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30 鳥
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アスカが、貴族の曲がった心を真っ直ぐに正した事により、教会への被害は防がれた。
その後、シスター・フランに会うことを断念し、地球から共に転移された自衛隊の救助に向かうことにした。
イセカイザーグリーンに変身しているアスカは、両肩に乗るキュウとミミと共に、ドラゴンを追って禍々しい雲が渦巻く、南の空へと向かったのだった。
グリーン(アスカ)は、遠ざかるドラゴンを識別するためにスキルを使った。
「アナライズ」
ーーーーーーーーーーーー
名前 :ヨンバーン(テイム)
種族 :ワイバーン
分類 :亜竜
属性 :炎属性
年齢 :28
性別 :雄
Lv :39
HP : 3256/3256
MP : 1042/1106
攻撃力:2590
防御力:2243
素早さ:1850
知 能:349
器用さ:461
幸運値:78
装備:なし
アクセサリー :なし
スキル : ドラゴンブレスLv5、バインドボイスLv6、噛みつきLv8、引っ掻きLv7
ーーーーーーーーーーーー
「嘘……変身してても勝てるか際どいな……他の奴らもか?」
イセカイザーグリーンは、他の3体のワイバーンにもアナライズを行ったが、距離が離れ過ぎていたため識別不能であった。
「テイムって事は、あいつらの背中にいた奴がテイマーなのか?ドラゴンライダー……羨ましい。
しかしあのワイバーンも可哀想だな。
ヨンバーンって名前、4体いたから、イチバーンからだよな……ネーミングセンス悪すぎ」
ワイバーンは瞬く間に距離を離し、グリーンたちを置いて見えなくなった。
「どんな速さだよ……こりゃ良い気になってたら詰むな。もっとレベルを上げないと。しかし自衛隊の元へ向かったとなると……あいつ詰んだな」
グリーンたちは飛行したまま、大陸を横切る巨大な川を越えた。
上空からの景色は壮観である。見た事もない木々や建物、生物たちが地上を彩っている。
「あのゴリラ腕が4本あるぞ!強そうだから近寄らないようにしよう」
禍々しい雲が渦巻くその下に、何かが見えるが未だ遠く、何があるのかは認識出来ない。
しばらく空の旅を楽しんでいると、気候が変わり蒸し暑くなり始めた。
左手にはボロボロの廃屋が並ぶ村が見え、その奥には水平線まで砂の大地が広がっている。
「砂漠か!この村はスルーだな」
村を横目に通過した。
その時、何かが体に当たり体を震わせた。
「何だ?」
その直後、大爆発する音がした。
「火山の噴火か…山の麓だな。異世界の噴火は、あんな所で噴火するのか?」
遠くの、西の山の麓で大爆発が起こった。同時にグリーンの腹もなった。
「腹減ったな……そうだ、屋敷から貰ってきた飯でも食うか?」
『キュッキュウ』
『ミミー』
グリーンは手を叩き、豪華な肉料理を出現させた。
しかし現在飛行中である。肉料理はバラバラとこぼれ落ちてしまった。
「あ~あ。悪りぃ。りんごで我慢してくれ」
再び手を叩きりんごを2つ取り出すと、キュウとミミにそれぞれ渡した。
「肉は後でな」
『キュ~ウ!キュウキュウ!』
「ん?キュウ、太陽がどうした?」
キュウが太陽に向かって吠え始めた。
その異様な雰囲気に不安を感じ、目を凝らして太陽を見上げた。
すると、グリーンたちより更に上空から、何かが接近して来た。
「太陽の中に何かいるぞ!」
太陽の中央に黒い点が現れ、それが高速で一直線に迫り来る。
「うお!」
グリーンは咄嗟に体を捻り、それをかわしたが、左の頬をかすった。
「鳥!?」
急降下してきた物体は、巨大な鳥。
翼をたたんで、ダーツのようにグリーンたちを襲ったのである。かわされた事を悟った鳥は、翼を広げて急停止した。そして羽ばたき上昇を開始した。
「アナライズ……レッドイーター!?なかなか強いがこいつなら何とかなるな。楽しい空の旅を邪魔しやがって!何でこんな所にいるんだよ!」
『説明しよう
レッドイーターは、水中を除く地域全般に生息しているのである。そしてレッドイーターは赤い物を襲う習性が……』
「うるせぇ!今忙しいんだよ!」
レッドイーターが頬をかすった為、無意識に左のマスクに触れていた。
『ミミ~!』
今度はミミが、太陽に向かって鳴き声を上げた。
「ん?うわっ!」
太陽を背にしたそれは次々に飛んできた。
「くそっ!捕まれ!飛ばすぞ」
グリーンはスピードを上げ、蛇行をしつつそれらをかわした。
「何体いるんだよ!」
レッドイーターの波状攻撃が止むと、グリーンは上空で停止して振り向いた。
「数え切れない!くそっ!魔石が手に入らないが仕方ない。覚悟はいいな!グリーンデスサイズ」
右手を伸ばし、手の平をレッドイーターに向け、全ての標的をロック。腕を右へ水平に伸ばして、手の平を上に向けた。
「I’m ready」
その言葉とともに、手のひらを握り締める。
風の大鎌は一瞬で、レッドイーターの群れを1体残らず真っ二つにした。
ーテレッテレッテ~ツクタンジャジャ~ンジャンー
『レベルが上がった』
「ふぅ。危ないところだった。この技は恐ろしく強いんだけどねぇ。魔石ごと真っ2つにするのがなければ……」
その時、あの警報音が聞こえ始めた。
「やっべぇ!ここは上空だぞ!ピンチワン!」
変身が強制解除される前に、イセカイザーグリーンは地上へ向けて急降下を始めた。
「何ぃ!砂漠!」
地上は、辺り一面砂で覆われていた。
レッドイーターに襲われて、必死に逃げた先は砂の大地の真上。地上へ向かいつつ周りを見回すが、先程の村は遥か彼方。
「くそっ!なるべく村に近付くぞ!」
降下進路を村へ傾け、猛スピードで地面に向かう。
しかしそれはグリーンの能力ではなく、ただ落下しているだけであった。
「か、体の力が抜けていく。まずい!」
下を覗くと砂の大地が接近していた。
「砂でラッキーだった。グリーンのまま着地すれば、少しはダメージを軽減できるはずだ」
しかし全身が緑の光に包まれた後、無常にも変身が解けてしまった。
「しまった!」
落下の勢いはそのままで、砂の大地が目の前まで迫っていた。
「この速度でぶつかると死ぬぞ~!ピンチツ~!
ヤ~バ~イ~!……ぐわっ!」
砂煙を大量に巻き上げて、アスカは不時着した。
静寂。
生暖かい風が、ゆっくりと砂煙をはいて行く。
砂煙が引いていく中から、横になった状態で、砂から少し浮いたアスカが現れた。
「ゴホッゴホッ」
そして更に砂煙が引くと、イセカイザーグリーンとイセカイザーピンクが、首から下が砂に埋もれた状態で、両腕を上げてアスカを担ぎ上げていた。
「お前らマジで最高だな!ゴホッ」
2人のイセカイザーはアスカを優しく降ろすと、両手で地面を叩いて飛び出した。クルクルと回転してアスカの上空を超え、美しく着地を決めた2人は、背中を合わせてポーズを決めた。
「か、かっこよすー!俺もその中に入りたかった……」
2人のイセカイザーは元の姿に戻り、アスカに飛びついた。
「ありがとな!お前らは最高の相棒だよ!」
キュウとミミを撫でて、周りを見渡した。
そこは見渡す限りの砂と、所々に転がる岩があるだけの、広大な砂漠だった。
「あそこの岩の影で休憩しよう!」
アスカは大きな岩の影に入ると手を叩いた。
「ほら、食ってくれ!」
自分の用意した物のように、屋敷で拝借した料理を取り出しキュウとミミに振る舞った。
3人は束の間の休息を楽しんだ。
「しかし暑ぃなぁ~。お前たち大丈夫か?」
