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おさとうみさじ
8.
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素肌に触れる橘さんの熱は、火傷しそうに熱い。
朝からまた眩暈を起こしそうになって、ぎゅっと胸板に押し付けられた姿勢のまま、ゆっくりと覚醒してくる瞳を見上げていた。
「起きたの?」
「あ、はい」
「身体、痛くない?」
「だ、いじょうぶです」
あんなに丁寧に抱かれたら、痛いところなんて出るはずもない。あまりにもくすぐったくて、やっぱり現実なのかと驚いたりもしている。
すこし前までは、ただの尊敬する上司だったはずだ。それがどうしていきなりこうなってしまったのか。
目を白黒させているうちに、すぐ近くへ顔を寄せてくれたうつくしい人が、当然のように唇を私のものに触れさせて、小さく笑った。
すこしおちゃめな瞳だ。
「よかった。……かなり、暴走しました」
「あ、う……、それは」
自覚はあるらしい。
苦笑した人が「結局すぐにベッドに引き込んでしまった」と囁くのを聞いて、堪えられずに俯く。会社で会っている人のそういう一面を見てしまう機会なんてそうそうないから、おかしな気分だった。
布団の中で、橘さんの熱い指先が私の腕をなぞって指先までたどり着く。
あつい、と思っていたはずなのに、触れられたら、橘さんと同じくらいに自分の手が熱くなっていることに気づかされた。
はずかしい。
狼狽えている瞳さえも、じっと観察されている。目が合ったら、やわく瞼が笑った。
「たち、」
「名前」
訂正させられて、ぶわあっと昨日の熱が蘇ってくる。
間違えるたびに直されたから、声が壊れるまで呼ぶことになった。思い返すだけでもはずかしくて、遼雅さんの胸に額を隠しながらつぶやく。
「りょう、が、さん」
「……覚えてくれていてよかった」
「おぼえて、ます」
「ぜんぶ?」
「……た、ぶん」
ゆっくりと髪を撫でられている。
愛するようなあまい指先に勝手に痺れて、とっくに好きになってしまっていそうだ。
「はは、柚葉さん」
「は、い」
耳に吐息が当たってくすぐったい。
わざとではないだろうけれど、本当に遼雅さんのすべてに弱いから、たすけてほしい。
「――温まった?」
すこし楽しそうな声だ。
もう、絶対に好きにならないなんて、むりだとおもう。だって、もう、こんなにも胸がこわれてしまいそうだ。
何も言えないでいれば、もう一度素肌のまま、ぴったりと抱きしめられる。遼雅さんの長い脚が私の脚の間に、つう、と触れる感触だけで、おかしな声が飛んだ。
「も、う……、あ、つくるしいです」
ほんとうに、もう、あつすぎる。
困り果てて、たぶん泣きそうな声が出てしまっていただろう。
声を聞いた遼雅さんは、どこまでも楽しそうな笑い声をあげて、無防備な私のこめかみに、ちゅう、とキスを落としてくれた。
「ああー、もう。食べちゃいたいくらい可愛いなあ」
何度思い返しても、結局私を選んでくれた理由なんてわからないまま、あの日の熱を思い出して、一人恥ずかしくなるだけなのだ。
朝からまた眩暈を起こしそうになって、ぎゅっと胸板に押し付けられた姿勢のまま、ゆっくりと覚醒してくる瞳を見上げていた。
「起きたの?」
「あ、はい」
「身体、痛くない?」
「だ、いじょうぶです」
あんなに丁寧に抱かれたら、痛いところなんて出るはずもない。あまりにもくすぐったくて、やっぱり現実なのかと驚いたりもしている。
すこし前までは、ただの尊敬する上司だったはずだ。それがどうしていきなりこうなってしまったのか。
目を白黒させているうちに、すぐ近くへ顔を寄せてくれたうつくしい人が、当然のように唇を私のものに触れさせて、小さく笑った。
すこしおちゃめな瞳だ。
「よかった。……かなり、暴走しました」
「あ、う……、それは」
自覚はあるらしい。
苦笑した人が「結局すぐにベッドに引き込んでしまった」と囁くのを聞いて、堪えられずに俯く。会社で会っている人のそういう一面を見てしまう機会なんてそうそうないから、おかしな気分だった。
布団の中で、橘さんの熱い指先が私の腕をなぞって指先までたどり着く。
あつい、と思っていたはずなのに、触れられたら、橘さんと同じくらいに自分の手が熱くなっていることに気づかされた。
はずかしい。
狼狽えている瞳さえも、じっと観察されている。目が合ったら、やわく瞼が笑った。
「たち、」
「名前」
訂正させられて、ぶわあっと昨日の熱が蘇ってくる。
間違えるたびに直されたから、声が壊れるまで呼ぶことになった。思い返すだけでもはずかしくて、遼雅さんの胸に額を隠しながらつぶやく。
「りょう、が、さん」
「……覚えてくれていてよかった」
「おぼえて、ます」
「ぜんぶ?」
「……た、ぶん」
ゆっくりと髪を撫でられている。
愛するようなあまい指先に勝手に痺れて、とっくに好きになってしまっていそうだ。
「はは、柚葉さん」
「は、い」
耳に吐息が当たってくすぐったい。
わざとではないだろうけれど、本当に遼雅さんのすべてに弱いから、たすけてほしい。
「――温まった?」
すこし楽しそうな声だ。
もう、絶対に好きにならないなんて、むりだとおもう。だって、もう、こんなにも胸がこわれてしまいそうだ。
何も言えないでいれば、もう一度素肌のまま、ぴったりと抱きしめられる。遼雅さんの長い脚が私の脚の間に、つう、と触れる感触だけで、おかしな声が飛んだ。
「も、う……、あ、つくるしいです」
ほんとうに、もう、あつすぎる。
困り果てて、たぶん泣きそうな声が出てしまっていただろう。
声を聞いた遼雅さんは、どこまでも楽しそうな笑い声をあげて、無防備な私のこめかみに、ちゅう、とキスを落としてくれた。
「ああー、もう。食べちゃいたいくらい可愛いなあ」
何度思い返しても、結局私を選んでくれた理由なんてわからないまま、あの日の熱を思い出して、一人恥ずかしくなるだけなのだ。
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