84 / 88
おさとうじゅういちさじ
7.
しおりを挟む「そこは俺に任せてください」
「なるほど」
「頼ってくれますか」
「遼雅さんほど頼れる人は、他にいないです」
「それは良かった」
遼雅さんが大丈夫だと言うのなら、間違いないと思えてしまうからすごいと思う。
笑って両手で頬に触れたまま、やさしく遼雅さんの唇を塞いでみる。触れてすぐに離してみたら、どこまでもあつい瞳にまっすぐに射抜かれてしまった。
「どこにいても、もう柚葉さんが俺の奥さんだってわかるようになるね」
「遼雅さんは嫌じゃないですか?」
「もちろん。こんなにかわいい奥さんだって見せびらかしたいよ」
「もう、すきになっちゃうことばっかり言うのずるいです」
「かわいい」
「真顔女です」
ふざけてつぶやいてみる。もう、真顔なんてほとんど作れてもいないだろう。遼雅さんも同じようにおかしそうに笑ってくれている。
「あはは、そんなことないよ。柚葉、初めからずっと目が震えたり、とろとろになったり、あつくなったり、すっごくかわいかった。今はもっとそうだ」
「み、ないでください」
「ベッドで恥ずかしがってるところは、たまらなく愛おしい。――最近は誰にでも笑うようになって、かなり、嫉妬するくらいだよ」
「嫉妬、しますか」
「とても。……柚葉さんが、可愛すぎるので」
言われれば言われるだけ恥ずかしくて、頬が赤くなってしまうことを知っているのだろう。伺い見るような瞳に胸が苦しくなって、頬に添えていた手で遼雅さんの両眼を隠した。
それさえもたのしいみたいに、遼雅さんはずっと笑ってくれている。
「柚葉さん」
「はい」
「契約違反は、俺が先です」
「うん?」
目隠しした手を簡単にはがされて、両手を繋がれたまま、遼雅さんのまっすぐな瞳を見つめ続けている。
「三回目のデートで」
「……はい」
「ただハグして眠ってほしいって意味だと知っていたのに、勝手に手を出して、結婚まで追い込みました」
絶句してしまった。
清々しく笑っている人が、勝手にちゅう、と唇に吸い付いて、名前を呼んでくる。
頭がうまく回らなくて、ただ、呆然としてしまっていた。意図をはき違えられていたのだとばかり思っていたけれど、遼雅さんがそんな大きなミスを犯すはずもない。
「……私のこと、好きだったんですか」
なぜか、おそるおそる問いかけてしまっていた。もう、どれだけ大切にしてくれているのかはよくわかっている。
すこし連絡が取れないだけであんなに慌ててしまうくらいだから、こころのやわらかいところに住まわせてもらっているのだと思う。
わかっていても、そんなにも早くからこころに引き入れてくれていたとは知らない。
呆然と見つめる私を笑って、もう一度キスをした遼雅さんが、簡単に事実を話し始めてしまった。
「一回目のデートで可愛いなと思って、二回目で側にいたいと思って、三回目は、携帯を見ないって言われたとき、変な言い方だけど、すこしさみしいと思って、すぐにきみに惹かれていると気づいた」
ひまわりの瞳がうつくしい。
私を真摯に見つめて、「だから、強引に進めました」と詫びるように瞼に唇を押し付けられる。
情報量が多すぎてパンクしてしまいそうだった。そんなにも前から、特別に思ってくれていたのか。
「全然……、気づきませんでした」
そもそも、遼雅さんが私のことを好きでいてくれているかもしれないと思ったのも本当に最近のことだから、まったく感じ取れていなかったことになる。
のろまとも鈍感とも言われ続けているけれど、ここまでひどいとは思ってもいなかった。
狼狽えて声も出せない。
私の様子を見て、遼雅さんが軽快に笑い声をあげた。
髪を撫でる手はやさしい。瞳もあまい。
全部がすきだ。
1
お気に入りに追加
363
あなたにおすすめの小説
10月2日、8時15分の遭遇(前編)
ライヒェル
恋愛
現地に住む友人を頼りに旅行でベルリンへやってきたOLの理央。
恋愛に不器用で、誰と付き合っても長続きしない理央が、滞在予定期間の二週間で起きる出来事を通して、本当の自分自身に気付き始める。
真実の愛ではないと思い、無理矢理別れた元彼との再会。
思いがけない出会い方をした、現地の男性。
恋愛に対し、醒めた見方しか出来なかった理央が、情熱的な恋に落ちていく。
そして、突然訪れるプロポーズ。
理央の心の扉を開けたのは、誰なのか、またそのきっかけはどんな瞬間だったのか。
再会や新たな出会いによって、日々変化してく彼女の日常と、その先へ続く未来を追うラブストーリー。
溺愛なんてされるものではありません
彩里 咲華
恋愛
社長御曹司と噂されている超絶イケメン
平国 蓮
×
干物系女子と化している蓮の話相手
赤崎 美織
部署は違うが同じ会社で働いている二人。会社では接点がなく会うことはほとんどない。しかし偶然だけど美織と蓮は同じマンションの隣同士に住んでいた。蓮に誘われて二人は一緒にご飯を食べながら話をするようになり、蓮からある意外な悩み相談をされる。 顔良し、性格良し、誰からも慕われるそんな完璧男子の蓮の悩みとは……!?
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる