あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子

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おさとうななさじ

7.

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ゆっくりと押し込まれて、あまい味が口いっぱいに広がった。

あまいものは大好きだ。

頬が緩んで、すぐ目の前で見つめてくる遼雅さんに、正直に告げていた。


「それはよかった」


ふ、と笑って、もうひと掬い差し出される。

自分が食べているわけでもないのに、とろけてしまいそうなあまい瞳で見つめられて、こころがぞわぞわと落ち着かない。

いくつも口に入れられて、とうとうあまさに胸が詰まってしまった。


「りょ、がさん」

「うん?」

「私ばっかり……、遼雅さんも、たべてください」


遼雅さんのあまさで酔ってしまった。

続けられるとおかしくなってしまいそうで、必死で声をあげた。プレートに残るケーキは、あとほんの4口分くらいだろうか。

遼雅さんが握っているフォークの柄をやんわりと引き抜いて、すこし大きめにカットしたものを差し出す。


「はい、おくち、あーって、してください」


自分で言いながら差し出して、ぴしりと固まってしまった。

あまさに酔って、何か変なことを言ってしまった気がする。


いつも姉がそうしてくれていたのだけれど、それを家族以外にするのはおかしい、と壮亮に言われたことがあった。


「あ、いえ、まちがえ……」


訂正しかけて、フォークを掴んでいた指先ごと引き寄せられる。


あ、と口を開けて、ぱくりと食べてしまった人が、私の手を持ったまま「あまい」と囁いていた。

あまいのは、どちらだろうか。

たぶらかされるような気分で、気をそらしながら「おいしいですか」と尋ねていた。

遼雅さんのあまい声に、顔があげられなくなる。俯いていたら、耳のすぐ近くで声が鳴った。


「うん、うまい」

「んっ……耳、近く、で」

「柚葉」


近くで喋らないでほしい。

遼雅さんの声に弱い。

お腹の奥がしびれて、おかしくなる。抗議したいくせに何一つ言えなくなってしまった。

ただ見つめて、もう一度遼雅さんに囁き落とされる。


「柚葉、こっち向いて」


遼雅さんの魔力で、勝手に顔が持ち上がってしまう。相変わらず私の手を握ったままの綺麗な顔立ちの男性が、あつくてとろけてしまいそうな瞳で、私のことを見つめていた。


「りょう、」

「うまいけど、たぶん、柚葉のほうがおいしい」

「な、っ……ん、」


掴まれていた指先がほどけた。

熱が失われていくのを感じる暇もなく、後頭部に熱い指先が触れる。

すこしも、考えさせてくれない。

間髪入れずに唇に熱が押し込まれた。どういうバランスでケーキを持ちながら、こんなに遠慮のないキスを仕掛けられるのだろう。

ただしがみ付くだけで精いっぱいだ。

あっけなく舌が侵入してきて、あまい口内に触れる。痺れて仕方がないのは、あまく、とろけきってしまった証拠なのだろうか。

喉からこぼれる自分の声ですらあまそうで、眩暈が止まらない。


「あまい」

「……あつい、です」


どこもかしこもあつい。

最後にちゅう、と音を立てて吸い付いて、けろりと笑っていた。体温は上がりっぱなしで、どうにかなってしまいそうだと思う。


「今日はすこし、身体があついね」

「遼雅さんが、ずっと近くにいる、からです」


冷たくなっている暇なんてない。

抱きしめられて、こうしてどろどろにされたら、元になんて戻れない。

困っているのに、正直に告げる私を見る遼雅さんは、なぜか私以上に困ったような表情を浮かべている。


「何でそう、かわいいことばっかり言うのかな」

「かわいく、ないです」

「自覚がないから悪いよ」

「遼雅さんこそ、ずっとかっこよくて……、ずるいです」

「ああー、もう。柚葉さんが煽るから、抑えが利かない」

「あお、」


きゅっと眉を顰めて、もう一度唇にキスを送ってくる。至近距離に見える瞳が、燃えるようにあつく光っている気がした。

背筋が、あまくしびれる。

私の表情を見て、遼雅さんがとろけそうに微笑んでくれる。もう、何を言われても盲目的に従ってしまいたくなりそうで、私はおかしい。


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