兄ちゃん、これって普通?

ジャム

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けど今は、体の調子が本当に悪いみたいで、兄ちゃんの事を責める気力が沸いて来ない。
やっぱり後悔してるんだろうな。
だから、僕がいるリビングに下りて来なかった。
本当は、僕を抱くつもりなんてなかったんだ。
たまたま。
仕方無い。
起こった事は、無い事には出来ないんだから。
そういう風に考えが行き着いて、僕は、これで自分がもし『飲んで忘れる質』だったら、二人はどうなっていたんだろうと考え込む。
それこそ、酒を飲む度に我を忘れて、肉欲の日々・・?
それも次の日の朝になると全部忘れているとしたら、酷い夢遊病と一緒だ。
そこで、思わず唇から笑いが零れ、父の視線に慌てて、口を手で押えた。
「じゃあ・・ちょっと部屋で寝る」
「そうしとけ。年末は病院も休みだからな。熱出ないように体休めろよ。あとでポカリ持ってってやる」
「うん。ありがと」
そんな父の優しい声かけに、妙に心が癒された。
傷ついてる時って、ちょっとした事でも、すごく嬉しく感じるもんなんだな。
そんな風に思いながら、部屋へ戻り、布団の中へと潜り込んだ。
体を丸めて横になると、どうしても、思い出してしまう。
つい数時間前まで、この身体の中に居たんだから、そう思っても仕方が無い。
ただ、ベッドに横になってるだけなのに、甘い溜め息が零れてしまう。
そんな自分が情けなく感じて、目を覆った。
あの感覚がリアルに思い出されて、兄を受け入れた下腹が、どうしようもなく熱く疼き出す。
身体が・・忘れてくんない・・っ
何時間も経ってるのに、今も、兄ちゃんに抱かれてるみたいに・・身体中が、触られたとこが、熱くなる・・!
「なに、これ・・?」
自分の身体が自分の身体じゃなくなってしまったかのように、勝手に昂り始め、僕は枕に顔を埋めた。
「や・・だ・・って、こんなの・・っ」
そう呟いてみても、火照りは収まらない。

セックスしたからだ・・。
兄ちゃんとセックスしたせいだ・・。

生々しい記憶が、頭の中に鮮明に浮き上がり、思わず目を見開いた。
目を閉じていたワケじゃない。
ぼんやりとどこかを見つめていただけ。
なのに、夢を見るように、そこに兄の姿が見えたのだ。
「やば・・い、これ、結構、ヤバそ・・」

