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14、サイアクなセンパイ
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14、サイアクなセンパイ
どの部活にもイヤな先輩ってのはいる。
何が気に入らないのか、後輩に当り散らしたり、ミスを煽ったり。
いくらオレが3年の時だって、そんな事はしなかった。
どちらかと言えば、後輩をかわいがった方だと思う。
名門サッカー部と言えども、部員が120人もいれば、そんな輩もいるというわけだ。
HR終了後、オレ達は帰り支度に落ち着かない同級生に構わず、さっさと制服を脱いで、ジャージに袖を通した。
一年は部室をほとんど使わない。イヤ、使えない。
ロッカーが足りないし、何より入りきらないからだ。
あと何ヶ月かするとゴッソリと脱落者が出るらしい。(ワタヌキ談)
その後で、勝ち組だけがロッカーを使えるようになるらしい。
ハハハ。
オレ達はレギュラーの前にロッカーを争奪しなければいけない。
そんなレベル。
雑魚キャラもいいとこだな。
最近、朝練脱落者がポツポツと出ていた。
好きなだけではやれない事ってのはある。
それを自分自身で、将来を見据えて、見極めなければならない。
今がそれで、ゴンゾーさん(監督)は揺さぶりをかけてくる。
面白くない練習メニュー。
基本ばっかの毎日。
ボールにも触れない日もある。
勝ち組への道は遠い。
「おう、行こうぜ」
北村が無造作にオレのケツを叩いた。
声を上げて、飛び上がりそうになる。
なんだって、男ってのは挨拶をケツにする奴が多いんだ?
ヤバイんだよ。
今オレは自信を持って言える。
ケツを刺激されたら・・・絶対勃つ!
完全に勃起はしないだろうけど、反応しないはずが無い。
それは、ここ連日のワタヌキとの行為のせいだ。
さすがに毎日は、フルコースは無理。
そんな場所も時間も無い。
そこで、ワタヌキは学校でオレを時々メールで呼び出す。
なんのためにか?
もちろん、ケツに試すためだ。
場所はまちまちで、武道場の人気の無いトイレだったり、備品室だったり鍵の掛かる生徒会室(ここはメッカらしく予約が必要)だったりした。
一日一回は指で弄くられて、射精させられて、その脱力した瞬間。
目一杯開かされたソコにバックから突っ込まれる。
先端は何とか入る。
だが、痛い。
皮膚が裂けそうで、とても我慢できない。
我慢できないのにワタヌキは少しずつ押し込んできやがる。
「・・・も、もうっムリ・・・イテェ・・ッセンパ・・・イテェ・・ヤメテ」
痛みで瞼が熱くなる。
「ハァーーーーーッムリか・・やっぱ」
ワタヌキの長い吐息。
理性を引き戻すサイン。
痛くて、早く抜いて欲しくて、つま先立ちになる。
それでも抜いてくれないワタヌキを振り返ると、ワタヌキの目元が赤く染まっていた。
あの鋭利な眼光が情欲に焦点を歪ませている。
見つめられているハズなのに、そのまま自分を透かしてもっと遠くを見ているかのような瞳。
こんな顔でワタヌキはイクのかも知れない。
凄絶なオスの艶気。明らかな肉食獣の目。
「・・センパイ・・」
繋がったままでワタヌキの手がオレのケツをやわやわと揉む。
「スゲー・・気持ちイー。マジで、ムリか?ツライ?・・アーーーーー、
オマエの中に出してぇ」
今度はオレが真っ赤になる番。
ギュっとワタヌキがオレを抱きしめた。
ズッ
「イッッッ!!!!」
抱きしめられたせいで、ワタヌキがさっきよりめり込む。
「イタ・・イッ・・・センパ・・イ、ヌイテ・・ムリ・・イテェ・・イテェ!」
「もう少し、もう少しだけ。まだ、半分もいってねーし」
「ムリ!」
オレは大きく首を横に振った。
フーーーーーと、再びワタヌキの溜息。
「じゃ、もう動かさないから、後、5秒だけ中にいさせて」
「5・・秒・・?」
「5秒。5,4,3,2、」
1、の手前で、ワタヌキがオレの腰を強く掴んだ。
「-ッッッ!!!!」
声にならない激痛。ザッと血が下がる音がした。
足がぐらついて、ワタヌキが慌ててオレを引き起こした。
「モリヤ!」
ワタヌキの声が遠く感じて、変に思ったが、そこまでだった。
ブラックアウト!
