十中八九、エッチなお兄さんいりませんか?

ジャム

文字の大きさ
上 下
7 / 9

好きになってしまった

しおりを挟む

あの声が聞きたかった。

阿月の低くて語尾の掠れる声で『リツキ』と名前を呼ばれると、胸の奥がじわりと熱くなる。

逞しい腕で身体を拘束され、耳元に、触れるか触れないかの距離に寄せられた唇で、名前を呼ばれる。
耳朶を掠ったのは、吐息か唇か。
それを確かめるべくもなく、阿月の声が鼓膜を奮わせた。

『リツキ、こっち見ろ』

命令と共に、耳の中に入ってきたのは、阿月の濡れた舌だ。
耳朶全体をべろりと舐め上げ、入る筈のない小さな入り口を尖らせた舌先で突かれた。
耳の中を熱い舌で舐められ、ぐちゃぐちゃと自分の耳が食べられているような音に、目眩が起きる。
耳全体を食まれる感覚に、ゾワゾワと背筋が戦慄き、腰から下に力が入らない。

『リツキ』

もう一度、鼓膜に直接、声を注がれ、ビリビリと指先まで奮えながら、阿月の方へ顔を向けた。
すぐ傍に、自分の肩に押し付けるように男の厚い胸板がある。
抱き締めてくる腕は自分のものより太く、腕が動く度、肩全体を覆う三角筋や上腕の筋肉が力を誇示するように盛り上がる。
横たわった体のやや背中側から身体を抱かれ、左足を宙に高く上げさせられた格好で阿月を受け入れていた。
出来るだけ深く繋がろうとする阿月の節ばった大きな手が腰骨を掴み、突き上げと同時に腰を引き付けられ、阿月の灼熱が自分の中へ匠に潜り込んでくる。
ゆっくりと大きく、一突き、一突き、揺さぶられながら、瞼を上げると、目尻に溜まった熱い雫が頬の上を滑り落ちた。
痛みではない。ギリギリまで昂った紙一重の感覚が六気に涙を零させていた。

既に六気の感覚は本人の手から離れ、全ての主導権は阿月へと委ねられている。
どんなにいやらしく、阿月に卑猥に責められても、六気の身体はそれを真っすぐに受け入れた。
求められている。そう感じると、どんな意地悪な行為も本能的に許せてしまう。
この熱を受け入れられる事が幸せだ、とさえ感じてしまうのだ。
そう、今は、普段なら自分が嫌悪するような淫らな行為も、阿月に促されればしてしまいそうだった。
『もっと足上げろ。まだ全部這入ってねえ』
口角をニヤリと引き上げ、意地の悪い笑みを貼付けた阿月の表情に心臓を鷲掴みにされる。
突き上げられる度にゆらゆらと宙を蹴る左足に手を伸ばす。
まるで自分のものではないように大きく揺れ動く足を捕まえ、膝裏に腕を入れて引き上げた。
剥き出しになる尻の狭間に、阿月が更に腰を進めてくる。
グ、グ、と押し入ってくる肉の塊に身体を拓かれ、六気は悲鳴を上げた。
「・・死ん、じゃう・・っ」
阿月の大きさに、生理的な圧迫感から目に涙が滲んだ。
190cm近い長身の阿月の体躯から想像し得る大きさの性器は、興奮状態では想像の更に上をいっていた。
六気は、こんなに大きなモノで、深く、激しく、中を突き上げられた経験などない。
なのに、一度飲み込まされてしまうと、不思議と苦痛はない。
体内への圧迫感はあるが『阿月に貫かれている』という事実が、痛み以上に快感を芽生えさせていた。

まるで、女みたいだ。
自分の中を自在に抜き差しする阿月を肉襞で締め上げ、六気は自嘲気味に口元を歪めた。
本当は濡れもしない場所をぐちゃぐちゃに濡らし、這入る筈のない男根を、自ら足を上げて、それが根元まで深く這入るように手伝う。
阿月はそこへ何度も何度も腰を打ち付けて来た。
「あ、あ、ア・・!ッあ、つき・・ダメ・・壊れ、ちゃう・・っ」
突き上げられる度、開けっ放しの唇から嬌声が垂れ流される。
『こんだけ、気持ち良さそうに吸付いてくるくせに・・どこが壊れそうなんだ?』
さも楽しそうな顔で笑いながら顔を近づけると、自分が言い返す前に唇を塞がれた。
ねっとりと厚みのある舌で口の中を犯される。
自分の口の中でさえ自由に出来ない。
傲慢で自信家で、話さずとも饒舌に、中からも外からも自分を攻め立ててくる。
「もっと・・呼んで」
唇が離れる間際に強請る。
『リツキ』
鼓膜が直に揺さぶられる。
しっかりと目に焼き付けたいのに、自信家の顔が涙でぼやけてしまう。
『リツキ。・・なあ、お前を泣かす、なんてのは、オレだけの特権だな・・?』
満足そうな顔だった。

