異世界版ヒーロー【魔石で変身 イセカイザー】

鹿

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教会の前で、人間と亜人の子供たちが、キュウとミミを追いかけて楽しそうに遊んでいる。

それとは対象的に、シワシワのシスターと亜人の美女が、険しい顔でアスカを囲んでいる。

「言い方が悪かったね。ワイアットを助けてくれて感謝してるよ。ありがとう……でもね、貴族に歯向かったら最後。あんたの命は無いに等しいよ」

「冗談だろ?殴っただけでそこまでは……」

アスカは先程の貴族を思い出した。ワイアットが道を塞いだだけで殺されそうになったのである。

「……あるかもな。まあ、何とかなるだろ」

「あら。何とかなりませんよ。貴族でもない貴方が、例えこの街から姿を消したとしても、貴族は執念深いので、お金や権力を行使して文字通り地の果てまで追い掛けて来ますよ」

(俺やっちまったかな?)

「……ピンチワン」

「それにしてもスカッとしたよ。大声上げて笑いたいくらいだ。アンタには悪いがね。しかし今後の事を考えると、そうも言ってられないよ」

シスターは悲しそうに呟いた。

「あの貴族は、アンタを探しにまたここに来るだろうね……そうなれば、あの子たちもどうなることか……」

ミミを伸ばして、キュウをモミクシャにして遊ぶ子供たちを見つめるシスターの顔のシワが、一気に増えたように見える。

「雨が降ってた方が、私たちには幸せだったんだけどねぇ。無粋な話だよ」

「申し訳ありませんシスター・ガッキーラ。私が外に出てしまったから……」

(美女無表情!反省してない!だがそれもいい!)

「フランは悪くないよ。済んだ話さ。例え貴族と言えども、教会の中では乱暴はしないはずだからね。私たちは教会の中に籠るとするよ」

(シスター・フランっていうのか。いい!)

「いい……あっいや、なんかごめん。珍しく上手く行ったと思ったら、やっぱりそうは問屋が卸さないみたいだな……」

「あそこでアンタが助けてくれなければ、ワイアットは死んでただろうからねぇ。ワイアットも感謝してるよ。さっきからアンタの後ろで何か言いたそうだからね。ワイアット!言いたい事があるならボケボケしないで言いなさい」

「え?うわっ!ビビった!」

アスカが振り向くと、ワイアットが手混ぜをしてモジモジしていた。

「俺のせいで……大変なことになって……ごめんなさい!」

ワイアットは勢い良く頭を下げた。

「謝るな!こういう時は、ありがとう!って言うんだぜ」

アスカは笑顔でワイアットの頭を撫でた。

「助けてくれてありがとう……おじさん」

「な!」

(鉄板だな!鉄板だから仕方ない!笑顔で許そう)

「おいガキンチョ!お兄さんだ!!」

アスカは鬼の形相でワイアットに顔を寄せた。

「ぷはは!変な顔。お兄さん!ありがとう!」

ワイアットは至近距離の変顔に噴き出すと、満面の笑みをアスカに向けた。

「変顔した分けじゃぁないんだけど……よし決めた!貴族に話を付けてくる!」

「あんぽんたん!!アンタ全然理解してないねぇ!貴族に逆らったらダメなんだよ!」

「だから話をしてくるんだよ」

「すかぽんたん!!あいつに話が通じると思ってるのかい!?」

「だよなぁ……じゃあ、この辺に魔石を売ってる店ってない?」

「どうして『じゃあ』に繋がるんだい!」

「あら。緑の魔石なら一つ持ってますよ」

シスター・フランはポケットから拳大の、緑に輝く魔石を取り出した。

「おお!グリーンだな!それをりんごと交換してくれ!」

「いいえ、お礼に差し上げます。手を加えてますが宜しいでしょうか?」

アスカはシスター・フランから綺麗な球体に加工された魔石を受け取ると空に掲げた。太陽の光を浴びて輝く緑の魔石は、ウインドウルフのそれよりも美しく感じた。

「ん~、大丈夫……かな?サンキュ!」

魔石を超亜空間へ圧縮すると、素早く手を叩きりんごを取り出しフランに投げた。

「あら。綺麗なりんご。これを頂くと、魔石がお礼にならないのですが」

フランはアスカにりんごを返そうとした。

「り、り、りんごかい!?それはりんごかい?」

ガッキーラは、焼きりんごのように顔をシワシワに、そして真っ赤にさせて叫んだ。

「えっ!あれがりんご?」

「そうなの?初めて見た!りんご食べて良いの?」

子供達もガッキーラの叫び声を聞き集まり始めた。

「お前らも食うか?ほら」

アスカが手を叩く度に、次から次へとりんごが現れた。子供たちはマジシャン顔負けのマジックに興奮し、気が付けば大量に転がるりんごを見て、さらに興奮した。マジックではないのだが……

「あら。こんなに沢山のりんごを良いのですか?」

「良いの良いの。どうせ俺たちだけじゃぁ食べ切れないし。まだまだあるからね。食べるも良し、売っても良し、子供たちが喜ぶように好きにしてくれ」

『キュウ』

『ミミ~』

「アンタ何者だい?ボケボケしないで名前を教えなよ!」

ガッキーラは神に祈るように手を組んで、瞳を潤ませながら懇願している。

「アスッ……」

(はっ!名前を言っても良いのか?知られたらヤバイんじゃあないのか?イセカイザーがバレなきゃあ良いのか?)

