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おさとうじゅういちさじ
8.
しおりを挟む「あはは、柚葉は騙されやすいから」
遼雅さんに言われてしまったら、そうとしか思えないからこまってしまった。
狼狽えて見つめていたら、やさしい瞳の男性が、どこまでも身体を近づけて、秘密をねだるように囁いてくれる。
「――でももう、俺以外には騙されないでください」
「やくそく、ですか?」
「もちろん。俺と柚葉さんだけの約束です」
言葉と共にあたたかい腕が、胸の中に抱き入れてくれる。
すべての悪意から守ってくれそうな力強いやさしさで、胸が熱くなってしまった。
橘遼雅の腕の中は、他のどの場所よりも、あつくて、やさしい、私の居場所なのだ。
今度こそ、約束を破りたくなくて、私も遼雅さんと同じように耳元に囁きかけてみる。
きっと、一番確実な方法はこの一つだと思う。
「……遼雅さんに私の携帯、見てもらったほうがいいかも?」
密やかに、危険な誘いを持ち掛けたら、私と同じくらいいたずらな顔をした遼雅さんが、もっと危険な言葉で返してくれた。
「あはは。見たらたぶん、俺も監視カメラとかセットしたくなるかも」
そんなこと、きっと私も遼雅さんも、一生しないんだろう。だってこんなにも近くにいられる。
ずっとそばにいたい。
「そんなことしなくても、ずっと抱きしめていてください」
確信していつもと同じように願い出たら、どこまでも穏やかな愛おしい人が、やさしいまなざしで笑ってくれた。
「かわいい俺の奥さんの要望なら、いくらでも叶えますよ」
「だいすきすぎて、胸がいっぱいです」
素直に告げたら、どこまでも胸があたたかくなる。はじめからそうしていればよかった。ふいに思って、遼雅さんの胸にそっと隠した。
「あーもう、かわいいな。俺もだよ。ずっと柚葉だけで、どうにかなりそうだ」
「一緒ですか」
「ずっと一緒だといいね」
一緒でいられる努力を、たくさんしてくれるんだろう。遼雅さんに溺れてしまっても、きっと遼雅さんに助けてもらえる。
すてきな予感に頬が笑って、見つめあったらまた唇がくっついてしまった。
「すきです」
「よかった。俺もすきですよ」
「もっといっぱい、すきなんです」
たくさん知って欲しくて、欲張りになる。すきに際限はないのだと気づいて、おどろいてしまった。
「あはは、わかりました。全部知りたいから、教えて」
「ぜんぶ?」
「愛し合ったら、きっと全部わかるよ」
それは魅力的なお誘いだけれど、遼雅さんの腕があっさりと私の身体を抱き上げてしまったら、すぐに心が落ち着かなくなる。
どうにか言い訳を作りたくなるところは、そうそうすぐには変えられないみたいだ。
「ごはん、」
どうにかしようと呟いたのに、遼雅さんの綺麗な足が、開きかけの寝室のドアをすこし乱雑に蹴るのをみたら、もう戻れないことだけを予感している。
「まずはきみがいい」
橘遼雅は、どこまでもあまやかしてしまう、危険な旦那さんです。
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