51 / 88
おさとうななさじ
5.
しおりを挟む
なつかしい。その日はじめてブスと言われたから、すごく驚いたことを覚えている。
壮亮も、自分で言っておきながら、ひどく驚いた顔をしていた。
「みんな、かわいいって言ってくれる人ばっかりで、気づくのが遅れるところでした」
壮亮のことを話し終えるのと一緒に、ようやくご飯を食べ終えた。両手を合わせて「ごちそうさまでした」と言えば、遼雅さんも同じように手を合わせて「今日もおいしかったです」と笑ってくれる。
どうしてこんなにも、すてきなのだろうか。
考えすぎると好きがいっぱいになりそうだから、気づかないふりをしてみた。
一緒にキッチンに戻って、遼雅さんがお皿を洗ってくれるのを見ながら、布巾を握って隣に立った。万全の準備をしている私を笑って、遼雅さんが名前を呼んでくれる。
「柚葉さん」
「はい?」
「すこし考えたけど、柚葉さんはやっぱりかわいいと思う」
「ええ?」
「たぶん、天真爛漫な柚葉さんは、そのままだと、どんな男でも惚れてしまっただろうから、柚葉さんのかわいい表情を隠したがる峯田さんの気持ちも少しわかる気がする」
「そんなことは」
何かおかしな勘違いをさせてしまった。
誤解を解こうとしているのに、洗い終えたお皿を渡されて、受け取っている間にもう一度遼雅さんが口を開いてしまった。
壮亮は、そういうつもりは全くなかったように思うのだけれども。
「最近、俺と二人の時は、たくさん笑ってくれるようになったよね」
「あ、え……、そう、ですか?」
無意識に笑ってしまっているのかもしれない。
冷静そうだとか、何を考えているのかわからないというのは、中学校以降に出会った人たちから言われるようになった。
だけど本質はすこしも変わっていないから、いまだに姉には泣きついてしまうし、お菓子を食べると頬が勝手に笑ってしまう。
少ない枚数のお皿を片付け終えて、冷えた両手でぺたぺたと頬を触ってみる。
まぬけな顔を、見られてしまっただろうか。心配しているのに、遼雅さんはあまい瞳をいっそう柔らかくして、やさしく私を見つめてくれる。
「かわいいなあ」
「でれでれしていますか? はずかしいです」
「あはは、かわいいから、もっとよく見せてください。……それに、お姉さんと一緒にいるときの柚葉さんは、もっとにこにこしていましたよ」
「えっ、やっぱりでれでれしているのがわかりますか? 萌お姉ちゃんの前では、どうしても妹になっちゃいます」
俯こうとしたら、タオルで水気を拭った遼雅さんが、いつもよりすこし冷えた指先を、私の頬に寄せてくれる。
頬に触れている私の手の上を沿うように、大きな掌がやさしく、ぴったりと寄り添った。
手の甲に触れる熱は、すぐにほどけて、ひとつの体温になる。遼雅さんは、私の瞳を上から覗き込んで、いつも以上にあまく、きらきらと笑っていた。
「俺にもあまえてください。お姉さんに負けないくらい、柚葉さんが落ち着ける場所になりたいです」
遼雅さんの声で、ふにゃふにゃになってしまいそうになる。もう、じゅうぶんすぎるくらいにあまえてしまっている。
抱きしめられて、熱をわけてもらって、キスして、身体中に触れられたら、もう、遼雅さんがいない生活なんて思いだすこともできない。
たぶん、これ以上落ちられないと思うくらいに落下しているのに、底なしのあまさでのめり込んでしまう。
「これ以上あまえたら、遼雅さんがいないと落ち着けなくなっちゃいます」
もう遼雅さんのいないベッドで眠ることすら想像できなくなってしまっているのに。
まっすぐに、見つめてくれる。
遼雅さんの瞳がやわく眇められた。その瞳のやさしさで、どこまでもあまやかされてしまっている。
「――そうなったら、柚葉さんのかわいい笑顔はもう、俺のものだね」
「りょうがさんの、もの?」
「うん。だから、俺と二人の時は、気にせず笑って」
「変なお顔、していないですか?」
「うん?」
「まぬけな顔、です」
「うーん? かわいい奥さんの顔しか見当たらないなあ」
じいっと覗き込んで、くすくすと笑われた。
「どこにまぬけな人がいるんだろう?」と囁かれて、今度こそ一緒に笑ってしまう。
壮亮も、自分で言っておきながら、ひどく驚いた顔をしていた。
「みんな、かわいいって言ってくれる人ばっかりで、気づくのが遅れるところでした」
壮亮のことを話し終えるのと一緒に、ようやくご飯を食べ終えた。両手を合わせて「ごちそうさまでした」と言えば、遼雅さんも同じように手を合わせて「今日もおいしかったです」と笑ってくれる。
どうしてこんなにも、すてきなのだろうか。
考えすぎると好きがいっぱいになりそうだから、気づかないふりをしてみた。
一緒にキッチンに戻って、遼雅さんがお皿を洗ってくれるのを見ながら、布巾を握って隣に立った。万全の準備をしている私を笑って、遼雅さんが名前を呼んでくれる。
「柚葉さん」
「はい?」
「すこし考えたけど、柚葉さんはやっぱりかわいいと思う」
「ええ?」
「たぶん、天真爛漫な柚葉さんは、そのままだと、どんな男でも惚れてしまっただろうから、柚葉さんのかわいい表情を隠したがる峯田さんの気持ちも少しわかる気がする」
「そんなことは」
何かおかしな勘違いをさせてしまった。
誤解を解こうとしているのに、洗い終えたお皿を渡されて、受け取っている間にもう一度遼雅さんが口を開いてしまった。
壮亮は、そういうつもりは全くなかったように思うのだけれども。
「最近、俺と二人の時は、たくさん笑ってくれるようになったよね」
「あ、え……、そう、ですか?」
無意識に笑ってしまっているのかもしれない。
冷静そうだとか、何を考えているのかわからないというのは、中学校以降に出会った人たちから言われるようになった。
