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旅立ち
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旅立ち
ヴァードが目を覚ますと
商会の秘密地下室にいた
全身に包帯が巻かれていて
寝台に寝かされていた
体を動かすたびに筋肉が悲鳴を上げる
ヴァードは歯を食いしばって上半身を起こした
「誰かいるか!」
「おおおおお!!いるよいるよ!
やっとお目覚めかいヴァード!」
フォルスとベネディクトが寝室にやってきた
二人とも安堵の表情を浮かべている
フォルスは相変わらず金細工を
これ見よがしに身につけている
ベネディクトは目尻に刻まれた皺を
さらに深くして微笑んだ
「ヴァード様!よくぞご無事で
もう三日も眠っておられたのですよ」
「ピートとかいう兵士が
君を連れ出してくれたんだ
それで急いで地下室の部屋に
匿ったというわけ
まさか魔王みずからが現れたとはね
そしてそれを退けたなんて仰天したよ
ヴァード、君はすごすぎる!」
「ピート、あいつが……そうか」
「いやー大変だったよ、後始末もそうだけど
君がおねむの間、世界の状況が急変したんだ
まず、世界中から魔物たちがいなくなった
ほんとうに忽然と消えたんだ
たぶん魔王を撃退したことと関係があるのだろうけど……
それと引き換えに、
未確認なんだが鎧を着た怪物が
一匹あらわれたという情報が入った
でも、まあ一応、
人類は自由と平和を取り戻したと言ってもいいだろう」
「レフィリアたちはどうした……ミリアは」
「安心してくれレフィリアたちは無事だ
念のために避難させた
それと……ミリア君は行方がわからない
あの戦いのあと部下たちに
宮殿を捜索させたんだけど
姿は見えなかったそうだ」
「そうか……
ん?なんで避難する必要があるんだ」
「それだよ、その事についてまさに君に伝えたかった!
この国はいま全面一歩手前になってる!
隣国である水の国の高官と交渉中だ
詳しいことは僕もまだ知らされていないないんだが
緑の国が魔王と組んで世界征服を企んでいるのではないか
ということらしい
言いがかりにもほどがあるけど……
決裂したら一貫の終わりだ、今この国に戦争をする余力はない」
「自由と平和を手にした途端にこれか」
「皮肉だけど、魔王軍の魔物たちの存在によって
平和が保たれていたと言えなくもないんだ
国同士の衝突は避けられていたからね
その箍が一気に外れてしまった
ぼくたち人間は他人を信頼できるほど、まだ強くない」
「交渉は誰が?」
「そのことだけど、ヴァード
君にお願いするしかない」
「……なんで俺に」
「殿下直々に、
ヴァード様がお目覚め次第
離宮にお連れするように
仰せ使っておるのです」
「いま離宮で次期国王である
アラメンド殿下が
必死に時間稼ぎをしている
国王に軟禁されておられたのを
われわれが救出したんだ」
「ご指名か、理由はわからんが……
まあいいだろう」
「たぶん魔王を退けた君を
見込んでのことだろう
交渉は力の後ろ盾があって
初めて有効に機能する
君はその役目にふさわしい」
ベネディクトが呪文を唱えると
地上への出口が現れた
ヴァードは痛みをおして立ち上がり
階段を登った
地上では豪奢な作りの馬車が
待ち構えていた
「国の一大事をおさめていただくというのに
いつまでも荷馬車は失礼ですからな」
「いや……こっちの荷馬車でいい
俺はその方が楽だ」
「おや……すっかりお気に入りですか?」
「ふふ……そうだな」
ヴァードは微笑すると
激痛の走る体を押して
戦斧を持って荷台の上に乗った
「では離宮へ向かいます」
「ヴァードすまない
何から何まで
押し付けてしまって」
フォルスが珍しく真顔で言った
「こんな時にかしこまるなよ
明るくやってくれ」
「はっはっは!そうだねえ!
いけないいけない」
馬車はゆっくりと進み始めた
距離をおいてもわかるほどの満面の笑みで
フォルスは馬車を見送っていた
森を抜け一時間ほどで離宮の城門前についた
「私が部屋までお供しましょう」
「いや、ベネディクト、あんたは戻れ……
王都の守りについたほうがいいだろう」
「しかし……」
「……もう二度と会うことはないだろう
レフィリアたちによろしく言っておいてくれ」
「確かに、承りました……」
ベネディクトは深々と頭を下げてヴァードを見送った
ヴァードが離宮に入ると兵士たちに
謁見室の前に通された
「殿下の御前である、失礼のないように」
ヴァードが扉を開けるが早いか
男が駆け寄ってきた
「おお!待っておったぞ!ヴァード!
