吸血鬼、アルロシオの愛しい生餌

雪紫

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先程までの葉月は、必死だったのだ。親とも、兄ともとれるこの世界の1番大事な人、アルロシオと離れ離れにならないように。

安堵と同時に思考も開け、今の状況もはっきりと整理出来てしまう。

「あっ、ある、アルロっ、は、はな、離してっ」

慌てふためき、距離を取ろうとするも、アルロシオはクエスチョンマークを浮かべるものの離すことはしない。
固く引き締まった身体、手で触れている部分には切り傷。素肌と素肌が、密着している。

今の自分の格好を思い出してしまい、葉月はじわじわと顔を赤く染める。

「今更何を恥じることがある?」
「いや、だ、だって……!」

アルロシオは上半身だけだし、裸で抱き合っているのはまだ耐えられる。だが、葉月は何度も達してしまっているのだ。1度シーツを掛けられたが、薄い腹には体液がかかった跡がある。

思えば、何をした?
キスをし、吸血され、下腹部を重点的に責められた。アルロシオの唾液の成分が効いているとはいえ、彼の眼下で乱れまくってしまった。

「は、離してってば」
「離すなと言ったり離せと言ったり、大変だな」

クス、とアルロシオが薄く笑みを浮かべる。
ゆっくりとベッドに倒れこまれ、葉月はアルロシオの下敷きになった。

「あっ、あ、やめっ、……」
「何度も言っているだろう、食事だ」

アルロシオは際どい部分から腹まで、下から上へ葉月の出したものを舐め上げた。

「ん、んっ、……は、っう……」

ゾクゾクと背が撓る。アルロシオの言う食事をしているだけなのに、下腹部が熱を孕むのが分かった。
腹にかかった精液が舐め取られても、アルロシオは葉月を昂らせた。舐めてくださいと言わんばかりにピンと硬くなった2つの小さな突起が舌先により攻撃される。クルクルと器用に舌を這わせ、ストローのように中心をぢゅっと吸われ、堪らず身体を捩って逃げる。

(おかしい、また、変だ)

アルロシオの指で掻き回されていた腹の奥が、妙に疼く。今は何にもされていないのに、またして欲しいと密かに刺激を求めている。

「アッ、アル、ロ、また、気持ちいの、やった?」
「気持ちいいか?」

髪をかきあげながら顔を上げたアルロシオにドキッとする。
こくこくと小さく頷くと、嬉しそうに彼は笑った。

「生憎今は、何の効果も使っていないよ」

身体が熱を持っているのは、純粋にアルロシオを欲しているから。彼に欲情しているんだ。

「う、嘘だ……、前から、よく吸血した時に、なってたし……、もしかしたら、今も……」

本当に自分が勝手に感じているだけだと理解しつつも、顔を逸らしながら言う。すると視線の先、アルロシオも今興奮している事が服の上からでも分かってしまった。
気恥しさと、嬉しさが相まって、言葉に詰まる。

「俺ばっか、良くしてもらったから……、えっと、食欲と、性欲を満たす、血みどろの、その……しても、……いいよ」
「そっ、……、する訳ないだろう……。あれはお前を怖がらせるだけで……」

しない、とはっきり言われどこか落胆する。血だらけになりたいとは望んでいないが、アルロシオに気持ちよくなって貰いたいという気持ちは確かに持っているのだ。

「アルは、いや?俺、は、アルロシオとだったら……し、したい」

後半はほとんど聞こえないような声だったと思う。だが、相手は人間ではなく吸血鬼だ。視覚もよければ聴覚も人以上だ。

「吸血鬼は分泌液を完璧にコントロールすることが出来る」
「えっ、と……うん?」

緊張していたのに、帰ってきたその言葉に首を傾げる。

「意図的でなく催淫作用が誤って働くことなどない。私はいつも、お前を欲していた」

つまり、吸血後、身体が昂ることが多くなったのは偶然ではなくアルロシオが図ったものだった、というわけだ。
アルロシオは葉月を閉じ込めるように抱きしめる。


「……嫌だと言われても、やめてやらないからな」


やめて欲しければすぐに言えと言っていたアルロシオが、そう囁いた。




今からどんなことをするのか、経験はないが想像の着いてしまった葉月はドキドキと鼓動を打ち鳴らし緊張していた。
覆いかぶさっているアルロシオが少し動くだけで、ビクリと身体を強ばらせる。

