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番外編 シアンのXmasプレゼント

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そこは、メインストリートから1本道を外れたオープンカフェ。

さすがに12月の寒さでは外のテーブルにつく客はなく、一面のガラス扉も閉ざされたまま。

が、店内は天窓から取り入れた陽光でそのカントリー調の内装を明るく映し出していた。

そこでシアンがバイトを始めたのは一ヶ月前だ。



「ふ~ん、シアンがバイトね~」

プラチナゴールドの細身のダウンジャケットの胸を大きく開けた中は迷彩柄のタンクトップ。

下は超ローライズに民族調の織り目の入ったごついベルトと、濃紺のジーンズにルーズに履いた編み上げのブーツ。

これが今時の兄ちゃん以外に誰が、天の川から来た天人(ヒコ)だと思うだろうか?

「よく許したじゃん」

向かってこちらも、伸びた髪を後ろで纏め上げタートルの黒のセーター。

下はコーデュロイと革靴で、目の前の彦よりはまともな大人なスタイル。

が。

こちらも。

平日休暇をスタバで楽しむ社会人ではなく、齢2千年を超える神狼、蒼狼(イヌ)だ。

「そりゃな、反対したさ」

「あ、やっぱり?なんだってバイトなんだよ?お前お小遣いあげてねえんじゃねえの?」

「・・・・」

からかって大笑いしようとしたヒコの口が歪む。

「なんだよ・・・なに赤い顔してんだよお前・・・」

「赤くなんかねえ」

イヌはフイとヒコから顔を逸らした。

「気持ちワル・・・風邪か?」

それを無視するイヌに溜息をついて、スタバの外を歩く人間に目を移す。

と、イヌが言った。

「え?なんか言ったか?」

聞き返すヒコに、イヌが話し始めた。

「うちに、あるだろ」

「・・・なにが?」

「マット」

「・・・・誰の家にでもあるんじゃねえのか?」

「違う。シアンがくれたマットだ」

そこで、ヒコが閃いた。

「ジュウタンだろ!」(本当はラグ)

とりあえず頷くイヌ。

「あれはな、敷くものなんだ実は」
「・・・・・・・・・」

さすがのヒコも、当たり前だろ・・と、頭の中でツッこんだ。

「でもな、あれをくしゃくしゃに抱いて寝ると気持ちいいんだ。すごく。」

真面目な顔でまっすぐヒコを見るイヌ。

と、いきなりイヌが立ち上がった。

それから表をジっと見つめる。

ヒコは一口コーヒーを飲んで、来た?と訊ねる。

「いや、違う」

答えてそして、また座るイヌ。

「で?ジュウタンが気持ちよくてなんだって?」

そう言ってジーンズのポケットから駅前で貰ったティッシュを出して鼻をかむヒコ。

「そう。あれは気持ちいいんだが、抱いてると敷けないんだ」

当たり前だろ!とツッコミたくなるのを押さえて、ふんふんと聞くヒコ。

「だからシアンがまた新しいのを買ってくれるというんだ。かわいいシアンだ・・・」

うっとりと外を眺めるイヌ。

「想い馳せらせんな。」

さすがにツッコむヒコ。

そこで。

「あーーーーーーーー!!わかった!!うわ!やだ!こいつら、ヤダ!ヤダ!!」

ヒコが叫び声を上げた。

「目立つからヤメロ」

「うるせー!アホ!!それでも八百万の神か!?信じらんねえ・・・!!プライドねえ!サイアク!サイテー!」

「(プライドなんて)ない。シアンがくれるならなんでもオレはOKだ」

「サイテーマジサイテーだな・・・クリスマスってツラか!?」

ヒコが腕組みしてイヌを睨みつける。

「いいだろ別に・・・オレにクリスマスプレゼントしてくれるっていうんだから」

ヒコは手で目を覆った。

「いつからお前はそんな素敵な性格になったんだよ~~~~」

「シアンがかわいかったらオレはなんでもいい。・・・あ!」

イヌがまた立ち上がる。

ヒコも立ち上がった。

向かいのオープンカフェには鼻にピアスを開けた集団。

「それっぽいな~」

ヒコがイヌを見る。

イヌは鋭く縦に伸ばした冴えた蒼い瞳で連中を観察する。

それから、シアンの話を思い出す。
「なんかさ、常連さんになってくれた人が居てさ~。今度夜カラオケ行こうっていうんだけどいい?」

思いっきりおねだりムードで、ラグに寝転がるイヌの上によじ登ってくるシアンにイヌは即答する。

「ダメ。」

「なんでだよ~。いいじゃんかよ~」

イヌの毛の中に顔をすりすりしてくるシアンがめちゃくちゃ可愛いからイヌは少し話を聞いてみることにした。

「どんな人間だ?」

「なんか年上。つっても3つ4つかな?バイトの女の子達も一緒行くって言うしさ~」

「ふ~ん。やっぱダメ。」

「ケチー!イヌのアホ。バカ。犬!」

文句を言いながらもイヌから離れないシアン。

「しなくてもいいバイトを許してるんだぞ?その上、シアンが得体の知れない人間と出かけるのを許せるか?」

シアンの顔をペロペロと舐めるイヌ。

「だってさ~・・・。っていうかプレゼントはやっぱ自分で稼いだ金に決まってるじゃん・・・。

オレがプレゼントしたいんだもん。っていうかプレゼントするって決めたんだし・・・」

「シアン」

「うん」

シアンがイヌの方へ顔を上げる。

イヌがシアンの口元をぺろりとした。

イヌの目がシアンを映す。

「オレが2千年生きてきて、今がどんなことより幸せだ。

お前が生きていることが、出会えたことが、触れることが・・・。他になにを欲しいと思う?」

「イヌ・・・」

涙目になるシアンをイヌの人間になった腕が抱きしめた。

「イヌ・・・」

イヌは、シアンをきつく抱きしめて深く口づける。

「出来るなら、この部屋から出さないのに・・・縛りつけて、ずっとオレの傍から離さないのに・・」

「イヌ・・・」

シアンは切ない吐息とともに床に押し倒された。

その両手を繋ぎ、イヌはシアンにキスする。

「シアン・・シアン・・・シアン・・・」

「イヌ・・・・あ・・・・あ・・・」

そうして、愛を深めた2人だが、例のごとく例の時にはイヌは犬と姿を戻しシアンの絶叫がその夜も絶える事はなかった。





「おぃ、蒼狼。あいつら拉致るのか?」

ヒコが持っていたカップをテーブルに置いた。

「まさか。だが、間違いなくあいつらだな。匂いでわかる」

「じゃ、どうすんだ?」

「・・・・下痢だ。下痢にしよう」

イヌの発言にヒコが呆けていると、店に入りかけていた男がお腹を抱えて壁に手をついた。

ヒコがニヤリと笑う。

「じゃあ、アイツはくしゃみ連発にしよう」

言った途端にもう一人がくしゃみを連発し始めた。

とにかく、店に入れずに男達がヨロヨロとパニクッた感じで通りを早歩きして行く。

イヌとヒコはその姿をショーウィンドゥにぴったりくっついてニヤニヤと見送ったのだった。

「お守りもたまには楽しいな」

向かいのオープンカフェの入り口には、白いYシャツに黒いギャルソンエプロン姿のシアンが「?」と顔を覗かせていた。


end
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