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第18話 未遂っぽい

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 その日の真夜中。妙に身体が重いと感じ、身動いだが、おかしい。身体が動かない。金縛りだろうか。
 やがて、意識が覚醒してきたので、瞼を動かしてみると、目は開くことができた。
 その瞬間、僕の身体に乗り上げた人と、それを羽交い絞めにしているルドの姿が目に飛び込んできた。
 え!? どういう状況なの!?
 暗闇の中、目を凝らすと、ルドが抑えている人の手には、刃物が握られている。
「ル、ルド……? どういうこと……?」
「死ねーーーーーーー!!!!」
 僕が目を覚ましたことに気づいたのか、ルドに羽交い絞めにされている人影が暴れだす。
 うぅっ……二人分の体重を受けて、ただでさえ苦しいのに、そんなに暴れられると、内臓が飛び出そうだ。
「大人しくしろっ!」
 暴れる侵入者を、ルドが強く押さえつける。やがて、手に持った刃物を叩き落とすと、両手を後ろで捻り上げた。
 これって、もしかして、誰かが僕を殺そうとしたところを、ルドが阻止したってこと……?
 しかも、よく見ると、ルドが取り押さえた人物は、昨日倒れていたところを、診療所に運んだが、今朝になって姿を消していた、あの少女だった。
 ますます訳が分からない。なぜ、彼女は僕の命を狙っているんだ?
「しばらくそこで大人しくしていろ」
 暴れる少女を紐で拘束したルドが、イマイチ状況が呑み込めていない僕に、説明をしてくれる。
「ウィルがベッドに入った後、俺も眠ろうとベッドに入った。だが、しばらくして、何かの気配がしたので周囲を確かめようと起き上がると、窓から侵入してきた彼女が、ウィルに向かっていくところだった。手に持っている刃物が見えたので、こうして取り押さえた」
「そ、そうか……」
 わぁ。本当に僕の命を狙ってきたんだね……。
「あの、僕を狙ったっていうことは、やっぱり――」
「ああ、十中八九、ルシャード殿下の命令だろう」
「そ、そうだよね……」
 クーデターをなんとか逃げおおせた僕の命を狙って、ルシャード殿下が彼女を差し向けたということか。
「それにしても、こんな小さい子が、なぜ? 暗殺者にしても、幼すぎると思うんだけど」
「ボクはもう一人前だ! 歳も、大きさも関係ない!」
「わっ!?」
 ルドに拘束されて、悔しそうに下を向いていた少女が、突然大声を上げた。
 少女は、自分が出してしまった声に、自分で驚いたような顔をして、また下を向いてしまった。
「どうしよう……」
 暗殺者が送られたということは、僕の居場所がバレているということだ。ここにとどまる限り、きっとこれからも命を狙われるだろう。この町を早急に離れなければ。
「ウィル、今すぐこの町を出る。急いで身支度を済ませるんだ」
「え、う、うん。わかった」
 良かった。ルドも同じ考えだったみたいだ。
「この子はどうしよう? このままここに置いてくわけにも――」
「情けは無用だ! 今すぐボクを殺せ!」
 えー……そんな無茶な。そんなことできるはずない。
「ウィル、そうするしかない。そうしないと、また命を狙われる」
「そんなの嫌だよ、ルド! まだこんなに小さい子供なのに」
 僕は、いくら自分にとって危険だとわかっていたとしても、人の命を奪うようなことはしたくなかった。子供ならなおさらだ。
「だが――」
「そうだ! この子も一緒に連れて行こう!」
「何を――」
「一緒に連れて行けば、暗殺の失敗もしばらくバレることはないし、身を隠すための時間を稼げるでしょ? その間に、この子をどうするか考えよう」
「――――わかった。今は時間がない。いったんはそうしよう」
 良かった。ルドが納得してくれた。
「これから拘束を解くが、暴れるなよ?」
「うるさい! 今すぐ殺せ! お前たちの情けなど不要だ!」
 そのままだと目立つから、拘束している縄を解こうとしたルドに、少女は噛みつかんばかりの勢いだ。
 困った。このままでは一緒に連れて行くなんて不可能だ。急いで移動しなければならないのに――
「そうだ! ハインツさんの闇魔法だったら、身体を拘束することもできるんじゃないかな? 魔法だから、目に見えないよね?」
「しかし、あれには何と説明する?」
「そ、そうだよね……」
 ハインツさんとは、一緒にパーティを組んでいる仲だ。それなりに親しくしていると思う。
 だけど、僕の正体を明かすことはできない。そうすることで、ハインツさんにも危険が及ぶ可能性があるからだ。
 だから、ハインツさんには申し訳ないけど、何も伝えずに、この町を出るのが得策だ。

