28 / 29
第六話 事件の真相とぬいぐるみグループ (3/4)
しおりを挟む
***
家庭科室に来るのは久しぶりだった。
いつもの教室の椅子より背の高い丸い椅子。パイプがピカピカしてて、これに座ると、ちょっと特別な気分になれるんだよね。
手芸部では家庭科室の八つ並んだ机の好きなところに座っていいので、咲歩と私はいつも一緒の机に座っていた。
一つの机には六~八人ほどが座れるようになっている。
手芸部の先生は、小柄でいつもニコニコしてる優しいおばあさん先生で、私は先生を見てるだけで、つられてニコニコしてしまいそうになるんだよね。
ゆるみそうな口元を押さえてたら、向こうの机で颯太くんが『何してんだ』って顔をしてた。
何でもないから、気にしないで。部活が楽しみすぎるだけだから。
先生は黒板に『くるみボタン作り』『グループ決め』と書くと「来年も手芸部を希望する予定の五年生は、卒業制作用のグループ決めをしてくださいね」とニコニコ顔で言った。
クラブ活動は一年ごとに入りたい部が選べる仕組みだから、毎年変える子も多い。
でも手芸部に限っては、もともと好きな子しか来ないからか、三年間ずっと手芸部を選ぶ人がほとんどなんだよね。
だからこそ、この時期にやりたい子だけで挑戦できるのが、このグループ卒業制作だった。
四年生と、来年別の部に行く予定の五年生と、希望する六年生はくるみボタン作りをするらしい。
え、私もくるみボタン作りたいんだけど。
先生が前の机に並べている色とりどりの布々を、今すぐ見に行きたいんだけど。
四年生から二年続けて手芸部の私は、やっぱり来年も手芸部に入るつもりでいた。
先生は「グループが決まった五年生は、このプリントにメンバーの名前とグループ名を書いて前に出してください。時間があれば、ぜひくるみボタンも作っていってくださいね。材料はたくさんありますからね」とニコニコして言った。
グループの人数は自由で、二人以上なら何人でも良いらしい。
こうなったら、さっさとグループを決めて紙を出しちゃおうっ!
「さーちゃんっ、わたしと一緒に卒業制作やろうっ!」
「ええ、もちろんです。よろしくお願いしますね、みこちゃん」
咲歩はにっこり答える。
よし、そうと決まったら紙を取りに行こうっと!
立ち上がった私の目の前に、スイっとプリントが差し出される。
「あれ? あ、ありがとう、そーたくん……」
なんでわざわざ持ってきてくれたんだろう。
不思議に思いながら、その紙を受け取る。
「俺も、二人のとこに入れてもらっていーか?」
言われて、なるほどと思う。
手芸部には男の子が三人しかいない。
うち二人は四年生だ。
五年生で、卒業制作をやりそうな男子は颯太くんだけだった。
チラと隣をみると、咲歩はコクリとうなずいた。
「うんいいよ。じゃあここに名前……」
颯太くんは持ってきていたえんぴつでサラサラっと名前を書く。
準備いいなぁ。
私と咲歩も続けて名前を書いた。あとは……。
「グループ名はどうしますか?」
それだよねぇ。
「二人は卒業制作にどんなものを作りたいんだ?」
「私は、みこちゃんに合わせるつもりです」
「わたしはまだなんにも考えてないなぁ。でもいっぱい時間をかけて皆で作れるなら、一人じゃ絶対できないくらいの、すごいのがいいな」
「またバクゼンとしてんな。けど、大作ってとこは俺も同意見だ」
そういえば、颯太くんは大作が作りたくて中学受験するんだっけ。
中学生や高校生の作品にはかなわないだろうけど、私たちも、卒業記念にすごいのが作れたらいいよね。
卒業かぁ……。まだまだずっと先だと思ってたのにな。
「とりあえず作品の中身は後から考えることにして、グループ名決めちゃおうか」
「作品名に並ぶもんなんだし、作品に合わせてつける方がいーんじゃねーの?」
颯太くんのもっともな意見に、咲歩がクスクス笑って言った。
「みこちゃんは、早くくるみボタンが作りたくて仕方ないんですよ」
「あー……。しゃーねーな」
颯太くんが諦めたように頭を振る。
そういえば、颯太くんもケガしてすぐの頃に比べて包帯の数が減ったね。
「じゃあ『レース大好きグループ』は?」
「それ俺だけだろ。樹生さんと内野さんは何を作りたいんだ?」
「わたしは裁縫とか刺繍ができたら何でもいいよ」
「私は元々不器用で……、あまり作るのは得意じゃないんです」
「じゃーなんで手芸部なんだよ」
「みこちゃんと一緒にいたいので」
「さーちゃんはデザインが上手なんだよ。イラストとか3Dとかできちゃうの」
「へえ、じゃあデザインは内野さんに任せるか」
「その後の工程で応援係をさせていただけるなら、お受けしますよ」
えっ、制作期間って一年くらいあるけど……?