だけど本質はすこしも変わっていないから、いまだに姉には泣きついてしまうし、お菓子を食べると頬が勝手に笑ってしまう。
少ない枚数のお皿を片付け終えて、冷えた両手でぺたぺたと頬を触ってみる。
まぬけな顔を、見られてしまっただろうか。心配しているのに、遼雅さんはあまい瞳をいっそう柔らかくして、やさしく私を見つめてくれる。
「かわいいなあ」
「でれでれしていますか? はずかしいです」
「あはは、かわいいから、もっとよく見せてください。……それに、お姉さんと一緒にいるときの柚葉さんは、もっとにこにこしていましたよ」
「えっ、やっぱりでれでれしているのがわかりますか? 萌お姉ちゃんの前では、どうしても妹になっちゃいます」
俯こうとしたら、タオルで水気を拭った遼雅さんが、いつもよりすこし冷えた指先を、私の頬に寄せてくれる。
頬に触れている私の手の上を沿うように、大きな掌がやさしく、ぴったりと寄り添った。
手の甲に触れる熱は、すぐにほどけて、ひとつの体温になる。遼雅さんは、私の瞳を上から覗き込んで、いつも以上にあまく、きらきらと笑っていた。
「俺にもあまえてください。お姉さんに負けないくらい、柚葉さんが落ち着ける場所になりたいです」
遼雅さんの声で、ふにゃふにゃになってしまいそうになる。もう、じゅうぶんすぎるくらいにあまえてしまっている。
抱きしめられて、熱をわけてもらって、キスして、身体中に触れられたら、もう、遼雅さんがいない生活なんて思いだすこともできない。
たぶん、これ以上落ちられないと思うくらいに落下しているのに、底なしのあまさでのめり込んでしまう。
「これ以上あまえたら、遼雅さんがいないと落ち着けなくなっちゃいます」
もう遼雅さんのいないベッドで眠ることすら想像できなくなってしまっているのに。
まっすぐに、見つめてくれる。
遼雅さんの瞳がやわく眇められた。その瞳のやさしさで、どこまでもあまやかされてしまっている。
「――そうなったら、柚葉さんのかわいい笑顔はもう、俺のものだね」
「りょうがさんの、もの?」
「うん。だから、俺と二人の時は、気にせず笑って」
「変なお顔、していないですか?」
「うん?」
「まぬけな顔、です」
「うーん? かわいい奥さんの顔しか見当たらないなあ」
じいっと覗き込んで、くすくすと笑われた。
「どこにまぬけな人がいるんだろう?」と囁かれて、今度こそ一緒に笑ってしまう。
3
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜
こころ ゆい
恋愛
保育士の八重と外科医の一生は、小学生の頃からの幼馴染。
傍から見れば、儚く清楚に見えるらしい八重は、実は外見にそぐわぬ性格をしていた。
そのせいで、見た目につられて告白してくる男性たちは、ことごとく彼女の中身を知って離れていく。
フラれる度に、やけ食いややけ酒に付き合ってもらっている一生は優しいが、懲りずに同じような恋愛を繰り返す八重に呆れている....と思っていたら?
「....八重の可愛さは、そんなもんじゃないんです。....誰も気付かなくていい。俺だけが知ってればいい」
ーーどうやら、かなり愛されていたようです?
※じれじれ・執着・溺愛 ラブストーリー。🌱
※この物語は、全て作者の想像で描かれたフィクションです。実際の場所・建物・人物とは関係ありません。🌱
※HOTランキング入りしました。(最高47位でした)全ては、読者の皆様のおかげです。心より感謝申し上げます。今後も精進して参ります。🌱
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
取引先のエリート社員は憧れの小説家だった
七転び八起き
恋愛
ある夜、傷心の主人公・神谷美鈴がバーで出会った男は、どこか憧れの小説家"翠川雅人"に面影が似ている人だった。
その男と一夜の関係を結んだが、彼は取引先のマネージャーの橘で、憧れの小説家の翠川雅人だと知り、美鈴も本格的に小説家になろうとする。
恋と創作で揺れ動く二人が行き着いた先にあるものは──
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―
七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。
彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』
実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。
ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。
口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。
「また来る」
そう言い残して去った彼。
しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。
「俺専属の嬢になって欲しい」
ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。
突然の取引提案に戸惑う優美。
しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。
恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。
立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる