異世界版ヒーロー【魔石で変身 イセカイザー】

鹿

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アスカが、貴族の曲がった心を真っ直ぐに正した事により、教会への被害は防がれた。
その後、シスター・フランに会うことを断念し、地球から共に転移された自衛隊の救助に向かうことにした。
イセカイザーグリーンに変身しているアスカは、両肩に乗るキュウとミミと共に、ドラゴンを追って禍々しい雲が渦巻く、南の空へと向かったのだった。

グリーン(アスカ)は、遠ざかるドラゴンを識別するためにスキルを使った。

「アナライズ」

ーーーーーーーーーーーー
名前 :ヨンバーン(テイム)
種族 :ワイバーン
分類 :亜竜
属性 :炎属性
年齢 :28
性別 :雄
Lv :39
HP : 3256/3256
MP : 1042/1106
攻撃力:2590
防御力:2243
素早さ:1850
知 能:349
器用さ:461
幸運値:78
装備:なし
アクセサリー :なし
スキル : ドラゴンブレスLv5、バインドボイスLv6、噛みつきLv8、引っ掻きLv7
ーーーーーーーーーーーー

「嘘……変身してても勝てるか際どいな……他の奴らもか?」

イセカイザーグリーンは、他の3体のワイバーンにもアナライズを行ったが、距離が離れ過ぎていたため識別不能であった。

「テイムって事は、あいつらの背中にいた奴がテイマーなのか?ドラゴンライダー……羨ましい。
しかしあのワイバーンも可哀想だな。
ヨンバーンって名前、4体いたから、イチバーンからだよな……ネーミングセンス悪すぎ」

ワイバーンは瞬く間に距離を離し、グリーンたちを置いて見えなくなった。

「どんな速さだよ……こりゃ良い気になってたら詰むな。もっとレベルを上げないと。しかし自衛隊の元へ向かったとなると……あいつ詰んだな」

グリーンたちは飛行したまま、大陸を横切る巨大な川を越えた。

上空からの景色は壮観である。見た事もない木々や建物、生物たちが地上を彩っている。

「あのゴリラ腕が4本あるぞ!強そうだから近寄らないようにしよう」

禍々しい雲が渦巻くその下に、何かが見えるが未だ遠く、何があるのかは認識出来ない。

しばらく空の旅を楽しんでいると、気候が変わり蒸し暑くなり始めた。

左手にはボロボロの廃屋が並ぶ村が見え、その奥には水平線まで砂の大地が広がっている。

「砂漠か!この村はスルーだな」

村を横目に通過した。
その時、何かが体に当たり体を震わせた。

「何だ?」

その直後、大爆発する音がした。

「火山の噴火か…山の麓だな。異世界の噴火は、あんな所で噴火するのか?」

遠くの、西の山の麓で大爆発が起こった。同時にグリーンの腹もなった。

「腹減ったな……そうだ、屋敷から貰ってきた飯でも食うか?」

『キュッキュウ』

『ミミー』

グリーンは手を叩き、豪華な肉料理を出現させた。
しかし現在飛行中である。肉料理はバラバラとこぼれ落ちてしまった。

「あ~あ。悪りぃ。りんごで我慢してくれ」

再び手を叩きりんごを2つ取り出すと、キュウとミミにそれぞれ渡した。

「肉は後でな」

『キュ~ウ!キュウキュウ!』

「ん?キュウ、太陽がどうした?」

キュウが太陽に向かって吠え始めた。
その異様な雰囲気に不安を感じ、目を凝らして太陽を見上げた。
すると、グリーンたちより更に上空から、何かが接近して来た。

「太陽の中に何かいるぞ!」

太陽の中央に黒い点が現れ、それが高速で一直線に迫り来る。

「うお!」

グリーンは咄嗟に体を捻り、それをかわしたが、左の頬をかすった。

「鳥!?」

急降下してきた物体は、巨大な鳥。
翼をたたんで、ダーツのようにグリーンたちを襲ったのである。かわされた事を悟った鳥は、翼を広げて急停止した。そして羽ばたき上昇を開始した。

