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34 人身御供
しおりを挟む何も見えない常闇の通路を手探りで進み、白く輝く部屋に出たアスカ。
しかしそこで告げられた表と裏とは。
はたして、アスカの正体は、見抜かれているのであろうか。
かまくらの中に座る族長が、アスカの核心に迫る。
「万が一、アスカにも表と裏があるとしたら?」
アスカは胸に手を当て、目を大きく見開いた。
(俺の裏の顔、イセカイザーの事か!?)
「アスカ。私たちの真実を話しましょう」
(交換条件か!?それを聞いたら、俺の正体を言わないといけなくなるのか?やめてくれ!聞きたく無い!)
「ん~!ん~!」
アスカは必死に首を振った。
「族長様!それはいけません!」
右隣で剣を持つリューリューが、族長を見た。
「まずは男が先です!」
左隣で剣を構えるシューシューが、かまくらの右に座るトゥートゥーを見た。
「致し方ない」
トゥートゥーは、人差し指と中指を揃えてアスカに向けた。それを左から右へと移動させると、アスカの口を覆っていた砂が、左へサラサラと流れて行った。
「ハァハァ。苦しかった」
「お前の表と裏を話せ!」
かまくらの左に座るルゥールゥーが、足元の砂を掴みながら言った。
「待ってくれ!俺には何の事だか、さっぱり分からない。表と裏って何なんだ!」
(言えない!言えるはずがない!)
ルゥールゥーは握った手の平を広げた。そこに乗っていた砂がサラサラと浮き上がり集まると、砂の矢に姿を変えた。
「聞かれた事に端的に答えよ」
(あれはやばい!が言えない)
「わ、分からない!」
「サンドアロー」
次の瞬間、砂の矢がアスカに向かって飛んだ。
(くっ!)
そして目の前で破裂した。
「ゴホゴホッ。消えた!」
「殺してはいけません」
「族長様!何故止められるのですか!」
ルゥールゥーが族長に振り向いた。
族長はトゥートゥーのように、2本の指を立てアスカに向けていた。そして口を開く。
「アスカ、質問を変えましょう。アスカの正体を明かしてください」
左右に立つ2人が剣を上段に構えた。
(明かせない!だがこれを断れば次はない)
「分かった……俺は……異世界から来た」
「「何!」」
リューリューとシューシューが、剣を落とした。
「「馬鹿な!」」
トゥートゥーとルゥールゥーは、立ち上がった。
(良かった!死なない!名前と一緒だ!となると、イセカイザーだとバレなければいいのか)
異世界人である事を明かすのは、アスカにとって賭であった。
「そうですか。やはり表と裏があったのですね」
そう言うと、族長はおもむろに砂の仮面を外した。
「そ、その顔は!ディーディー!お前が族長だったのか!」
砂仮面の下の顔は、ここまで案内してくれた、ディーディーそのものであった。
「いいえ違います。私は姉のシィーシィー。でも、違いません。ディーディーも族長ですから」
「なっ……」
「この集落には族長が2人います。私が表、ディーディーが裏。素性の知れないアッシュを監視するには、打って付けの人物でしょ」
シィーシィーは、ディーディーには無い笑顔で微笑んだ。
「信用してはいけません!」
「異世界人だという証拠はあるのか!」
トゥートゥーとルゥールゥーが、しゃがみ込み砂を握った。
「証拠は無い」
「ならば」
2人は立ち上がり握った手を開くと、砂の矢を作った。
「証拠などいりません」
それでも族長はアスカを庇い続ける。
「しかし!」
「座りなさい」
「「!!」」
トゥートゥーとルゥールゥー、そしてリューリューとシューシューはその場に片膝を付いた。
「アスカ、彼女たちを許してください。私たちには時間が無いのです」
「時間がない?」
「私たち砂の民は、必ず双子が生まれます。どうやって産まれるのか。どうして双子なのか。全てをお話しします」
片膝を付いた4人は、怒りに顔を歪めるが口を挟む事はしなかった。
「私たちは、お母様の涙から産まれます」
「え?な、涙?何の話?」
唐突過ぎて、アスカには理解出来ない。
「正しくは、お母様が流す涙が世界樹を伝い、世界樹から産まれるのです」
アスカは聞き返す事さえ出来ないほど、混乱していた。
「そして、お母様方を守るのが私たちの使命です」
「……」
「アスカもきっと見たのではないですか?オアシスに佇む大きな木を。それが世界樹です」
「あの蜃気楼がそうなのか!実在するんだな!」
「……はい。しかし、水に弱い世界樹が、まだ無事なのかは分かりません。それを確認に行くことも出来ません。私たちも水に弱いので、雨が降り続く地上に出る事が出来ないのです」
(水に濡れると砂に戻るとか?)
