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えぴろーぐ
3.
しおりを挟むまさか突然そんな話になるとは思わない。
目を白黒させていれば、それさえもやさしい瞳に笑われてしまった。
混乱しているのに、遼雅さんは会話の合間に唇を私のものに何度も触れさせて、互いの熱を簡単に交わらせてしまう。
抗議する間も無く、あっけなく遼雅さんの脚の間に身体を引き込まれてしまった。
遼雅さんは後ろから私を抱きしめるのが好きなのだと思う。たくさん一緒にいても、日々いろいろな発見があるから、毎日は愛おしいと思う。
二つの体は、すぐに同じねつを共有できる。
「ゆずは」
「ん、なんで、すか」
「かわいい」
「……遼雅さんのほうが、かっこいいです」
どうやっても上手に褒められなくて、くすくす笑っている遼雅さんのほうを振り返って頬に口づけてみる。
一瞬呆気にとられたらしい遼雅さんを笑った。
「……ゆずは、かわいい」
「あはは、そればっかりです」
「きみに似た子どもがいたら、それはもしかしたら天使かもしれない」
「うん?」
「ほら、柚葉も羽根を隠し持ってるから」
「ふふふ、遼雅さんも羽根が生えているかもしれないって、私観察していますよ」
いつものおふざけに乗って首を傾げたら、後ろから、遼雅さんに顔を覗き込むように頬に口づけられてしまった。
誑かすよりも、誠実な声が囁かれる。
「俺の子、いらないですか?」
すこし前までふざけていたかと思ったら、今度は真正面から問いを立てられてしまう。
オンオフのスイッチの切り替えが忙しい人だから、じっと考えている余裕なんてどこにもない。
遼雅さんとの出会いは、昔夢見た雨の日の駅前でも、放課後の調理室でもない。
『橘遼雅と申します。今日からよろしくお願いします。ああ、あまり固くならないで大丈夫です。私も堅苦しいのは苦手なほうなので』
初めて出会った日も、やさしくまっすぐに見つめてくれている人だった。
冷たくなっている暇はどこにもない。
ぎゅっと抱き込まれたら、あつくるしさで目が回ってしまいそうになった。お腹に回された手に上から触れて、私を覗き込む旦那さんを振り返る。
「……ほしいです」
正直に告げたら、すこしだけ拘束を弱めた人にやさしく口づけられた。
離れている時間のほうがずっと少ない。
この家にいる時は、ほとんどずっと抱きしめてくれている人だ。全力で大事にしてくれているとわかっているから、どこまでもあまえたくなってしまうのだと思う。
「よかった。いらないって言われたら俺もおかしくなってたかも」
「もう、遼雅さんが言ったら冗談になりません」
「ごめんごめん、おどろく奥さんの顔も可愛いから」
依存と孤独の境界線はひどくあいまいだ。
どこまでもあまやかされて、自分もいつか遼雅さんにひどいことをしてしまうのではないかとたまに怖くなったりしてしまう。
けれど、そのたびに、遼雅さんが近くへきて抱きしめてくれるから、心から信頼して、いつも愛のありかを大切に守り続けていられるのだと思う。
「柚葉」
「うん?」
「愛してるよ」
まっすぐすぎるくらいに囁いてくれる。
特別じゃない日常に捧げてくれるから、いつも胸があつくなって仕方がない。
橘遼雅はいつもそうだ。
負けじと見つめて唇に触れたら、どこまでもやさしい人が、とろけそうに笑ってくれた。
「私も、好きです。大好きです」
囁いたら、全部がすてきに変わってしまう。
私の言葉で、遼雅さんがもう一度つよく抱きなおしてくれた。
やさしい匂いがする。
たまらなくすきで、愛おしいにおいだ。私の帰るべき場所になった。どうしようもなく、すてきなことだと思う。
「ああ、困ったなあ」
幸福なにおいの中で、遼雅さんが私にしか聞かせてくれないあまい声で、困り果てたような音を上げている。
本気で悩んでいるような声色に振り返ったら、すこしだけ眉を寄せた遼雅さんと視線がぶつかった。
「柚葉の子どもはたまらなくほしいけど、そうすると、しばらく会社では会えなくなる」
何度か、家で待っていてほしいと思っていることをぽろりと聞かされていたのに、今では会社で会えることを楽しみにされているのだと知れてしまった。
すこし誇らしい気分になってしまう。
それだけ、私の愛に安心してくれているという意味だったらいい。
どこへ行っても、遼雅さんの胸の中に戻ってくる。私の気持ちが伝わっていたらとてもうれしい。
真剣に思い悩んでいるらしい旦那さんに良案が浮かんで、こっそりと耳に囁いてみた。
「ふふふ、そうですね。会社では会えなくなっちゃいます。……でも、そのぶん、お家でたっぷりあまやかしてくれるんですよね?」
たまには無理をしすぎないで、お家でゆっくりしてほしい。
願いを乗せるように囁いたら、すぐ近くで遼雅さんが笑ってくれていた。やさしい指先に頭を撫でられる。
きっと、私の意図なんてすべてお見通しだろう。
「まいったな、いつもかわいい奥さんが待ってくれていると思うと、すぐに帰ってきてしまいそうだ」
想像通り、簡単に欲しい言葉をくれて、もう一度唇にキスを捧げてくれた。
今日も明日も明後日も、たぶん、ずっと遼雅さんはやさしくて、かっこよくて、すてきな旦那さんでいてくれるだろう。
「ふふ、ぜひ、そうしてください」
幸福の音が耳に聞こえる。
やさしい笑みが、私だけに囁いてくれる。橘遼雅は、あまい人だ。
「かわいいわがままだ」
「嫌いですか?」
「ますます愛おしくて困ってるよ」
どんなリクエストにも簡単に応えてくれる旦那さんに、今日も好きがたくさんになってしまった。振り返って抱き着いたら、同じ力で抱きしめ返してくれる。
愛おしい人。
「柚葉」
「ふふふ、今日も大好きです」
「ああ、もう。……こんなにもかわいくて、愛おしくて、どうしたものかな」
「私は、遼雅さんのすきにしてほしいです」
わたしの大好きな旦那さん。
「じゃあ、これからも」
「――あまやかしても、いいですか?」
橘遼雅は、どこまでもあまい。
私の大切な旦那さんです。
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