異世界版ヒーロー【魔石で変身 イセカイザー】

鹿

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28 救助

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教会にいた美しい亜人が、アスカの窮地に颯爽と現れ、ゲレイドとミハエルを吹き飛ばした。

「ゲレイド!ミハエル!おのれぇ!き、貴様ぁ!」

ダズカスは明らかに動揺し始めた。

「シスター……フラン?ど、どうして……ここへ」

しかしよく見ると、緑のマフラーをひるがえす、イセカイザーグリーンの姿であった。

(ぐ、ぐりーん?)

朦朧とした意識の中、左側にも誰かがいる気配がした。その時、椅子にアスカを縛り付けていた紐が解けた。同時に左の視界から、イセカイザーピンクが現れた。

(ぴん、く?)

ピンクはアスカの右手にはめられた、無力の腕輪を引きちぎった。

『ミミ~』

(まさか)

落ちそうになる意識を繋ぎ止め、アスカは両手を叩いた。それは力無く、ぺちんと鳴った。しかし条件は満たされた。
アスカの手に緑の魔石が現れた。

震える手で、それを胸元へ添えると、あの言葉を呟いた。

「変…身」

しかし、その条件は満たされてはいなかった。

(変身できない。何故だ?)

「何だ、その魔石は!どこから取り出した!何をするつもりだ!」

甲高い声を聞き、そこでアスカは理解した。

(あいつに見られていると変身できない……)

視線を上げるとゲレイドが立ち上がり、腰の剣を抜いてグリーンに斬りかかった。

「死ねぇ~!」

だがそれを難なくかわし、拳を腹にめり込ませると、ゲレイドはくの字に曲がりミハエルの側に崩れ落ちた。

「き、貴様何者だ!」

更にグリーンは振り返り、ダズカスを担ぎ上げると、その場から立ち去った。

「やめろ!は、放すのだ!ワシを誰だと思っておるのだ!金か?金が欲しいのか?それなら好きなだけ……」

ダズカスの声は遠ざかり聞こえなくなった。

(ありがとう。だがすまない……力が、残って、ない)

しかし最後の力を振り絞るが、魔石を持った手は重くて上がらなかった。

アスカは右手をダラリと降ろすと、緑の魔石を落としてしまった。
硬質な音を響かせ、無情にも緑の魔石は転がって行く。

そしてピンクの足に当たり止まった。

(だめだ……ここまで、か)

