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29 追走

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迫り来る地面の直前で、グリーン(アスカ)は体に風を纏い、減速し空中に止まった。
グリーン(キュウ)とピンク(ミミ)は、空中でクルリと前転し、難無く地面に着地した。

「う、浮いてる……お、降ろしてくれ」

グリーン(アスカ)は、ため息を吐いた。

「それは次回予告と違うな」

「何だと!」

「だが、そのリクエストは聞いてやるよ」

グリーン(アスカ)は、ダズカスを上空に放り投げた。

「うおおおぉぉ!」

ダズカスは勢い良く上昇し、20メートル程でピタリと止まると、今度は落下し始めた。

「うわぁ~!た、助けてくれぇ~!」

地上が迫り、ぶつかる直前でグリーン(アスカ)にキャッチされた。

「ハァハァ……ど、どうせ助けるなら、もっと早くしろ!」

「他に何か言う事はあるか?」

「は、離せ!」

「その言葉も違うな」

グリーン(アスカ)はダズカスを担ぎ上げたまま、猛スピードで上空へ飛翔した。
グングンと上昇し、大きな屋敷が米粒程小さくなるがまだ止まらない。
雲を突き抜けた所でようやく停止した。

「ヒュ~。ヒュ~。い、息が、出来ん。さ、寒い。た、助けてくれぇ!」

「次回予告は覚えているか?」

「ハァハァ。た、頼む降ろしてくれぇ!」

「その言葉も違うな。では、お望み通り降ろしてやろう」

グリーン(アスカ)はダズカスから手を離した。

「いやぁぁぁぁ~!!」

支えを無くしたダズカスは、地面に向かい急降下を始めた。
風を顔面に受け、弛んだ肉がブルブルと波打つ。

「かはっ!い、息が……」

気圧の急激な変化と、落下による風圧を受け、無意識で行っていたはずの呼吸が出来ない。
涙と涎、鼻水を撒き散らし、必死に手足をバタつかせるが、勢いは収まらず、あっという間に地上が接近してくる。

「あぁぁぁ」

ダズカスは地面に激突寸前で、グリーン(アスカ)に足を掴まれ、ギリギリで止まった。

「ハァハァ。も、ハァハァ。もうやめて」

ダズカスは目、鼻、口と、穴という穴から水を垂らし、ガタガタと震えている。そして、ズボンの股間付近の色を変えていく。

「急に老けたな。これが最後だ。言いたいことは他にあるか?」

グリーン(アスカ)は冷淡な声で、逆さまの状態で吊り下げているダズカスに聞いた。

「ゆ、許してください。おね、お願いします」

「残念だ。俺はまだ全力を出していない。次は止めないぞ」

グリーン(アスカ)はダズカスを肩に担いで再び上昇しようとした。

「ま、ま、待ってください!言う言う言う!言います!」

ダズカスを肩から降ろし放り投げた。

「ぐふっ」

地面に顔から着地するも、ダズカスは直ぐに起き上がり正座した。

「こ、今後一切、人を傷つけません!」

「人だけか?亜人は?」

「い、生き物全てを傷つけません!教会に寄付します!教会も守ります!命に変えてもシスターたちを守り抜きますからぁ!約束します、どうか命だけは助けてください」

「約束?誓え!」

「は、は、は、はい。女神様に誓います!」

「りんごに誓え!」

「は?り、りんごに?」

「嫌なのか?」

「と、とんでもありません!誓います!りんごに誓います!」

(こんなとこかな)

「常に見ているからな。もし誓いを破ったら……女神より先に、お前に罰を与える」

その言葉を聞くとダズカスは、空を見上げ身震いをした後、地面に頭を叩きつけ土下座をした。

「決して破りません!誓います!」

「その言葉忘れるなよ」

グリーン(アスカ)は二人のイセカイザーを一瞥すると、そのまま門に向かって歩き始めた。二人はその後を、無言で追従する。

(あっ、そうだ!)

グリーン(アスカ)は足を止め、再びダズカスの元へ戻った。

「それともう一つ」

「ひっ!な、何でしょう」

手を叩き、りんごを取り出すとダズカスに放った。

「それを教会の人間に見せろ。あのイケメンの美青年から貰ったと言え。教会の警護はそれの恩だという事にするんだ。俺らのことは他言無用。いいな?」

「はっ、はひ!お、仰せのままに!」

「よし」

イセカイザーの三人は、颯爽とその場を立ち去った。

イセカイザーたちが去った後、ダズカスの兵士が、ガシャガシャと鎧を鳴らしてダズカスを囲んだ。

「ご、ご無事ですか、ダズカス様」

「お、お怪我はありませんか」

「問題ない……」

見るからに無事ではないダズカスを見て、いつものように、ホイッスル声で怒鳴られるのを覚悟していた兵士たちは、肩透かしを食らった。

着衣は乱れ、覚束ない視線のダズカスを見た兵士は、互いに顔を見合わせた。

「おい!お前たち何をボーッと突っ立ってるんだ」

その時、衛兵の間を縫って、胸を押さえ、足を引きずりゲレイドが現れた。その横をミハエルが支えている。

「ダ、ダズカス様。申し訳ありません」

「ゲレイド!ミハエル!無事だったか!」

「お、男が消えました。あの奇抜な二人組はどこに?」

「去って行かれた」

「何ですと!おい!お前ら、奴らを探せ!生死は問わん!見つけ次第……」

「ならん!ならんぞゲレイド!あの方たちに手を出すことはワシが許さん」

「はっ!直ちに捕まえて……え?」

「丁度よい、皆の者もよく聞け!これよりワシは、この街の教会を全身全霊を持って警護する!そして今後、人々には一切危害を加えるな!亜人も然り!よいか!ワシに力を貸してくれ!」

ゲレイドは夢でも見ているのか、ダズカスの言ってる意味が分からなかった。

「は?どういうことでしょうか?」

「そう言う事だ!ゲレイド!直ちに警護計画を作成し、提出せよ!」

「ん?え?……はっ!各隊の長は、私の部屋に集合せよ!その他の者は持ち場に戻れ!手空きは復旧作業に当たれ!」

「「「はっ!」」」

その後、兵士たちは口々にこう言った。

「ダズカス様が我らに頼み事をした」

「ダズカス様は変わられた」と。

ダズカスは震える手に持つ赤いりんごを、決意を新たに燃える瞳で見つめ続けた。

その一部始終をイセカイザーたちは見ていた。

イセカイザーたちは門から去ったと見せかけて、ダズカスたちの上空に停滞していた。

「ふぅ~。何とかなったな。これでシスター・フランに危害を加える奴はいないだろう」

『キュ~』

『ミ~』

「今回はマジで助かった。お前ら最高か!ありがとな」

グリーン(アスカ)に抱きついていた二人のイセカイザーは、更にきつく抱きしめた。

「イテテ。お前らもパワーが上がってる事を忘れるなよ。そろそろ元に戻っていいぞ」

キュウはどろんと煙に包まれると、可愛い九尾の姿に戻った。ミミもまた、グニャグニャと体を縮め、可愛らしいスライムへと戻った。

「それじゃあ教会に戻るか」

ダズカスたちの上空から、さらに真上に上昇し、地上から確認されない距離までくると、その場を後にした。

「シスター・フランは間違いなく俺に惚れるぞ。その前に変身を解かないとなぁ。どこかに隠れる場所はないかな?」

教会の真上で停止して、身を隠す場所を探していると、街の端、門の付近から四体のドラゴンが飛翔するのが見えた。

「ドラゴンだ!格好良いな。あいつをピンクで仲間にすれば移動も楽そうだ!」

『キュ!』

『ミ!』

「冗談だよ!ドラゴンは嫌か?背中に乗ってドラゴンライダー。格好良いと思うんだけどなぁ。あれ?何か背中に乗ってるな!ん?」

ドラゴンの進路上には川があり、その先の上空には禍々しい色の雲が渦を巻いている。

「あれは何だ?……そうだった自衛隊!こうしちゃぁいられない!川を渡った先が南だから、きっとあの渦の下にいるんじゃあないか?キュウ!ミミ!あのドラゴンを追うぞ!」

『キュウ!』

『ミミ!』

「シスター・フラン。そして、エレノア……ヒーローはここで必ずこう言うんだ。さらばだ!」

グリーン(アスカ)は、後ろ髪を引かれながらも、ドラゴンを追って南へ向かった。


『一人も殺める事なく、トラブルを解決させたアスカ。手柄を自慢する事もせず、姿を消すのはヒーローの鉄則。そして十八番。次は誰を救うのか?
何処かで誰かが泣いている!
急げアスカ!
泣くなアスカ!
次回予告
赤』

「泣いているのは俺。そう、シスター・フランに振られて俺の心は大雨警報。って、大アホゥ!」
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