異世界版ヒーロー【魔石で変身 イセカイザー】

鹿

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21 木箱

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「で?手品はそれでお終いか?」

ゾフィは腕を組み、苛立つように人差し指で腕を規則的に叩いた。

「ま、待ってくれ!この箱の中に何か入ってるかも知れない!」

「かも?自分の荷物の中身を知らないのか?」

長い髪で目元が隠れて見えないが、明らかに苛立つゾフィは、更に足もトントンと鳴らし始めた。

「ああ。拾ったからな」

「拾ったのか?怪しいな」

ボーマンは低い背をかがめてアスカを覗き込んだ。

「ああ。空から降ってきた」

「空から?ますます怪しいな」

ボーマンはしゃがみ込み、下からアスカを睨んだ。

ボーマンの眼力に慌てたアスカは、急いで木箱を開けた。
しかしそこには、りんごや干し肉、水が詰め込まれ金目の物は何も入っていなかった。

「何ぃ~~!食い物だ!早く開けとけば良かった!」

「何ぃ~!り、り、りんごだとぉ!」

チョビ髭のリカルドは何故か、ごく普通のりんごに驚いた。

「嘘だろ……しかもこんなに沢山……」

立ち上がったボーマンも中身を除いて震えている。

「ちょっとどいてくれ!見えないじゃないか!」

「それは前髪のせいじゃん?」

しかし今のゾフィには、アスカの嫌味など耳に入らない。リカルドの肩を強引に引っ張ると、木箱を覗き込み固まった。

「空から降って来たと言うのは、あながち嘘では無さそうだな。天の恵みか」

ロベルトは落ち着いてはいるが、その三白眼をギラギラと光らせた。

「金貨じゃぁなかった……大金持ちになったはずが……俺はまた文無しか……りんご食うか?」

「「「……」」」

三人は、無言でブンブンと首を縦に振った。

首を振らなかったロベルトは、眉をひくつかせ自分と戦っているようだ。

(こいつらそんなに腹減ってるのか?)

アスカは木箱からりんごを取り出すと、ゾフィに放り投げた。

「うわっ!」

続けて他の三人にも放り投げた。

「ちょっ!」

「あぶっ!」

「っ!そんなに乱暴に扱うな!超高級品だぞ!」

クールそうなロベルトもキャッチすると、衝撃を緩和する為か、りんごの勢いを抑えるようにしゃがみ込んだ。

「りんごだろ?他にもまだまだ沢山あるけど……これ売れるのか?」

リカルドが震えつつ、叫び声とも取れる声を上げた。

「馬鹿野郎!一つ金貨十枚はくだらない!貴族なら金貨百枚は出す!!」

「はぁ!?りんごだぞ!これ…りんごだよな?」

金貨一枚の相場がどれほどの物か分からないが、彼らの反応を見て高いのだろう事は理解できた。

「当たり前だ!しかも山程ある!一つ手に入れるという事がどれほどの奇跡か!」

ボーマンは目を潤ませている。

「ヘイヘイ!今更返せとか言わないよな?」

ゾフィはりんごを両手で大事そうに抱えた。

「そんな汚い真似するか!まだ欲しいならやるけど?」

「「「「……」」」」

一同目を見開き唖然としている。

「要らないなら別に良いけど」

アスカが木箱に手を乗せると、頬を赤らめたゾフィが待ったをかけた。

「う、売ってくれ!頼む!後一つでも良いから売ってくれないか?」

「ん?やるって言ってるのに。ほら」

アスカはゾフィにりんごを放った。

「うわぁ!わぁ!」

お手玉をするように、りんごを片手で弾いて最終的には大きく弾いたりんごへ飛び付き、頭から滑り込んだ。

「ヘイヘイ……放り投げるなよ。ハァハァ」

地面に寝そべりグッタリとしているゾフィを他所に、アスカは他の三人にもりんごを放った。
残りの三人も慌てふためいたが、落とす事なくキャッチした。

(面白いな。もう一個投げたらどうなるんだろう)

やっとの事で立ち上がったゾフィに、アスカは悪い笑顔を向けた。

「まさか……やめてくれぇぇ」

アスカはゾフィにりんごを放った。

「うわぁぁぁ!はむ!……ん~~~!!!」

ゾフィはりんごを口でキャッチした。
果汁が口に溢れたのか、目元は見えないが口元が緩み、天にも昇るという表情になった。
両手に持っていたりんごを片手に持ち替え、口のりんごに手を添えると、シャクリと食べた。