『キュ……』
『ミ……』
キュウとミミはグッタリと地面に寝そべっている。
「だよな……俺も焼けるように暑い……大体、砂漠は南にあるもんだろ!何で東にあるんだよ!」
異世界だからかと、こぼした後、現状を思い返して慌てふためいた。
「もう魔石が無い……魔物が出てきたらアウトだ!何かないか!武器は……俺の日本刀があったな!」
アスカは手を叩き、これまた拝借した刀を取り出した。
「良し!取り敢えずこの日本刀で……」
刀を抜こうとするが、鞘がくっついているのか、抜く事が出来なかった。
「模擬刀かよ!こんなもんいるか!」
足元に叩きつけた。
「仕掛け扉の一部だからな……当たり前か。でもそうなるとアビスサイドの魔石しか無いぞ。どうしよう」
『キュ~ウ!キュウキュウ!』
「ど、どうした!……まさか」
キュウが見据える正面の砂が、サラサラと動き出した。そしてそれは、次第に膨れ上がり始めた。
「おいおい嘘だろ!勘弁してくれよ……アナライズ!」
アスカは正面の砂をアナライズしたが、赤いプラスは、抜く事が出来なかった地面の模擬刀に重なった。
「おい!その模擬刀じゃぁ……」
【妖刀ヴィレクト】意志を持つ刀。魔力を注ぐ事で切れ味が増す。しかし抜いたが最後、魔力がなくなるまで吸い取られる。
「妖刀!模擬刀じゃぁないのか!魔力がなくなるとどうなるんだ!くそっ!お前ら岩に登れ!」
アスカは妖刀ヴィレクトを拾い、キュウたちの後を追って岩に登った。しかしキュウたちは、焼けるような岩肌に耐え切れずアスカの肩に飛び乗った。
そのタイミングで目の前の砂が爆散し、中からミミズのような、芋虫のような、巨大なモンスターが出てきた。
「うえっ!キモッ!」
アスカはモンスターを見上げて、その巨大さに固まった。
「デ、デカ過ぎ……ピンチスリー……アナライズ……なんだよ、デザートワームって!こんなデザート食えるか!」
しかし出て来たデザートワームは、無数の牙が生えた大きな口を開けたまま、ピタリと動きを止めた。
(ん?どうした?出オチか?)
『キュウ!』
キュウが鳴くのとほぼ同時に、デザートワームがピクリと動いた。
(まさか!)
「し~!静かに。動くな」
口元に人差し指を当て、小声で端的にキュウたちへ意志を伝えた。
(目が無い!俺の勘が正しければ、奴は音か振動に反応してる筈だ。何か手は無いか)
アスカは周囲を見回した。岩を見る。妖刀ヴィレクトを見る。そして太陽を見上げた。
(あった!)
「圧縮」
アスカは小声で妖刀ヴィレクトを超亜空間におくると、小さく両手を叩いた。デザートワームはピクリと反応したが再び停止した。
(ふぅ~。間違いないな。まだいてくれよ)
右手には、りんごを握っていた。それをしばらくの間、空に掲げた。
(来たな)
太陽の中から飛来する影を視認すると、りんごを振りかぶってデザートワームの横へ投げた。
りんごが地面に落ちて転がる。
デザートワームは、転がるりんごに照準を合わせて動いた。
その瞬間レッドイーター数体が、りんご目掛けて降下してきた。
レッドイーターが地面に降りた瞬間、デザートワームはそれらを丸呑みにした。そしてそのまま砂煙を上げて地中へと消えて行った。
そこに残ったのは、ヒラヒラと舞うレッドイーターの羽根のみであった。
「はは……トレル爺さん。サンキューだな」
アスカたちは岩の影に降りて息を潜めた。
日が傾き出した頃、暑さも和らぎ始めたので出発する事にした。
「しまった!村はどっちだ?」
デザートワームの襲撃により、目指す方角を見失ってしまった。
「確か岩の影がここだから……あっちか!」
朧げな記憶と勘を頼りに、一行は太陽に向かって歩き始めた。
『他人の事はよく見える。
自分のネーミングセンスを棚に、いや、屋上に上げ、他所のテイマーを嘲笑う。まさに外道!