「まあ、グループのバランスとしてはいーのかも知んねーな」
「うーん『バランストリオグループ』とか?」
「別にそれでもいーけどさ、ひとまず名前をつけるってんなら『ぬいぐるみグル』でいーんじゃねーの?」
「グル?」
「グループの略だよ。全部略すと『ぬいグル』な」
「あら、可愛くて良いですね」
咲歩がポンと手を叩く。
「ま、俺たちはグルでもあるしな」
颯太くんがニヤッと笑うと、咲歩がムッとした顔になった。気がする。
「……千山さんも、みこちゃんのヒミツをご存知なんですね?」
「別に、わざわざ打ち明けられたってんじゃねーよ。助けられて、結果的にな」
咲歩が、はぁ。とため息をついた。
「……それは……。仕方ないですね……」
「悪ぃな、二人だけのヒミツに邪魔しちまって」
やっぱりこの二人は仲が良さそうに見えるなぁ。
何だろう。頭の回転が早い同士で理解が早いというか、会話のテンポが早いよね。
「じゃあ、グループ名は『ぬいぐるみグループ』でいい?」
「おぅ」「はい」
二人の返事をもらって、私は四角い枠に『ぬいぐるみ』と書いて出した。
家庭科室に来るのは久しぶりだった。
いつもの教室の椅子より背の高い丸い椅子。パイプがピカピカしてて、これに座ると、ちょっと特別な気分になれるんだよね。
手芸部では家庭科室の八つ並んだ机の好きなところに座っていいので、咲歩と私はいつも一緒の机に座っていた。
一つの机には六~八人ほどが座れるようになっている。
手芸部の先生は、小柄でいつもニコニコしてる優しいおばあさん先生で、私は先生を見てるだけで、つられてニコニコしてしまいそうになるんだよね。
ゆるみそうな口元を押さえてたら、向こうの机で颯太くんが『何してんだ』って顔をしてた。
何でもないから、気にしないで。部活が楽しみすぎるだけだから。
先生は黒板に『くるみボタン作り』『グループ決め』と書くと「来年も手芸部を希望する予定の五年生は、卒業制作用のグループ決めをしてくださいね」とニコニコ顔で言った。
クラブ活動は一年ごとに入りたい部が選べる仕組みだから、毎年変える子も多い。
でも手芸部に限っては、もともと好きな子しか来ないからか、三年間ずっと手芸部を選ぶ人がほとんどなんだよね。
だからこそ、この時期にやりたい子だけで挑戦できるのが、このグループ卒業制作だった。
四年生と、来年別の部に行く予定の五年生と、希望する六年生はくるみボタン作りをするらしい。
え、私もくるみボタン作りたいんだけど。
先生が前の机に並べている色とりどりの布々を、今すぐ見に行きたいんだけど。
四年生から二年続けて手芸部の私は、やっぱり来年も手芸部に入るつもりでいた。
先生は「グループが決まった五年生は、このプリントにメンバーの名前とグループ名を書いて前に出してください。時間があれば、ぜひくるみボタンも作っていってくださいね。材料はたくさんありますからね」とニコニコして言った。
グループの人数は自由で、二人以上なら何人でも良いらしい。
こうなったら、さっさとグループを決めて紙を出しちゃおうっ!
「さーちゃんっ、わたしと一緒に卒業制作やろうっ!」
「ええ、もちろんです。よろしくお願いしますね、みこちゃん」
咲歩はにっこり答える。
よし、そうと決まったら紙を取りに行こうっと!
