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30、祈り

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30、『祈り』
さっきから、また同じコト繰り返してる。
もうカラのカップ二度も口に運んで、舌打ちしてる。
バカなオレ。
勝手に待ってるクセにイライラして。
アイツと約束したわけじゃねーのに。
こんな気持ちのまま、会ったってナンも解決しない。
そう、わかってても待たないではいられない。
その位い焦ってる。
焦り捲くってる、オレ(ツヅキ タカヒサ)。

駅前のマック。
ガラス張りの向こうはオレンジ色。
そろそろアイツがここを通る頃。

さぁ、オサライしておこう。
この二日に起こったオレの災難を。
災難1。オレとオマエが好き同士じゃないコト。

オレ達は同じ様に、相手に恋して、大好きで、惚れてて、なのに、オレ達はそれぞれ違う方を向いてて。
なぁ、同じ気持ちわかってるクセに、オレをシカトするなんて、ヒドクねぇ?
オレだって、オマエのためだったら、たぶん。
クサイ事言いたくなんかねーけど、オマエのネガイならなんだって叶えてやる。叶えてやれる。
なのに、オマエはそんなオレ見捨てて走ってくんだよ。
オレの事なんかマジで視界から追い出して、キレイさっぱり頭の中から消せるんだ。
サイアク。
やめたい。
もう、オマエなんか好きでいんのバカみてぇだもん。
どんなにオマエに好きになってもらいたくたって、やり方も知らない。
オマエってどんな事したってオレを見ない。
いや、違う。
アイツしか、ワタヌキしか見ないんだよ。
ワタヌキタツトしか、入らせない。
オレはその他、大勢と何も変わらないザコキャラで。
なぁ、このゲームはいつ終わる?
オマエはもうボスキャラに出会っちゃったんだろ?
なら、もうオワリにして、オレの方を少しでも見てくれヨ。
いつまでも勝てないボスキャラ相手に粘るなよ。
・・・・・って、オレもか?
でも、ヤエダだけは冗談じゃねえ。
あのクソガキ!(注:同い年)
誰がオマエのためになんかオマエ助けるか!
モリヤの頼みだったから、あのクマをノシてやっただけだ。
それを、マトワリつきやがって、引っ付きやがって・・!

災難2。ヤエダに取り付かれる。
オリエンテーリングの山中。
クマを倒したオレに喜びの抱擁で襲ったヤエダ。
「モリヤーーーー!!テメ、ふざけんな!」
猛ダッシュで駆けてく背中にオレの血が一気で下がる。
シンジランネエ・・・!!!アノオトコ!!
「ありがとう、ツヅキ!オマエってすげー強いんだな!」
オレの怒りは頂点に達していた。
ギュウギュウ抱きついてくるヤエダ。
「オイ、離れろ。コロスぞ、テメェ」
冷め切ったアタマ。冷え冷えとしたココロ。
それが、逆にオレを強くさせた。
「え」
ヤエダの脇腹に正確に入る正拳。
フっと意識を失い、その場に頽れるヤエダ。
オレはその体に続けて拳を打ち込みたくなる気持ちを抑え、大股で歩き出した。
「モリヤ~!あのヤロー・・!」
オレを置いて行きやがった。
ヤエダに捕まったオレに、・・シアワセにって言いやがった!
許せねえ・・っ
オレの気持ち知ってるクセに、アイツは・・!
わからせてやるヨ。
オレがどんなにオマエ好きか。
ああ、見せてやろうじゃん。
だが、災難はそれだけで終わってなかった。
その次の日。
ヤエダが昇降口に立っていた。
オレを見つけて手を振る。
オレは見なかった事にして、その横を通り過ぎようとした。
「ツヅキ!あの、オレ待ってたんだ。ゴメン、もしかイヤだった?」
わかってんなら、話掛けんナ。
オレは、チラとだけ視線を送って、靴を脱いだ。
「オレさ、オレ、自分がこうだって気づいてからゼンゼンいい事なくってサ。でも、オレ、昨日初めて、さ。え・・と。ツヅキに・・。ツヅキに出会うためだって思えてっ」
ヤエダの突然のカミングアウトにギョっとする。
なんだコイツ・・。
こんなトコで告りやがって・・、恥ずかしくねーのかよ?
しかも、勝手にオレを運命の相手にするな!
こっちはナ。
「メーワク」
オレはメガネ越しに目と目合わせて、マジで言ってやる。
こういうのはバッサリ切っておかないと、ヤバイ。ヤバイ奴になりかねない。
ヤエダは真っ赤になった顔で、ソッカ、ソッカって、イインダって笑った。
笑って、急いで歩いてく。
少し見送ったヤエダの左手が目元に上がる。
舌打ちしたくなる。
見てなきゃ良かった。
男のクセにすぐ泣きやがって・・ウザ。
マジ・・・・ウザいんだよ。
だけど、その背中が体育館の方へ消えるまで見てた。
オレが出した結果がソレなら、ちゃんと見ておく義務みたいのがあるような気がして。
あるいは、ただの好奇心だったのかも知れない。
なぁ、モリヤ。
オレは、ヤエダと一緒なのか?
オマエからしたら、オレってウザくて恥ずかしいヤツ?
消えてくれって思うようなキャラ?
それって、ツレーよ。
オレってなんなんだろ。
なんで、オマエ好きになったかな?
好きなヤツに嫌われるために、恋してんのかな?
んなマゾじゃねーのに。
なぁ、どうしたら、オマエ、キライになれんの?
オマエを好きじゃなくなりたい。
このキモチは少しシアワセで、後はザンコク。
ごめんな。ヤエダ。
ヤツアタリだ。
自分を見てるみたいで、イラついた。
イラついて、傷つけた。
もっと優しい言い方でだって断れたのに。
モリヤ、全部オマエのせいだって言ったら、オマエ怒るか?

そして、今日。
災難3。それは諦めの悪い自分。
これは災難っつーか、自業自得ってやつ?
珍しく掛けられた声に、上がる顔。
「ツヅキ!あの後、どうなったのお前ら」
モリヤの台詞に、オレの視界は暗転した。

オレはサ、モリヤ。
オマエに、オハヨ言われるだけで一日いい気分でいられるオトコなんだぜ?
それを、オマエは。
オレを殺したいんだな、きっと。
オマエにはわかんないんだな。こんなオレのキモチ。
オレはバカバカしく笑った。
「なぁ、モリヤ。オレもサッカー部入ろうかな」
「ハ?」
「オレがサッカー上手くなったらサ、ちょっとはオレ、見てくれる気とか出る?」
顔が、口が歪んでく。
イヤな笑み浮かべてるって自分でわかる。
モリヤの顔も、イヤな顔になってく。
やめとけって、これ以上言うなって声がする。
わかってる。
コイツ傷つければオレだってイタイ。
だけど、このバカに、どうすればわかってもらえんのか、見当もつかない。
「なら、メガネやめろって言ったらやめんの、オマエ」
凍りついたようなモリヤの目。
突き放した冷たい口調。
オレは心臓、貫かれる気分。
「・・・やめたら、見てくれんの?相手してくれんの?」
見つめ続けるのも怖くなる目。
そんな目で見つめられてたら、死にたくなる。
「オレがそんなコトでヒト好きになったりキライになったりすると思ってんだ?」
思ってない。言ってみただけだ。
だから。
だから、頼むからその続きは聞きたくない。
言うな。
「オレはワタヌキタツトだから好きなんだ。どんなにオマエがセンパイ真似したって好きになんかならねえ」
もう、たくさんだ。
もうやめてやる。
こんな恋なんかクソ喰らえだ。
「悪かったな。こんなバカが相手で」
そうモリヤが言って、オレの前から去って行った。
なんで、・・・アイツが謝んの?
悪かったって?
どういうイミ?
・・・・オレを上手く振れないってイミか?
じゃあ、さっきのもワザと?オレがイヤな気分になるってわかってて?
オレがドンゾコの気分になってオマエなんかもう好きでいたくないって思うように・・?わかってて?
目が滲む。
瞬きがうまくできない。
オレは校舎の壁に寄り掛かって、メガネを外した。ボヤケた世界が10倍ボヤケる。
モリヤも考えてる。
どうすればオレがモリヤをキライになれるか。
なんだよ。オマエ。何様だよ。
フレばいいんだよ。オレみたいに。ヤエダに言ったみたいに。
キツク、切ればいいんだよ。
そしたら、さっぱり、すっぱり忘れられる。
そうだろ?
「ツヅキ・・」
振り向いて、ヤエダがいた。
「ゴメン・・。元気出せよ、じゃ」
俯いて、早足で通り過ぎてく。
たまたまかも知れない。
持ってたノート。
ここを通ろうとして、ヤな場面に遭遇。
でも、あんまりカワイソウなオレに、お情けのコトバ?
チガウ。
どんなにキライだって言ったって、すぐ忘れられるキモチなんかじゃない。
キツク言えば、忘れられる?
そんなワケない。
こんなにココロ締めてるキモチが、イキナリなくなったりしない。
モリヤもヤエダも、そんなコト、知ってるんだ、とっくに。
何だよ。
なんなんだよ。
その余裕は、どっからくんだよ?
なんで、オレのコトまで考えんだよ!
イライラする。
イライラする。
イライラする。
あー、モリヤ、オマエがここにいれば、全部どうでも良くなるのに。
ここまでは、オレもかなりセンチで落ち込んでた。
この着信が鳴るまでは。
開いた携帯。
今、一番聞きたくない声。
『よ。オマエ、彼女できたんだってな。良かったな~。オレもホッとしたぜ』
「ワタヌキ・・」
『サンを付けろボケ』
今。
オレは限界まで人間の情について考えていたトコロだ。
もうこれ以上はないってくらい、感情というものについて考えていた。
この疲れ切った場面。
『ナギが喜んでたぞ。これで解放されるって』
「・・・カイホウ?」
思わず、噴出す。
「そうだな。もう、いいや。もう。・・・アンタの目の前でヤラせてくれたら、オレも、モリヤにちょっかい出すのヤメルワ」
ブツッとオレは電話を切って、速攻で電源を落とした。
携帯をどっかに投げ付けたい。
頭の中が腐ったように熱くなってる。
もう、ハラは決まった。
あとは行くだけだ。
行き着くとこまで、行ってやる!
オレンジ色の空。
オレは下校するモリヤを待った。
このサイアクな恋にサイアクなピリオドを打つために。

頃合を見て、マックを出る。
それから少しして、駅から出てきたアイツの後ろに付く。
入れそうな路地のあるところで、後ろから抱き締めて、引き込んだ。
「モリヤ、ダイスキダ」
棒読み。
なんて冷めた告白。
「つ、づき」
首に廻した腕。
苦しそうに瞑る目。
両腕でオレの腕を掻いた。
「もう、終わりにしよう」
軽く振った膝をモリヤの背中へ蹴る。
イッキに力の抜ける体。
それを力一杯抱き締める。
「ごめんな。痛くして。ごめんな、・・ナギ」
それから、オレは目星付けてた近くのラブホに入った。
まッピンクの部屋で。
ぐったりとしたその体を思う存分抱き締める。
制服がシワクシャになっても、やめられない。
ずっと、ずっとこうしていたい。
ブレザーの中、抱き締める身体が熱い。
モリヤの心臓の音に耳を立てる。
ただ、モリヤの心臓の音だと思うだけでキモチ良かった。
その幸福な時間をどっかで鳴る携帯の音が逆撫でる。
シカトし続けると、今度は間を置かずにオレの携帯が鳴った。
見る気にもならない。
しつこく鳴るソレの電源を落とそうと思って、やめた。
「モシモシ」
『ツヅキ、キスくらいしたか?』
この男はどこまでも神経に障る。
「・・・なんで。アンタ、そんなに余裕なの」
『ヨユー?ヨユーがあったら慌てて携帯なんか鳴らすか』
それでもワタヌキの声は笑ってる。
「アンタ・・・・前に言ってたよな。ナギの喘ぎ声、聞かせてやろうかって・・・」
『・・・・』
「・・・・聞きてぇ?オレの下で啼くモリヤの声」
『ドーテーがモノ言わせてんじゃねぇよ』
「オトコもオンナもアナに突っ込むのは一緒だろ。期待して聞いててクダサイヨ」
言ってオレは枕元に携帯を放り投げた。
「なぎ」
そっとタイを解く。
一つ一つボタンを外す。
その手が震える。
「ナギ」
モリヤの体を抱き起こす。
自分の胸に抱いて、キスした。
好きだ。
スゲー好き。
視界が歪む。
オレはモリヤを抱き締めたまま泣いた。
デキネエヨ。
オレ、やっぱオマエ傷つけるような事デキネエヨ。
こんなバカやったせいで、オマエも泣くコトになんのか?
ワタヌキにバレちまった。
オマエ一番それ気にしてたのに。
ゴメンな。
「つ、づき?」
モリヤの首筋に顔うずめて泣いたせいで、モリヤが目を覚ました。
「モリヤ。・・背中、痛くねえか?」
「セナカ・・・?・・イテェかも・・ここ、ドコ?」
まだボーっとしてるせいか、オレが泣いてるせいかモリヤはオレを跳ね除けたりしなかった。
「あ、センパイだ」
モリヤが反射的に少し身体を起こす。
「センパイって、ワタヌキの事か?」
聞くと、モリヤは黙って目を動かした。
「ホラ、今呼んだ。呼んでる」
その次の瞬間。
「ナギ!何処だ!?」
その声は確かに聞こえた。ついでに遠くでドアを叩くような音。
「センパイ!」
モリヤの声で、この部屋のドアノブがガチャガチャと回った。
「センパイ」
モリヤが慌てて起き上がって、ドアの鍵を開けた。
「ナギ!」
「センパイ、騒ぎすぎ。警備員呼ばれるっつーの」
ワタヌキに抱き締められるモリヤ。
だが、すぐにワタヌキはオレを睨みつけるとツカツカと寄って来た。
「後悔するようなコトすんじゃねえ!焦らせやがって」
殴られるかと思ったが、ワタヌキは携帯を拾っただけだった。
「・・・なんで、ここだってわかった?」
「センパイの携帯。最新のGPS付いてんだよ」
モリヤが自分のタイを襟から抜く。
「センパイに持たされてた。オレは心配ないって思ってたけどナ。だってお前って実は優しいじゃん」
モリヤは両手を軽く広げてワタヌキに見せる。
「ナンもされてマセン」
ワタヌキが呆れたように笑ってオレを見た。
「キスくらいしたんだろ」
「したかもナ」
オレじゃなくモリヤが答えた。
「ナギ、シメるぞ」
「冗談だろ。冗談。さ、帰ろ、センパイ」
「何で、オマエ、そんなフツウなんだ?こんなコトされてキレねーのか?」
ワタヌキが納得がいかないとベッドへ座る。
