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18、写真事件

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「ワタヌキ~、これ、オマエだろ」 


休み時間、必死にリーダーの訳を写していると、借りたノートの上に、バサリと雑誌が広げられる。 
「んだよ、見えねーだろっ」
今日、自分が当てられる事は番号順でわかっている。 
この休み時間に、あと5分で3ページ写す! 
なのに、クラスメートの橋田が興奮気味に邪魔をする。
「ちょっと、見てみーよ!ホラ、オマエだろ」 
赤だのピンクだの派手な色のページには、男子校生らしき顔写真が大小細かく貼付けられている。
その中の一枚を橋田が指差した。 
「あー?」 
テカテカの薄っぺらい紙の上に、確かに憮然と眉間にシワを寄せて、睨みつけるオレの写真がある。 
「あ~?知らねーぞ、んなもん・・」 
興味の無いオレは、ソレをシッシと払って、ノートの複写を再開する、と。 
「隠し撮りにしちゃ、カメラ目線だな」 
オレの後ろから、アキタが雑誌を覗き込んだ。 
「まさか、テメーの陰謀じゃねーだろうな?」 
「オレってワリと直球勝負なの。こんな面倒くせえ愛情お前に持たねえよ。えーと、何なに?・・・”ワタシの彼を紹介シマス”・・・」 
雑誌の写真に被る噴き出しをアキタが棒読みする。 
思わずオレは顔を上げ、写真の下のコメントに目を走らせた。 
だが、予想に反して、投稿者の名前は『アキラ』。 

んだよっ違うじゃねーか!一瞬、ナギかと・・・。 
いや、アイツがそんな事やるわけねーか? 
だいたい、アイツがオレの写真なんて持ってるわけねーし、写メだって撮った事・・・。 
そういや、オレも、アイツの写真持ってねえ。 

「『アキラ』だってよ、オマエの彼女~」 
アキタがニヤニヤ笑いながら読み上げる。 
「”ワタシの彼は、超ウマイサッカー選手です。”超ウマイときたか。”毎日一緒にいても飽きない実はカワイイ奴です”」 
「カワイイ奴!?奴!?」 
オレの机の回りに集まった奴らが一斉に吹き出した。 
「ワタヌキ、今度ちゃんとアキラちゃん紹介しろよー」 
満面の笑みで、アキタが背中に伸し掛かって来る。 
「もう時間ねーんだから!どけよテメーら!頼むから、写させてくれ!」 
それでもやめないおんぶお化けに、オレは利き腕の肘で鉄拳制裁を入れた。 


アキラが誰かなんて、はっきり言ってどうでもいい。 
だが、こんな風に勝手にヒトの写真を持ってるって事にムカついた。 
それ持っててどうする気だよ・・? 
魔除けか? 
それとも、またこんな風に、オレの写真を誰かに見せて『これ彼氏』なんて虚しいウソを吐くんだろうか? 
とかく世の中はメモリの無駄使いだ。 
イヤ、ナギの写真だったら、いくら持ってても無駄じゃないけど。 
そこで。 
オレは、眠い授業の時間を有意義に使い、初めて自分のケータイの写メの機能を理解した。 
そんなオレの元へ、後輩の北村が顔を出す。
「ちーす。綿貫先輩、いますか~?」 
この北村の日参に、絶対ナギはついて来ない。 
「ヨォ。オマエ、次授業何?」 
「え、次ですか?生物ですけど・・」 
「その次は?」 
「数学」 
「移動(教室)無し?」 
「今日は、無いっすね」 
「あ、そ・・」 
せっかく機能を理解したのに、なんだよ、じゃぁ撮る隙ねえな。 
かと言って、まさか1年の廊下で張るわけにもいかねーしな。 
「先輩、実は・・先輩の事紹介してくれって頼まれてんすよ。一年のコなんスけど。あ、先輩って彼女いませんよね!?」 
「彼女・・・。いるって言えばいる。けど、今すぐなら見に行ってもいいぞ」 
「えーーーー!!先輩、彼女いたんスか!?どこにいるんスか?」 
「あ~違うガッコ。とりあえず、そのコ見に行くぞ」 
「え、マジで?・・先輩って見た目より軽かったんスね・・」 
「バーカ、見るだけだよ、見るだけ。廊下から見るだけでいいから」 
「そうスか。ま、会わせろ言われてるから平気だと思いますけど・・」 
これで、一年の廊下へ行く口実ができた。 
オレは引き気味の北村の背中をこづきながら階段を急ぐ。 
一つ上の階に上がるだけで、匂いすら違く感じるから不思議だ。 
ナギは1-F。 
オレはポケットの中からケータイを出す。 
カメラを起動させ、歩調を緩めた。 
1-Fの教室の入り口の前で、そっと中を覗く。 
「何してんの、アンタ」 
オレの後ろから、聞き覚えのありすぎるタメ口に振り返ると、眉間にシワを寄せたハニーが立っている。 
「オマエ・・!(なんで教室にいねーんだよ)」 
驚いているオレの背後から、北村が顔をヒョコッと出して、
「オウ、これからアキラちゃんとこ行ってくるワ」 
 と、ナギに手をあげた。

アキラ? 
まさか、その女か? オレの写真勝手に投稿しやがったのは・・!
質の悪りー、イタズラしやがって!
マジで蹴り入れてやろうか。 

「へー。・・良かったデスネ。ワタヌキ先輩」 
ナギはいつもの控えめな笑顔に目一杯、感情を乗せて笑うと、踵を返した。 
「ナギ、待て。待てって!」 
拒絶オーラ全開のナギの背中は、あっという間に階段の方へ消えていく。 
たぶん、ナギは『アキラ』の事を北村から聞いて知っていたんだろう。 
完全に、つい安易に、北村の話に乗った自分が悪い。 

『アキラ』の話は、1年のフロアへ来る口実だったのに・・っ 
チキショ!アイツ怒らしてどうすんだ!? 

「あ、先輩、あのコッスよ。内田晶」 
北村は、まっすぐ目の前へ歩いてくるショートカットを指差した。 
「あ、綿貫先輩!ヤダッ北村!!もうッ先に言ってから会わせてよ~~!」 
アキラは恥ずかしそうに両手で顔を覆って、キョロキョロと周りの目を気にする。 
「成り行きだ。許せ」 
北村が自分の顔の前で手を合わせた。 
ヒョロっとしたオンナ。 
オレがアキラに感じた感想は、それだけ。 
それより。 
「”ワタシの彼を紹介シマス”」 
雑誌のフレーズをオレが口にすると、アキラの顔からサッと血の気が引いた。 
オレはめったに見せない極上の笑顔で言ってやる。 
「テメーか・・・。二度とオレの前に顔見せんな。マジ、埋めるぞ」 
オレの台詞に、真っ青になるアキラを置いて、オレは踵を返した。
「えっ!?先輩?どうしたんスか?急に」 
何がなんだかな北村が、慌ててオレを追いかけて来る。 
「オマエ、こういう話もうオレに繋ぐな。いいな?」 
オレは歩きながら、北村を指差すと、 
「ハイ!!スイマセンしたっっ」 
と、北村は、まるで意味もわかってない癖に、キビッと体を腹から折った。 
コイツのこういうトコロが憎めない。 
オレは、ナギの後を追って急いで階段を下りた。 
もう休み時間も終る。
ナギのあの雰囲気じゃ、授業に出る気も無いだろう。 
アイツがイジけて、一人で引き篭もるとしたら・・・。 
保健室? 