兄ちゃん、責任取れよ・・っ
こんな身体にした責任、全部兄ちゃんのせいだかんな・・っ

涙が込み上げてきて、僕はハッと短く息を吐いた。

それから、どのくらいの時間が経ったのか。
「ダイキ?」
兄ちゃんの声だ。
「ダイキ?起きたのか?」
兄ちゃん、居るの?
「ほら、ポカリ買ってきたから・・」
ポカリ?
ああ、そっか、僕、熱があって・・父さんがポカリ持ってきてくれるって言ってたっけ。
「父さんから電話で色々頼まれて買ってきたから・・大丈夫か?」
あー・・本当に身体熱っぽい・・ダルいし眠いし、なんかゾクゾクする。
そこで、僕の額に、冷たいものが触れた。
それは、1、2秒僕の体温を奪うと、すぐに離れていった。
柔らかでやさしい感触・・きっと兄ちゃんの唇だ。
それから手を動かそうと思ったら、布団の中で、しっかりと手を握られている事に気づいた。
「ダイキ?寝ちゃったのか?」
ダイキ、ダイキって名前を呼ばれるのがくすぐったくて、きっと口が笑ったんだと思う。
「あ・・」
そう言った兄ちゃんがベッドの側に寄った。
「ダイキ」
また、額にキスをされた。
それから「寝たフリしやがって・・」と鼻先にも唇を押し当てられ、次いで兄ちゃんが上唇を啄むようなキスをした。
唇が離れる瞬間、引き留めるように、重い瞼が持ち上がる。
「兄ちゃん・・」
目を開けたそこには、兄ちゃんの寂しそうな顔。
「ごめんな・・ダイキ?あ、ポカリ飲むか?」
「うん」
勿論、僕は起きる気なんか無い。
当たり前みたいに、薄く唇を開いて、兄が口移しで飲ませてくれるのを待っていた。
兄ちゃんにも、それが伝わったんだろう、ペットボトルの中身を少しだけ口に含み、僕の上へと顔を寄せた。
口の中に程よく冷たい液体が流し込まれる。
それをコクリと飲み込み、僕は目を開けた。
兄ちゃんが僕を真上から見下ろしている。
「ダイキ・・オレな?お前に・・酷い事したんだよな・・?だから・・お前、こんな熱出して・・。痛かったか・・?本当にオレ、最低の男だよな・・っ」
目をギュッと閉じて、兄ちゃんが僕の胸につっぷすように「ごめんな、ごめんなっ」と、頭を下げた。
「キモチ、よかった・・。すごく」
僕の台詞に、兄ちゃんが勢い良く顔を上げる。
僕は両手を布団から出して、兄ちゃんの方へ広げた。
兄ちゃんが僕の腕の中へと入り、僕の体の下へ自分の腕を差し入れて僕をギュッと抱き締める。
「後悔した?」
「した。マジで酒なんか飲まなきゃ良かった」
「ヤった事、後悔したんじゃねえの?」
「それは・・少しだけ」
「やっぱり、後悔したんだ・・」
「するだろ。自分が相手に何したかわかんねえなんて最悪だろ・・。ダイキ、痛くなかったか?恐くなかったか?」
額同士を合わせて、兄ちゃんが切な気に聞いてくる。
後悔したって。
酒を飲んだ事を、後悔してるって。
「兄ちゃんさ・・僕のこと、好きだ、好きだって・・ヤリながら言ってたよ」
その台詞に兄ちゃんが口元を緩めた。
「そりゃ、好きだからな・・ダイキのこと、すげえ好きだもん」
言いながら目を開いて、合わせた額をぐりぐりと揺らしてくる。
「エッチ、したいくらい?」
それを聞いた兄ちゃんの顔がギョッと驚いた。
それから、視線をあからさまに彷徨わせてから「好きならシたくなってもしょうがねえだろ」と唇を押し付けてきた。
「兄ちゃん・・もう一回、シてみる・・?」
「おまえな・・!今、熱あるって言ってんだろっバカ言うな・・!」
「でも・・ヤったら・・思い出すかも知んない・・じゃん・・?」
身体って覚えてるんだよ?
そう兄ちゃんの耳元に囁くと、痛々しい表情で、兄ちゃんが眉間に皺を寄せた。
「ダイキ・・。オレな・・すげえしあわせな夢見てた。きっと、夢じゃなかったんだなアレ。だから、すっげえしあわせだった」
だから。
「ダイキのことも、オレがしあわせにする。絶対しあわせにする。お前が、この先、どうしたいか言ってくれ。出来る限り、オレはお前に協力するから。でももし、お前がオレから離れたいって言っても・・それだけはムリだから、それだけはナシな?」
気弱そうな声を出した兄ちゃんを、僕は強く抱き締めた。

たぶん、結構、かなり、兄ちゃんのこと。
好きなのかも、知んない。
好きな人とセックスしたくなるのは、しょうがないこと・・・だよな?

「兄ちゃん・・エッチしよ?」
気怠く重い身体をベッドから引き起こし、僕は兄ちゃんの首筋を唇で食んだ。
「ばっバカっ・・今日はダメって言ってんだろ・・っ絶対シない!ちゃんと、熱が下がって、ダイキがまたヤリたくなったら、ヤるからっ、今はちゃんと寝てろ!バカっ」
無理矢理に腕を解かれて、体をベッドへと引き戻されてしまった。
この兄が誘惑に耐えて、震えている。
その姿がなんとも可愛かったから。
少しだけ、許してあげようと思った。
僕が覚えてるから、それで、いい。
それに、きっと2回目だって3回目だって、兄ちゃんは、僕をやさしく抱いて、結局、甘く苦しめるだろうから。
そう思って、自分がどれだけ、2回目を欲してるか実感してしまう。
ある意味、自分にとっても・・我慢を強いられることに気付き、笑ってしまった。
「早く、熱下げろ」
兄ちゃんの手が僕の額を撫でた。
少し冷たい兄ちゃんの手が、ひんやりと心地よかった。
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