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21、ベロ
しおりを挟む21、ベロ
関東大会、予選二回戦。
日差しのキツイ午後イチ。
オレ(モリヤ ナギ)は、鼻づまりに涙しながらスタンドにいた。
前回に引き続き、全校応援。
派手な横断幕が掛かる手摺の上、オレは腕組して試合を見つめる。
体調は過去3年を振り返って最悪。
たかが風邪。
されど風邪。
チキショー!口で息すんのってスゲー疲れる!!
「大丈夫か、お前。顔赤いぞ、そろそろ熱出てきたんじゃねーの?」
北村がオレの前髪を掻き上げてオレのおでこに手を当てる。
「そうか?」
「ん~、微妙だな。今日暑いし。あるような無いような・・・とりあえず、ジャージくらい着てろよ」
「ヤダ。熱ちぃ」
「確かに、暑すぎだよな、今日。25度くらいあるんじゃねーの?」
北村は、ワッと湧き上がるスタンドを仰いだ。
試合は一方的だった。
開始5分で二点を先取。
その後もコーナーから一点。
フリーキックで一点。
前半だけで4点という猛攻。
だが、こういう試合は特に注意が必要になる。
対戦チームは無駄に焦って、ファールを連発するからだ。
ここで怪我させられちゃ、本戦出場も水のアワ。
だが、スタンド客は大盛り上がりだった。
汚いファールが出る度に、盛大なブーイングを嬉々として送る。
時々、コロスぞ、とか聞こえてくる。
サッカーって怖いよな。
「・・・ミンナ、元気だなぁ」
ソレに北村が噴出す。
「お前だけだよ。風邪なんかひーてんの。オ!笛鳴ったぞ。休憩。休憩。お前、ちょっと裏で休んでくれば?」
「うーーん」
選手達が一気に脱力してグラウンドから降りていく。
ワタヌキがライン際に置かれたボトルの水を頭から被っている。
全身が濡れるのも気にならないらしくジャブジャブと浴びている。
と、そのケツをアキタさんが蹴った。
ワタヌキが振り向いて反撃して、二人が笑ってる。
「別にやる事なんてねーんだし。後で起こしに行ってやるから、裏のベンチにでも行ってろよ。どうせ、今日は、波乱無しだぜ。アッチにロナウドでもいない限り」
タハッ
バカバカしく北村が笑った。
「じゃ、遠慮なく」
「オウ」
オレは手摺から体を起すとジリジリと焼き尽くすような日差しの照り返しの中、ひっそりと暗い階段口へ、向かった。
一歩階段を下りて、クラっとする。
急に視界が真っ暗になったようで目眩を覚える。
「おい、大丈夫か?」
と、オレの腕を後ろから持ち上げられた。
あ?と振り返ると、後ろに長身のメガネの男が立っている。
背だけならならワタヌキくらいある。
「ナニ・・お前・・?後光、差してるし」
マボロシ・・?
「アッチ(外)が明るいからだろ。ホラ、しっかり立てって」
オレのボケをマジ返しする声が、オレの意識を呼び戻す。
ヒトがボケてんのに・・・。
オレはクラっときて、壁に手をついて屈み込んでいた。
「おまえ、あれ?ツヅキ、じゃん?」
オレの腕を取ったツヅキが、肩を貸してくれて歩き出す。
「今、わかったのかよ?同中だっつーのに」
「話した事ねーじゃん」
「ある。入学式んとき、しゃべった」
「ウワ。それ高校のだろ」
「そう」
「しかも、”ナニ組?”って”A組”ってだけ」
ふつふつと笑いが込み上げてきて、肩が震えた。
「何、笑ってんだよ」
「はは、だって、おかしいじゃん?オレら3年も学校一緒だったのに、こっち来てから初めてしゃべったんだぜ?ウケるっつーの」
「・・・なんか、お前、変じゃね?もっと静かな奴だと思ってた」
ツヅキにやや引きずられるように歩きながら、応援席の裏に位置する、喫煙席の一角を指差した。
「あー(熱のせいか?)、あ、もういいよ。オレ、そこで休んでくから」
「ヘー、じゃオレも」
ツヅキはオレを座らせると、その隣に座り、内ポケからあたり前のようにタバコを出した。
ソレを一本口に咥え、ライターを取り出す。
そのタバコをオレは引っ手繰ると、ポイと向かい側のベンチに放り投げた。
ツヅキが一瞬固まって、そのタバコを見つめてから、向き直る。
「テメ・・、先公かよっ」
「(う)っせー。オレの肺にわりぃーだろうが。サッカーてのは、走ってなんぼのスポーツなんだよ。超鼻詰まってる時に、んなもん吸わせんな」
ツヅキはイヤな顔で舌打ちした後、渋々ライターをしまった。
勝った・・・!