お前の物は俺の物。
盗んだ料理、刀は既に自分の物。まさに畜生!
それで良いのかアスカ!
命があるのは誰のおかげだ!
次回予告
砂』
「また途中で説明を止めたからか?りんごあげるから機嫌直して」
その後、シスター・フランに会うことを断念し、地球から共に転移された自衛隊の救助に向かうことにした。
イセカイザーグリーンに変身しているアスカは、両肩に乗るキュウとミミと共に、ドラゴンを追って禍々しい雲が渦巻く、南の空へと向かったのだった。
グリーン(アスカ)は、遠ざかるドラゴンを識別するためにスキルを使った。
「アナライズ」
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名前 :ヨンバーン(テイム)
種族 :ワイバーン
分類 :亜竜
属性 :炎属性
年齢 :28
性別 :雄
Lv :39
HP : 3256/3256
MP : 1042/1106
攻撃力:2590
防御力:2243
素早さ:1850
知 能:349
器用さ:461
幸運値:78
装備:なし
アクセサリー :なし
スキル : ドラゴンブレスLv5、バインドボイスLv6、噛みつきLv8、引っ掻きLv7
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「嘘……変身してても勝てるか際どいな……他の奴らもか?」
イセカイザーグリーンは、他の3体のワイバーンにもアナライズを行ったが、距離が離れ過ぎていたため識別不能であった。
「テイムって事は、あいつらの背中にいた奴がテイマーなのか?ドラゴンライダー……羨ましい。
しかしあのワイバーンも可哀想だな。
ヨンバーンって名前、4体いたから、イチバーンからだよな……ネーミングセンス悪すぎ」
ワイバーンは瞬く間に距離を離し、グリーンたちを置いて見えなくなった。
「どんな速さだよ……こりゃ良い気になってたら詰むな。もっとレベルを上げないと。しかし自衛隊の元へ向かったとなると……あいつ詰んだな」
グリーンたちは飛行したまま、大陸を横切る巨大な川を越えた。
上空からの景色は壮観である。見た事もない木々や建物、生物たちが地上を彩っている。
「あのゴリラ腕が4本あるぞ!強そうだから近寄らないようにしよう」
禍々しい雲が渦巻くその下に、何かが見えるが未だ遠く、何があるのかは認識出来ない。
しばらく空の旅を楽しんでいると、気候が変わり蒸し暑くなり始めた。
左手にはボロボロの廃屋が並ぶ村が見え、その奥には水平線まで砂の大地が広がっている。
「砂漠か!この村はスルーだな」
村を横目に通過した。
その時、何かが体に当たり体を震わせた。
「何だ?」
その直後、大爆発する音がした。
「火山の噴火か…山の麓だな。異世界の噴火は、あんな所で噴火するのか?」
遠くの、西の山の麓で大爆発が起こった。同時にグリーンの腹もなった。
「腹減ったな……そうだ、屋敷から貰ってきた飯でも食うか?」
『キュッキュウ』
『ミミー』
グリーンは手を叩き、豪華な肉料理を出現させた。
しかし現在飛行中である。肉料理はバラバラとこぼれ落ちてしまった。
「あ~あ。悪りぃ。りんごで我慢してくれ」
再び手を叩きりんごを2つ取り出すと、キュウとミミにそれぞれ渡した。
「肉は後でな」
『キュ~ウ!キュウキュウ!』
「ん?キュウ、太陽がどうした?」
キュウが太陽に向かって吠え始めた。
その異様な雰囲気に不安を感じ、目を凝らして太陽を見上げた。
すると、グリーンたちより更に上空から、何かが接近して来た。
「太陽の中に何かいるぞ!」
太陽の中央に黒い点が現れ、それが高速で一直線に迫り来る。
「うお!」
グリーンは咄嗟に体を捻り、それをかわしたが、左の頬をかすった。
「鳥!?」
急降下してきた物体は、巨大な鳥。
翼をたたんで、ダーツのようにグリーンたちを襲ったのである。かわされた事を悟った鳥は、翼を広げて急停止した。そして羽ばたき上昇を開始した。
「アナライズ……レッドイーター!?なかなか強いがこいつなら何とかなるな。楽しい空の旅を邪魔しやがって!何でこんな所にいるんだよ!」
『説明しよう
レッドイーターは、水中を除く地域全般に生息しているのである。そしてレッドイーターは赤い物を襲う習性が……』
「うるせぇ!今忙しいんだよ!」
レッドイーターが頬をかすった為、無意識に左のマスクに触れていた。
『ミミ~!』
今度はミミが、太陽に向かって鳴き声を上げた。
「ん?うわっ!」
太陽を背にしたそれは次々に飛んできた。
「くそっ!捕まれ!飛ばすぞ」
グリーンはスピードを上げ、蛇行をしつつそれらをかわした。
「何体いるんだよ!」
レッドイーターの波状攻撃が止むと、グリーンは上空で停止して振り向いた。
「数え切れない!くそっ!魔石が手に入らないが仕方ない。覚悟はいいな!グリーンデスサイズ」
右手を伸ばし、手の平をレッドイーターに向け、全ての標的をロック。腕を右へ水平に伸ばして、手の平を上に向けた。
「I’m ready」
その言葉とともに、手のひらを握り締める。
風の大鎌は一瞬で、レッドイーターの群れを1体残らず真っ二つにした。
ーテレッテレッテ~ツクタンジャジャ~ンジャンー
『レベルが上がった』
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その時、あの警報音が聞こえ始めた。
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地上は、辺り一面砂で覆われていた。
レッドイーターに襲われて、必死に逃げた先は砂の大地の真上。地上へ向かいつつ周りを見回すが、先程の村は遥か彼方。
「くそっ!なるべく村に近付くぞ!」
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しかしそれはグリーンの能力ではなく、ただ落下しているだけであった。
「か、体の力が抜けていく。まずい!」
下を覗くと砂の大地が接近していた。
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しかし全身が緑の光に包まれた後、無常にも変身が解けてしまった。
「しまった!」
落下の勢いはそのままで、砂の大地が目の前まで迫っていた。
「この速度でぶつかると死ぬぞ~!ピンチツ~!
ヤ~バ~イ~!……ぐわっ!」
砂煙を大量に巻き上げて、アスカは不時着した。
静寂。
生暖かい風が、ゆっくりと砂煙をはいて行く。
砂煙が引いていく中から、横になった状態で、砂から少し浮いたアスカが現れた。
「ゴホッゴホッ」
そして更に砂煙が引くと、イセカイザーグリーンとイセカイザーピンクが、首から下が砂に埋もれた状態で、両腕を上げてアスカを担ぎ上げていた。
「お前らマジで最高だな!ゴホッ」
2人のイセカイザーはアスカを優しく降ろすと、両手で地面を叩いて飛び出した。クルクルと回転してアスカの上空を超え、美しく着地を決めた2人は、背中を合わせてポーズを決めた。
「か、かっこよすー!俺もその中に入りたかった……」
2人のイセカイザーは元の姿に戻り、アスカに飛びついた。
「ありがとな!お前らは最高の相棒だよ!」
キュウとミミを撫でて、周りを見渡した。
そこは見渡す限りの砂と、所々に転がる岩があるだけの、広大な砂漠だった。
「あそこの岩の影で休憩しよう!」
アスカは大きな岩の影に入ると手を叩いた。
「ほら、食ってくれ!」
自分の用意した物のように、屋敷で拝借した料理を取り出しキュウとミミに振る舞った。
3人は束の間の休息を楽しんだ。
「しかし暑ぃなぁ~。お前たち大丈夫か?」
『キュ……』
『ミ……』
キュウとミミはグッタリと地面に寝そべっている。
「だよな……俺も焼けるように暑い……大体、砂漠は南にあるもんだろ!何で東にあるんだよ!」
異世界だからかと、こぼした後、現状を思い返して慌てふためいた。
「もう魔石が無い……魔物が出てきたらアウトだ!何かないか!武器は……俺の日本刀があったな!」
アスカは手を叩き、これまた拝借した刀を取り出した。