「呼びましたか?」
「え……?」
 少女をどうやって連れて行こうかと途方に暮れていると、思いがけない人が窓から入ってきた。
「ハインツさん!? どうして!?」
「ウィルが私を恋しがっているような気がして」
「その口を閉じろ! 今はふざけている暇はない」
 いつも通りのハインツさんの軽口に、ルドがあからさまに苛立っている。
「おや。今日はまた一段と気が立っていますね」
「ハインツさん、僕たち急いでこの町を出なければならなくなったんです。だから、その、ハインツさんとはもう――」
「事情はよく分かりませんが、私も一緒に行ってもいいでしょうか?」
「え!?」
「せっかく一緒にパーティを組んだ縁が途切れてしまうのは残念ですし、私ももっとウィルと一緒にデートしたり、歌を聴いたりしたいんです」
「だけど……」
「それに、ウィルたちは何か訳ありのようだと、以前から思っていました。あまり目立ってはいけないような立場なのでしょう? ちょうどいい隠れ家に、心当たりがあります」
 ハインツさんは、そこまで気づいていたのか……。確かに、僕が酒場で歌う時も、正体がバレることを避けていたし、家族でもなんでもない、年の離れた僕たちが一緒に旅をしているということも、よく考えると不自然だ。
 鋭いハインツさんなら、何か感じるところがあっても不思議ではない。
 だけど、ハインツさんを巻き込んでしまえば、彼の身も危険に晒すことになりかねない。
「ウィルは酷いです。ウィルの可愛い寝顔を見ようと、いつものように窓から覗き込んでみたら、何やら夜逃げのような準備をしているではありませんか。私に黙っていなくなるなんて、酷いです。あんなに愛し合った仲なのに――」
「黙れ」
 ルドがめちゃくちゃキレている。
「あ、あの、ハインツさん、もしかして酔ってます?」
「いいえ。私は酒にとても強いのです! ちょっとやそっとの量では酔いませんよ」
「はぁ、そうですか……」
 ていうか、いつものように窓から覗いたって言った……? うん、今は時間がない。あまり深く考えないようにしよう。
「はぁ……はぁ……」
 僕たちが、真剣に、アホみたいなやり取りをしていると、少女が苦しみだした。
「え!? 大丈夫?」
 慌てて駆け寄ると、凄い熱だ。やっぱり、完全に回復したわけではなかったんだな。とりあえずの応急処置として、回復魔法をかけると、すこし息が落ち着いたようだけど、まだ苦しそうだ。僕の魔法では、完全に治すことは難しいのかもしれない。
「ハインツさん、お願いがあります。今は言えないけど、事情があって、僕たちは、この子を連れて、この町を出ます。僕たちと一緒に来ると、ハインツさんも、危険なことに巻き込まれる可能性があります。だから――」
「いいえ! 私も一緒に行きます! ウィルに危険があるとなればなおさらです! 絶対についていきます! その男だけで、ウィルを守り切れるとは思えません!」
「貴様……」
「ルド!」
 おっと危ない。最近は二人が口論することも減ってきていたから油断していた。ハインツさんに今にも飛びかかろうとするルドを慌てて制止する。

 その後、少女が熱で朦朧としているため、抵抗も止み、魔法なしでも拘束していた紐を解くことができた。
 急いで身支度を整えると、僕たちは数か月お世話になった宿屋を出て、北西へと向かった。
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