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ハッピーバレンタイン②
しおりを挟む「あのな・・そんな冗談はいいから、ホラ、寄越せよ」
「・・何を?」
まさか、オレが貰った分まで欲しいのか?と訝しむ吉岡の頭を軽くゲンコツする。
「痛い!!」
「痛いじゃねえよ。ふざけてねえで、オレに告れ」
「コクレ?」
うんうん、と甲斐谷が頷くと、吉岡はぽかんと口を空け、暫く甲斐谷の顔を見つめた。
そのアホ面が頭にキて、甲斐谷はもう一発吉岡の頭にゲンコツを落とした。
「いたいっ何でグー!?せめてパーだろ!?」
「次、ボケたらマジで腹パンチする」
その脅しは本気で吉岡に効いたらしく、顔を青褪めさせた吉岡は膝の上で手を握ると「ご、ごめん」と素直に謝罪の言葉を口にした。
「いいから、チョコ寄越せ」
つべこべ言うな。そう甲斐谷が手を差し出すと、吉岡はその手を見つめたまま、再び「ごめん」と謝る。
まさか・・
嫌な予感に、甲斐谷は半笑いになる。
「だって・・オレ、女の子じゃないし・・」
そんな事は重々わかっている。
チラりと吉岡が甲斐谷の顔を窺い見る。
「チョコ買うの・・恥ずかしくて・・っていうか、付き合ってるなら、もう告る必要ないじゃん?」
吉岡にしては的を得ている指摘に甲斐谷も黙ってしまった。
いや、半ばがっかりして声が出なかったと言った方が正解だ。
チョコくらいくれてもいいだろう・・
どんなのでもいいから、吉岡からチョコが欲しかった。
いや、くれるものだと信じて疑わなかった。
そんな自分が、思っていたよりもダメージを受けている事に、少なからずショックを受ける。
「あの・・甲斐谷?」
何も言い返さない甲斐谷を不審に思い、吉岡が甲斐谷の肩を掴んで顔を覗き込む。
今まで自分は、散々爛れた欲望を不適切な方法で発散してきた。
吉岡に対する想いを封じ込めるため、抑え込むため、同じ想いを吉岡に抱く仲間を相手に無作為に捌け口にしてきた。
そんな自分が、まさか、こんな乙女なイベントを楽しみにしていたとは・・
そして、それが自分にもたらされるイベントだと当然のように思っていた事に、ショックを受ける。
何を・・舞い上がってたんだ・・オレは・・
オレみたいな人間にそんなしあわせなイベントがあるわきゃない。
そう自嘲めいた笑いに口元が歪む。
その唇に、柔らかな甘みが押し付けられた。
「チョコはないけど・・オレでもいい?」
顔を真っ赤にさせ、赤いマフラーを巻いた首もとから吉岡が自分のネクタイを引き抜く。
Yシャツのボタンを次々と外していき、吉岡が甲斐谷の手を取ると、シャツの中へと潜り込ませた。
「・・・ッつめた・・」
自分の胸へ引き込んだ甲斐谷の手の冷たさに、吉岡はブルリと肩を震えさせた。
それから、上目遣いに甲斐谷の瞳を見つめ、赤く凍えた唇を弧に描く。
「チョコじゃなくて・・ゴメン」
吉岡の行動を呆気に取られて見ていた甲斐谷の前で、吉岡は再び服を脱ぎ出した。
こんな公園のベンチの上で、一体どこまで脱ぐつもりなのか。
いや、季節はまだ真冬、ガランとした人気のない公園の中は冷たい夜気に包まれている。
吉岡は片手でベルトの金具を外し、制服のズボンのホックとジッパーも開く。
何のリアクションも見せない自分に、今にも泣き出しそうな顔の吉岡は、きっと甲斐谷がいいと言うまで脱ぐつもりなのだろう。
下着へ指を掛けたところで、胸に引き込んだ甲斐谷の手が動いた。
「ッアッ・・」
寒さに粟立った肉芽を爪で摘まれ、吉岡は甲斐谷の手を両手で押えた。
「ヤ、痛い・・」
「チョコの代わりって・・食っていいって事だよな?」
甲斐谷が聞きながら吉岡の顎を掬う。
「・・いいよ」
小さく答えた赤い唇を食む。
乾燥してかさついている吉岡の唇を、甲斐谷は丁寧に舐めて濡らし、熱を持った唇を押し潰すように重ねた。
ゆっくりと甲斐谷の手が吉岡の体の上を這う。
冷気に曝されて鳥肌の立った肌の上を指先でなぞると、吉岡は甘い吐息を喘がせた。
「やば・・勃っちゃった・・」
赤い顔で首を竦める吉岡が愛しくて、甲斐谷は吉岡の体をギュッと抱き締める。
「こんなとこで、食わせんなよ・・」
「ごめん・・やっぱ寒い」
「アホ過ぎ。こんなとこで裸になるなっつーの・・」
盛大に溜め息を吐いた甲斐谷は吉岡の服を手早く着せ直すと、吉岡の腕を引いて立ち上がった。
「チョコが、溶けないうちに持って帰らなきゃな」
「服着たから、大丈夫」
そう笑った吉岡に、甲斐谷も笑う。
その笑みは吉岡とは全く違う意味のものだったのだけれど。
寮の部屋に帰るなり、甲斐谷は吉岡を裸に引ん剥いた。
ベッドへ押し倒し、自分は制服姿のまま覆い被さり、吉岡の髪から順に口付けていく。
甘い口付けに、吉岡も我を忘れて喘ぎ出す。
「な、なんか・・変だよっこんな・・キスばっか・・」
「言ったろ。食うって。お前、オレのチョコの代わりなんだろ?全部、食うから」
お前の全身、舐めて溶かしてやる。
そう唇を押し当てたまま囁かれ、吉岡はうつ伏せの体を疼かせる。
膝を曲げて、腰を少し浮かせてヒクヒクと疼く中心から気を逸らす。
「すげえカッコ・・丸見え」
片膝を抱えるようにうつ伏せてしまった自分の姿を甲斐谷に笑われ、悔し紛れに甲斐谷の顔を睨んでやろうと顔を上げたら、すぐに唇が塞がれた。
唇が甲斐谷の唾液に濡らされて滑る。
口の中へ滑り込んできた甲斐谷の肉厚の舌から逃げようと舌を引くが逃げ場所はどこにも無かった。
粘膜を絡ませ合い、逃げる舌先を吸い上げられる。
ツツとどちらのものかわからない唾液が顎を伝う。
本当に溶けていくみたいに、サラサラと唾液が口の中から溢れ、首へ雫が落ちていく。
その感触にさえ身悶え体を捩る。
「甲斐谷・・早く・・」
堪え切れない情欲を口にする吉岡に、甲斐谷が笑う。
「こっちか?お前、こっち食って欲しいんだろ?」
言うなり、甲斐谷は吉岡の体を反転させ、仰向けにさせた。
欲望に忠実に反応する果実が真っ赤に熟す。
「すげえ、真っ赤・・」
それを甲斐谷が指先で弾いてやると、キャンッと吉岡が鳴いた。
「痛いの、ヤダ・・ベロがいい・・」
「食い方に文句付けるのか?わがままなチョコだな、お前」
そう言って、甲斐谷が吉岡の皺のない性器を口の中に含んだ、その瞬間ーーー
今の今まで、身動きしなかった隣のベッドの布団が大きく捲れ上がり、甲斐谷と同室の戸田がベッドの中から起き上がった。
「あ・・お前、居たの」
甲斐谷の虫けらでも見るような台詞に、戸田は真っ赤になって「ずっと居たに決まってんだろっ」小さく叫ぶと、やや前屈みになりながら部屋から飛び出して行った。
そんな戸田の存在に気付いてもいない吉岡は、「甲斐谷?」と、虚ろな目で甲斐谷を見上げると強請るように自分の足を開いた。
しゃぶって貰う代わりに、甲斐谷に自分で蕾を解すよう命令された吉岡は、時々ビクビクと腰を引き攣らせながら自分の中を無造作に指で掻き回していた。
甲斐谷の口の中で一度果て、なかなか止まらない射精を甲斐谷に笑われた吉岡は、その直後、甲斐谷の指と一緒に自分の指で中を抜き差しされて、軽くイキ掛けた。
短時間に2度もイキそうになって、体がぐにゃぐにゃになる。
自分が今どんな格好なのかも、どんな事をされているのかもわからなかった。
突き抜けるような刺激に目を開くと、蛍光灯の灯りが眩し過ぎて、目が眩んだ。
再び目を細めてしまうと、上も下もわからない闇に落ちる。
繋がる場所が熱くて、ドロドロに溶けている。
そこで動いているのが自分の手なのか甲斐谷の手なのかもわからない。
不確かな快感を追う内に、自分の中がグチャグチャに濡れて溢れ、そこから滴っていくものが一体何なのかもわからない。
「甲斐谷・・甲斐谷・・っ」
甲斐谷の唇は神出鬼没で、いきなり足首を噛んだり、手の指を舐めたり、背骨の皮の薄い所に吸付いたり、予想が出来ない。
予想の出来ない刺激は、怖いくらいの快感を生み、吉岡を淫らな生き物へと落とす。
「ヤダ・・やだあ・・」
行かないで・・体を放さないで・・
吉岡の要求に、甲斐谷はうつ伏せた吉岡の体の上に覆いかぶさり、手も足も絡めて、吉岡の体を抱き竦める。
「あ、ここ・・ここ・・」
吉岡の手が後ろに伸びる。
すぐ傍に押し付けられている甲斐谷の熱を弄り、その先端に手を沿えて、自分の股ぐらへと導いた。
濡れて肉が柔らかく拓いた蕾の真ん中にゆっくりとそれを押しつけ、吉岡は膝を開いた。