「うまぁぁぁい!!!こんなに甘い食べ物は初めてだ!この食感もたまらない!!!止まらない!」

「き、勤務中だぞ!」

ロベルトは顔を引き攣らせゾフィを咎めたが、その三白眼はりんごに釘付けだ。

するとそれを見ていた他の二人も、生唾を飲み込み、おもむろにりんごにかぶりついた。

「はわぁぁぁぁぁ!!生きてて良かった!」

ボーマンは涙を流して喜んでいる。

「例えようが無い……」

リカルドは齧ったりんごをうっとりと愛でる。

クールなロベルトは自分と必死に戦っていた。

そしてゾフィは耳まで赤らめてアスカに微笑んだ。

「すまなかったな。通ってくれ!こんなに幸せな気持ちは久しぶりだ!ありがとう!金は俺が払っておく!」

「良いのか?普通のりんごでそこまでしてくれて」

「さっきも言っただろう!これはSランクの果物だ!幻想の森でしか手に入らないんだ」

「そうなのか?この木箱以外にも、トレル爺さんから山ほど貰ったぞ。あそこは幻想の森だったんだな」

リカルドはりんごを齧りつつ、チョビ髭を整えながらこう言った。

「何だと!お前はあの森に入ったのか!?道理で珍しいモンスターを連れていると思った。あの森は気まぐれで、どこに姿を表すか分からない。俺も今だに出くわした事がない」

「天の恵みか……そのモンスターも然り。どうだボーマン。この青年は?」

りんごを齧り涙を流す小柄なボーマンは、ロベルトに声をかけられると、りんごとアスカを見比べた。

「ん?ああ。心が読めない……だが嫌な感じは全くしない。通して問題ない」

「だ、そうだ。通っていいぞ」

「あ、ああ、ありがとう。それでは通りますよ?」

アスカはキョロキョロと四人を見渡し、木箱に手を置くと小声で圧縮と呟いた。

目の前から一瞬で木箱が消えたのを見たロベルト以外の三人は、残念そうに溜息をついた。

ロベルトはアスカを見ていたが、焦点は合っておらず何かを考えているようだ。

アスカは大きく伸びをすると、両手で頬を叩き街の中へ足を踏み入れた。

「ボーマンが心を読めないとはな。だが、気持ちの良い青年だな。森に入れるのも納得だ」

ロベルトは、二つのりんごを見つめて呟いた。

「名前を聞くの忘れてた!」

ゾフィは慌てて振り向くが、アスカの姿は既にそこには無かった。

「雨が止み喜んで、パレードから外され落ち込んで、しかし彼と出会えて気分は最高潮だ。パレード以上の物が手に入ったな。心はみんな決まってるみたいだけど、これは四人の秘密という事で」

ボーマンはりんごを目の前に掲げると、ウインクをした。

「そうだな。街は今傷ついている。戦えるのは俺たち四人しかいないから仕方のない事だと諦めていたが……やはり、リカルドの言う通りだったな」

ゾフィは、アスカが通って行った門から目を離す事なく答えた。

「良い事があるって言っただろ?だから俺の勘は必ず当たるんだって!」

リカルドは、両手の人差し指でチョビ髭をなぞった。

「しかし俺たち四人を、ギャリバング王国から、このレガリアントの街に送るとはな。最近の王は……」

暗い声のボーマンをロベルトが止めた。

「そこまでだボーマン!我らは王の命令に従うのみ!それがギャリバングの盾と言われる我らの務め」

「いささかカッコ悪いけどな。守護天使とか聖騎士団とか他になかったのかね?」

「ヘイヘイ、リカルド……そっちの方が恥ずかしい」

ゾフィは振り向き、恨めしそうにリカルドを睨んだ。

「しかし、長年続いた雨は上がった。後は銀狼の娘たちが無事帰ってくる事を祈ろう」

ロベルトは晴れ渡る西の空を見上げ、りんごを一口齧った。

「ヘイヘイ!勤務中ですよ」

ゾフィの言葉に咳き込むロベルトと、楽しそうに笑うリカルドとボーマンは、ギャリバング王国が誇る最強の四人である事を、アスカはまだ知らない……


『黄金の箱は消えた。しかし残った木箱に収められたりんごは、この世界ではそれ以上の価値があった。アスカはりんごを餌に最強の四人を手玉に取り、まんまと街の中に忍び込んだ。
行けアスカ!お祭り騒ぎに便乗せよ!
次回予告
女将』

「おいおい!ちゃんと見てたのか?人をコソ泥みたいに言うな!騒ぎに便乗して盗みなんかするか!」
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