ツヅキは腕組して足も組む。
「つまんねえな」
「知るか」
オレは両手をズボンのポケットに突っ込んで、ベンチをずり下がる。
「お前って思ってた通りカワイくねーな」
ツヅキがオレの横でほざく。
「はは、テメ、帰れよ」
見上げてやると、ツヅキの目が細まる。
その目に掛けられたメガネをスっと持ち上げて、ツヅキはソッポを向いて言った。
「オレ、空手部だって知ってた?」
ゲ。
「一本吸っていいか?」
ツヅキの勝ち誇った余裕の声音。
だが、誰が暴力に屈服するか。
「死ねよ」
「・・・テメェ、ヤってやろうか」
ツヅキの口調が、ドスの効いた声音に変わる。
「アア?」
睨み見上げた視線がツヅキとぶつかる事も無く、回転した。
「イッテ!!」
ガツっと音がして、後頭部がズキズキと痛む。
目を開けたオレは、ツヅキに仰向けに倒されていて、ニヤリと笑ったツヅキがオレの上でマウントを取り、拳を振り上げている。
来る!
両手を顔の前でクロスして防御し、腹筋に目一杯、力を入れる。
と、一瞬、体が気持ち横に向かせられた。
その腰の辺りへ。
バチン!!
「イッ・・!!」
鋭く重い痛みに、脂汗がドっと出てくる。
「効くだろ。レバー。これ一発貰うと、誰でも動けなくなる。さーてと」
ツヅキが痛みに丸まるオレの体を押えつける。
「イッテェ・・・、なに・・?え?」
「へ~・・モリヤの涙目って・・いいじゃん。いつもそういう顔してろよ」
ツヅキの顔が不意に近づいてくる。
「テ、て、メッんん!」
両手で顔を挟まれて、口の中に舌を突っ込まれた。
これがワタヌキ相手だったら、勃起するとこだが、今日のオレにはどっちにしろ、そんな余裕は無かった。
息が出来な・・っ!!
死ぬ!!
鼻がどっ詰まってたオレは、思いっきりツヅキの舌に噛み付いてやった。
「ッッテ!!イッテ、・・・噛みやがった!」
体を一気に離したツヅキが、口を押さえた。
「ハー、ハー、テメェ、窒息死させる気か!!」
ついでに、オレの上からも蹴り落とす。
と、急に肺に酸素が入って来たせいで、オレの口からケンケンと咳が出た。
喉が痛いッ苦しいっ
ベンチにうつ伏せて、ゲホゲホ咳するオレの背中に、おずおずとツヅキの手が伸びてくる。
「・・・大丈夫か?おい?オマエ。マジ調子わりーんだな」
しばらくツヅキに背中を摩られて、やっと咳が治まってくる。
「あ、ありがと」
やっとで顔を上げたオレが、涙目で礼を言うと、ツヅキも、うん、とかなんとか答えた。
そのまま黙ったまま、オレ達の間に気まずい沈黙が流れた。
すると、外から大歓声が聞こえてくる。
後半戦が始まったみたいだった。
「オレ、なんか飲み物買ってくるわ」
ツヅキが急に立ち上がって、大股で歩いて行く。
ツヅキが居なくなって、オレは、ホッと息をついた。
「変なの・・なんなんだ」
残されたオレは脱力して、再びベンチに仰向けに寝転んだ。
目を閉じて、考えた。
アイツ、さっきの、キス?だった・・よな?
えっと、ホモ?
「オイ、大丈夫か?」
その呼び掛けに、目を開けると、居るはずの無い男が目に入る。
「センパイ・・っ!」
飛び起きたオレに、ワタヌキが額を合わせてくる。
次いで、頬を撫でられて、唇を指で辿って、お決まりのキス・・!
「待った!オレ、鼻詰まってる!」
「じゃ、ベロ入れない」
そう言ったワタヌキは、触れるだけのキスを唇に落とした。
「ちょ、ちょっと、待・・!」
何度も啄むようなキスを続けるワタヌキの肩を、オレはなんとか押し返す。
がこん。
コロコロコロ。
硬い物が落ちた音に、
ワタヌキが振り返ると、その後ろには、転がる缶ジュースと、立ち尽くすツヅキ。
「・・ツヅキ」
今の、見られた?よな・・。
「モリヤ・・・。テメェ、風邪が治ったら覚えてろよ!!」
捨て台詞だ。
ツヅキが捨て台詞吐いて、走り去る。
なんだ、オマエ、カッコイイぞ(笑)
「・・・知り合いか?」
呆然とツヅキの後姿を見つめていると、ワタヌキが懲りずにオレの肩を抱き寄せる。
「あー、同じ中学の奴・・」
「ふーん」
この男は、キスシーンを目撃されたってのに、動じる様子も無い。
と、オレはある疑問に気づく。
「アレ?・・・あんた、なんでここにいるの?試合は?」
「やってられるか。あんなクソ試合。(わざと)ファール出して、ゴンゾーさんに引っ込めて貰った」
そりゃ、引っ込めるだろ。
二回でレッドだ。
だいたい怪我されちゃ敵わないだろうし。
「センパイ」
「ん?」
「少しだけなら、ベロ入れていいよ」
言って、ワタヌキが笑った。
しかし、すごい捨て台詞だったな。風邪が治ったら、か。
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『番外編 アキタセイジ』(14話の後の話※鬼畜注意)
『センパイ2』
BL小説『センパイ』(本家)
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