異世界版ヒーロー【魔石で変身 イセカイザー】

鹿

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33 産声

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「おい男!変な真似はするなよ。埋めるからな!」

「発想が怖えな!大体どうして壁が砂なんだ?」

「ここは砂の中だからに決まってるだろ!」

「砂の中!?……そうか!流砂にはまって落ちた場所がここなのか?」

「他に何がある!あの罠に人間がかかるとは思わなかったけどな」

「あれは、罠だったのか!」

「他に何がある!罠に決まってるだろ!見れば分かるだろ」

「今思えば怪しいよな。でも死にそうだったからなぁ。罠にはまって良かった」

「……族長の元へ行くぞ」

「え?埋められる?」

「目覚めたら連れてくるように言われてる」

「否定してくれよ……」

アスカはディーディーに連れられて、族長の待つ部屋へと向かった。

砂を固めて造られた、多岐に渡る通路を進んで行く。入り組んでいて、元の部屋には戻れそうも無い。それはまるで、横に続くアリの巣のような構造であった。

(本当に男が1人もいないな)

すれ違うダークエルフは皆、褐色の肌と白髪で、ディーディーと似た服を着ている。彼女たちはアスカを見ると、睨みつけたり、ヒソヒソと話を始めた。

(全く歓迎されてないな)

ディーディーは砂を固めた扉の前で立ち止まった。左右の扉には、向かい合う白いドラゴンが描かれている。ディーディーは、そのドラゴンが持つピンクの玉に手をかざし、名乗りを上げた。

「ディーディーだ。族長、男が目覚をさました」

(この龍、何か見覚えがあるな)

すると反対側のドラゴンが持つ、ピンクの玉が輝き声が聞こえた。

「通してください」

声が聞こえた直後、扉が岩を削るような音を立て、ゆっくりと開いた。
その扉の横幅は、アスカの肩幅ほどの厚さがあった。

「分厚い扉だな。どうやって開いたんだ?」

「行け」

アスカの問いには答えずに、ディーディーが顎で指図する。

「はいはい」

扉を潜ると自動で閉まり、何も見えなくなった。

「暗っ!何も見えない!」

「進め」

「はいはい」

アスカは手探りで進んだ。何度か曲がる一本道を順調に進む。しかし通路は徐々に狭く、低くなり、アスカは中腰になり進んだ。

「狭すぎる!何だこの道は!異常すぎる!」

とうとうアスカは両手をついて、四つん這いとなった。

「出口だ!小人の部屋に繋がってるんじゃないだろうな?文句を言ってやる!お前ら異常だってな!」

小さな出口からの、眩しく目を射る強い光に視界を塞がれた。

「眩しい!先が見えないぞ!まさか、あの先の床が無いって落ちはないよな?いや、床がなかったら落ちるんだけども!」

目を閉じ下を向き、そのまま出口を這いで出た。

(ふぅ~。やっと……)

「動くな!産声を上げよ」

目を開けたアスカは、2本の剣が左右から首元に交差して添えられている事を知った。

(え?)

ゆっくりと頭を上げようとした。

「動くな!次は首が落ちるぞ」

(こいつら異常過ぎる!)

「そのままひれ伏せ。床に頭を擦り付けろ」

剣を握る女性の冷たい声が、それが真実だと伝えている。

(剣があるのに、これ以上頭を下げれるか!)

「産声を聞かせよ」

(産声?オギャーって言えば良いのか?異常者どもが!異常者って言ってやる!)

「正常……」

(言えなかった……俺、かっこ悪すー)

「「「「え?」」」」

女性たちの驚く声が響いた。

「剣を納めなさい」

そして緩やかな声が聞こえた。

「しかし族長様!危険すぎます」

「男の素性も分かっていません」

「構いません。面を上げてください」

アスカの首に添えられた剣が外された。それを受けてアスカはゆっくりと頭を上げた。

正方形の明るい部屋には、4人のダークエルフがいた。中央に台座があり、ピンクの玉が乗せられている。
そして正面のその奥には、砂のかまくらがあり、その中には砂の仮面をつけた女性が座っている。

「誰か罠にはまってるぞ」

「無礼者!族長様に向かって……」

アスカの右隣で剣を持つ前髪ぱっつんが、荒げた声で口を挟んだ。

「リューリュー、構いません」

しかし奥に座る砂仮面の族長は、緩やかな声を発した。

「しかし、この男は……」

「シューシュー、構いません。男、名乗りなさい」

「アスカ。テイマーのアスカだ」

(しまった!本名を名乗った!警報音が!!……鳴らない?変身してないからか?それとも、イセカイザーの他は喋っても良いのか?)