「センパイ・・・。オレ、本当マジ、センパイがオレを好きで良かったって思うよ。オレにはツヅキのキモチわかる。オレはアンタの事、なんでか好きになって、アンタがオレの事どうとも思ってなきゃオレは今のツヅキと同じになってたかも知んない」
「オレを襲うのかよ、オマエが」
鼻で笑うワタヌキ。
「襲ったかもな」
即答するモリヤ。
「・・・ますます許せねーな」
「センパイ」
「かっなり、アタマきた。キモチがわかる?なら、襲われても文句ねえって?ナギ」
ワタヌキがモリヤの胸倉を掴んで引き寄せた。
その勢いでモリヤは膝をつく。
「オマエ、オレのモンって自覚ねえな?」
「おい・・」
殺気立つワタヌキの肩を掴もうとして、その手を強く叩き落とされた。
「オレはな、ナギ。自分のモンは大事にする主義なんだよ。誰にも触らせたくないくらいにな」
そのままワタヌキがキスする。
目を見開いたままのモリヤ。
一度、離れてワタヌキが言う。
「目の前でヤッテやろうか」
ワタヌキがオレを見てから、オレの目の前へモリヤを押し倒した。
「ヤだって・・センパイ、マジやめろっン」
モリヤは手を押さえられて、再び二人の唇が合った。
激しくモリヤが顔を振って叫んだ。
「ヤメロ!!テメェ、シャレになんねーんだよっ放せっ放せよ!!」
「マジに決まってんだろ。オマエに教えてやんなきゃわかんねーみてえだからな。オマエはここで、コイツにヤラれてたかも知れねえって自覚がねえみてーだからな」
「ヤラねーよ!ヤラれてねーだろうが!離せっ」
「ヤラねえ?スゲー自信だな。ムカつく。オイ、よく見とけよ。目の前でイカせてやるよ」
後半をオレに聞かせて、ワタヌキがシャツを脱いだ。
その隙にモリヤが体を反転させて、ワタヌキの下から這い出そうともがいた。
が、簡単に肩を押さえつけられて、モリヤが呻いた。
「ヤメロッやだっ絶対ヤダっタツト!許さねえぞっこんなコト!!」
「どうせ、コイツにヤラれてたかも知れねーんだ。別に見られてたって構わねえだろ?そういう事だろ?お前が気持ちわかるってのは」
ワタヌキの手が前に廻ってモリヤのベルトを引いた。
モリヤの声が震える。
「タツト!!」
「ヤメロ!!」
ついに泣き出したモリヤに堪らなくなったのはオレの方だった。
「やめろ。やめてくれ。コイツ、泣かせんなよ。もう、もう二度とこんなマネしねえから・・。やめてくれ・・頼む。頼むから泣かせんなよっ・・オレが悪かったからッ・・モリヤ、ゴメン。ごめんな」
オレ、オマエのシアワセ壊すとこだった。
オマエがワタヌキと別れたら、オレ、スゲー嬉しいと思うけど、オマエは泣くよな。
お前はスゲー悲しむよな。
そんなお前救える自信なんか、オレには無い。結局お前を救えるもはお前が好きな相手だけなんだよ。
それは今のオレと一緒で。
オレを救えるのはお前しかいないのと一緒で。
ワタヌキが手を止める。
「ナギ・・・泣くな」
ワタヌキの手がモリヤの頭に乗る。
クシャクシャと撫でるその手は1分前のモノと同じ手だ。
ソレを見つめてるとワタヌキがオレを見た。
「オレは本気だ。オレはお前次第でナギを酷く扱うかも知れない。それがイヤなら、コイツを泣かせたくないなら、潔く手を引けよ」 
それから息を吐いて付け足す。
「でなきゃ、マジでシメるだけだ」
シメる?ってオレを?
たぶんオレが秒殺で勝つよ、マジなら。
でも、たぶん、絶対。それはモリヤが望まない。
モリヤが泣くようなコト、オレはもうする気ない。
お手上げ。
「元々、オレの手元にはいないのに、人質取られてるみたいだ」
オレはメガネ外してモリヤの前へ投げた。
「やるよ。・・持ってて、モリヤ」
情けない顔、見せないようにオレは立ち上がって振り向かないで部屋を出た。
歪んでボヤケた世界。
暗く紅い廊下。
何も見えない世界。
でも、オレはオマエだけ見えてる。
出来るだけ、離れて見よう。
少しずつ。
離れて行かなけりゃ。
お前の幸せ祈って。