「怖くなったか?」
「ううん、ちょっと緊張してる、だけ」

首をふるふる横に降るのを見てから、アルロシオは再び葉月に触れる。

「ぅ、……んんっ」

いつも牙の刺さる部分から、鎖骨、胸板、と大きな手が這う。触れているだけでビクビクしてしまう自分が恥ずかしい。

「アルロシオ……、それ、ぅ、……やだ」
「ん、嫌か?先程は気持ちがいいと言っていただろう?」

胸の飾りを捉えられ、今度は舌ではなく長い指で弄ばれる。葉月の意思に関係なく固く芯を持ったそこはどうにもならない。嫌だと言っても良くなっているのは一目瞭然だ。

「あっ、ま、た……舐めっ」

葉月は背を丸めて震えた。快楽を生む部分ではないと思っていた場所が、弱い部分へと変わる。アルロシオの頭を抱え込み、身体から離そうとするが彼はびくとも動かない。

「……っ、わっ、あ……アルッ」

急にベッドから起こされ、アルロシオの脚の上に跨るように抱き抱えられる。腰を抱いた手とは反対の手が背骨を伝い下へ下へと降りていく。尾骶骨を過ぎ、柔らかな臀部を揉み、そして最後にはその合間に到達した。
強い催淫を掛けられて一度達するまで弄られたため、そこはアルロシオの指をすんなりと飲み込んだ。

「んっ、アルロシオ、それ……、やっ」

執拗に胸の尖りを楽しんでいたアルロシオが顔を離し、葉月を見つめる。

「やめるか?」

向かい合った状態で膝の上座っているため、いつもより顔の距離が近い。

「ちがっ、……嫌って言ってもやめないって、……言ったっ」
「本当に嫌だったらやめるさ。だが、やはりお前はやめて欲しくなさそうだ」
「あっ、……ぁ、……」

浅い部分で指が中を押し広げられるように蠢く。2本入った指は、左右に広げるように開閉を繰り返す。
アルロシオの肩に手を置き、傷のある胸にしなだれ掛かかった。

「ハヅキ」

名前を呼ばれ視線だけで彼を見る。食事の時とは違う、欲情の表情。向き合っているから、だらしない表情も上から見られていたのだと気づく。

「や、やっ……ぁ、ぁっ、んんっ」
「お前はどこもかしこも……。耳も、首筋も、背中も、私の視線ですら快楽か?」

言葉通りにその箇所に手が触れる。
逸らそうとした顔をキスで防がれた。頸を優しく撫でながら、もう片方は忙しなく中を貪っている。舌を絡ませあい時折漏れる水音とは別に、指の抜き差しで尻から聞こえる粘着質な音が羞恥を煽った。
2本の指は的確に葉月の弱点を捉え、最後のトドメのように腹の内側を内部から押し込まれた。

「んっ~~~~っ」

びくん、と身体が2度3度跳ねる。

2度目の射精を伴わない絶頂。催淫効果もないと言うのに、葉月は中の刺激だけで達した。だらしのない姿を晒しているというのに、アルロシオは愛おしそうに葉月にキスを落とす。