こういう顔を、六気と抱き合った大概の男がして見せた。
警官である自分を、自分よりも強者の立場である六気を捩じ伏せる事で、自分の方が上だと喜ぶ顔。そんな、男特有の自尊心を満たすような表情を、今まで、六気は何度も見て来た。
自分の中の何が彼らの被虐性を煽るのかは、わからない。
けれど、どうしてか、いつも、傷を負う程の性行為を強いられ、最後は、六気の身体も精神もズタズタにされるハメに陥る。
ダメだと思う。
こんなセックスはダメなんだ。
なのに、身体は昂る。
自分ではどうしようも出来ない出口を求めて、喘ぐのだ。
その救いを求めて、六気は阿月に手を伸ばす。
『リツキ』
自分を見下ろす熱い目に、腹の底が灼ける。
阿月の腕に、肩に、首に、縋り付いて、助けを求めたくなる。
「阿月・・お願い・・っ」
震える声で啼くと、阿月の腕に身体を強く抱き締められた。
『バカ・・イキそうんなっただろが・・っもっと、抱かせろよ・・めったに会えねえんだぞ・・』
そう言って、腕も足も絡ませ合い、唇を隙間無く重ねた。




タクシーが一瞬強くブレーキを掛け、身体がガクリと前のめりになる。
軋むようなサイドブレーキの音に耳がざわりとした。
いつの間にか眠りに落ち、阿月との事を夢に見ていた。
なんだか気恥ずかしい気分で、目が覚めると、タクシーは目的地に到着していた。
誉田と店で別れた後、阿月にメールをしてみると、今日は夜勤明けで、さっき目が覚めたという。
その阿月からの返信は『会いたい』だった。


レンガ色のワンルームマンションの2階に阿月は部屋を借りている。
独身者向けで、ワンフロアの部屋数も少なく、防音もまずまず。
夜勤のある職種としては、朝でも昼でも寝られる静かな環境と、きちんと防火条例をクリアしているマンションの設計が気に入った。
しかも、2階だ。
大概、なにかしらの災害が起こっても逃げられる高さ。
こう言うと、自分の命さえ助かればいい、という考えを持っていると思われ勝ちだが、自分達は助ける側である前提に、まず自分が五体満足でなければいけない。
誰かを救うためには、心身共に丈夫な肉体が必要なのだ。
たくさんの人を救助するためには、その技術を叩き込んだ体を守る事。
それが、職務を全うするには、まず自分に課せられた最優先事項となる。



夜の9時を少し回った頃、玄関のチャイムが鳴らされ、六気がここへ到着した事を報せた。

ドアの中へ招き入れた六気の顔色は、やや青褪めている。
それもそうだろう。
六気はついさっきまで自分とは他の男と会っていて、それも、その相手は阿月の事を探ってきたというのだ。
「で、誰?そいつ」
「上司・・」
「上司って・・パワハラ?セクハラ?に、なんのか?」
12畳ぶっ通しの1LDKには、ソファーも無ければ、カーペットも敷かれていない。
部屋の3分の1を締めるセミダブルのベッドと、キッチンの横に、高さを自由に変えられる折りたたみのテーブルと、椅子が2脚あるのみ。
そのテーブルに、阿月はコーヒーを出し、向かい合って六気と座っているが、恐縮しきっている六気は、それには手を付けず、俯いてしまっている。
場を癒す役割を果たせないコーヒーは、二人の間で頼り無気な湯気を立たせているだけ。
「黙るな」
「はい・・」
「なんか酒くせえし」
その一言に、更に六気は顔を俯けた。
背もたれに背中を預け、やや仰け反るように六気を見下ろす阿月に、六気は完全に墓穴を掘ってしまった。
「で、そいつがオレに何かした・・って?」
「だって・・心配で・・」
「まあ、何もねえよ。まだ。で、その上司は、今もリツキの事が好きな訳だよな?」
「・・かも知れない」
「それ・・知ってて、会ってたんだよな?」
「上司だから、断れなかったんだ」
「上司ねえ・・」
まあ、しょうがねえか。
阿月の呟きに、六気は胸を撫で下ろす。
が、
「それって、昔の男か?」
鋭いツッコミに、六気の体が不自然に縮こまる。
「チガウっ付き合ってない・・!昔の男じゃないっ」
ブンブンと顔を横に振る六気の姿を、阿月はテーブルに頬杖を突いて眺めた。
「そいつに・・どこも触られてないか?」
「触られてない」
きっぱりと答える六気に、阿月は手を伸ばす。
六気の前髪を掬い上げ、そのまま後ろへ指を通して頭を撫でた。
その優しい仕草に六気の胸が熱くなる。
何度か髪を梳かれ、阿月の指がこめかみへ降りる。
目元をくすぐられて、視線を阿月へ向けた。
少し閉じた瞼の中からジッとこちらを見つめる阿月の茶色の明るい瞳。
注がれる視線が、熱い。