「本気で、オレヤル気だった?」
ガラついた声でナギが聞いた。
見下ろすと、寝たままのナギが、両手で目の前を覆ってる。
「お前がアイツ庇うからだろ」
「庇ってねえ。本当に気持ちわかるって思っただけだ」
「まだ、言うか」
「だって、そうじゃん。オレはたまたまアンタ好きになったけど、そうじゃなかったら・・オレらどうなってたと思う?」
「どうにも」
「少しくらい、考えろよ」
「簡単だろ。何回出会ったって、チガクたって、オレはお前抱く。多分、もう他に誰も好きになれねえ気がする」
「・・なんなの、アンタってさ」
呆れた笑い声。
「センパイ。好きって、スゲーコトだな。イミフメイ。」
「ナギ、オレだけだって言えよ。つーか言わなきゃ殺す」
「脅迫かよっなんか、わかった。わかってきた。オレは本能でアンタを選んだのかもな。アンタは敵に廻しちゃイケナイ相手だ」
「だから、付き合ってんのかよ・・。サイテーだな」
寄せる唇。
重ね合わせた唇を甘く噛んで舐める。
「そんだけ?」
「欲しかったら、オレと生涯添い遂げると誓え」
「そんなナゲーお祈りしたコトねえよ」
「オマエ、たまに可愛くない時あるよな」
でも、唇は合う。
「・・・好きだよ、センパイ」
目元を赤らめるナギ。
「好きだよ」
ソレは、オレをホッとさせる呪文。
ナギ、泣かせてゴメンな。
オマエに嫌われたら、生きていけないのはオレの方だ。
ツヅキなんかより、ずっとビビッてるってお前知らないだろうな。
「もっと言えよ」
抱き締めて請う。
「あのな、・・・好きだってば」
呆れたナギの声。

祈ろう。
いつまでも二人を別つ時が来ない事を。

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