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第五話 ギプスと見えない傷 (3/5)

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「それで、今日セオル様はいらっしゃらないんですね……、残念です……」
昼休み、いつもの特別教室棟の廊下の隅。
立ち入り禁止の屋上に続く階段に、私と咲歩は座っていた。

セオルはあの事件の翌日から、何やら材料を集め始めた。
ボールペンに入ってるバネとか、プラスチックストローとか、家中から色々なものを持ってきては使っていいかと私やお母さんに聞いてたセオルは、今日はその材料で何かを作っているらしくて「学校に行くのはこれが完成したらにするよ」と言われてしまったんだよね。

「ぷぷぅ……」
今日初めてセオルに会えると思っていたぷっぷちゃんも、しょんぼりしているみたいだ。まあ、咲歩のしょんぼりっぷりには負けるけどね。
「ぷっぷちゃんもごめんね、明日には連れて来られるといいんだど」
セオルの作ってる物がいつ完成するのか聞いてくればよかったかな?
でもセオルってぞうさんやうさぎちゃんと違って、聞いてもなんでもは話してくれないんだよね。
「ボクは、確証の持てない話はなるべくしない主義でね」なんて、かっこいいポーズで言っていたけど。
きっとあのポーズにも名前がついてるんだろうな。

セオルを最初に学校へ連れて来た日は一斉下校になっちゃったし、咲歩はお見舞いは長居するものじゃないって一人で来たから、ぷっぷちゃんはまだセオルには会ってないんだよね。

セオルも「写真紛失事件の解決のためには、一度ぷっぷちゃんに会ってみたほうが良さそうだね」なんて言ってたんだけど……。

あ、そういえば。
「今朝谷口さんに言われて気付いたんだけど、ちやまくんにわたしたちが『写真どろぼうはこの学校の生徒だ』ってのを言ってたら、ちやまくんは不審者を追って学校に入らなかったんじゃないかな」
「……え?」
手の中のぷっぷちゃんと遊んでいた咲歩が、動きを止めて私を振り返る。
「だから、わたしたちにも原因はあるんだし、そろそろさーちゃんもちやまくんを許してあげていいんじゃない?」
「……」
咲歩は少し俯いて、なにやら考えている。
「さーちゃん?」
えっと……、千山くんのこと、そんなに許せないのかな……?
「どうして谷口さんがそんなことを……?」
え? そこ?
「どうしてって……」
そこまで言って、私も思った。
「……どうしてだろう?」

谷口さんは私と同じ四組だ。咲歩たちと同じ三組なら、千山くんが咲歩の写真をとったんじゃないかと言われてたのも知ってるだろうけど……。
とはいえ、私みたいに友達から聞いたりもできるしなぁ。
「谷口さんって三組に仲良い子いるんだっけ?」
「そうですね、岩崎さんと一緒にいるところは時々見ますが、どちらかと言えば岩崎さんの方が四組に行くことが多いでしょうか。三組の教室ではあまり見ない気がしますね」
咲歩が教室の様子を思い出すようにして話す。
「あー、そっか。岩崎さんって三組だね。確かに四組でよく見るよ」
咲歩はポケットからメモ帳を取り出して言った。
「谷口さんは、みこちゃんに何とおっしゃったんですか?」

「え? えーと……」
私は思い出せる限りのことを咲歩に伝えた。
私と千山くんの怪我を気にしていたこと。
私と咲歩と千山くんが写真どろぼうを探していると知っていたこと。

「確かに、これだけでは決め手に欠けますね……」
「さーちゃんは、谷口さんが犯人かもって思ったの?」
「犯人かは分かりませんが、犯人に近づく手がかりになるかも知れません」
「そもそも犯人って男子じゃないの?」
私がたずねると、咲歩は「それです!」と握り拳を作って言った。
「ぷっぷちゃんは、性別についてはわからないとずっと答えてくれてたのに、私たちは勝手に犯人は男子だろうと思っていました」
「うーん……水着の写真ってなんか、女子が欲しがるイメージが湧かなくて……」
「そうなんです。谷口さんのようにショートカットの女子も、ズボンの女子もたくさんいるのに、私たちは今までぷっぷちゃんに男子ばかり見せてきました」
咲歩にぷっぷちゃんをずいっと突き出されて、ぷっぷちゃんの赤い瞳と目が合う。
「そ、そうだね」
「ですので、今日からは女子も含めて、もう一度ぷっぷちゃんの条件に合う人たちを見せたいと思います」
「なるほど……」
「もう少しだけ、私たちのわがままにお付き合いいただけますか?」
そう言って、咲歩が小首を傾げる。
「うん、もちろんっ」
私が笑顔で答えると「ありがとうございます」と笑う咲歩の髪の間から、ほんの一瞬、まぶしい笑顔が見えた気がした。
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