兄ちゃん、これって普通?

ジャム

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一生のお願い。

と、いうものを、僕は子どもの頃に何度も聞いてきた。
いつもは偉ぶって平気でぶったり蹴ったりする兄が、この時だけは、両手を合わせて拝み倒すように、年下の自分にお願いしてくるのだ。
そんな兄の態度に自尊心をくすぐられて、純真だった幼い僕はつい騙され、何度兄の代わりに使いっ走りをしてきただろう。
『一生のお願いだから、ジュース買ってきて』
『一生のお願いだから、ゲーム取ってきて』
『一生のお願いだから、・・』

「なあ、ダイキ。一生の」
「ソレもー聞き飽きた」
リビングのソファーでゴロゴロと寝っ転がった2つ上の兄。
そのソファーに寄り掛かり本を読んでいる僕は、兄の台詞に早口で被せるように言って、兄の口癖を制した。
同じ高校の3年で、家では傲慢な兄だが、学校ではそこそこモテていた。
もう夏で引退してしまったが、サッカー部にいた頃は、廊下で女の子に囲まれていた事もある。
顔は整ってはいるが、目つきが良くない分、兄は人に避けられがちだった。
それ故に、硬派を気取っていた兄が女の子達に囲まれて、照れている姿を見て少しがっかりしたのを覚えている。

「・・まだ、なんも言ってねえし」
「どーせ、くだらない事じゃん。いつもいつも」
冷めた口調で振り向きもせずに言うと、背後で兄が動き、ソファから起き上がったのが気配でわかった。
「くだらないって何でわかんだよ」
「えー?どうせ、水飲みたいとか、お菓子取って来いとかだろ?」
やけに絡んでくるなと、面倒くさいなりに答えて振り返ると、兄の目が殺意を持って僕を睨んでくる。
それも至近距離でだ。
驚いて、手に持っていた本を床に落としてしまう。
それを慌てて拾って、読んでいたページを探すフリで兄の視線から逃れた。
「じゃあ、くだらない事じゃなかったら聞いてくれんのか?」
「えっ」
「本当に、一生のお願いだったら、聞いてくれんだな?」
戸惑いながらも、「うん。本当に、ならね」と返事してしまうと、兄がソファーから足を降ろした。
それも僕の体を挟み込むように。
という事は。
兄は僕を見下ろす格好で、真後ろに座っているということだ。
「な、なんだよ・・」
さっきの兄の目が恐くて恐る恐る振り返ると、真剣な顔で腕組みした兄が僕を見下ろしていた。

そ、そんなに考えこんでまで・・?
そんなに、『くだらない事』だと言われたのが悔しいんだろうか?

その執念たるや何か恐ろしいものを感じる。
これは逃げるが勝ちで、さっさと立ち去ろうとした時だった。
「チンポしゃぶってくれ」
その余りのドストレートな要求に、僕は聞き間違いかと兄を振り返ってしまった。
それが悪かった。
兄の右手が僕の頭を押え、もう片手で自分のスウェットのズボンをずり下げる。
「ワーーーーーーーー!!!」
思わず本能のままに叫ぶと、兄の手で口を塞がれた。
「このバカ!叫ぶなっ」
僕は慌てて兄の手を振りほどき、兄から逃れるべく両手を突っ張って立ち上がろうと藻掻いた。
「う~~~っ放せ!!変態!!」
「テメッ誰が変態だ!お前、本当の一生のお願いだったら聞くって言っただろうが!」
振り払っても振り払っても、力負けして、両手を兄の手に掴まれ、抗った結果ソファーの下で兄に馬乗りにされてしまう。
「そんな「お願い」女にしろよ!」
「バカ!女にしたらいくら取られると思ってんだよ!俺はな、受験でストレスで明日自殺するかも知れないんだぞ。だったら一回くらいフェラされたいって思ってもおかしくねえだろ!」
「ストレスって・・推薦受けたんだろ!?」
「まだ合否出てねえもん。すげーストレス。超心配。超癒されたい。な?一回だけ。一回だけでいいから」

合否って・・推薦って落ちるもんなのか・・!?

「一回だけでいいから。一生のお願い」
兄は僕の上に馬乗りになってるくせに、眉間を寄せ切なげな表情で懇願してくる。

一回だけ・・フェラ・・・

ゴクリと僕の喉が鳴る。
「出来るわけねえだろ!!こんな「お願い」絶対おかしいだろ!下りろ!!」
再び兄の下で、藻掻き暴れる僕の両腕を兄が抑え込んで言った。
「じゃあ、チューでいいや。チューならいいだろ?フェラするより簡単だろ?な?」
そう言われて、確かにフェラするのよりチューの方が何倍もいい!と思えて、素直にコクコクと頷いていた。
「じゃあ、チューで我慢してやるよ」
一瞬口元を緩ませた兄が顔を寄せてくる。

あ。

唇に柔らかな熱。
唇に兄の唇が押し付けられ、兄の腕が僕の腕の拘束を解き、僕の背中に回された。
背中からうなじや頭を抱かれて口づけされる。
少し角度を変えて、何度も唇を合わせている内に頭の中に疑問が浮かんで来た。

なんで・・僕とキスなんかしてるんだろう?
キスなら、好きな子とするべきなんじゃ・・?
あれ?
いや、キスだからこそ、好きな子としたいもんなんじゃないのか・・?

と、僕の唇の狭間にしっとりと濡れた兄の舌が伸びた。
上唇と下唇の間をスルリと舐められて、ギョッとした僕は目を見開いた。
「にいちゃ」
「もっかいだけ」
短い会話には兄の要望だけが盛り込まれ、僕は薄く開いた唇の中に兄の舌を迎え入れてしまった。
口の中に這入った兄は、水を得た魚のように自由に動き、絡んで跳ねて飛び回った。
「・・ッ息・・っ」
息苦しさにやっとで兄の体を押しのけ、すぐまたキスされないように顔を背けた。
息を喘がせる僕の髪を梳きながら、兄は僕の耳元で囁く。
「ダイキ。もっかいだけ」

そうして兄は『一生のお願い』に代わる、新しいおねだりの仕方を覚えたのだった。
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