「良し!取り敢えずこの日本刀で……」
刀を抜こうとするが、鞘がくっついているのか、抜く事が出来なかった。
「模擬刀かよ!こんなもんいるか!」
足元に叩きつけた。
「仕掛け扉の一部だからな……当たり前か。でもそうなるとアビスサイドの魔石しか無いぞ。どうしよう」
『キュ~ウ!キュウキュウ!』
「ど、どうした!……まさか」
キュウが見据える正面の砂が、サラサラと動き出した。そしてそれは、次第に膨れ上がり始めた。
「おいおい嘘だろ!勘弁してくれよ……アナライズ!」
アスカは正面の砂をアナライズしたが、赤いプラスは、抜く事が出来なかった地面の模擬刀に重なった。
「おい!その模擬刀じゃぁ……」
【妖刀ヴィレクト】意志を持つ刀。魔力を注ぐ事で切れ味が増す。しかし抜いたが最後、魔力がなくなるまで吸い取られる。
「妖刀!模擬刀じゃぁないのか!魔力がなくなるとどうなるんだ!くそっ!お前ら岩に登れ!」
アスカは妖刀ヴィレクトを拾い、キュウたちの後を追って岩に登った。しかしキュウたちは、焼けるような岩肌に耐え切れずアスカの肩に飛び乗った。
そのタイミングで目の前の砂が爆散し、中からミミズのような、芋虫のような、巨大なモンスターが出てきた。
「うえっ!キモッ!」
アスカはモンスターを見上げて、その巨大さに固まった。
「デ、デカ過ぎ……ピンチスリー……アナライズ……なんだよ、デザートワームって!こんなデザート食えるか!」
しかし出て来たデザートワームは、無数の牙が生えた大きな口を開けたまま、ピタリと動きを止めた。
(ん?どうした?出オチか?)
『キュウ!』
キュウが鳴くのとほぼ同時に、デザートワームがピクリと動いた。
(まさか!)
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口元に人差し指を当て、小声で端的にキュウたちへ意志を伝えた。
(目が無い!俺の勘が正しければ、奴は音か振動に反応してる筈だ。何か手は無いか)
アスカは周囲を見回した。岩を見る。妖刀ヴィレクトを見る。そして太陽を見上げた。
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アスカは小声で妖刀ヴィレクトを超亜空間におくると、小さく両手を叩いた。デザートワームはピクリと反応したが再び停止した。
(ふぅ~。間違いないな。まだいてくれよ)
右手には、りんごを握っていた。それをしばらくの間、空に掲げた。
(来たな)
太陽の中から飛来する影を視認すると、りんごを振りかぶってデザートワームの横へ投げた。
りんごが地面に落ちて転がる。
デザートワームは、転がるりんごに照準を合わせて動いた。
その瞬間レッドイーター数体が、りんご目掛けて降下してきた。
レッドイーターが地面に降りた瞬間、デザートワームはそれらを丸呑みにした。そしてそのまま砂煙を上げて地中へと消えて行った。
そこに残ったのは、ヒラヒラと舞うレッドイーターの羽根のみであった。
「はは……トレル爺さん。サンキューだな」
アスカたちは岩の影に降りて息を潜めた。
日が傾き出した頃、暑さも和らぎ始めたので出発する事にした。
「しまった!村はどっちだ?」
デザートワームの襲撃により、目指す方角を見失ってしまった。
「確か岩の影がここだから……あっちか!」
朧げな記憶と勘を頼りに、一行は太陽に向かって歩き始めた。
『他人の事はよく見える。
自分のネーミングセンスを棚に、いや、屋上に上げ、他所のテイマーを嘲笑う。まさに外道!
お前の物は俺の物。
盗んだ料理、刀は既に自分の物。まさに畜生!
それで良いのかアスカ!
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しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
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