よくぞ売国奴を打ち倒してくれた
次期国王として礼を言おう」
年の頃は二十五くらい
まだ若いが王族らしい威厳が
感じられる顔立ちであった
仕立ての良い着物を着
威厳を示すさまざまな
宝飾を身に纏っている
夜通し会議をしていたらしく
目の下に濃い隈ができていた
「アラメンド殿下か
俺としては言葉より
金の方が嬉しいんだが……
俺をこき使い過ぎだ
高くつくぞ」
「わかっている
責任をもってそなたに代価を支払おう
が、その前に手伝って
もらわねばならんことがある」
「……交渉というのは」
「隣国である水の国の連中が
難癖をつけてきたのだ
魔物がいなくなり、
交通の自由が復活したのをいいことにな
魔王軍と組んでいる、というのも
おそらく口実に過ぎぬ
我が国の財産を狙っているだけだろうが
相手の高官がなかなか手強くてな
そなたの助けが欲しかったのだ
ふふふ……手段は問わぬよ、そなたなりのやり方でよい
私はそなたを信じる」
「わかった殿下
報酬は弾んでもらうぞ」
「いいだろう」
「その言葉しっかりと覚えておく」
「私はこの部屋で待っている
結果が出たら教えてくれ」
ヴァードは戦斧を背負い
くびすを返して高官のいる会議室へと向かった
扉の前に着くとヴァードは背負った戦斧を振るい
会議室の扉を粉々に破壊した
ひい!と甲高い悲鳴が聞こえた
軍服を着た中年の高官が腰を抜かしていた
「ひぃっ!ヴァ、ヴァード・アッパード……!
貴様の悪名は我が水の国にも届いておるぞ!」
「ちょうど良い
自己紹介の手間が省けた
殿下に代わって
この国の潔白を表明しにきた
戦意はないし侵略の意図もない
魔王軍との結託も出鱈目
早々に引き下がられよ」
「うるさいっ!
すでに軍勢がこちらに向かっておる
もう三日もすればこの国も火の海になる!
優勢なのはこちらなのだ、
あんな怪物にま、負けはせぬぞ!」
高官は顔を真っ赤にして怒鳴った
「赤き鎧を纏った怪物が我々の野営地を攻撃したのだ!
幸いに死者は出なかったものの!大勢の負傷者が出た!
そして、そいつがお前の名前を何度も叫んでおったのだ!
何度もな!結託を疑うなという方が無理であろう!」
「何の話だそれは!?言いがかりもよせ」
「とぼけるなよ!
我が兵士たちの証言がいくらでもあるぞ!
疑うのなら聞いて回ってみるか!?」
高官は眉を吊り上げてヴァードを睨んだ
声は真に迫っていた
嘘をついている様子は見受けられない
想定外の話にヴァードは面食らった
その時、外から、歌うような美しい音が聞こえてきた
距離が近づくにつれてだんだんと
歌声が空気を切り裂く金切り声に変じていくのがわかった
「伏せろ!!」
風の刃が轟音とともに壁に次々と穴を開けて
部屋中に突き刺さってきた
家具や什器を打ち壊していく
ヴァードは高官に覆いかぶさり身を守った
一際大きな突風が来ると壁が木端微塵に砕かれ
部屋から外の風景が丸見えになった
攻撃が止み、ヴァードが目を凝らすと
そこに人とも怪物ともつかぬ
禍々しい魔神が立っていた
真紅の鎧を身に纏い恐ろしい形相の仮面をつけている
長い金色の髪は足元にまで届くほど長い
魔神はヴァードを睨んできた
「オオオオオ!!」
「ひいいいえええええ!!こっこいつだあああああ!!」
高官は尻餅をついて震え上がった
「なに!」
「グウウウウゥゥ!!ヴァードオオオ……」
「……まさか!」
「グ……ヴァード……サ……」
魔神の動きにすこしの迷いが見えた
「……そうか!!」
ヴァードは爪先で
魔神の首筋を蹴り飛ばした
「グウ!!……オオオオオァァァ……」
大きな音を立てて魔神は倒れた
真紅の鎧が塵になって消えていく
中にいたのはミリアであった
「こんなことが……」
その時ヴァードは
咄嗟に交渉の目的を思い出した
「はっはっはっは!俺の強さを見たか!!
お前たちの軍勢が手も足も出なかった怪物を!
俺は今倒した!
この国には俺と同じくらい強いやつがいくらでもいるぞ!
お前らごときが勝てるとでも思っているのか!
さっさと消えろ!軍勢も撤退させろ!」
ヴァードは高官に向かって
戦斧を振り回しながら叫んだ
「わっわかった……わかったから!
撤退させる!帰るから!振り回さないでぇ!……
うううう……」
高官は慌てた様子で部屋を出ていってしまった
ヴァードは倒れているミリアを抱きかかえた
アラメンドが部屋には入ってきた
「殿下、和平成立だぞ」
「よくやってくれた……
当分、水の国が我が国に
攻め入ることはないだろう
早急に国の立て直しをせねばならん」
「あんたも人が悪い
なんで言ってくれなかったんだ
赤い鎧の襲撃の件を」
「すまんな
そなたとその襲撃事件に
本当に繋がりがないかどうか
私も図りかねていたのだ
確証がほしかったので
嘘をついた」
「何がそなたを信じる、だ」
「はっはっは、いいじゃないか
交渉は成功したんだから」
「あれを交渉と呼んでいいのか
どうかわからんが」
アラメンドの笑い声が癪に障ったが
ヴァードは我慢することにした
「ん……」
ミリアが目を覚ました
「ミリア!」
「ヴァードさん……ぼく……は
多くの人を……傷つけて……」
ミリアは泣きながら声を絞り出していた
「お前のせいじゃない、なにも言うな」
「魔王は
ぼくを中で……まだ生きています
ぼくを殺してくだ……」
「俺の故郷に来い」
「え、ヴァードさんの……」
「寺院の僧侶連中が魂の秘術を研究していた
精霊術とは別の力だ
ディスティスを本当に倒す方法が
見つかるかもしれん
やれることはある、あきらめるな」
「……はい」
「話は聞かせてもらった
魔王がまだ生きているというのなら
私もやれることはやらねばなるまい
その話、こちらも協力させてもらおう
そなたは国の恩人だ
資金や物資はこちらで持つ
通行の便宜も図っておこう」
「待て」
「なんだ」
「その必要経費とは
別に金貨一万枚だ
これは譲れん」
「はっはっは
こりゃ食えないな
いいだろう」
旅の準備はすぐに進められた
提供された食糧と物資と金貨とを
荷馬車に詰め込むと
ヴァードは御者台に乗り、
手綱を握りしめ馬を打った
嘶(いなな)きと共に馬車は走り始めた
荷台の上でミリアは言った
「あ……みんなに何も言えなかったな」
「生きていればまた会う」
「……ええ」
ヴァードが目を覚ますと
商会の秘密地下室にいた
全身に包帯が巻かれていて
寝台に寝かされていた
体を動かすたびに筋肉が悲鳴を上げる
ヴァードは歯を食いしばって上半身を起こした
「誰かいるか!」
「おおおおお!!いるよいるよ!
やっとお目覚めかいヴァード!」
フォルスとベネディクトが寝室にやってきた
二人とも安堵の表情を浮かべている
フォルスは相変わらず金細工を
これ見よがしに身につけている
ベネディクトは目尻に刻まれた皺を
さらに深くして微笑んだ
「ヴァード様!よくぞご無事で
もう三日も眠っておられたのですよ」
「ピートとかいう兵士が
君を連れ出してくれたんだ
それで急いで地下室の部屋に
匿ったというわけ
まさか魔王みずからが現れたとはね
そしてそれを退けたなんて仰天したよ
ヴァード、君はすごすぎる!」
「ピート、あいつが……そうか」
「いやー大変だったよ、後始末もそうだけど
君がおねむの間、世界の状況が急変したんだ
まず、世界中から魔物たちがいなくなった
ほんとうに忽然と消えたんだ
たぶん魔王を撃退したことと関係があるのだろうけど……
それと引き換えに、
未確認なんだが鎧を着た怪物が
一匹あらわれたという情報が入った
でも、まあ一応、
人類は自由と平和を取り戻したと言ってもいいだろう」
「レフィリアたちはどうした……ミリアは」
「安心してくれレフィリアたちは無事だ
念のために避難させた
それと……ミリア君は行方がわからない
あの戦いのあと部下たちに
宮殿を捜索させたんだけど
姿は見えなかったそうだ」
「そうか……
ん?なんで避難する必要があるんだ」
「それだよ、その事についてまさに君に伝えたかった!
この国はいま全面一歩手前になってる!