立ち上がった私の目の前に、スイっとプリントが差し出される。
「あれ? あ、ありがとう、そーたくん……」
なんでわざわざ持ってきてくれたんだろう。
不思議に思いながら、その紙を受け取る。
「俺も、二人のとこに入れてもらっていーか?」
言われて、なるほどと思う。
手芸部には男の子が三人しかいない。
うち二人は四年生だ。
五年生で、卒業制作をやりそうな男子は颯太くんだけだった。
チラと隣をみると、咲歩はコクリとうなずいた。
「うんいいよ。じゃあここに名前……」
颯太くんは持ってきていたえんぴつでサラサラっと名前を書く。
準備いいなぁ。
私と咲歩も続けて名前を書いた。あとは……。
「グループ名はどうしますか?」
それだよねぇ。
「二人は卒業制作にどんなものを作りたいんだ?」
「私は、みこちゃんに合わせるつもりです」
「わたしはまだなんにも考えてないなぁ。でもいっぱい時間をかけて皆で作れるなら、一人じゃ絶対できないくらいの、すごいのがいいな」
「またバクゼンとしてんな。けど、大作ってとこは俺も同意見だ」
そういえば、颯太くんは大作が作りたくて中学受験するんだっけ。
中学生や高校生の作品にはかなわないだろうけど、私たちも、卒業記念にすごいのが作れたらいいよね。
卒業かぁ……。まだまだずっと先だと思ってたのにな。
「とりあえず作品の中身は後から考えることにして、グループ名決めちゃおうか」
「作品名に並ぶもんなんだし、作品に合わせてつける方がいーんじゃねーの?」
颯太くんのもっともな意見に、咲歩がクスクス笑って言った。
「みこちゃんは、早くくるみボタンが作りたくて仕方ないんですよ」
「あー……。しゃーねーな」
颯太くんが諦めたように頭を振る。
そういえば、颯太くんもケガしてすぐの頃に比べて包帯の数が減ったね。
「じゃあ『レース大好きグループ』は?」
「それ俺だけだろ。樹生さんと内野さんは何を作りたいんだ?」
「わたしは裁縫とか刺繍ができたら何でもいいよ」
「私は元々不器用で……、あまり作るのは得意じゃないんです」
「じゃーなんで手芸部なんだよ」
「みこちゃんと一緒にいたいので」
「さーちゃんはデザインが上手なんだよ。イラストとか3Dとかできちゃうの」
「へえ、じゃあデザインは内野さんに任せるか」
「その後の工程で応援係をさせていただけるなら、お受けしますよ」
えっ、制作期間って一年くらいあるけど……?
「まあ、グループのバランスとしてはいーのかも知んねーな」
「うーん『バランストリオグループ』とか?」
「別にそれでもいーけどさ、ひとまず名前をつけるってんなら『ぬいぐるみグル』でいーんじゃねーの?」
「グル?」
「グループの略だよ。全部略すと『ぬいグル』な」
「あら、可愛くて良いですね」
咲歩がポンと手を叩く。
「ま、俺たちはグルでもあるしな」
颯太くんがニヤッと笑うと、咲歩がムッとした顔になった。気がする。
「……千山さんも、みこちゃんのヒミツをご存知なんですね?」
「別に、わざわざ打ち明けられたってんじゃねーよ。助けられて、結果的にな」
咲歩が、はぁ。とため息をついた。
「……それは……。仕方ないですね……」
「悪ぃな、二人だけのヒミツに邪魔しちまって」
やっぱりこの二人は仲が良さそうに見えるなぁ。
何だろう。頭の回転が早い同士で理解が早いというか、会話のテンポが早いよね。
「じゃあ、グループ名は『ぬいぐるみグループ』でいい?」
「おぅ」「はい」
二人の返事をもらって、私は四角い枠に『ぬいぐるみ』と書いて出した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
『空気は読めないボクだけど』空気が読めず失敗続きのボクは、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられて……
弓屋 晶都
児童書・童話
「空気は読めないけど、ボク、漫画読むのは早い方だよ」
そんな、ちょっとのんびりやで癒し系の小学六年の少年、佐々田京也(ささだきょうや)が、音楽発表会や学習発表会で大忙しの二学期を、漫画の神様にもらった特別な力で乗り切るドタバタ爽快学園物語です。
コメディー色と恋愛色の強めなお話で、初めての彼女に振り回される親友を応援したり、主人公自身が初めての体験や感情をたくさん見つけてゆきます。
---------- あらすじ ----------
空気が読めず失敗ばかりだった主人公の京也は、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられる。
この能力があれば、『喋らない少女』の清音さんとも、無口な少年の内藤くんとも話しができるかも……?
--------------------
2023年、ポプラキミノベル小説大賞→ 最終候補
2024年、第2回きずな児童書大賞→ 奨励賞
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
【完】ノラ・ジョイ シリーズ
丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴*
▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー
▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?
✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる