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20 森

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「これで最後だ」

キュウが枝を走り回り、りんごをもぎ取り、落としたそれをアスカがキャッチして回収した。

「キュウお疲れ。それにしてもこんなに貰って良かったのか?」

『気にするな!まだ欲しいならそう言え!』 

「いやいや!もう十分だよ」

『そうか!……』

木のモンスターは残念そうに口を曲げた。

『ところでこの森に何しに来た!』

「休憩だ!」

『……休憩か!』

「爺さん俺の仲間にならないか?」

『いきなりどうした!やはり仲間を求めて来たのか!』

「そうじゃないんだが、仲間になればいつでも美味いりんごを食えると思ってさ」

『ぐぬわぁぁぁぁぁ!』

木のモンスターは口を大きく開けて吠えた。堪らずアスカたちは耳を塞いだ。

『キュウ~』

「うわぁ!気に障ったか!?悪りぃ今のなしで!
なしじゃなくて、りんごだけど~」

『久々に!何度も笑ったわ!』

「何ぃ~!怒ったんじゃぁないのか?」

『怒る?怒る要素など!何処にある!赤を褒められ!仲間にまで誘われ!笑わずにはおれんわ!』

「もっと分かりやすく笑ってくんねぇか?」

『仲間に誘われた事など!長年生きて来て!初めての事だ!』

「そうか?超人気だと思うけど」

『嬉しい申し出だが!ワシはここを動く事ができんのだ!』

「根を張ってるからか?実はその気になれば動けるとか?」

『ワシはトレント!若いトレントは動けるのだが!歳を取るとそれも難しいのだ!』

「採れんと?美味いりんごが沢山採れるから、『採れる』だろ!トレル爺さんだ!」


『……』

トレントは目を大きく開けて絶句した。そして空気が震えるほど、吠えた。

『ぐぬわぁぁぁぁぁ!!!』

「わ、悪りぃ!じょ、冗談だよ!」

『小僧!名前まで付けてくれるか!益々気に入った!』

「そうだった。その笑い方、紛らわしいな!」

『良い事を教えてやろう!これより奥には!もっと珍しいモンスターが!ウヨウヨおる!そいつらを仲間にしてはどうだ!』

「ん~。仲間を探しに来た訳じゃ……そうだった!仲間を助けに行く途中だよ!」

『そうか!奥へは行かんのだな!珍しく欲の無い小僧だ!』

「俺はもう行くよ。りんごありがとな!ゲロ美味かった!次会う時は必ず仲間にするからな!それまで元気でな!トレル爺さん!」

『それは楽しみだ!次があればな!』

アスカは森の入り口へ向けて走り出した。

『ゲロ美味かった!か……面白い小僧だ!』


少し走ると入り口に着き、木が無くなり雨が降っていた。森との境界線のようであった。

「ここを出るとまた濡れちまうな……」

その時後ろから、あの唸り声が聞こえた。

「何が楽しいんだか。トレル爺さん大声出して笑ってらぁ……うしっ!行くか!」

両頬を叩き、森の外へと走り出すアスカは振り向かない。

しかし、キュウとミミは違った。肩の上で名残り惜しそうに振り向いた。この場所を知っている。

キュウとミミの目に写る森は、徐々にその輪郭を失い、遂には消えてしまった。

それを確認したキュウとミミは、アスカの横顔をチラリと見て微笑むと、アスカと共に目指すべき未来を見据えた。

~~~

アスカは岩の上に登っていた。

「やっぱり何か見えるぞ!街じゃないか!?」

雨が邪魔して良く見えないが、遠くに大きな影が見えた。

「くぅ~!ようやくだ!雨にも負けず、蜘蛛にも負けず、魔物の大群にも負けず、やっとここまで来たぞ!雨の馬鹿やろぉ~!」

感極まって空に向かい叫んだ途端、顔に黒い水の塊が落ちて来た。

「ガボガボガボ!」

堪らず下を向くが、それは止まらず、背中に受ける水圧により岩に押し付けられ、這いつくばってしまった。

「ぐぬ~!ハァハァ。っそったれ~!でっかい蛇口でも捻ったのか!?ここは水中かよ!負けんぞ~らぁ~!」

滝のような黒い雨に必死で立ち上がり、天に向かって拳を突き上げた。

「っらぁ~!」

するとそれは、嘘のようにピタリと止んだ。そして辺りに溜まっている黒かった水が、透明な普通の水に変わった。

いつまでも続くと思われた雨が止んだ。

「ハァハァ。どうだ!見たかぁ~!大丈夫か?」

『キュ……』

『ミ……』

キュウとミミは岩にしがみ付き、グッタリしている。

「ハァハァ。少しここで休もうか……はぁ」

謎の黒い蛇口雨で体力を使い果たしたアスカたちは、岩の上で横になり体力の回復を待った。

しばらくするとキュウが立ち上がり、濡れた体をブルンブルンと震わせ水を飛ばした。

「キュウ!もう少しでモフモフ出来るな!やっぱり太陽はいいな!」

雨が止み、視界が晴れ、目の前に街がはっきりと見えるようになった。その街の上には美しい虹が現れた。

「マジだ!間違えた!街と虹だ!待ってろよ!行くぞ~!とう!」

アスカは岩から飛び降りた。
泥水を巻き上げ着地した瞬間、火山でも噴火したかのような音と地響きで、地面が大きく揺れた。

「あららら!何だ!これも俺がやったのか?」

手をバタつかせバランスを取りつつ、右足を大きく上げて地面に踵落としをお見舞いした。

「ストーップ!」

揺れは収まった。

「ふぅ~止まった。今のは何だったんだ?」

足で地面を数回踏みつけたが、再び揺れる事はなかった。岩の上からキュウたちが、アスカの肩に飛び移った。

「無意識に力を使ってるな?落ち着け俺!」

程良く勘違いをしたアスカは、早る気持ちを抑えきれず、街に向かって走り出した。


「ハァハァ。意外と遠いな、後半分くらいだな。しかし近くで見ると壮大だな!」

街はテランタ村の何十倍も広く、四方は高い壁で囲まれている。川には橋がかかっていた形跡があり、石造りのそれは見るも無惨な状態であった。

「何ぃ~!壊れてるのか~!?そうか!さっきの黒い大雨のせいだな。街が壊れる前に止めれて良かった。しかし向こう岸に渡る方法を考えないとな。ん?あれは何だ?」

鋼鉄製の扉のようなものが地面から生えていた。それは、蔦や苔に覆われていた。

「おいおいなんだこりゃ!誰かが殴ったのか?それとも何かのオブジェか?」

扉は中央にへこみがあり、そこには拳の跡が残っていた。アスカは扉に肘を置き頬杖をした。

「ん~。謎!」

考えるのを止めて街の入り口に向かった。


