり、その力に目覚めた彼女のスピードとパワーに勝てる獣人はいなかった。

『もう、友を家族を傷つけさせたくないです……』
 巨人族の末裔である心優しき青年。見上げるほどの大きな体を持っていた。
 草花を愛で、人を傷つけることを嫌う彼はリツのような少年が、本気で魔王と戦うという話を聞いて心打たれ参加する。
 戦いは嫌いだが、その巨体に秘めた力は巨人族最強であり、当時の王ですら本気の彼には勝てなかった。

『珍しい魔法はありませんかねえ』
 魔法の天才、エルフの少年。綺麗な銀髪に女性と見間違うほどの美しさを持つ細身の身体をしていた。
 エルフといえば百年以上を生きる長命の種族だが、彼は十五歳という若さでエルフに伝わっている魔法のほとんどを極める天才だった。
 そんな彼は魔族のみに伝わる魔法に触れるため、戦いへの参加を決める。

『別に恨んじゃいないけど、それでも父様が殺されたのは……うん、ちょっと嬉しくないわね』
 魔族の裏切り者と呼ばれた前魔王の娘。魔族の強さの象徴ともいえる太くて立派な角を生やしたちょっと勝ち気な少女。
 その愛らしい見た目に反して彼女は戦闘に関しては素晴らしい才能を秘めていた。
 彼女の父は魔王ウラティウスにその命を奪われ、首は見せしめとして晒された。
 その恨みを晴らすために単独でウラティウスの手下と戦っていたが、一人で戦うことに限界を感じていた時に、リツに仲間への誘いを受け、加入する。

 誰が呼び始めたのか、七勇者と呼ばれた彼らはついに魔王城へと到達し、ウラティウス率いる魔王軍と戦うこととなった。

 歴代最強といわれた魔王との戦いは熾烈を極め、全員ボロボロだった。
 しかし、ついに勇者リツが決死の思いでなんとか魔王の胸に剣を突き刺し、ウラティウスを打ち倒すことに成功する。

 だが、代償は大きかった。
 リツは強大な力を持つ魔王の死に際の抵抗として、生み出された暗闇にともに飲み込まれ、封印されてしまうこととなる。

 それから彼は幾年月をも、何も見ることも感じることもできない暗闇の中で過ごすこととなる。
 次第に意識は徐々に削り取られ、どんな状態にあるのか、何をしていたのか、全てが曖昧になっていく。

 しかし、どれだけ時間が経っただろうか、そこに光が差し込む。
 その光の正体は、彼をこの世界に送った女神であり、闇の中にいるリツを五百年の時をかけてなんとか解放することに成功する。

 闇の空間から解放されたリツは、たまたま勇者の召喚を行おうとしていたある国の、勇者召喚の儀式に巻き込まれ、本来呼び出される勇者たちとともにこちらの世界へ再召喚されることとなった。

 彼は自分の能力と素性を隠し、勇者ではないなら世界を旅したいと告げて、城から一人出て行くこととなる。

 それから、彼はたまたま立ち寄ろうとした街の近くで多くの魔物を倒し、セシリアと出会ったのだ。




「とまあ、それで今に至るというわけなんだけど……って、どしたの!?」
 リツが物語風にセシリアへ語って聞かせると、彼女はボロボロと涙を流していた。

「だ、だって、知らない世界に召喚されて、それでも頑張ってお仲間と一緒に、ついに魔王を倒したと思ったら、次は五百年もの間、暗闇に飲み込まれるなんて……」
 こちらの世界に来てから、問題に巻き込まれ続けて、結局報われずにいる。
 そんなリツの境遇を考えると、セシリアは涙を流さずにはいられなかった。
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