傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第50話

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 快進撃。
 これは指揮官である岩松にも予想できないものであった。四島がいたところで、此処までの結果になるか。
 戦況はどうだ。
 二機に比べて、スペックの劣るリーゼすらもほぼ無傷で勝利を重ねているではないか。
「アレには誰が乗っているのかね?」
 岩松が尋ねると、佐藤が少し悩む時間をとってから答える。
「あー、多分、四島でしょうね」
 馬鹿のように正直に阿賀野が乗っている。などと答えるわけがない。それは、それで美空の願いを叶える形にはなるだろうが、岩松がどのような行動に出るかが佐藤には予想ができないのだ。
「そうか。四島にはアレも過小評価であったというわけか。私の眼に狂いはなかったか」
 岩松の満足気な言葉を聞いていた佐藤は必死に笑いを噛み殺した。
 きっとこの場に美空が居たのなら、内心、全力で岩松を嘲笑したことだろう。嘲笑に値する程に今の言葉は愚かにも思えたのだ。
 岩松には人を見る目がないというよりは、人を見てこなかったと言うべきだろう。
「しかし、四島がそれに乗っては戦力が減退すると思うが?」
「それは自分の判断ではありませんので」
 向かった戦場。
 どの機体に乗るかは佐藤にも、坂平にも、岩松にすらも決められない。
「……四島は、優しいやつです。きっと、仲間を殺したくなかったのでしょう……」
 そんな言葉が佐藤の隣から聞こえた。
 全くもって勘違いだ。訂正はしない。正す事は許されていないから。
「甘いな……。あの不完全なリーゼでは役に立たんと……」
 坂平が答えた後に、岩松が何を呟いたのかは分からなかった。だが、岩松は僅かに視線を手元に向けた。机の影になって見えないが、そこには何かが隠されているはずだ。
 モニターに映る、戦場。
 そこには何者かの悪意が渦巻いている。
 怖気の走るような邪悪。
 その一端を目の前に座す、岩松から佐藤は感じ取っていた。
 佐藤は不意に横に座る坂平を見遣る。
 モニターに熱心に視線を送る、彼の姿のみが佐藤の瞳に映った。
「…………」
 だから、佐藤もまた視線をモニターに移した。自分の信じた最強を見届けようと。
 きっと坂平は、目を逸らす事は許されない、と自らに言い聞かせているのだろう。
「…………」
 坂平はギリギリと拳を握りしめる。その力は今にも血が溢れそうなほどに。
 子供が死ぬことを求める大人。
 彼らを見ろ。
 必死に戦っているのは大人ではなく、子供達なのだ。
 大人の自分たちが情けない。
 そんなものではない。そんなもので済まされてはならない。
 坂平は自らの罪を問い続ける。
 佐藤は岩松を警戒していた。
 岩松は愛国心のもとにある。
 この場にいる誰もが、それぞれの感情を抱いていたことは確かだった。






 竹倉の後を四島は追いかける。
 追いかけると言っても、そこまで急いでいると言うわけではない。ゆっくりと言うわけでもない。
 ただ、日常を歩くように。
 度々、竹倉は後ろを振り返る。
 夜空が彼らを隠す。
 電灯もあるが、少しばかりの道を照らすだけ。
「もう少し早く歩けるか?」
 急かしているわけではない。
「…………」
「今、病院行っても、どうせ開いてないからな」
 時刻は深夜。
 行こうと誘ったのは良かったのだが、時間を考えても沙奈に会う事はまだ不可能だろう。
「ああ、そうか」
 空のことなど気にしていなかった。
 目に入っていなかった。ぼうっと歩き続けてきたから。どうでも良かった。進まなければならないと言う強迫観念によって、足を動かし続けてきたから。
「なら、どこに向かってるんだ……?」
 四島が小さな声で竹倉に尋ねる。
「俺の家だよ」
「竹倉の家?」
「母さんと父さんに会いたくないなら、別のところでも良いんだけどな」
 竹倉はこれ以上に四島にストレスを与えるつもりはなかった。沙奈と四島を引き合わせると言う事はストレス以前の問題であった為に、これに関しては譲るつもりはない。
「俺の家でいいか……?」
「別に良いけど……」
「悪いな」
 竹倉は四島の家を知っていた。
 あの家は四島が居なくなってから、誰もいない幽霊屋敷のように人気ひとけがなくなっていた。
「なあ、あの家って……」
「養父の残してくれた家だ」
 育ててくれた男が残してくれた家。金はそこまでなく裕福ではなかったが、問題はなかった。つい数年前に病気で、その養父は亡くなったのだ。ただ、今でも四島の本当の親は見つかっていない。
 養父の知人であった事は確からしい。
「そうか」
「今は誰もいない」
 だから提案した。
 今は竹倉以外の知人に会うのが怖かった。竹倉と話すことさえ、酷く恐ろしかったと言うのに。
「ありがとうな……」
「何だよ、いきなり」
「気を、遣ってくれてるんだろ」
「別に、そうじゃない」
 ただ、竹倉は思っただけだ。
 このまま四島が沙奈に顔を合わせなければ兄妹揃って報われないと。
「……そうすべきなんだよ、俺は」
 見捨ててはいけない。
 竹倉は、この完全無欠であったはずの、ただの人間の、ただの男、ただ一人の兄を友として救いたいと思ってしまったから。そんな彼の妹までを救わなければならないと考えてしまったから。
 だから、背中を押す。手を引いてやる。
 そこらにいる、何千もの凡人と変わらなかったとしても。それくらいの事は許される筈だ。同じ人間を救いたいと願うことくらい。
 彼は自らの行動に義務を感じている。
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