~~~


「お~い!誰かいないのか~!開けてくれよ!」

鋼鉄製の門扉は固く閉ざされている。

近くに門番等は見当たらない。
それどころか誰もいない。
どのようにして入れば良いのか分からなかった。

「さっきの蛇口雨で、みんな流されたのか?」

向こうの様子は何も伺えず、門扉に耳をつけても何も聞こえなかった。
右下には小さな潜り戸があるが、土が詰め込まれていた。

「困ったなぁ。グリーンだとこんな壁ひとっ飛びなんだが……そうか!川も飛んで行けばいいんじゃぁないか!……ここまで来る必要は無かった……よし!さっきの森に緑の魔石を探しに行こう!」

『キュ~!』

『ミミ~!』

その時、門扉が重い音を立てて開いた。

「は~あ。やってらんねぇなぁ~!」

「だよなぁ、こんな日に仕事なんてよぉ!おっ!」

開いた門扉の向こうから鎧を身に纏い、槍を持った騎士が四人出てきた。

「雨が止んで初の来訪者だな」

(お!チョビ髭が生えてる)

「へいへい、お前運が良いな!これから街はお祭り騒ぎだ」

(髪で目元が見えないな)

「そんな時に俺たちは仕事だとさ」

(背が低いな。みずぐるま亭のモジャモジャは元気かな?)

「愚痴を言うなボーマン!誰かがやらねばならん事だ」

(体格が良いな!身長は僅かに俺の勝ちだな)

「ロベルト様の命のままに!」

(ドンマイボーマン)

「そういう事だ。君、レガリストアントの街にようこそ!早速だが身分証を見せて貰えるか?」

(このロベルトってのがリーダーっぽいな。しかし身分証なんてないぞ)

「へいへい。ロベルトさんは熱心だねぇ」

(目元が見えないな。髪を切れよ)

「ゾフィも茶化すな!彼も困ってるだろう!君、済まないな、ギルドカードでも構わない」

ロベルトに言われた物が、何なのかアスカには分からなかった。

「ギルドカード?そんな物持ってないぞ」

「持ってない?貴族には見えないから身分証はないだろ?身分を示す物が無ければ、ここを通す事は出来ない。帰れ!」

(何だ藪から棒に!その髭むしり取るぞ)

「おい!リカルドしっかり説明しろ!君、悪く思わないでくれ。こいつらも悪いやつらじゃないんだが、雨が止んで直ぐの仕事だ、許してやってくれ」

「ああ。俺も雨が止んで嬉しいからな。その気持ちは分かる。だけど、中に入れないのは本当か?」

「身分を示すものが無けりゃ、金を払ってもらう他ねぇな。あればの話だが」

(クソ~!ゾフィだったか?面倒臭そうに言いやがって!俺には黄金があるんだよ!)

「ゾフィ!そんな言い方をするな!」

(良いぞロベルト!もっと言え)

「本当の事だろう?金貨一枚、お前に払えるか?」

ロバートに諭されたゾフィは、アスカに向けて手を出した。

(こいつ馬鹿にしやがって!見てろよ!)

「金貨は無いが、黄金はあるぞ!」

アスカは口角を上げ挑発しつつ、ゾフィの目の前で手を叩いた。
小さなブラックホールから黄金の箱が飛び出すと、ゾフィはバックステップでそれをかわした。

「危ねぇ!」

「スゲェ!どんなスキルを使ったんだ?」

「ゾフィ君、前髪で見えないのなら、切ることをお勧めするよ」

アスカは得意げに、右手の指で前髪を切る仕草を見せた。

(まだまだあるんだ!俺の旅は順風満帆!)

「これを換金すれば金貨の一枚や百枚なんて、ちょちょいのドンだ!」

アスカがドンと言ったタイミングで、黄金がくすみ始め、ただの木の箱に変わってしまった。

「はぁ~~!?」


『トレルと別れ、森を後にしたアスカ。森が消えた事など知る由もなかった。消えたと言えば雨雲と雨そして地震。自分が消したと信じてやまない。
そうそう、消えたと言えばもう一つ、黄金の輝き。錬金術の効果が切れた事も、アスカは知る由もなかった。
文無しアスカ!街に入る事は出来るのであろうか?
次回予告
木箱』

「ちょっと待ってくれ!まさか他の黄金もか!?」
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