この瞳と、阿月の声にやられたんだ。
そう思うと恥ずかしくなって、つい視線を逸らしてしまった。

好きになってしまった。

自分は、この男を、好きになってしまったのだ。

「確かめていいか?」
唐突な質問に、なにを?と顔を上げると、阿月が席を立ち上がる。
テーブルを回り、六気の前へ来ると、六気の肘を取って、椅子から立ち上がらせた。
胸の中に突然抱き締められ、顔が熱くなる。
「阿月・・」
自分からも腕を伸ばし、その背中を抱き締めようとした途端、体が強ばった。
「阿月・・!何する・・!?」
「確かめさせろ。本当に触られてないか」
阿月の手が無理やりチノパンの中へ入ってきて、直に尻の狭間を弄ってくる。
「やだ・・やめっ」
「・・暴れんな・・っ」
そう言われて、大人しく出来る性質でもない。
こんな事を易々と受け入れて堪るかと、阿月の腕の中で暴れ、つま先立ちになって阿月の指の侵入から逃れる。
が、抵抗すればする程、阿月の力も強くなる。
「触られてないって言ってるのに・・!」
阿月が自分の言葉を信じてくれない事に、六気は悲嘆した。
が、六気に抵抗された阿月の憤りは、それ以上だ。
無理やり、下肢を剥ぐと、尻だけを丸出しにされた格好の六気の中へ指を突っ込んだ。
「イッ・・!痛、い・・痛い・・阿月・・」
つま先立ちで、痛みを堪え、阿月の胸に縋り付く。
その中を強引に進む阿月の指が根元まで埋まり、襞を掻き混ぜてくる。
「狭いな・・」
「だから・・っ言ってんのに・・!」
「そうだよな・・お前って、そういう事しそうにないよな・・。ただ、オレと出会った時が・・アレだっただけ・・なんだよな・・?」
「アレ・・って?」
「あー・・なんか、強引にいけば、ヤラせてくれる・・みたいな・・雰囲気?」
「はあ!?オレが・・!?」
「だって、そうだったろ?でも、普通、本気でお前が嫌がったら、たぶん、挿入なんかさせねえだろ?」
そう目の前の男と顔を合わせて言われて、六気は真っ赤になる。
「誰にでも、あんな事させてる訳じゃねえんだろ?」
アレは、オレだったからって思っていいよな?
そう照れたような顔で確認され、六気は思わず阿月の指を締め付けていた。
「中、すっげえ熱いな・・なあ、オレが欲しいか?」
頬を擦り寄せられ、掠れて熱の籠った低い声を、耳の中に吹き込まれる。
「オレが、好きか?」
その台詞に、ビクリと、体が竦んだ。
素直にそれを認めるには、自分は酷い経験を幾つもしてきた。
好きだと告げる事で、相手に酷く扱われた事もたくさんあった。
恋愛というものが、何なのかわからなくなった事もあった。

それでも、信じたい。

自分が好きになった相手の事をーー阿月を。

けれど、しっかりと声に出せる程、六気に勇気は無かった。
ゆっくり、小さく頷いた六気の頭。
それを、認めた阿月がギュッと胸に抱き締める。
「リツキ、オレも、好きだ。お前が、好きだ。こんなに、好きになっちまった」
それが、六気の中の全てを許す免罪符のように、強ばりを溶かす。
「・・阿月・・っ」
お互いの身体を抱き締め合い、阿月は、深く、やさしく六気に口付けた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

僕の穴があるから入りましょう!!

ミクリ21
BL
穴があったら入りたいって言葉から始まる。

目の前に色男が!早速ケツを狙ったら蹴られました。イイ……♡

ミクリ21
BL
色男に迫ったら蹴られた話。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

自称チンタクロースという変態

ミクリ21
BL
チンタク……? サンタクじゃなくて……チンタク……? 変態に注意!

処理中です...