センパイ

ジャム

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10、再認識

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10、再認識

ワタヌキのプレイを生で見るのは初めてだった。
いわゆる超高校級ってヤツ?
体格はまだ細さがあるけど丈(タケ)は十分だし、何より転ばない。
それは、ボディバランスの良さと視界がいいからだ。
その上読みもズバ抜けてる。
時々見せる小技には、ゴンゾーさん(監督)は眉間を渋くしているけど。
だけど、思うよ。
何でもできるよ、アンタならって。
そのまま飛んでっちゃうんだろうって、スゲー遠く感じる。ワタヌキタツトを。

「スゲーな」
「スゲー、すごすぎ」
「ナニあのパス」
「回転ハンパねぇもん」
「いいなぁ3年、ワタヌキ先輩と練習できんだもん」
ドっと笑いが起こる。
オレ達はグラウンド(サッカー部専用)の端で70Mダッシュ50本。
マジで遠くに見えるちっちゃなワタヌキの背中。
だけど、誰も見間違える事なんて無い。
遠い。遠すぎる存在。

ダッシュ50本が終わるともうバテバテだった。
腿の後ろが攣りそうで座り込めずに四つん這いになっていると目の前をボールが転がっていった。
球の行方を見つめていると、ケツをガッと鈍い痛みが襲う。
「イッテ!!」
振り返ると、汗びっしょりのワタヌキがそこにいた。
シャツの肩で顔の汗を拭くと、無言でオレの前を通る。
球を拾うと、去り際にボソっと呟く。
「サボってんじゃねーよ」
足、攣りそうなんだよ!!
と怒鳴りそうになって、思い留まった。
コイツはセンパイだ。コイツはセンパイだ。コイツはあのワタヌキタツトだ。
呪文を唱える。押さえろ~。押さえろ~オレ。
そんなオレの葛藤を知りはしない外野の声が上がる。
「コエー~」
「ワタヌキ先輩ってやっぱコエー人なんだな」
「お前ヘイキ?ケツ蹴られてたぞお前」
「笑ってんの見たことねーもんな」
「別にサボッてねーのにな」
「ま、自分に厳しそうだもんな。そりゃ他人にも厳しくなんだろ」

「もう、いいから行こうぜ。次、何だっけ?」
オレは慌てて立ち上がった。ムカついてた気持ちなんてどっかいっちまった。

練習の後、オレは携帯のメールの着信に気づいた。
送信元はジダン(ワタヌキの自称)。
『二年の更衣室にいる。キスしに来い』
パン!勢い良く携帯を閉じる。
な、何ちゅー事をメールで書くか・・。誰かに見られたら、どうすんだ。
オレはおっかなびっくり、周りを見回す。
大丈夫だ。誰も覗いてなかったみたいだ。
オレは急いで、荷物を纏めると、お先ーーー!と仲間に声を掛け、部室を後にした。
校舎に戻って、三階まで駆け上がる。
ドアを開くと、長椅子にワタヌキが横たわっていた。
「センパイ・・寝てんの・・?」
肩を軽く揺する。と、すぐワタヌキの鋭い瞳がコチラを射る。
「風邪・・引きマスヨ」
「あー・・寝てた・・オレ?」
ワタヌキは起き上がると足を降ろして、そこへオレの腕を引く。
オレは荷物を肩から滑らせて床に落として、ワタヌキの隣に座った。
「ナニお前、髪また、乾かしてねぇし・・。んな急がなくてもいいっつーの」
「別に、急いでない。んなのより、何だよあのメール。誰かに見られたらどうすんだよ。消すからな」
ワタヌキはクックッって笑って、はいはいって自分のカバンからタオルを出す。
それで頭をすっぽり包まれて、やさしく撫で回される。
「コレ・・汗拭いたヤツじゃねーだろうな?」
「バーカ」
ワタヌキが笑ってる。
誰も見たことが無いっていってた笑顔が近づいてくる。
タオルの中で二人の舌が、少し遠慮がちに触れ合う。
唇もかするように触っただけ。
「お前、早く、上がって来いよ。・・退屈なんだよ」
ワタヌキの胸に抱きこまれる。やさしい締め付け。
「・・・」
退屈だから、上がれって?
アンタは自分が立ってるトコがどこか知らないんだ。
ふざけてる。
「オレがレギュラーになったら絶対ケツ蹴ってやる」
ワタヌキが噴出し、堪えきれずに笑い出した。
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