まぁ、そんな訳で、ワタヌキセンパイは、今日の昼休みに、見事、最挿入記録を樹立したわけだ。
しかし!オレはもう、あのオトコの好き勝手にさせる気は、これっぽっちも無い!!
失神だぜ?失神!
16年の人生で、何回もある事か?
オレはサッカーやってるから、いい肘もらったり、刈られたりして、一瞬意識飛ばした事はあるけど、普通に生きてたら、失神なんてしないだろ。
失神するまでヤるなんて、鬼だ。
イヤ、何となくアイツが鬼だって事はわかってたんだけど、オレにしか見せない笑顔とか格好良さとかに誤魔化されて、忘れてた。
そうだ。初めから、何もかもが強引だった。
アイツは強引の申し子なんだ。
これ以上好き勝手ヤられて堪るか!
オレ達がグラウンドに入ると、先に終わっていたらしい3年が数人遊んでいた。
その中に例の奴がいる。キラワレ者の先輩、泉沢。
さっそく一年に向かって怒鳴りつけている。それを泉沢の仲間がハシャギ立てる。
オレは根性で部活に出るが、腰の深部の痛みが平気な訳じゃない。ゴンゾーさん
(監督)が来るまでは動かないでいようとベンチに座って、ボーっとしていた。
北村達はリフティングやらロナウジ-ニョの真似をしてる。
と、一瞬気づくのが遅れた。目の前に影が差して、ボールが飛んでくる。
ハっとしてオレは、それを勢いよく手で叩き払った。
球が飛んできた方を見て後悔した。泉沢だ。
しまった。キャッチすれば良かった。
球はいい勢いで、飛んできた方向とは違う方へ転がっていく。
泉沢が眉間にシワをよせて凄む。
「テメェ!取って来いよッ」
「・・ハイ」
ワタヌキとはまた違ったサイアクな先輩。
立ち上がる時に体の奥がピリッと痛んだ。
うう、イテェ・・ワタヌキ、殺してやる。
球は広々としたグラウンドを滑らかに、ベンチからかなり離れた処まで転がっていた。
小走りで近づき球を拾おうとした時、体の側をもう一つ球が弾んで転がっていく。
「?」
アレも拾えって言う気か?
と振り返った時だった。
ガンッと衝撃、痺れた痛みが顔を襲う。
反射的に俯いたオレに、ギャハハと笑う声が聞こえた。
「スゲ~~、ナイスヘッド~~」
「うわー、モロだよ。モロ。痛そう~」
「早くボール寄越せよ!」
キレた。
オレだって、伊達にサッカーやってねーよ。足だけならキックボクサー候補なんだぜ?
オレは拾ったボールを遥か向こうのゴールへ蹴り飛ばした。
ボールはゴールポストも超えて学校を取り囲んでいる植木の向こうへ吸い込まれた。
テメェで、取ってきやがれ!
「・・何やってんだテメェ!このバカッ」
金きり声を上げる泉沢にひたと視線を据えて、オレは大股で近づいていった。
遠巻きに見ていた連中の中から北村が飛び出して来た。
「よせって、ヤバイって。」
縋り付いてくる北村を引き摺りながら、オレは、顔を顰めた泉沢に向かって手を伸ばした。
刹那。
オレと泉沢の間をPKでも見ないような剛速球が蹴りこまれる。
「ギャッ」
妙な悲鳴を上げた泉沢が、鼻を押さえて跪いた。真っ赤な鮮血が手の間から滴る。
「あ、当たった?」
「テメェ・・ワタヌキ!」
真っ赤になった鼻から、鼻血を二本だして、泉沢はワタヌキを睨みつけた。
ワタヌキはシカトして前を通りすぎようとする。と、その肩を泉沢の仲間に掴まれる。
「テメェ、謝れよ!」
「あ?」
ワタヌキは小さく振り返り、ソイツを上から見下ろした。
ソイツの顔に後悔の字が浮かんでいる。
その体格差は歴然だった。
たぶんオレより小さいかも知れない。
「じゃ、アンタ、コイツに謝ったのかよ?見ろよ、コイツの唇切れてんじゃねーか!」
ワタヌキはオレの首に腕を回して引き寄せるとグッとオレの顎を持ち上げて、泉沢に見せつけた。
「イッ!」
ギャラリーの前でオレはワタヌキに抱き寄せられて、心臓が跳ねた。
恥ずかしいは、痛いは、ムカつくはで、頭がグルグルしてくる。
「アンタがコイツに謝るってんなら、オレはいつだって謝ってやるよ。アンタにそういう
流儀が通じんならな」
泉沢は、歯噛みして、ワタヌキの冷え冷えとした視線から目を逸らした。
ワタヌキも視線を変えた。
「手、放せよ」
ワタヌキの肩をずっと掴んでいた奴が慌てて、手を引っ込めた。
まるで3年の威厳など無くなっていた。
ワタヌキは高校サッカーのキングなんて呼ばれているけど、部活での上下関係はきちんと
築いていた。先輩は先輩だ。
だが、今、ワタヌキは泉沢との関係に決着をつけた。
これだけのギャラリーの前で下に舐められた先輩にもう威厳は無い。ただの年上。
「おい、大丈夫か?」
「いいから、も、放して・・」
「あ、ワリィ!・・わッ血!!」
脱力して開いた口から、血が零れた。
それをワタヌキが自分のジャージの袖で押さえる。
ああ、血って落ちにくいのに・・。
「保健室連れてってやれば」
ワタヌキの仲間だ。
「おう。後ヨロシク」
「無茶言うな。この後をどうしろっつーんだよ」
「人望上がるぞ」
「テメー最悪だよ。お前のアホ話でも一年に吹き込んでやろー」
「コロス」
ワタヌキが口角を上げて、中指を立てる。
「ハイハイ。行ってらっしゃい」
ワタヌキに肩を抱かれるようにグラウンドを後にしたオレ達の耳に、ドッと笑い声が聞こえてくる。
「あのヤロー、またホラ吹いてんな・・」
さすが、ワタヌキの仲間だ。ワタヌキとひけ取らない性格なんだろう。
昇降口で、ワタヌキの袖が外されて、たぶん腫れているだろう唇を、舌で舐められた。
ジンジンする。
「・・まだ、怒ってる?」
「・・・怒ってる。」
「悪かった。もうムリしない。つーか当分我慢する。」
こんな素直に謝られると・・・オレ・・。
「・・うん」
ワタヌキがオレの髪にキスする。
「・・・今度は、・・・ちゃんと顔に当てろよ」
「あー、アレちょっと回転かかんなかった。焦って蹴ったからな。スゲーお前キレてんだもん」
ゴール前で平然とフェイント掛ける奴が焦るなよ。
オレ達は、保健室に行ったにしては長い時間をトイレで潰した。
ワタヌキがオレの精液を飲んだのはこれが二度目だった。
* * * * *
アキタがイズミサワ先輩をとっちめる話を『番外編 アキタセイジ』で公開しております。
どの部活にもイヤな先輩ってのはいる。
何が気に入らないのか、後輩に当り散らしたり、ミスを煽ったり。
いくらオレが3年の時だって、そんな事はしなかった。
どちらかと言えば、後輩をかわいがった方だと思う。
名門サッカー部と言えども、部員が120人もいれば、そんな輩もいるというわけだ。
HR終了後、オレ達は帰り支度に落ち着かない同級生に構わず、さっさと制服を脱いで、ジャージに袖を通した。
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ロッカーが足りないし、何より入りきらないからだ。
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その後で、勝ち組だけがロッカーを使えるようになるらしい。
ハハハ。
オレ達はレギュラーの前にロッカーを争奪しなければいけない。
そんなレベル。
雑魚キャラもいいとこだな。
最近、朝練脱落者がポツポツと出ていた。
好きなだけではやれない事ってのはある。
それを自分自身で、将来を見据えて、見極めなければならない。
今がそれで、ゴンゾーさん(監督)は揺さぶりをかけてくる。
面白くない練習メニュー。
基本ばっかの毎日。
ボールにも触れない日もある。
勝ち組への道は遠い。
「おう、行こうぜ」
北村が無造作にオレのケツを叩いた。
声を上げて、飛び上がりそうになる。
なんだって、男ってのは挨拶をケツにする奴が多いんだ?
ヤバイんだよ。
今オレは自信を持って言える。
ケツを刺激されたら・・・絶対勃つ!
完全に勃起はしないだろうけど、反応しないはずが無い。
それは、ここ連日のワタヌキとの行為のせいだ。
さすがに毎日は、フルコースは無理。
そんな場所も時間も無い。
そこで、ワタヌキは学校でオレを時々メールで呼び出す。
なんのためにか?
