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おさとうじゅっさじ
2.
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あの瞳には、本当に弱い。
こまって言葉に詰まっていたら、またたくさんキスをされるようになった。本当に遅刻してしまうんじゃないかと、毎朝はらはらしている。
「ずいぶんと噂されてんな。ブス秘書」
「うっ……、どうしよう」
「どうしよう、じゃねえよ、かわいいんだよボケ! クソ! ブス!」
「私は噂なんて、いいんだけどね。でも遼雅さんが心配。私なんかと噂になって……」
「あ?」
「うん?」
「お前馬鹿かよ」
「え、いまさらだよ」
何度も言った張本人の壮亮が、盛大に頭を抱えてしまった。また困らせてしまったらしい。
「アーーッ! クソ! お前は本当にバカだ。アホ、のろま鈍感」
「ご、ごめん」
「ああー!! もう、俺が悪かったよ。お前はどう考えても専務のお気に入りだろ、ベタ惚れされてんだろ」
砂を噛んでしまったような表情だ。
勢いよく捲し立てられて、吃驚している。私の瞳を見た壮亮が、もう一度ため息を作ってしまった。
たしかに、遼雅さんの姿を見ていたら勘違いをしそうになってしまう。遼雅さんのあまやかしは本当に危険だから。
「ううん、遼雅さんは、甘やかしたい人だから」
「ああ?」
結婚を決めた時にも、壮亮に吐かされて遼雅さんの悩みを話してしまっていた。
忘れてしまったのかもしれないと思ってもう一度同じことを告げてみたら、間髪入れずに凄まれる。今日はまた一段と機嫌が悪いみたいだ。
「今日、ご機嫌斜め?」
「ドアホ。ちげえわ。……甘やかすだけなら、こんなふうに外堀埋めたりしねえよ」
「そとぼり」
「外堀」
「うめる?」
「埋める」
言われている言葉の意味がよく分からない。首を傾げたら、壮亮がまた深くため息を吐いてしまった。
「お前、その顔やめろ、な」
「あ、ごめん」
「あのな、お前何回言ったらわかんの? ガキの頃からわけわかんねえ奴に、何回も何回も何回も何回も付け回されて、ヤバイ目に遭いかけてただろ?」
「ええ? そんなことな」
「あるんだよ。お前が気づいてねえだけだよ、アホ」
「ごめんなさい?」
壮亮はいつも手を握って歩いてくれていた。
おとなに声をかけられたら、まずは壮亮が話をすると決まっていた。一人の時は、喋っちゃダメだと言われていたし、彼氏ができたら、ちゃんと壮亮に報告することになっていた。
毎回ちゃんと守っていたから、遼雅さんのこともきちんと報告している。
「笑うと呼び寄せるんだよ、人間」
「にんげん」
「お前がかわ……かわい……可愛……、アー! クソ! ブス、……そう、お前がクソブスだからだ」
「う、うん。知ってる。……でもいっぱい遼雅さんの前でも笑っちゃってる。どうしよう?」
「うん、だからもう無駄無駄。お前どうやっても逃げらんねえよ、諦めろ」
ひらひらと手を振って、食べ終わったスプーンをお皿に置いてしまった。壮亮は、話は終わったとばかりにオレンジジュースを飲み始めてしまっている。
「逃げる? ことはないけど、りょ……、旦那さんが誰かを好きになったら……」
「はいはいはいはい。もういいって。お前さ、好きなんだろ? どうせ、もう惚れちまったんだろ」
「……ひみつにしてね」
「バレバレだわハゲ! どっからどう見ても幸せオーラしかねえわ! 馬鹿野郎! クソ可愛いな! クッソ」
「元気だね」
「ポジティブだな。……まあ、いいんじゃね。渡の件も、あいつが居たから何とかなっただろ。責任とって好きになってくださいとか言ってみれば」
「ええ、おこがましい……」
「喜んで飛びついてくるだろうよ」
「そんなことないよ」
「もう俺がいなくても大丈夫だ」
静かに笑って、ぐちゃぐちゃに頭を撫でてくる。
壮亮の瞳にすこしさみしくなって、じっと見つめたら「その顔やめろっつったろ、ばーか」とまた暴言を吐かれてしまった。
言葉とは裏腹に、やさしい目をしていると思う。
こまって言葉に詰まっていたら、またたくさんキスをされるようになった。本当に遅刻してしまうんじゃないかと、毎朝はらはらしている。
「ずいぶんと噂されてんな。ブス秘書」
「うっ……、どうしよう」
「どうしよう、じゃねえよ、かわいいんだよボケ! クソ! ブス!」
「私は噂なんて、いいんだけどね。でも遼雅さんが心配。私なんかと噂になって……」
「あ?」
「うん?」
「お前馬鹿かよ」
「え、いまさらだよ」
何度も言った張本人の壮亮が、盛大に頭を抱えてしまった。また困らせてしまったらしい。
「アーーッ! クソ! お前は本当にバカだ。アホ、のろま鈍感」
「ご、ごめん」
「ああー!! もう、俺が悪かったよ。お前はどう考えても専務のお気に入りだろ、ベタ惚れされてんだろ」
砂を噛んでしまったような表情だ。
勢いよく捲し立てられて、吃驚している。私の瞳を見た壮亮が、もう一度ため息を作ってしまった。
たしかに、遼雅さんの姿を見ていたら勘違いをしそうになってしまう。遼雅さんのあまやかしは本当に危険だから。
「ううん、遼雅さんは、甘やかしたい人だから」
「ああ?」
結婚を決めた時にも、壮亮に吐かされて遼雅さんの悩みを話してしまっていた。
忘れてしまったのかもしれないと思ってもう一度同じことを告げてみたら、間髪入れずに凄まれる。今日はまた一段と機嫌が悪いみたいだ。
「今日、ご機嫌斜め?」
「ドアホ。ちげえわ。……甘やかすだけなら、こんなふうに外堀埋めたりしねえよ」
「そとぼり」
「外堀」
「うめる?」
「埋める」
言われている言葉の意味がよく分からない。首を傾げたら、壮亮がまた深くため息を吐いてしまった。
「お前、その顔やめろ、な」
「あ、ごめん」
「あのな、お前何回言ったらわかんの? ガキの頃からわけわかんねえ奴に、何回も何回も何回も何回も付け回されて、ヤバイ目に遭いかけてただろ?」
「ええ? そんなことな」
「あるんだよ。お前が気づいてねえだけだよ、アホ」
「ごめんなさい?」
壮亮はいつも手を握って歩いてくれていた。
おとなに声をかけられたら、まずは壮亮が話をすると決まっていた。一人の時は、喋っちゃダメだと言われていたし、彼氏ができたら、ちゃんと壮亮に報告することになっていた。
毎回ちゃんと守っていたから、遼雅さんのこともきちんと報告している。
「笑うと呼び寄せるんだよ、人間」
「にんげん」
「お前がかわ……かわい……可愛……、アー! クソ! ブス、……そう、お前がクソブスだからだ」
「う、うん。知ってる。……でもいっぱい遼雅さんの前でも笑っちゃってる。どうしよう?」
「うん、だからもう無駄無駄。お前どうやっても逃げらんねえよ、諦めろ」
ひらひらと手を振って、食べ終わったスプーンをお皿に置いてしまった。壮亮は、話は終わったとばかりにオレンジジュースを飲み始めてしまっている。
「逃げる? ことはないけど、りょ……、旦那さんが誰かを好きになったら……」
「はいはいはいはい。もういいって。お前さ、好きなんだろ? どうせ、もう惚れちまったんだろ」
「……ひみつにしてね」
「バレバレだわハゲ! どっからどう見ても幸せオーラしかねえわ! 馬鹿野郎! クソ可愛いな! クッソ」
「元気だね」
「ポジティブだな。……まあ、いいんじゃね。渡の件も、あいつが居たから何とかなっただろ。責任とって好きになってくださいとか言ってみれば」
「ええ、おこがましい……」
「喜んで飛びついてくるだろうよ」
「そんなことないよ」
「もう俺がいなくても大丈夫だ」
静かに笑って、ぐちゃぐちゃに頭を撫でてくる。
壮亮の瞳にすこしさみしくなって、じっと見つめたら「その顔やめろっつったろ、ばーか」とまた暴言を吐かれてしまった。
言葉とは裏腹に、やさしい目をしていると思う。
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