隣国である水の国の高官と交渉中だ
詳しいことは僕もまだ知らされていないないんだが
緑の国が魔王と組んで世界征服を企んでいるのではないか
ということらしい
言いがかりにもほどがあるけど……
決裂したら一貫の終わりだ、今この国に戦争をする余力はない」
「自由と平和を手にした途端にこれか」
「皮肉だけど、魔王軍の魔物たちの存在によって
平和が保たれていたと言えなくもないんだ
国同士の衝突は避けられていたからね
その箍が一気に外れてしまった
ぼくたち人間は他人を信頼できるほど、まだ強くない」
「交渉は誰が?」
「そのことだけど、ヴァード
君にお願いするしかない」
「……なんで俺に」
「殿下直々に、
ヴァード様がお目覚め次第
離宮にお連れするように
仰せ使っておるのです」
「いま離宮で次期国王である
アラメンド殿下が
必死に時間稼ぎをしている
国王に軟禁されておられたのを
われわれが救出したんだ」
「ご指名か、理由はわからんが……
まあいいだろう」
「たぶん魔王を退けた君を
見込んでのことだろう
交渉は力の後ろ盾があって
初めて有効に機能する
君はその役目にふさわしい」
ベネディクトが呪文を唱えると
地上への出口が現れた
ヴァードは痛みをおして立ち上がり
階段を登った
地上では豪奢な作りの馬車が
待ち構えていた
「国の一大事をおさめていただくというのに
いつまでも荷馬車は失礼ですからな」
「いや……こっちの荷馬車でいい
俺はその方が楽だ」
「おや……すっかりお気に入りですか?」
「ふふ……そうだな」
ヴァードは微笑すると
激痛の走る体を押して
戦斧を持って荷台の上に乗った
「では離宮へ向かいます」
「ヴァードすまない
何から何まで
押し付けてしまって」
フォルスが珍しく真顔で言った
「こんな時にかしこまるなよ
明るくやってくれ」
「はっはっは!そうだねえ!
いけないいけない」
馬車はゆっくりと進み始めた
距離をおいてもわかるほどの満面の笑みで
フォルスは馬車を見送っていた
森を抜け一時間ほどで離宮の城門前についた
「私が部屋までお供しましょう」
「いや、ベネディクト、あんたは戻れ……
王都の守りについたほうがいいだろう」
「しかし……」
「……もう二度と会うことはないだろう
レフィリアたちによろしく言っておいてくれ」
「確かに、承りました……」
ベネディクトは深々と頭を下げてヴァードを見送った
ヴァードが離宮に入ると兵士たちに
謁見室の前に通された
「殿下の御前である、失礼のないように」
ヴァードが扉を開けるが早いか
男が駆け寄ってきた
「おお!待っておったぞ!ヴァード!
よくぞ売国奴を打ち倒してくれた
次期国王として礼を言おう」
年の頃は二十五くらい
まだ若いが王族らしい威厳が
感じられる顔立ちであった
仕立ての良い着物を着
威厳を示すさまざまな
宝飾を身に纏っている
夜通し会議をしていたらしく
目の下に濃い隈ができていた
「アラメンド殿下か
俺としては言葉より
金の方が嬉しいんだが……
俺をこき使い過ぎだ
高くつくぞ」
「わかっている
責任をもってそなたに代価を支払おう
が、その前に手伝って
もらわねばならんことがある」
「……交渉というのは」
「隣国である水の国の連中が
難癖をつけてきたのだ
魔物がいなくなり、
交通の自由が復活したのをいいことにな
魔王軍と組んでいる、というのも
おそらく口実に過ぎぬ
我が国の財産を狙っているだけだろうが
相手の高官がなかなか手強くてな
そなたの助けが欲しかったのだ
ふふふ……手段は問わぬよ、そなたなりのやり方でよい
私はそなたを信じる」
「わかった殿下
報酬は弾んでもらうぞ」
「いいだろう」
「その言葉しっかりと覚えておく」
「私はこの部屋で待っている
結果が出たら教えてくれ」
ヴァードは戦斧を背負い
くびすを返して高官のいる会議室へと向かった
扉の前に着くとヴァードは背負った戦斧を振るい
会議室の扉を粉々に破壊した
ひい!と甲高い悲鳴が聞こえた
軍服を着た中年の高官が腰を抜かしていた
「ひぃっ!ヴァ、ヴァード・アッパード……!
貴様の悪名は我が水の国にも届いておるぞ!」
「ちょうど良い
自己紹介の手間が省けた
殿下に代わって
この国の潔白を表明しにきた
戦意はないし侵略の意図もない
魔王軍との結託も出鱈目
早々に引き下がられよ」
「うるさいっ!
すでに軍勢がこちらに向かっておる
もう三日もすればこの国も火の海になる!
優勢なのはこちらなのだ、
あんな怪物にま、負けはせぬぞ!」
高官は顔を真っ赤にして怒鳴った
「赤き鎧を纏った怪物が我々の野営地を攻撃したのだ!
幸いに死者は出なかったものの!大勢の負傷者が出た!
