傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第22話

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 爆風が木々を揺らす。世界がブレる。爆心地となったリーゼは焦げて原形を留めずに吹き飛んでいる。
 焦げ臭い匂いが辺りに充満し、爆風が晴れたその場所に右腕を失った赤い巨兵。タイタンがそこに立っていた。
『ーーおい! 大丈夫か、ミカエル!』
 リーゼパイロットとは違い、口元が空いている通信機能持ちのヘルメットから慌てたような声が聞こえてくる。
「大丈夫だよ。命に別状はない」
 ミカエルの返答を聞き、ほっと息を吐き、胸を撫で下ろす。
 突然、轟音が鳴り響き送られてくる映像が暖色に染まってしまったのだから焦らないわけがない。
「ただ、残念だけど右腕が持ってかれちゃったし、左腕も制御が効かない。機体はボロボロ。もう戦闘は出来ないかな」
 淡々と現状を説明すると通信機の向こうにいる男はすぐに答えた。
『ああ、十分な成果は見ることができた。自爆にさえ気を付ければ戦力として問題はないだろう』
「なら、俺はもう帰っていいよね、アダムさん?」
『ああ、構わない』
「アイザックさん達に謝ったほうがいいのかな?」
 せっかく、整備してくれたと言うのにたった一度の戦闘でここまでボロボロにしてしまってはミカエルも申し訳なさを感じる。
『いや、君が生きているだけで彼は喜ぶさ。それに、もし謝りに行くというのなら謝りには私が行こう』
 どこか陽気さを感じさせるような声でアダムがそう提案した。ミカエルにしてみれば謝りに行くのは面倒なことであるのだが、アダムという男にはそれが嬉しく感じるようだ。
 奇妙な人だと、ミカエルは思った。
 ただ、それはミカエルの認識の上ではだ。アダムが嬉しさを感じているのは、アイザックという英雄と話すことができるからだ。
「アダムさんもおかしいよね。オジさんに会っても俺は嬉しくないよ」
『馬鹿! お前、あの人はアスタゴの英雄なんだ。そこらのおじさんとは違う!』
 若干の早口でアダムが言うと、ミカエルは興味なさげに溜息を吐く。
 地面を揺らしながらタイタンは海へと向かい歩いていく。
「……早く帰ってドラマが見たいな」
『アスタゴに戻れば見放題だ』
 アダムが答えると、ミカエルは疑問を口にした。
「いいのかな?」
『何がだ?』
「いや、俺がこんなに贅沢してもさ」
 ミカエルの問いにアダムはふと笑い、
『君は最強だからな。これっぽっちの贅沢なんて贅沢とは言わないさ。君ならアイザックさんに次ぐ英雄になれる』
 と答える。
「別に英雄なんかに興味はないけど」
 
 ーー少しは楽しめるといいな。
 
 負けたことがない。張り合いがない。楽しくない。スリルがない。
 そんな退屈な世界から抜け出そうとして飛び込んだ命がけの世界でなら、きっと何かが得られると思ったから。
 それだけ、ミカエル・ホワイトという男は強すぎたのだ。








 艦内にも爆音が聞こえた。
 降り頻る雨すらも吹き飛ばすような轟音だった。ビリビリと響くそれが、飯島の不安と恐怖を加速させていく。
 何が爆発したというのか。
 答えはすぐに示される。
 艦内に放送が入り、先ほどの爆発の原因が伝えられる。
『謎の機体との接敵により、リーゼ一機が破損、爆発した』
 リーゼが爆発したという言葉に呆気にとられてしまっていた二人であったがフルフェイスのヘルメットを被り、通信を入れた。
「どういうことだ、岩松管理長っ!」
 怒鳴り立てて、飯島が通信機の向こう側にいる岩松に質問をする。
 その問いにやけに落ち着いたような声で返答が来た。
『どういう事、か……。それが君に関係あるのかね?』
「何があったか吐け!」
 怒りが湧き上がる。殺意を覚える。飯島は顔を歪める。
 形容ができないほどにその表情は混沌としていて、それを見ていた山本もゾッとして、後ずさる。
『ふむ、どうしても知りたいか。いいだろう』
 岩松が仕方がなしと、ため息を吐く音が聞こえた。
『ーー察していると思うが、松野美優は戦死した。先の爆発はその戦闘によって引き起こされたものである』
「何があったのか、もっと詳しく教えてください」
 山本が具体的な説明を求める。
『そうだな。松野君が死亡してしまった理由だが、敵機との戦闘が原因だ。食糧確保の護衛を任せたが、その途中、敵機体と接触があった』
 そこで行われた戦闘について、岩松は一言で言い表した。
『ーー圧倒的であった』
 それがリーゼとタイタンの戦闘。
 松野とミカエルの戦いに対する外部からの評価だ。
『あれはアスタゴの兵器であろう。スペックに関してはリーゼよりも上かも知れんな』
 リーゼと同じようにその両肩には旗が描かれていた。大陸が描かれた黒色の旗。数多の星々が集まったアスタゴ国旗。
 タイタンを思い出しながら岩松は口にした。
『アスタゴの攻撃を受けた松野君の生命維持は不可能であると判断し、リーゼを自爆させた』
 隠す必要もないだろう。
 どうでもいい事の様に男は告げた。
「は? な、何で?」
『使えない道具を使える道具にするのも、指揮官の役目と言うものだ。死にくモノを有効に活用した。それだけだ』
 理解ができなかった。したくもなかった。飯島の怒りが深まっていく。
「自爆させる必要はあったのか!」
 テーブルを右手に握りしめた拳で力強く殴りつける。ぎゅうっと握りしめられた手からは赤い液体が滴りテーブルに垂れていく。
 それほどの感情が飯島の中で暴れまわっている。
『必要があったか? 決まっている。必要があった。私がそう判断した』
 指揮権は全て岩松にある。
「ふざけるな……」
『ふざけてなどいない。君たちは私の命令を聞けばいい。私の判断に従えばいい。子供は大人の言うことを聞いていればいい。それが最も有効に働くのだからな』
 言ったはずだ。
 聞いたはずだ。
 それは一番初めに。
『ーー独断行動は断じて許さない』
 確認する様な言葉。
 ただ、その言葉が彼らには脅迫の様に響くのだ。
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