ピンクは緑の魔石を拾い上げ、アスカの右手に握らせると、そのまま、その手をアスカの胸に導いた。

「は、はは……ありが、とう」

ゲレイドとミハエルは、白目を剥いて気を失っている。

「へ、ん、し、ん」

右手の魔石が激しく輝き始める。
それと同時に意識がハッキリとして、頬の痛みがなくなり、左目も見える様になった。そして身体中に力がみなぎってきた。

緑の魔石がアスカの胸に吸い込まれ、眩い光に包まれた。

「ふぅ~。ギリギリだった。サンキュ!ミミ!今回は危なかった!マジで助かったよ」

『ミミ~』

「そうか、お前がキュウを助けてくれたんだな」

『ミミ』

その時、気を失っていたゲレイドが立ち上がった。

「き、貴様ら何者だ!ダズカス様は無事か!?あの男を何処へやった!」

ピンク(ミミ)は地面を蹴ると、猛スピードでゲレイドへと肉薄した。

「ミミ!殺すな!」

ピンクは地面に足を立て、急ブレーキをかけたが間に合わず、ゲレイドにぶつかり吹き飛ばしてしまった。ゲレイドはまた壁にぶつかった。

その音を聞き、意識を取り戻したミハエルであったが、再びゲレイドが倒れ込み、頭と頭をぶつけて二人は気絶した。

「悪りぃなミミ。だが人は殺すなよ。こいつらと同じにはなりたくないからな」

『ミミ~』

「それにしても今回はマジでダメかと思ったよ。貴族怖えな。そうだ!あの貴族。キュウは何処まで行ったんだ?」

『ミミミミ~』

「ミミ分かるのか?そもそも、どうしてここが分かったんだ?いや、今はそれどころじゃないな!キュウの元に連れて行ってくれ」

『ミミ~』

走るミミの後をアスカは追いかけた。
部屋を出ると、同じ石造りの通路が伸びていた。
そして、似たような部屋がいくつもあり、全ての扉が開かれていた。

「なる程ね。全部開けて確認してたのね」

階段を登ると、豪華な装飾品や骨董品が並ぶ部屋に出た。

「宝物庫か?」

様々な武器や防具が、所狭しと飾られている中、壁に飾られた刀に目を止めた。

「日本刀か?」

アスカはそれを持ち上げた。
すると、たった今、出てきた扉が一人でに閉まり、他の壁と見分けがつかなくなった。

「隠し部屋だったのか」

(貴族が開けっ放しだったんだろうな。閉まってたらキュウたちには見つけられなかったかも)

アスカは身震いをした。

(この刀は頂いとくか)

「圧縮」

宝物庫を出ると、執事やメイドが逃げ惑っていた。
気にする事なく二人のイセカイザーは、二階へ駆け登り、通路を奥に進んだ。ここもやはり全ての扉が開かれていた。

ピンク(ミミ)は通路の中間まで来ると立ち止まった。そして開かれた扉の部屋に正対した。

「この部屋か?」

そこにはグリーン(キュウ)と、貴族ダズカスがいた。

「厨房かよ!」

そこは広い厨房だった。
料理人は逃げ出して一人もいなかったが、幾つもの豪勢な料理が皿に乗せられていた。
ダズカスは厨房の真ん中で頭を抱え、座り込み震えている。

グリーン(キュウ)は料理の乗った皿を両手に持ち、グリーン(アスカ)に駆け寄った。

『キュ』

そして、皿を差し出し首を傾げた。

「全く。お前らは、可愛いな。腹が減ってたのか?持って帰って、後で食べよう。圧縮」

グリーン(アスカ)は料理を受け取り、超亜空間へ送った。

「待たせたな畜生!圧縮。お前は貴族という皮を被った畜生だ!圧縮。もう逃げ場は無い観念しろ!圧縮」

グリーン(アスカ)は、ダズカスの元へ歩くのと同時に、並ぶ料理を片っ端から超亜空間に送っていった。

「か、金なら好きなだけやる!だから頼む。命だけは助けてくれ!」

「何だそのダサい決まり文句は!お前が殺した人たちも同じ事を言っただろ?助けてやったのか?
あ、いや、その人たちはダサくない。ダサいのはお前だけで……だ~!締まらない!地球では悪役ばかりやってきたからな。決まり文句は絶賛練習中だ。圧縮」

「あ、あの男も殺してないだろ?今から回復してやるところだったんだ!な?頼む助けてくれ!」

「あのイケメンの美青年は、既に解放した」

「ひっ!く、来るな!」

「次回予告だ。お前は金輪際、人を、いや、生き物を傷つけない。そして教会には指一本触れない。それどころか教会に寄付をする。更には教会のシスターや子供たちを、末代まで守り続ける」

それを聞いたダズカスは、入り口を見てニヤリと笑った。

「ヒーッヒッヒッ!このワシが、そんな事する訳ないだろう!観念するのは貴様らだ!お前らかかれ!」

ダズカスが叫ぶと、イセカイザーたちが入ってきた入り口から、鎧で武装した兵士が次々と入って来て立ち塞がった。

「そいつらを殺せぇ!」

「はぁ。無駄だよ」

グリーン(アスカ)は、素早くダズカスとの距離を詰めると肩に担ぎ上げた。

「は、離せ!」

「I’m ready!」

そして窓際に走り出した。

「や、やめろ!ここは三階だぞ!ギャ~!」

そのまま窓を突き破り外へ飛び出した。

グリーン(キュウ)とピンク(ミミ)もそれに続いた。

「落ちる~~~!!」


『貴族の恐ろしさを目の当たりにしたアスカ。
仲間の力に救われて窮地を脱する事に成功した。
そして、キュウがダズカスを連れて来た場所は調理室。ミミがアスカを案内した場所も調理室。
ただ単に、腹が減っていただけであった。
食え!イセカイザーグリーン(キュウ)
食せ!イセカイザーピンク(ミミ)
次回予告
追走』

「何を見たんだ?見てはいけない物なのか?
しかし貴族は思っていた以上にヤバいな。これからは関わらないようにしよう」
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