自分の体の内側に疼く快感を確かなものにするために、バックから抱き締めてくる甲斐谷の腰へ吉岡は自分の腰をたどたどしく押し付けて行く。
入り口を甲斐谷のエラの張ったカリに圧迫される。
大きさの違うモノで塞がっていた蕾が、押しつけられた熱で蕩け、先端部分がズルッと肉襞の中に飲み込まれた。
「ひゃ・・ッ」
欲しかったものとは言え、這入り込んで来る実際の大きさには簡単には慣れない。
こんな大きなモノを尻の間に差し込んで、動ける筈がない。
「や・・やだ・・」
せっかく自分で入れたというのに、甲斐谷の大きさに怖くなって抜き出そうとする吉岡を押し止めるように、甲斐谷がうなじに噛み付く。
「あ、あ・・だって・・無、理・・裂け、ちゃう・・」
「一番太いとこ、もう中に這入ってんだろ?ホラ」
トンと軽く甲斐谷が腰を突くと、吉岡の中の肉塊がズッと中へ滑り込んだ。
「ヒッ・・!!」
胸の下に腕を折り畳んで衝撃に耐える吉岡が喉を仰け反らせて喘ぐ。
「な?初めての時だって、出来たろ?ホラ、もう、どんどん這入る」
グッと甲斐谷の自重が乗り、吉岡の中へ圧が掛かる。
が、それは甲斐谷の唾液と潤滑剤、吉岡自身の愛液に塗れているせいか、吸い込まれるように吉岡の中へと吸収されていった。
見事に甲斐谷の全長を腹の中へと収めた吉岡は半分トび掛けながら白く濁った愛液を先端から溢れさせている。
それを甲斐谷は掌の中に掬い上げ、根元から絞り出すように扱いてやる。
前を扱かれる刺激に、吉岡は反射的に腰を前後に揺らしてしまい、自ら腹部奥深くに甲斐谷を招き入れてしまった。
「ア・・ア・・だ、め・・深い・・コワい・・」
ブルブルと吉岡が震えているのは恐怖からではない。
甲斐谷が制している訳でもないのに、射精寸前ギリギリのところを、健気に堪えているせいだ。
「怖くねえよ。すげえ気持ちイイ・・。吉岡ん中、最高。最高過ぎる。オレ、すげえシアワセ・・。ここで射精したら、気持ち良過ぎて死ぬかも知んない」
「や、だ・・死んじゃ、ヤだあ・・っ出しちゃ、ダメッ絶対、ダメ・・っ」
ブルブル震えながら精液のようなものを漏らしている吉岡の性器を優しく愛撫しながら「ゴメン、許して吉岡」と甲斐谷が動き出す。
「アアッダメ・・ッダメエエッ・・!!」
グチュッと中で瑞々しい肉が潰れる音と、突き上げた瞬間、甲斐谷の体が吉岡の尻にぶつかる乾いた音が、パンと部屋の中で鳴る。
「出ちゃったな・・」
吉岡の屹立からは色の薄い粘液が、途切れ途切れに噴き出していた。
「ゴメンな。あとでちゃんと掻き出すから、お前の体の中でイカせてくれ」
そう懇願した直後、吉岡の肉襞が蠢く。
甲斐谷の欲棒へ吸盤のように粘膜が貼り付き、絞るように巻き付いてくる。
「これ・・出すなって方が難しいっつーの・・っ」
抜けねえよ・・っ
びっちりと尻の中へ咥え込まれた甲斐谷の欲棒は、吉岡の肉襞に絡み付かれ、抽挿のために引き抜こうとするのさえ吉岡に引き止められた。
「すげ・・ッ持ってかれ、る・・」
より密着して自分を食い絞って来る肉欲に、甲斐谷も必至になって抽挿を繰り返した。
小刻みに肌を打つ乾いた音が部屋中に響く。
薄い尻肉を両手で掻き分け、これ以上挿入出来ないところまで吉岡の腰と密着させ、甲斐谷が息を詰めた。
朦朧とし、半分落ち掛けている吉岡がハフハフと口を喘がせる。
その体内、奥深くで、吉岡は自分と同じ精を肉襞の中に受け止め、自身も最後の蜜をトロリと吐き出していた。
甲斐谷は、吉岡の腰を抱えたまま暫くの間、そのまま動けずにいた。
そんな様子を、戸田の陳情から情報を得た寮生達が部屋の前に集まり、食い入るように見つめていた。
いつの間にか、細く開けていた筈のドアは半分程開かれ、ドアの外では息を殺して二人の情事を見つめていた寮生達十数人が、同時にフィニッシュを迎えるという寮内始まって以来のビッグイベントが繰り広げられていた。
その後、この事件はハッピーバレンタイン伝説として、東山吹高校の寮内に粛々と語り継がれていくのであったーーーー。
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BL小説『センパイ』(本家)
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