「は、……っ、は、……また、俺だけ、気持ち、よく、……」
「ん、苦しくないか?」
「ない、……から、アルロシオ、の、……も、はいる?」

未だ中にある指をぎゅうぎゅうと無意識に締め付けていたが、ゆっくりと引き抜かれる。

「腰を、上げれるか。膝を着いて、……そうだ、そのままゆっくり」

イッたばかりの後ろに、アルロシオの屹立したそれが当たる。腰を下ろしていく度に、ググッと押し入ってくる。指よりも遥かに大きい。

「無理はするなよ。痛かったら、辞めていいんだからな」

身体を支えてくれているアルロシオが、優しく背を撫でる。痛くてもアルロシオとなら大丈夫だ。葉月はアルロシオに貰ったように、彼にも気持ちよくなってもらいたいのだ。

自重で、少しづつアルロシオを受け入れていく。腰を下ろした頃には、中に馴染んできていて、痛みはなかった。

「アル、う、おれ、入った……」

アルロシオを見上げると、「偉い」と褒められるように頭を撫でられる。

「ハヅキ、……動いて、いいか」
「ん、うごい、て?」

優しい眼差しの中に、捕食者のようなギラついた視線も感じる。いつも余裕のある相手の余裕ない姿は、見ていてどこか嬉しいと感じる。

「ん、……ぅく、っ、はぁっ、うっ、……」

ゆっくり、少しづつ、上下に身体が揺れる。

(きつい、苦しい、……けど、満たされてる)
アルロシオの肩に腕を回し、言葉にできない想いをギュッと力に込める。

(すきだ、好き、アルロシオが好きだ)

元の世界にいた時は男が恋愛対象だなんて思ってもみなかった。昔から恋愛には疎く、女の子でさえ初恋と呼べるような子はいなかった。
アルロシオに会うために、ここへ落されたのかもしれない。

「すっ、すき、アルロ、シオっ、は、っ、ぁ、すきっ」

昂った気持ちのまま、「すき」をたくさん伝える。離れたくないと泣き、キスをし、身体まで繋げたのに、肝心な言葉を言っていなかった。その分を取り返すように、空いた口からは愛の言葉が紡がれる。

「んっ、ぅ、んんっ」

緩やかな抽挿が1度止まったかと思うと、唇で言葉を封じられた。

「今は、我慢してると言うのに、お前は……」
「だ、って、言ってないって思ったら、言いたくなって……っ、んえっ!」

アルロシオの上に座っていた態勢からベッドに倒され、所謂正常位になる。両手をシーツに押さえつけられ、大きな手のひらが葉月の手、指を絡めるように繋ぎ止められる。

「私の方が、ハヅキを好いている」

ムッとした口調で張り合うようにそう言われ、葉月は照れながら頷いた。





「ハヅキ、ここに置くぞ」
「うん」

長い銀髪を一つに括り上げた吸血鬼が、棚を置いて行く。空っぽのそれに物を詰めて行くのが葉月の仕事だ。

森の中の家を手放して、3ヶ月。2人は旅をしながら色んな場所を訪れた。新しい拠点探しと観光を兼ねて、まだ見ぬ異世界を堪能した。
アルロシオがいれば、獣も魔物もへっちゃらだ。

壊れてしまいそうだった古い空き家はアルロシオが何度か手を加え、家として成り立っていたらしい。DIYのできる吸血鬼だが、この家は手を加える必要はなさそうだ。

「そうだ、お隣さんに挨拶!」
「挨拶?」
「あれ、しない?つまらない物ですが……って物渡したり」

つまらない物をなぜ渡す、というような怪訝な表情を浮かべ首を傾げるアルロシオ。

「いいから行こ」

手を引いて、外へ出る。日差しが眩しい。
この世界の吸血鬼はにんにく(あるか分からないが)も平気だし、杭も平気、日の光だって問題ない。
並外れた身体能力と食事法の異なる種族、人間に忌み嫌われていた吸血鬼。
彼を受け入れてくれる街に改めてご挨拶を、と葉月はスキップでも繰り出しそうな足取りだ。

アルサハークという小さな街には、人間も、獣の姿の混じった獣人もいる。アルロシオが来ることによって、魔族もいる街となった。
旅の途中、魔物に襲われていた商人達に出会い、アルサハークのことを聞いて先週やっと到着したばかりだ。

宿屋暮らしが終わり、我が家となった新しい家を見上げる。
木材ではなく、レンガでできた可愛らしい家だ。森の家は思い出が沢山あって未だに名残惜しいが、この家もすぐに思い入れで溢れるだろう。

「ハヅキ?」

家を眺めすぎたか、アルロシオが屈んで顔を覗く。

「なんでもない」

吸血鬼と街並みが馴染まず異色に見えて、葉月は笑う。この光景も、当たり前になる日は近い。







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