「アナライズ……レッドイーター!?なかなか強いがこいつなら何とかなるな。楽しい空の旅を邪魔しやがって!何でこんな所にいるんだよ!」

『説明しよう
レッドイーターは、水中を除く地域全般に生息しているのである。そしてレッドイーターは赤い物を襲う習性が……』

「うるせぇ!今忙しいんだよ!」

レッドイーターが頬をかすった為、無意識に左のマスクに触れていた。

『ミミ~!』

今度はミミが、太陽に向かって鳴き声を上げた。

「ん?うわっ!」

太陽を背にしたそれは次々に飛んできた。

「くそっ!捕まれ!飛ばすぞ」

グリーンはスピードを上げ、蛇行をしつつそれらをかわした。

「何体いるんだよ!」

レッドイーターの波状攻撃が止むと、グリーンは上空で停止して振り向いた。

「数え切れない!くそっ!魔石が手に入らないが仕方ない。覚悟はいいな!グリーンデスサイズ」

右手を伸ばし、手の平をレッドイーターに向け、全ての標的をロック。腕を右へ水平に伸ばして、手の平を上に向けた。

「I’m ready」

その言葉とともに、手のひらを握り締める。
風の大鎌は一瞬で、レッドイーターの群れを1体残らず真っ二つにした。

ーテレッテレッテ~ツクタンジャジャ~ンジャンー
『レベルが上がった』

「ふぅ。危ないところだった。この技は恐ろしく強いんだけどねぇ。魔石ごと真っ2つにするのがなければ……」

その時、あの警報音が聞こえ始めた。

「やっべぇ!ここは上空だぞ!ピンチワン!」

変身が強制解除される前に、イセカイザーグリーンは地上へ向けて急降下を始めた。

「何ぃ!砂漠!」

地上は、辺り一面砂で覆われていた。
レッドイーターに襲われて、必死に逃げた先は砂の大地の真上。地上へ向かいつつ周りを見回すが、先程の村は遥か彼方。

「くそっ!なるべく村に近付くぞ!」

降下進路を村へ傾け、猛スピードで地面に向かう。
しかしそれはグリーンの能力ではなく、ただ落下しているだけであった。

「か、体の力が抜けていく。まずい!」

下を覗くと砂の大地が接近していた。

「砂でラッキーだった。グリーンのまま着地すれば、少しはダメージを軽減できるはずだ」

しかし全身が緑の光に包まれた後、無常にも変身が解けてしまった。

「しまった!」

落下の勢いはそのままで、砂の大地が目の前まで迫っていた。

「この速度でぶつかると死ぬぞ~!ピンチツ~!
ヤ~バ~イ~!……ぐわっ!」

砂煙を大量に巻き上げて、アスカは不時着した。

静寂。

生暖かい風が、ゆっくりと砂煙をはいて行く。

砂煙が引いていく中から、横になった状態で、砂から少し浮いたアスカが現れた。

「ゴホッゴホッ」

そして更に砂煙が引くと、イセカイザーグリーンとイセカイザーピンクが、首から下が砂に埋もれた状態で、両腕を上げてアスカを担ぎ上げていた。

「お前らマジで最高だな!ゴホッ」

2人のイセカイザーはアスカを優しく降ろすと、両手で地面を叩いて飛び出した。クルクルと回転してアスカの上空を超え、美しく着地を決めた2人は、背中を合わせてポーズを決めた。