「アスカ、お前はここに何をしに来たのですか」

「ここに来るつもりはなかった。魔物に襲われて砂漠を彷徨っていたら、点滅する光を見つけて、それに近寄ったら流砂に飲み込まれて、暗くなったかと思ったら、明るくなって、激痛が走って助かった」

「あれは食糧になる魔物を、誘き寄せる為の罠です」

「魔物を食うのか?」

「黙れ男!質問をするのは族長様だけだ!次、勝手に口を開けば、埋める」

アスカの左隣で剣を握る、シューシューと呼ばれた前髪ぱっつんが、低い声でたしなめた。

「……」

(こいつらも双子か?)

「我ら砂の民は代々この地を守ってきました。しかし長引く雨のせいで、外には出られぬゆえ、守るべきものも守れぬまま、ただ月日を重ねるのみ」

「雨に弱いのか?だが雨は……」

「男!!それ以上喋るな!埋める!」

かまくらの右に座るベリーショートが、吠えてその場に立ち上がった。

「トゥートゥー待ちなさい。話はまだ終わっていません」

(みんな変な名前だな。ブーブーもいるのか?)

「ぞ、族長様!ではこれだけでも。サンドロック」

かまくらの右に座る、トゥートゥーと呼ばれたベリーショートが、地面の砂を握りアスカに向かって投げつけた。
顔に当たる寸前で、それは帯のように伸びると、そのまま口に巻きついた。目隠しならぬ、口隠しとなった。

「ん~!ん~!」

「族長様の話を最後まで黙って聞け!」

「我らは水に弱い」

「族長様!我らの弱点を軽々しく口にしてはなりません」

「ルゥールゥー、構いません。あの詩を忘れましたか?」

「覚えております。
『双子の眉は 向かい合い 表が裏が 選り分ける
影より白き 箱の世に 現れ救う 死者の整序』
しかしこの男と何の関係が?」

右隣で剣を持つリューリューが、アスカに剣を突き付けた。

「まさかこの男が?」

「そのまさかです」

「族長様!あの詩は、必ず双子で生まれる私たちの詩のはず。昨日今日現れた、素性も知れぬ男など、関係ありません」

左隣で剣を持つシューシューが、アスカに剣を突き付けた。

「私たちダークエルフ族の双子が手を取り合えば、きっとお母様方も無事救えるはずです」

かまくらの左に座るルゥールゥーが、族長に向き直り進言した。

「それに、生誕の通路を通り、この部屋に入って来た者を私たち双子が選別すれば、お母様方も必ず救えます」

かまくらの右に座るトゥートゥーが、族長に向き直り進言した。

「もし、影より白き箱の世が、生誕の通路とこの部屋ではなく、アスカが紛れ込んだ、あの部屋だとしたら?」

族長の言葉に他の4人は絶句した。

「白龍様の御霊の整序を救える者が、外部の者だとしたら?みなさん聞いたでしょう。アスカの産声を」

「整序……」

「そう。そして万が一、アスカにも表と裏があるとしたら?」

族長の言葉に驚いたアスカは、大きく跳ねた胸に手を当て、不自然に目を逸らした。


『ダークエルフの奇妙な名前に翻弄されるアスカ。
しかしそれも束の間、族長に正体がバレたのか、慌てたアスカは目を泳がせた。それはもう、競泳の金メダリストの如く、バシャバシャと。クロールで。
ババ抜きだ!アスカ!
ポーカーフェイスだ!イセカイザー!
次回予告
人身御供』

「エッチ団結が言いたいが為に、四字熟語を並べたな!」
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