もちろん、ケツに試すためだ。
場所はまちまちで、武道場の人気の無いトイレだったり、備品室だったり鍵の掛かる生徒会室(ここはメッカらしく予約が必要)だったりした。
一日一回は指で弄くられて、射精させられて、その脱力した瞬間。
目一杯開かされたソコにバックから突っ込まれる。
先端は何とか入る。
だが、痛い。
皮膚が裂けそうで、とても我慢できない。
我慢できないのにワタヌキは少しずつ押し込んできやがる。
「・・・も、もうっムリ・・・イテェ・・ッセンパ・・・イテェ・・ヤメテ」
痛みで瞼が熱くなる。
「ハァーーーーーッムリか・・やっぱ」
ワタヌキの長い吐息。
理性を引き戻すサイン。
痛くて、早く抜いて欲しくて、つま先立ちになる。
それでも抜いてくれないワタヌキを振り返ると、ワタヌキの目元が赤く染まっていた。
あの鋭利な眼光が情欲に焦点を歪ませている。
見つめられているハズなのに、そのまま自分を透かしてもっと遠くを見ているかのような瞳。
こんな顔でワタヌキはイクのかも知れない。
凄絶なオスの艶気。明らかな肉食獣の目。
「・・センパイ・・」
繋がったままでワタヌキの手がオレのケツをやわやわと揉む。
「スゲー・・気持ちイー。マジで、ムリか?ツライ?・・アーーーーー、
オマエの中に出してぇ」
今度はオレが真っ赤になる番。
ギュっとワタヌキがオレを抱きしめた。
ズッ
「イッッッ!!!!」
抱きしめられたせいで、ワタヌキがさっきよりめり込む。
「イタ・・イッ・・・センパ・・イ、ヌイテ・・ムリ・・イテェ・・イテェ!」
「もう少し、もう少しだけ。まだ、半分もいってねーし」
「ムリ!」
オレは大きく首を横に振った。
フーーーーーと、再びワタヌキの溜息。
「じゃ、もう動かさないから、後、5秒だけ中にいさせて」
「5・・秒・・?」
「5秒。5,4,3,2、」
1、の手前で、ワタヌキがオレの腰を強く掴んだ。
「-ッッッ!!!!」
声にならない激痛。ザッと血が下がる音がした。
足がぐらついて、ワタヌキが慌ててオレを引き起こした。
「モリヤ!」
ワタヌキの声が遠く感じて、変に思ったが、そこまでだった。
ブラックアウト!
まぁ、そんな訳で、ワタヌキセンパイは、今日の昼休みに、見事、最挿入記録を樹立したわけだ。
しかし!オレはもう、あのオトコの好き勝手にさせる気は、これっぽっちも無い!!
失神だぜ?失神!
16年の人生で、何回もある事か?
オレはサッカーやってるから、いい肘もらったり、刈られたりして、一瞬意識飛ばした事はあるけど、普通に生きてたら、失神なんてしないだろ。
失神するまでヤるなんて、鬼だ。
イヤ、何となくアイツが鬼だって事はわかってたんだけど、オレにしか見せない笑顔とか格好良さとかに誤魔化されて、忘れてた。
そうだ。初めから、何もかもが強引だった。
アイツは強引の申し子なんだ。
これ以上好き勝手ヤられて堪るか!
オレ達がグラウンドに入ると、先に終わっていたらしい3年が数人遊んでいた。
その中に例の奴がいる。キラワレ者の先輩、泉沢。
さっそく一年に向かって怒鳴りつけている。それを泉沢の仲間がハシャギ立てる。
オレは根性で部活に出るが、腰の深部の痛みが平気な訳じゃない。ゴンゾーさん
(監督)が来るまでは動かないでいようとベンチに座って、ボーっとしていた。
北村達はリフティングやらロナウジ-ニョの真似をしてる。
と、一瞬気づくのが遅れた。目の前に影が差して、ボールが飛んでくる。
ハっとしてオレは、それを勢いよく手で叩き払った。
球が飛んできた方を見て後悔した。泉沢だ。
しまった。キャッチすれば良かった。
球はいい勢いで、飛んできた方向とは違う方へ転がっていく。
泉沢が眉間にシワをよせて凄む。
「テメェ!取って来いよッ」
「・・ハイ」
ワタヌキとはまた違ったサイアクな先輩。
立ち上がる時に体の奥がピリッと痛んだ。
うう、イテェ・・ワタヌキ、殺してやる。
球は広々としたグラウンドを滑らかに、ベンチからかなり離れた処まで転がっていた。
小走りで近づき球を拾おうとした時、体の側をもう一つ球が弾んで転がっていく。
「?」
アレも拾えって言う気か?
と振り返った時だった。
ガンッと衝撃、痺れた痛みが顔を襲う。
反射的に俯いたオレに、ギャハハと笑う声が聞こえた。
「スゲ~~、ナイスヘッド~~」
「うわー、モロだよ。モロ。痛そう~」
「早くボール寄越せよ!」
キレた。
オレだって、伊達にサッカーやってねーよ。足だけならキックボクサー候補なんだぜ?
オレは拾ったボールを遥か向こうのゴールへ蹴り飛ばした。
ボールはゴールポストも超えて学校を取り囲んでいる植木の向こうへ吸い込まれた。
テメェで、取ってきやがれ!
「・・何やってんだテメェ!このバカッ」
金きり声を上げる泉沢にひたと視線を据えて、オレは大股で近づいていった。
遠巻きに見ていた連中の中から北村が飛び出して来た。
「よせって、ヤバイって。」
縋り付いてくる北村を引き摺りながら、オレは、顔を顰めた泉沢に向かって手を伸ばした。
刹那。
オレと泉沢の間をPKでも見ないような剛速球が蹴りこまれる。
「ギャッ」
妙な悲鳴を上げた泉沢が、鼻を押さえて跪いた。真っ赤な鮮血が手の間から滴る。
「あ、当たった?」
「テメェ・・ワタヌキ!」
真っ赤になった鼻から、鼻血を二本だして、泉沢はワタヌキを睨みつけた。
ワタヌキはシカトして前を通りすぎようとする。と、その肩を泉沢の仲間に掴まれる。
「テメェ、謝れよ!」
「あ?」
ワタヌキは小さく振り返り、ソイツを上から見下ろした。
ソイツの顔に後悔の字が浮かんでいる。
その体格差は歴然だった。
たぶんオレより小さいかも知れない。
「じゃ、アンタ、コイツに謝ったのかよ?見ろよ、コイツの唇切れてんじゃねーか!」
ワタヌキはオレの首に腕を回して引き寄せるとグッとオレの顎を持ち上げて、泉沢に見せつけた。
「イッ!」
ギャラリーの前でオレはワタヌキに抱き寄せられて、心臓が跳ねた。
恥ずかしいは、痛いは、ムカつくはで、頭がグルグルしてくる。
「アンタがコイツに謝るってんなら、オレはいつだって謝ってやるよ。アンタにそういう
流儀が通じんならな」
泉沢は、歯噛みして、ワタヌキの冷え冷えとした視線から目を逸らした。
ワタヌキも視線を変えた。
「手、放せよ」
ワタヌキの肩をずっと掴んでいた奴が慌てて、手を引っ込めた。
まるで3年の威厳など無くなっていた。
ワタヌキは高校サッカーのキングなんて呼ばれているけど、部活での上下関係はきちんと
築いていた。先輩は先輩だ。
だが、今、ワタヌキは泉沢との関係に決着をつけた。
これだけのギャラリーの前で下に舐められた先輩にもう威厳は無い。ただの年上。
「おい、大丈夫か?」
「いいから、も、放して・・」
「あ、ワリィ!・・わッ血!!」
脱力して開いた口から、血が零れた。
それをワタヌキが自分のジャージの袖で押さえる。
ああ、血って落ちにくいのに・・。
「保健室連れてってやれば」
ワタヌキの仲間だ。
「おう。後ヨロシク」
「無茶言うな。この後をどうしろっつーんだよ」
「人望上がるぞ」
「テメー最悪だよ。お前のアホ話でも一年に吹き込んでやろー」
「コロス」
ワタヌキが口角を上げて、中指を立てる。
「ハイハイ。行ってらっしゃい」
ワタヌキに肩を抱かれるようにグラウンドを後にしたオレ達の耳に、ドッと笑い声が聞こえてくる。
「あのヤロー、またホラ吹いてんな・・」
さすが、ワタヌキの仲間だ。ワタヌキとひけ取らない性格なんだろう。
昇降口で、ワタヌキの袖が外されて、たぶん腫れているだろう唇を、舌で舐められた。
ジンジンする。
「・・まだ、怒ってる?」
「・・・怒ってる。」
「悪かった。もうムリしない。つーか当分我慢する。」
こんな素直に謝られると・・・オレ・・。
「・・うん」
ワタヌキがオレの髪にキスする。
「・・・今度は、・・・ちゃんと顔に当てろよ」
「あー、アレちょっと回転かかんなかった。焦って蹴ったからな。スゲーお前キレてんだもん」
ゴール前で平然とフェイント掛ける奴が焦るなよ。
オレ達は、保健室に行ったにしては長い時間をトイレで潰した。
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