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第12話 女の子っぽい?

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「お客さん!いつになったら代金を支払ってくれるんだい?」
「本当にすまない。どうかもう少し待ってはくれないか?」
「確か、この前もそう言っていたと思うけどね? まさか、踏み倒そうなんて気はないだろうね」
「まさか! 絶対に全額きちんと支払う! ただ、今は持ち合わせがなくて――」
「じゃあどうやって支払うってんだ!? 当てはあるんだろうね?」
「そ、それは、もちろん――」
「とにかく! 明日までに全額支払えなければ、うちも出るとこ出させてもらうよ!」

 何を隠そう、僕たちは無一文である。
 クーデターが起きて、着の身着のままを脱出して来たため、お金はもちろん、お金に替えられるようなものも、ほとんど持っていなかった。
 そのままの服装では目立つこともあり、服や装飾品を売って、フライハルトに馴染めるような服を手に入れたが、リヒトリーベでは高価なものでも、フライハルトでは、たいした価値にならず、2~3日の宿代と食事代を支払うと、全てなくなってしまったのだった。
 1週間ほどは待ってもらえたものの、どうも僕たちがお金を持っていなさそうだと怪しんだ宿屋の店主に、こうして毎日のように厳しい取り立てに合っているのだ。

「ルド、いつも嫌な役を押し付けてしまってごめん」
「いや、それは仕方ない。年長の俺が交渉するのが普通だ」
 フライハルトに入国して1週間ほどが経ち、ルドも慣れて、僕に敬語を使わないで話せるようになった。
 それに、これまでは自分のことを『私』と言っていたのに、今は『俺』と言っている。どうやら、こっちの方が、ルドの素なのだろう。
「僕考えたんだけど、まずは、お金をなんとか稼がないといけないと思うんだ。この前、ハインツさんに、この国では冒険者ギルドがあって、依頼をこなすと対価を貰えるって聞いたんだ。僕たちも、冒険者登録して、稼ぐっていうのはどうかな?」
「それはダメだ!!」
「え、どうして? いい考えだと思ったんだけど」
「どうしてもだ! 冒険者ギルドの依頼といえば、魔物の討伐がほとんどだ。俺は剣さえあれば何とかなるが、ウィルはどうやって魔物を倒すんだ?」
「それは――」
「倒せないだろう? それにあまりにも危険すぎる。もしウィルに何かあれば――」
「僕は大丈夫だよ! 今は役に立てないかもしれないけど、最初は弱い魔物の討伐から始めて、徐々にレベルを上げていけば大丈夫って、ハインツさんも――」
「あの男の言葉は聞かなくていい! 身元のはっきりしない者に不必要に近づくなとあれほど――」
「ハインツさんはいい人だよ!! ルドこそ、そうやって人を疑ってばかりいて、性格悪いと思う!」
「なっ――――」
「そんなにルドが嫌なら、僕一人でも冒険者ギルドに登録して、依頼を受けるからいい!」
「ちょっと待て、ウィル!!」

***

 あまりにルドが頭の固いことを言うものだから、ついカッとなってしまった。これ以上ルドと口論するのが嫌で、宿屋を飛び出した僕は、その勢いで、冒険者ギルドにきていた。
 お金がなくて、金策を考えてみたが、どう考えても、冒険者として依頼をこなすことが一番のように思えた。
 この世界には、冒険者ギルドという組織があり、そこに登録すると、誰でも冒険者と名乗ることができるようになる。
 前世でいうところの『個人事業主』と同じような感じだ。
 冒険者個人が依頼を受け、それを達成すると、対価がもらえる。ただ、依頼の内容は、前世とは違い、『魔物の討伐』だけど。

「あの、冒険者登録をしたいんですけど」
「かしこまりました!こちらに必要事項を――っと、失礼ですが、おいくつですか? 未成年の場合は、成人1人以上を含むパーティでの登録が必要です。ソロの場合は、成人してからでないと登録できません」
「えっ、そうなんですか?」
 しまった、知らなかった。
 僕はもうすぐ17歳になるけれど、リヒトリーベもフライハルトも、18歳で成人だ。このままでは、冒険者登録すらできない。

「ウィル、遅くなってすみません。私がパーティを組んでいますので、問題ありません」
「えっ――」
 隣を見ると、ハインツさんが立っていた。
「そうですか。では問題ありません。こちらに必要事項を記入して、3番の窓口に提出してください」
「わかりました。ありがとう。さぁウィル、あちらで書いてしまいましょう」
「は、はい……」
 ハインツさんに促され、筆記用具などが用意されているスペースへ移動する。
「あの、ハインツさん、どうして――?」
 なぜハインツさんが僕とパーティを組むなんて嘘を言ったのか分からず、問いかける。
「あぁ、それは、ウィルが困っているのではないかと思いまして」
「え、僕が?」
「ええ。この前、言っていたでしょう? お金がなくて宿代が支払えないって。それを聞いて、冒険者ギルドの話をしたのは私です。ウィルは乗り気のようでしたけど、彼はきっと反対するだろうと思っていました」
「はぁ、ハインツさんはなんでもお見通しですね。今日ルドに話したら、思いっきり反対されてしまいました」
「そうでしたか。実は今日、さっそくデートのお誘いをしようと宿屋に伺ったところ、飛び出して走っていくあなたを見かけまして、ここまで追いかけてきたんです」
「そうだったんですね。お恥ずかしいところを見せてしまいました……」
「いえいえ。怒ったウィルも可愛らしかったですよ」
「かわい……!? もう、ハインツさん、からかうのはやめてください!」
 ハインツさんの軽口に、不覚にも赤面してしまう。
「本心ですよ? ウィルはとても魅力的です。ほら、今もあちらの冒険者がウィルに見惚れています」
「え?」
 指をさされた方を見ると、若い冒険者の男性と目が合った。
「僕じゃなくて、ハインツさんを見ていたんじゃないですか?」
 絶対そうだ。ハインツさんのような容姿ならともかく、僕が男性に見惚れられることなんてあるはずがない。
「ウィルはもっと自分が美しいことを自覚したほうがいいですよ? そうでないと悪い男に酷いことをされてしまいますよ?」
 ハインツさんの目が怪しげに細められる。こういう表情をすると、すごく色っぽい。
「ご心配ありがとうございます。でも僕は男なので、万が一危害を加えられても自分で対処できます!」
 あまりにもハインツさんが僕のことをか弱いと決めつけるようだから、つい腹が立って、大きな声を出してしまった。
「えっ――」
 あれ? 声が大きすぎたかな? ハインツさんが、鳩が豆鉄砲を食ったような顔している。
「ーーーーウィルは、男性だったんですね」
「えっ――」
 今度は僕がキョトンとする番だ。
 もしかして、ハインツさんは、僕のことを女性だと思っていたのだろうか。そんなまさかね。
「すみません、初めて見たウィルがあまりにも美しく、その歌声がこの世のものとは思えないほど素晴らしかったので、てっきり……」
 マジか。この人本当に僕のことを女性だと思っていたのか!
 いや、でも待てよ? 確か、宿屋の店主も僕のこと――今更だけど、僕ってそんなに男らしくないの!?
 ここにきて新事実判明である。
 王子として生活していた時は、髪色のことばかりが目立っていたので、自分の容姿がどう見えているかなんて気付かなかった。
――――今日から筋トレ始めようかな。
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