そして、そいつがお前の名前を何度も叫んでおったのだ!
何度もな!結託を疑うなという方が無理であろう!」
「何の話だそれは!?言いがかりもよせ」
「とぼけるなよ!
我が兵士たちの証言がいくらでもあるぞ!
疑うのなら聞いて回ってみるか!?」
高官は眉を吊り上げてヴァードを睨んだ
声は真に迫っていた
嘘をついている様子は見受けられない
想定外の話にヴァードは面食らった
その時、外から、歌うような美しい音が聞こえてきた
距離が近づくにつれてだんだんと
歌声が空気を切り裂く金切り声に変じていくのがわかった
「伏せろ!!」
風の刃が轟音とともに壁に次々と穴を開けて
部屋中に突き刺さってきた
家具や什器を打ち壊していく
ヴァードは高官に覆いかぶさり身を守った
一際大きな突風が来ると壁が木端微塵に砕かれ
部屋から外の風景が丸見えになった
攻撃が止み、ヴァードが目を凝らすと
そこに人とも怪物ともつかぬ
禍々しい魔神が立っていた
真紅の鎧を身に纏い恐ろしい形相の仮面をつけている
長い金色の髪は足元にまで届くほど長い
魔神はヴァードを睨んできた
「オオオオオ!!」
「ひいいいえええええ!!こっこいつだあああああ!!」
高官は尻餅をついて震え上がった
「なに!」
「グウウウウゥゥ!!ヴァードオオオ……」
「……まさか!」
「グ……ヴァード……サ……」
魔神の動きにすこしの迷いが見えた
「……そうか!!」
ヴァードは爪先で
魔神の首筋を蹴り飛ばした
「グウ!!……オオオオオァァァ……」
大きな音を立てて魔神は倒れた
真紅の鎧が塵になって消えていく
中にいたのはミリアであった
「こんなことが……」
その時ヴァードは
咄嗟に交渉の目的を思い出した
「はっはっはっは!俺の強さを見たか!!
お前たちの軍勢が手も足も出なかった怪物を!
俺は今倒した!
この国には俺と同じくらい強いやつがいくらでもいるぞ!
お前らごときが勝てるとでも思っているのか!
さっさと消えろ!軍勢も撤退させろ!」
ヴァードは高官に向かって
戦斧を振り回しながら叫んだ
「わっわかった……わかったから!
撤退させる!帰るから!振り回さないでぇ!……
うううう……」
高官は慌てた様子で部屋を出ていってしまった
ヴァードは倒れているミリアを抱きかかえた
アラメンドが部屋には入ってきた
「殿下、和平成立だぞ」
「よくやってくれた……
当分、水の国が我が国に
攻め入ることはないだろう
早急に国の立て直しをせねばならん」
「あんたも人が悪い
なんで言ってくれなかったんだ
赤い鎧の襲撃の件を」
「すまんな
そなたとその襲撃事件に
本当に繋がりがないかどうか
私も図りかねていたのだ
確証がほしかったので
嘘をついた」
「何がそなたを信じる、だ」
「はっはっは、いいじゃないか
交渉は成功したんだから」
「あれを交渉と呼んでいいのか
どうかわからんが」
アラメンドの笑い声が癪に障ったが
ヴァードは我慢することにした
「ん……」
ミリアが目を覚ました
「ミリア!」
「ヴァードさん……ぼく……は
多くの人を……傷つけて……」
ミリアは泣きながら声を絞り出していた
「お前のせいじゃない、なにも言うな」
「魔王は
ぼくを中で……まだ生きています
ぼくを殺してくだ……」
「俺の故郷に来い」
「え、ヴァードさんの……」
「寺院の僧侶連中が魂の秘術を研究していた
精霊術とは別の力だ
ディスティスを本当に倒す方法が
見つかるかもしれん
やれることはある、あきらめるな」
「……はい」
「話は聞かせてもらった
魔王がまだ生きているというのなら
私もやれることはやらねばなるまい
その話、こちらも協力させてもらおう
そなたは国の恩人だ
資金や物資はこちらで持つ
通行の便宜も図っておこう」
「待て」
「なんだ」
「その必要経費とは
別に金貨一万枚だ
これは譲れん」
「はっはっは
こりゃ食えないな
いいだろう」
旅の準備はすぐに進められた
提供された食糧と物資と金貨とを
荷馬車に詰め込むと
ヴァードは御者台に乗り、
手綱を握りしめ馬を打った
嘶(いなな)きと共に馬車は走り始めた
荷台の上でミリアは言った
「あ……みんなに何も言えなかったな」
「生きていればまた会う」
「……ええ」
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