オレは保健室のドアを二度ノックして、当たり前のように返事の無い扉を勝手に開けた。 
「あら、綿貫君。どうしたの?怪我?」 
30過ぎの、見た目はまだ若そうな保健医が、ヤカンを手に立っている。 
「・・んだ。先生いたの」 
「失礼ね~居ますよ。いつも。」 
保健医は大きめのカップにコーヒーを入れ、スプーンで掻き混ぜる。 
そこへたっぷりの牛乳が注がれ、室内があまったるい匂いに包まれた。 
「一年来なかった?」 
「今、寝てる子だけネ」 
「誰?」 
「えーと・・森谷 凪君。だから、静かにね?」 
オレは無視して、ベッドを囲むカーテンを掴んで開いた。 
「コラ!」 
「ちょっと話すだけ」 
後ろ手にカーテンを閉める。 
「ったく、なんでそんな自由なの?」 
保健医のグチる、ツブヤキ。 
あんたも、十分自由だと思うけどな。 
ベッドの横の椅子に、ナギのネクタイと上着が掛かっていた。 
ナギは、布団の中で壁側を向いて丸くなり、オレが上から覗いてもピクリとも動かない。 
「ナギ」 
小さく呼び掛けると、
「・・・ウワキモノ。ガッコで・・ナギって呼ぶな」 
と、布団の中から、ボソボソと喋るナギの掠れ声。 
「ナギ」 
オレはナギの肩を引いて自分の方へ振返らせ、その顔を覗いた。  
途端に見開かれた、濡れたナギの目。
ナギの目は、いつも水っぽい濡れた目をしてるから、泣いていたのか判別がつかない。 
黙ってキスすると、一瞬顔を背けたが、オレの手に押えられて、観念する。
それでも精一杯の拒否なのか、唇を開かないでいる。 
オレはじっとりと唇の狭間を舐め上げてやる。
唇が欲しがるキス。 
ナギは舌を絡ませるのが好きだ。
唇を繋げ、舌を絡ませながらイクのが好きだ。 
だから、何度も舌でなぞってやる。
濡れた唇で、何度も啄ばむように優しくキスする。 
それでも強情に唇を閉じているナギから、オレは一旦唇を離して、『いいのか?唇を離しても』と誘惑した。 
が、こんなしおらしい態度を取るオレに、瞼すら開かないナギ。
なら。
突き進むのみ。 
オレはナギのシャツのボタンに手をかけた。 
ハッとしてナギの目が開かれる。 
「ヤ・・!」 
小さく発した声。
保健医を気にして、ナギは拒絶の声も上げられない。 
オレの手を掴むが、力負け。
オレは、ナギの手を無視して、肌蹴たソコへ舌を這わせた。 
「!!」 
ナギが、ギュッと目を閉じて息を呑む。 
オレは無理に開かせたシャツの内側で、ナギの柔らかな突起に舌を這わせる。 
ナギの体がビクビクと痙攣して、閉じていた目を細く開いて、濡れた黒目でオレを見つめた。 
舐めて、プックリ浮き上がった乳首に、やわらかく歯を立てて、ナギがオレの肩に爪を立てる。 
「話、聞くか?」 
「も、いい・・」
顔を真っ赤にしたナギが、観念したように額の上に腕を乗せる。
「じゃ、キスしろ」 
ナギは、諦めたように薄く笑って、口を開いた。 
やっと許しを得た唇の中へ入り、オレはナギの舌を吸う。
口の中で口蓋をくすぐり、舌同士を絡ませた。 
言い訳なんかするより、キスの方が早い。
こんなに好きだって、簡単に伝えられる方法他に無い。
ナギの髪を梳き、ナギの唇を、舌を、何度も吸い、オレは下手な言い訳をするより、ナギの体を抱き締めた。


次の日。 
「ワタヌキ~、いいもんゲットしてきてやったぞ~」 
アキタがケータイを開いて見せてくる。 
そこには、学ランのナギの硬い顔。 
「証明写真かよ」 
「ブ~。卒業写真」 
「いらねーよ」 
オレが欲しいのは普段のナギの顔だ。 
そんな何百も印刷された顔じゃない。 
「じゃ、5百円でこれ売ってやろうか」 
アキタの手が紅いアルバムを持ち上げた。 
硬い漢字の銀色のタイトル。
「!ナギの?」 
「・・・へ~~。オマエ、モリヤのこと、名前で呼ぶようになったんだ?」 
アキタの目が嬉しそうにネコ化していく。 
「もう百円やるから、向こう行け」 
「んな、冷てえ事言うなよ。な?オレ達ってカワイイとこあるよな~。そう思わね~?」 
アキタは意味深にニヤケながら、オレの隣へ座るとアルバムを開く。 
もう先に見て知っているアキタは、サッと、ナギの映っているページを開いた。 
一発で目に入る、学ラン姿で、仲間としゃがみ込んで笑うナギの写真。 
「ウワ。カワイー・・!!」 
ハッと口を押さえるオレ。 
そんなオレに、ニンマリと口元を歪ませたアキタが、オレの肩を宥めるように叩くと、席を立った。 
なんか言われるのもムカつくが、こうやって大人な対応をされるのも腹が立つ。 

気持ちを切り替え、アルバムに視線を戻しページを捲っていく。 
クラスのページ。
文化祭のページ。
体育祭のページ。
修学旅行のページ。 
全体写真。
部活のユニフォーム姿。 
オレが初めて見る、少し幼い顔のナギ。 
全部を見終わり、オレはアルバムを閉じた。 

バカみてぇ。 
ショック受けてる。 
知らないのは当たり前だって、言い聞かせても。 
ショックは隠せなかった。 
小さなスナップショットに、ナギが女と肩を組んで写っていた。 
昔のオンナ? 
だから、なんだよ? 
今のオレとなんも関係ねーだろう? 
だけど、頭は今見たモノを、簡単には削除してくれない。 
オレはケータイを開き、ナギに繋ぐ。 
「モシモシ」 
「屋上に来い」 
「え」 
答えも聞かずにオレは通話を切り、アルバムを持って階段を上がった。 


5月の頭だっていうのに、日差しが、もうキツイ。 
温暖化は着々と進んでる。 
オレはドアの横のかろうじて日陰の、灰色の壁に寄りかかって座る。 
また、ナギのアルバムを開いて見た。 
オンナがナギと肩を組み合って、こっちを見て笑っている。 
「テメ・・オトスぞ」 
言った瞬間、ガチャっとドアが開いた。 
慌てて、アルバムを背中に隠す。 
隠してから、隠す必要が無かった事に気づいたが、もう遅かった。 
「アンタなんだよ、さっきの電話・・。センパイ?どしたの?」 
ナギがオレの投げ出した足の間に、膝を抱えてしゃがみ込んでくる。 

聞く事は一つしかない。 
なのに、バカバカしくて声が出ない。 
聞いてどうすんだ? 
オレだって、別に童貞じゃねー。
オンナと付き合った事はある。 
それを聞いてどうすんだ? 
余計にショック受けないか? 
そんな事聞いて、オレってバカみてぇじゃねーか? 
狭い。
自分が狭すぎる。 

「センパイ?・・あ、オレ昨日の事聞いたよ。すげー北村が話デカくしてたけど。いくらアンタでもオンナ相手に『埋める』なんて言わねーつーの。土嚢かよ(笑)逆にウケた。アイツたまに面白れーこと言うと思わない?」 
「・・あー、・・」 

いや、ま、埋めるゾって言ったんだけど。 

「しかし、すごいね。勝手に写真投稿するなんて、・・金でも貰えるのかね?」 

んなわけねーだろ。エロ本じゃねーんだから。 

「・・・センパイ。マジ変。何?オレなんかした?」 
オレは大きく息を吸って、吐き出した。 
「ナギ。写真撮っていい?」 
「写真?・・・裸?」 
「アホか」 
「アホかはそっちだろ。何だよ。すげー難しそうな顔してるから何かと思えば・・勝手に撮ればいいだろ、んなの」 
ナギは言いながら、どんどん目元を赤くしていく。 
「ナギ」 
そっと唇を寄せると、ナギも目を閉じた。 
あ、この顔・・・。 
オレはサっとケータイを開く。 
その気配に、ナギの目が瞬いた。 
「センパイ!!マジでキレるぞ!んなもん撮りやがったら!」 
「裸でもいいっつたのは誰だよ?」 
「いいなんて言ってねー!!ヘンタイ!」 
「撮ってやる。絶対撮ってやる」 
「ヤメロ!!」 
オレはケータイを持ったままでナギの両手を拘束した。
楽勝。 
「放せ!変態!大声出すぞ・・」 
オレはケータイの画面越しナギを見つめた。
「一枚だけ。オレだけに見せる顔が欲しいんだよ」 
「アンタ、おかしいよ。急に、なんでそんな事言い出すんだよっ」 
ナギの困った顔が、誘惑の顔に見える。 
写メに集中出来ず、ケータイを下ろして、オレはナギにキスした。 
「ナギ・・。ナギ、なんでオマエっ・・」 
そんなカワイイんだよ・・っ 
「・・・なんだよ?オレがなんだよ?アッ」 
ナギの首筋を噛むと、ナギのスイッチが一発で入った。 
オレも、もう写メなんか撮る気も無い。 
開いたままのケータイの電源を切り、脱ぎ捨てた上着の上に放り投げた。 
オレはナギのシャツを巻くり上げ、見えるところ全部に口付けていく。 
「ナギ。オレが好きだろ」 
「・・・だから、なんだよ」 
「だから、シたいんだよ」 
ナギのベルトを外し、下着ごとずらす。 
「こっここで!?ダメだって!こんなとこっ・・!」
「我慢できねえ」
ナギが暴れるのも簡単に抑え込み、ナギの尻の間を、舐めて濡らした指で探る。  
「あ、・・すぐ、無理だって・・・ア、ふ。・・んん」 
指で解していき、次第にナギの中からグチュグチュと濡れた音が出る。
慣れてきたナギを引き起こし自分の上へ抱き上げる。 
密着した肉棒がナギの穴のヌルついた感触に揺れる。
滑る先を、力を入れて押し込んだ。 
「アウゥッ・・アンタ、ゴムしろよッ」 
「一回入れたらな。ちゃんとオマエと繋がりたいんだよ。あんなモノ抜きで」 
「あ、アッセンッパイッセン、パイッ」 
ナギはオレの首にしがみ付いて、ゆっくりとゆっくりと腰を落としていく。
飲み込まれ、熱い肉壁に締め付けられて、目の前がチカチカする。 
ナギ。ナギ。ナギ。 
なぁ、今までオマエが誰かを抱いた数より、オレと抱き合った数の方が多いよな? 
きっとオレとの方がいっぱいキスして、抱いてると思う。 
オマエがイキそうになるポイントだって、誰よりオレの方がわかってる。 
「セン、パイ、好き、・・好き、アッ」 
「ナギっ」 




結局、中出し。

ナギの中を汚したばっかりに、ナギはジっとしていなければならなくなった。 
(動くと穴から精子が漏れるから) 
コンクリートの上に二人で寝そべる。 
「こうやって、オレ、センパイの精子飲んじゃうんだよな、きっと」 
「悪かったって。オレが・・・掻き出してやろうか?」 
「ムリ。指で全部出るわけない。きっと奥の方から少しずつ落ちてくるんだろうから。時間差攻撃。・・・アレ」 
ナギの手が、オレの背後から例のアルバムを拾い上げた。 
「あっ」 
「うわー、これ、うちのガッコのアルバムじゃん!センパイ見た?オレ、わかった?」 
「あー・・。うん」 
「懐かしー。あ、コンちゃん。須賀。タケ。・・・あ、・・」 
突然、ナギがオレを真っ直ぐに見つめてくる。 
「コレ、センパイ・・・。そうか、アキタさんだ?センパイにこれ見せたの」 
「え」 
ナギはクスクスと笑い出し、最後は床の上で右に左に笑いながら転がった。 
「ゼンゼン読めねーんだけど?(話が)」 
「昨日だよ。昨日、アンタがアキラの顔を見に行っただろ。その話をオレ、アキタさんと偶々会って話しちゃったんだ。北村にセンパイが女紹介させてたって。そしたらあのヒト、オレが仇打ちしてやるって。たぶん。コレの事だったんだ。アンタ勘違いしたんだろ?オレが女と肩組んでる写真見て」 
「・・・カンチガイ?」 
「でも、残念。オレが付き合ってた子はソイツじゃない。そんな、おセンチなマネ、卒業アルバムになんか載せねーよ」 

頭がカタイ。 
ジワジワと浸透するように、言葉の意味が入ってくる。 
じゃ、なんだ? 
オレは、ナギと、なんでもない相手に勝手に嫉妬して呻いてたって事か? 
そんなんも全部アキタの思惑で? 

「チクショ。アイツ知ってて・・・!」 
「センパイは・・知りたい?オレと初めてシたコ」 
オレの心臓が一瞬止まり、体全部が心臓になったように、心臓の音とシンクロする。 
ナギの手がパラパラとページを捲った。
その手を掴んで、オレはナギにアルバムを閉じさせた。 
「いい。知りたくない」 
言うと、ナギは寂しそうな顔をした。
「・・・オレは知りたいよ。センパイが初めてキスしたヒト。どんなヒトだったか、気になる」 
「気にすんな。オレは教えないから、オマエも教えるな。知ったらマジで埋めたくなる」 
「・・・そうだね。興味はある。でも、ムカつくかもな。どうすりゃいいんだろ?」 
「んなもん、シカトしろ」 
「違うよ。どうすりゃ、アンタがオレを一番好きだって思う事ができるんだろうって事だよ」 
ナギが困ったように柔らかく口元を緩めた。
「オレ・・・いつもアンタに流されちゃってるけど、オレだってワガママ聞いて欲しい時だってあるんだぜ?時々でいいから、オレのワガママ(懇願)も聞いて欲しい。それってオレが大事って事じゃねぇ?」 
「・・そうだな・・聞いてもいいけど、オレがオマエしか見てないの、わかるだろ?つーか、わかれ。」 
「う・・ん。・・・・あの写真、ムカついた?」 
「かなり」 
「アキタさんてスゲー。(狙い通り)」 
「アイツも埋めたくなってきたな」 
「それじゃ来年の国立のツートップ組めないじゃん」 
「来年か、・・再来年は、オマエと出たいな・・」 
「・・うん。努力シマス。」 




そして、一段落。 
着いたように思えた写真事件。 
これにはまだ、続きが残っていた。
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