ダークエルフたちが砂に戻るのを想像し、眉間に皺を寄せた。
「俺も、でかい木の蜃気楼を見たから、まだ無事なんじゃぁないのか?」
「それは分かりません。お母様方が見せている幻覚なのかも知れません」
「そうか……だが、あんなにデカイ蜃気楼だぞ?そのお母様って何者だ?」
「私たちのお母様は、白龍です」
アスカは扉の絵を思い出した。
「あの分厚い扉絵のやつか!」
「そうです。幻覚を作り続けて、世界樹の場所を惑わせています。ですから、その場を動く事が出来ません。食事を摂ることができないのです」
「まさか!罠に捕らえたモンスターを、白龍に持って行ってるのか?」
「話が早くて助かります。時間が無いので少々割愛しますが、私たちが定期的に持って行くのは、魔石です。魔石を取り込み栄養分としています。しかし、それも降り続く雨の影響で、長い間滞っています」
「モンスターは、水を求めてオアシスに近付くんじゃぁないのか?」
「いいえ。幻覚は強力で、何人たりとも、そこへは近付く事さえ出来ません」
そこまで話すと族長は、懐から桃色の鈴を取り出した。甲高い美しい音が鳴り響いた。
「族長様!」
トゥートゥーは声を荒げた。
「一刻の猶予もありません」
トゥートゥーは下を向いた。
「これがお母様の元へ導いてくれます」
「鈴が?」
「はい。そして今回、生贄となるのが、私とディーディーです」
「は?生贄?何の話だよ?白龍のか?」
「私たちは短命です。毎年、1組の双子が生贄となります」
「なんだよそれ……白龍から産まれて、白龍に喰われるのか?栄養のために?」
「はい。今までそうしてきました。これからもそうしたいのです。それが私たちがお母様方を守る理由です」
「理由になってない!そんなふざけた親はいねぇぞ!」
「いえ。これ以上素晴らしい親はいません」
「自分から食べられに行くなんて。やっぱりお前たちは異常だぞ!」
「アスカ……あなたの理解が早いので、割愛し過ぎましたね。私とディーディーは、生贄となります。そして再び、私とディーディーは生まれて来ます」
「そんな生まれ変わりの精神論は聞いてねぇよ!」
「生まれ変わりません。若返り生まれて来ます」
「へ?」
「私たちダークエルフは短命と言いましたが、私がお母様方の生贄になる事で、私が再び若返り生まれて来ます」
「短命って……それを繰り返してれば、永遠の命なんじゃ?」
「そうですね」
族長は恥ずかしそうに笑った。
「たはは……悪い奴らが欲しがりそうだ」
「そうです。やはり話が早い。そう言う輩から、お母様方を守ってきました。そしてダークエルフ族は、毎年生贄の儀式を行なっていましたが、キューキューとミューミューを最後に、それは行えていません」
「生贄の儀式って……転生の儀式に名前を変えたら?」
「ふふ。以前も、そう言われた方がいらっしゃいました。その方は異世界人でした」
「嘘だろ!異世界人は俺たちの他にもいるのか!」
「そうです。私が会ったのはアスカで2人目です。その方もアスカと同じ言葉を口にしました」
「異世界人じゃなくても、転生の儀式の方が合ってるって言うんじゃぁないのか?」
「そうですか?しかし私が言ったのは、シンキロウの方です。この世界の者は幻覚と言います。ですから、アスカが異世界人だという証拠を、自ずと証明していましたね」
「そうなのか……やっぱりこの世界に、蜃気楼は無いんだな……」
(もしくは、蜃気楼の原理が知られていないだけなのかも)
「話が逸れましたね。私たちの出生については以上です。次に、どうして必ず双子なのかお話しします」
「今までの話をまとめると、白龍の栄養には、魔石プラス1人だけじゃぁ足りないからだろ?」
「そうです。ん~。でも少し勘違いをしていると思うので補足します。お母様方は2人います」
「え~っ!お母様方って白龍と世界樹のことじゃぁないのか!?」
「いいえ、白龍が2人ます」
『珍しく機転を効かせ、イセカイザーである事は隠し通せたアスカ。
ダークエルフは双子の種族。短命で、永遠の命。表と裏。全ては白龍によるものなのか。
砂れアスカ!
唸れイセカイザー!
次回予告
三』
「見たか!俺の勇姿!正体は言わなかったぞ!いつも通り、頭の回転の良さが生死を分けたな!」
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