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第8話 甘えてばかりいられないっぽい その2

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 ーーぐうぅ~~~~~~
「……えへへ。お腹すかない?」
 気が抜けて、さっそく鳴り響くお腹の音が恥ずかしい。
「そうですね、ずっと飲まず食わずでここまで来ましたから。街に入ったら、まずは宿を探して、そこで食事をとりましょうか」
「うん! そうしよう!」
 色々あったけれど、異世界に転生して、初めてリヒトリーベ王国以外の国を訪れるのだ。ちょっとワクワクする。
「あ、それから、敬語も禁止だからね!」
「そ、それは流石に無理です――!!」
「却下! 年下の僕に敬語使ってるなんて変だもん。禁止です!」
「そんな……わ、わかりました。善処いたします……」
「ル~ド~~? 早速敬語になってるけど?」
 ルドの反応が面白くて、わざとジト目で見つめてみた。
「うっ……わ、わかり、わかった」
「よろしい!」

 緊張の糸が少し緩んだところで、ルドが、言いにくそうに切り出した。
「ウィ、ウィル、入国する前に、その、少し変装した方がいいかと……」
「え? あぁ、そうだよね……」
 僕の髪と目の色は、非常に珍しい。それだけでも目立つのに、その色が、この世界の伝承に登場する悪魔と同じ、黒なものだから、僕のことを知らない人は不気味がるだろうし、そうでなければ、すぐにリヒトリーベの第二王子とわかってしまうだろう。
「でも、どうやって変装すればいいかな?」
「――私は魔法が使え、る」
「え?」
 敬語を止めようと努力しているのだろう。ルドの喋り方がぎこちない。
「リヒトリーベで魔法が禁止されたのは、殿下……ウィルが生まれた頃だった、が、それ以前は普通に使われてい、た。私も魔力は少ない、が、簡単な魔法なら使え、る」
「うそ!? ルドって僕の護衛になる前は、騎士団にいたんだよね? もしかして、騎士って、皆、魔法が使えるの?」
「いや、当時の魔術師団所属の者たちに比べたら、私の魔力など微々たるもの、だ。それに、誰でも、少なからず、魔力は持っているから、魔法が禁止される前に生まれた大半の者は、簡単な魔法なら使え、る」
「そうだったんだ……。小さい頃からいろんな勉強をしてきたけど、魔法に関することは何も教わらなかったから、そんなこと全然知らなかったよ」
 この世界に魔法が存在していたことを知り、テンションが上がる。誰にでも魔力があるのなら、僕も特訓すれば、使えるようになるかもしれない。
「無理もない。ウィルが生まれた直後に、陛下は魔法を禁止したばかりか、魔法について記されたものは、些細なものでもすべて焚書に、した」
「なるほど。だから僕は、一切、魔法について触れる機会がなかったんだね」
 僕に家庭教師がつけられた頃、僕は、この世界に魔法があるのなら、早く使えるようになりたいと考えていた。
 しかし、どの先生に尋ねても、魔法に関する質問には、答えてもらえなかった。
 だったら、自力で調べようと、城にある大きな書物庫を隈なく探したが、やはり、魔法について書かれた本は、見つけることができなかったのだ。
 そのため、この世界には、前世と同じように、魔法は存在しないと思っていた。
「陛下は、どうして魔法を禁止したのかな?」
「それは、わからない。ただ、王妃殿下が亡くなられたのを機に、陛下のお人柄が変化したのは確か、だ。お若いときに王になられたので、不敬にも、威厳がないなどと陰で言う者もいたが、それでも、人の心が通ったお方だった。しかし、王妃殿下が亡くなられてからは、王としてのお顔しかお見せにならなく、なった」
「知らなかった……」
 ずっと、陛下は、良く言えば、君主らしい、悪く言えば、情のない人だと思っていた。でも、それは、王妃殿下が亡くなってしまったことがきっかけだったのか。
 王妃殿下は、僕を出産したショックで亡くなったと聞いている。つまり、僕のせいで、陛下は変わってしまったということだ。

「で、ルドはどんな魔法が使えるの?」
 深く考えると、暗い気持ちになりそうだったので、話題を変えた。
「私が使えるのは、火と光の初級魔法、だ。光の初級魔法は、光を使った攻撃だけでなく、物質の色を変化させることなどもでき、る」
「おー! 光魔法で僕の髪色を変えるんだね!」
「あ、ああ。だが、魔力が弱いから、全く違う色にはできないと思、う」
「それでも、黒のままよりはずっといいよ!」
「それだけではない。効果も長くは続かない。仮に、朝、魔法をかけたとしたら、おそらく、夜には元の色に戻るだろう」
「そうなんだ……。ということは、毎日ルドに魔法をかけてもらうことになるね。ルドの負担にならない?」
「私は大丈夫、だ。ただ、色が元に戻るとき、人前にいないようにする必要がある」
「そうだね、気を付けないとだね」
 ただでさえルドには負担をかけてしまっているのに、魔法を使ってもらうことで、さらに負担をかけることにならないか心配だった。ルドとこのまま一緒にいれば、これからもずっと彼に迷惑をかけ続けることになるかもしれない。
「そんな顔をしなくて、いい、心配、するな」
 不安が顔に出てしまったのだろう。安心させるように、ルドが優しく頬を撫でてくれた。
 ポーカーフェイスの男前だから、一見、冷たい印象を受けるけれど、ルドは本当に優しいと、改めて思う。
 今は、剣も魔法も扱えなくても、特訓して、なるべく早く習得して、ルドと対等になりたい。護られてばかりいるのではなく、僕も、ルドのピンチに、彼を助けられるくらい、力をつけたい。

 ルドが使った光魔法は、一瞬で終わった。呪文みたいなものを唱えることもなく、ただ僕の髪をひと撫でしただけだった。
 魔法を使った瞬間、なんとなく、じんわりと身体が温かくなったと思ったら終わっていて、僕の髪の色は、紫がかった銀色になっていた。この色もあまり見かけない色だけど、黒よりはよっぽどいい。
 こうして僕らは、無事、フライハルト共和国に入国することができたのだった。
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