「か、かっこよすー!俺もその中に入りたかった……」

2人のイセカイザーは元の姿に戻り、アスカに飛びついた。

「ありがとな!お前らは最高の相棒だよ!」

キュウとミミを撫でて、周りを見渡した。
そこは見渡す限りの砂と、所々に転がる岩があるだけの、広大な砂漠だった。

「あそこの岩の影で休憩しよう!」

アスカは大きな岩の影に入ると手を叩いた。

「ほら、食ってくれ!」

自分の用意した物のように、屋敷で拝借した料理を取り出しキュウとミミに振る舞った。

3人は束の間の休息を楽しんだ。

「しかし暑ぃなぁ~。お前たち大丈夫か?」

『キュ……』

『ミ……』

キュウとミミはグッタリと地面に寝そべっている。

「だよな……俺も焼けるように暑い……大体、砂漠は南にあるもんだろ!何で東にあるんだよ!」

異世界だからかと、こぼした後、現状を思い返して慌てふためいた。

「もう魔石が無い……魔物が出てきたらアウトだ!何かないか!武器は……俺の日本刀があったな!」

アスカは手を叩き、これまた拝借した刀を取り出した。

「良し!取り敢えずこの日本刀で……」

刀を抜こうとするが、鞘がくっついているのか、抜く事が出来なかった。

「模擬刀かよ!こんなもんいるか!」

足元に叩きつけた。

「仕掛け扉の一部だからな……当たり前か。でもそうなるとアビスサイドの魔石しか無いぞ。どうしよう」

『キュ~ウ!キュウキュウ!』

「ど、どうした!……まさか」

キュウが見据える正面の砂が、サラサラと動き出した。そしてそれは、次第に膨れ上がり始めた。

「おいおい嘘だろ!勘弁してくれよ……アナライズ!」

アスカは正面の砂をアナライズしたが、赤いプラスは、抜く事が出来なかった地面の模擬刀に重なった。

「おい!その模擬刀じゃぁ……」

【妖刀ヴィレクト】意志を持つ刀。魔力を注ぐ事で切れ味が増す。しかし抜いたが最後、魔力がなくなるまで吸い取られる。

「妖刀!模擬刀じゃぁないのか!魔力がなくなるとどうなるんだ!くそっ!お前ら岩に登れ!」 

アスカは妖刀ヴィレクトを拾い、キュウたちの後を追って岩に登った。しかしキュウたちは、焼けるような岩肌に耐え切れずアスカの肩に飛び乗った。

そのタイミングで目の前の砂が爆散し、中からミミズのような、芋虫のような、巨大なモンスターが出てきた。

「うえっ!キモッ!」

アスカはモンスターを見上げて、その巨大さに固まった。

「デ、デカ過ぎ……ピンチスリー……アナライズ……なんだよ、デザートワームって!こんなデザート食えるか!」

しかし出て来たデザートワームは、無数の牙が生えた大きな口を開けたまま、ピタリと動きを止めた。

(ん?どうした?出オチか?)

『キュウ!』

キュウが鳴くのとほぼ同時に、デザートワームがピクリと動いた。

(まさか!)

「し~!静かに。動くな」

口元に人差し指を当て、小声で端的にキュウたちへ意志を伝えた。

(目が無い!俺の勘が正しければ、奴は音か振動に反応してる筈だ。何か手は無いか)

アスカは周囲を見回した。岩を見る。妖刀ヴィレクトを見る。そして太陽を見上げた。

(あった!)

「圧縮」

アスカは小声で妖刀ヴィレクトを超亜空間におくると、小さく両手を叩いた。デザートワームはピクリと反応したが再び停止した。

(ふぅ~。間違いないな。まだいてくれよ)

右手には、りんごを握っていた。それをしばらくの間、空に掲げた。

(来たな)

太陽の中から飛来する影を視認すると、りんごを振りかぶってデザートワームの横へ投げた。

りんごが地面に落ちて転がる。
デザートワームは、転がるりんごに照準を合わせて動いた。

その瞬間レッドイーター数体が、りんご目掛けて降下してきた。

レッドイーターが地面に降りた瞬間、デザートワームはそれらを丸呑みにした。そしてそのまま砂煙を上げて地中へと消えて行った。

そこに残ったのは、ヒラヒラと舞うレッドイーターの羽根のみであった。

「はは……トレル爺さん。サンキューだな」

アスカたちは岩の影に降りて息を潜めた。

日が傾き出した頃、暑さも和らぎ始めたので出発する事にした。

「しまった!村はどっちだ?」

デザートワームの襲撃により、目指す方角を見失ってしまった。

「確か岩の影がここだから……あっちか!」

朧げな記憶と勘を頼りに、一行は太陽に向かって歩き始めた。


『他人の事はよく見える。
自分のネーミングセンスを棚に、いや、屋上に上げ、他所のテイマーを嘲笑う。まさに外道!
お前の物は俺の物。
盗んだ料理、刀は既に自分の物。まさに畜生!
それで良いのかアスカ!
命があるのは誰のおかげだ!
次回予告
砂』

「また途中で説明を止めたからか?りんごあげるから機嫌直して」
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