「アッシュ兄ちゃんありがとう!」

ワイアットがすかさず御礼を言った。

(ん?アッシュ?)

「テイマーのアッシュだね!覚えたよ。くれぐれも死ぬんじゃないよ」

(アッシュ?俺の事?そんなヘアカラーのような名前じゃぁ……)

「あら。素敵なお名前ですね」

無表情だったフランが少し微笑んだかに見えた。

「おう!アッシュだ!テイマーのアッシュだ!」

(やっぱり惚れてるだろ!その笑顔美しい!)

「本当にありがとうございました。しかしやはり、この街から消えてください」

「たはは……」

(惚れてなかった……それにしても口悪過ぎ!せめてオブラートに包んでくれよ……)

「貴族を説得してからね。君の未来のために」

アスカは、キザったらしくフランに流し目を決めた。

「あら。貴方の未来が終わりますよ」

流し目は決まらなかった。

(まただ!あの貴族のせいだ!)

「良いんだよ!その綺麗な顔に笑顔を取り戻すからな!俺が勝手に決めた事だ!」

(振られたわけじゃあないからな!)

アスカの目から自然と涙が出てきた。しかしその事を悟られる前に、貴族が消えた道へと向き直り空を見上げた。

「太陽が眩しいぜ」

涙を隠すため、燦々と照り注ぐ太陽の光が眩しいフリをして腕で涙を拭った。

「太陽の馬鹿野郎……キュウ!ミミ!行くぞ!」

アスカは振り向かない。そのまま逃げるように走り出した。

「アッシュ兄ちゃん助けてくれてありがとう!」

「りんごありがとう!」

「アッシュ!死ぬんじゃないよ~!」

涙が止まらない。流れる涙はそのままにして、振り向く事なく手を振った。

「私の顔が……綺麗……」

シスター・フランは遠ざかるアスカを見つめ、無表情のまま顔の縫い目を指で辿った。

「アッシュは太陽のような青年だね。フラン、助けに行かなくても良いのかい?」

「私は……」

フランは一歩踏み出したが、そこで踏み止まった。

「私は亜人です。太陽から隠れて生きる亜人です」

そして太陽を見上げた。

「そうかい……」

ガッキーラも眩しそうに太陽を見上げた。

アスカは振り向かない。

「この世界でも俺には春は来ないのか……きっと出会い方が悪かったんだ!あの貴族のせいだ!待ってろよ~って、どこで?」

アスカは立ち止まると腕組みをして考えた。

(で……どこでに行けば良いんだ?)

「あの貴族はどこにいるんだ?しまったなぁ場所が分からん!今更戻って聞くのもダサ過ぎる……仕方ない、デカい屋敷を探すか」

アスカは街の奥へ向かった。

教会付近には食材を売る店や、武器屋、道具屋が並んでいたが、そこを抜けると、道の脇には街路樹が並び、街並みの景観に美しい彩りと統一感がもたらされ、ここからは貴族の世界なのだと感じた。
行き交う人の雰囲気や、服装、アスカを見る視線が変わった。

「人を排泄物でも見るような目で見やがって。この格好は場違いだな。こいつらを連れてると更に目立ちそうだな……ミミ中に入れるか?」

『ミ~』

アスカは服の首元を広げた。ミミは体を薄く変形させて、アスカの懐に隠れた。

「少し我慢しててくれ。キュウもなるべく静かにするんだぞ」

『キュ』

右肩のキュウは小声で鳴き、体をすぼめて3本の尻尾をアスカの首に巻いて、ファーのようになった。

広い敷地に豪華な屋敷が散見されるエリア。ここはまさに貴族のテリトリーである。

「さてと、どの屋敷だろうな?虱潰しに探す訳にも行かないし……この街一番の貴族って言ってたよなぁ」

しかしそれは、簡単に見つけることが出来た。

「あった」

居心地の悪さを肌で感じつつ、豪華な屋敷を選別していると、如何にもという立派な屋敷が目に入った。

「あれで間違いなさそうだな」

屋敷の前には門番が四人。門扉は閉ざされている。しかしその門扉は鉄格子で、中の様子が外からでも伺える。
アスカは、門番に見つからないように街路樹に身を隠すと、その陰から奥の様子を伺った。

「慌ただしいな」

屋敷の扉の前に執事やメイドが列を作り、それを隠すように馬車が停まった。

「馬車が来た。まさか、もう教会に向かう気か!ふざけやがって!グリーンに変身だ」

アスカは周囲に隠れる場所を探そうと、振り向こうとした瞬間、後頭部に衝撃を受けその場に倒れ込んだ。視界が狭窄して耳が遠くなる。
遠のく意識の中で声がする。

「手間が省けたな。ダズカス様に報告しろ」

「はっ!では、このモンスターはどういたしましょう」

『キュウ!キュウ!』

「傷つけるなよ。そいつはレアなモンスターだ。売れば大金が手に入る。この無力の腕輪を首にはめろ。スキルを使って暴れられても面倒だ」

「はっ!」

そこでアスカは意識を手放した。


『シスターから、あすかぽんたんと罵られたアスカ。子供たちの笑顔を消さないため!というのは立前で、実はフランに良い所を見せたいのは見え見えである。恥ずかしい程に。
ぽんたんアスカ!
川を渡らないのかイセカイザーグリーン!
次回予告
貴族』

「あんぽんたんと、すかぽんたんを合体させたら、あすかぽんたん!まあ素敵……ってなるか!次回予告の合体ってこの事か!次回予告の次回予告をするな!」
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