20 / 29
第四話 夜の学校と爆弾 (4/4)
しおりを挟む
どのくらい待っただろうか。
「……破裂しねーな……」
千山くんの言葉に、私も「ほんとだね」と答える。
「そんなにギリギリの退避では、安全とは言えないからね」
「ってことはまだ間に合うんじゃねーの?」
言うが早いか、千山くんは駆け出した。
「いけない!」
セオルが叫ぶ。
私は、千山くんを連れ戻そうと慌てて走り出した。
千山くんの背中に手を伸ばして、服が指先に触れた時、すごい音がした。
何かが顔に当たって、私たちはまとめて廊下の壁に叩きつけられた。
私の顔に当たったのは、千山くんの背中だった。
爆発、したんだ。
頭がくらくらして、真っ暗で、息が苦しくて、右も左もよくわからない。
「ってぇ……! っ、悪ぃ! 樹生さん大丈夫か!?」
私の上から重い何かがどいて視界が開けた。息が楽になる。
「マイレディ、頭を揺らしてしまったようだね。急に動くと危ない。ゆっくり、起き上がれるかい?」
あ。セオル。
千山くんも心配そうに覗き込んでいる。
よかった、千山くんも無事みたいだ。あちこち小さな傷があるのは、爆発で散った瓦礫の破片だろうか。
血が出てる傷もあるけど、大丈夫かな……。あ、でも顔は怪我してないみたいだ。
セオルの言った通り、職員室のボトルに近かった場所の窓ガラスは割れてそこらじゅうに飛び散っていた。
「え? は? さっきから喋ってんのって、これ……セオルのぬいぐるみじゃねーのか!?」
「ようやく気づいたのかい?」
「お、俺頭打ったから……? いや、打ってねーな。じゃあまさか、今の爆発で俺は死んで……!?」
「君は生きているよ。だが、君の軽率な行動のせいでマイレディもボクの仲間も大変な目に遭った。この責任については後程しっかり問わせてもらうよ?」
セオルは冷たくそう言うとまた窓際に飛び乗って……叫んだ。
「いた! 犯人だ!」
千山くんが窓に飛びつく。
「どこ!?」
「あそこだ」
きらり、と月光にセオルのかざしたステッキが光る。
下では警察官が数人校内に入ろうとしている。
けれど校舎に沿って校庭の隅を走る黒づくめの犯人に警察達は気付いていない。
すうっと千山くんが息を吸う音がして、私は反射的に両耳を塞いだ。
「おまわりさんっっ!! 校庭!! 逃げている奴が犯人だ!!」
千山くんの声が校庭中に響き渡る。
警察官が手にしたライトを校庭に向ける。
照らされて、犯人が飛び上がる。警察官が走り出す。わぁ、速い……。
犯人は必死で逃げていたが、フェンスをよじ登ろうとしたところで追いつかれて、警察官たちに取り押さえられた。
ホッとして私は視線を校内に戻す。あれ? ぞうさんは……?
「立てるかい?」というセオルの声がした方を見ると、そこには廊下にぺしょりと潰れた何かの塊が……。
「ぞうさんっ!?」
ぞうさんはお尻と背中のところが大きく裂けてわたがのぞいていた。
「……みこと……」
ぞうさんの声は、とても小さかった。
どうしよう。どうしたら……。
私は震える手でポケットからハンカチを出して、ぞうさんのケガしたところを包んで結んだ。せめて、わたがこぼれないように。
「ぞうさ……」
涙が溢れてきて、息が詰まる。
「そう、か……そのぬいぐるみも、樹生さんのだったのか……」
千山くんが、爆発の時このもふもふが顔にくっついてきたと説明した。
千山くんの顔にケガが無かったのは、ぞうさんが守ったからだったんだ。
「ぞうさんごめんっ。ごめんね……。ぞうさんはダメだって、危ないってずっとわたしを止めてたのに……。わたしのせいで、こんな……」
涙がぽたぽたと落ちて、ぞうさんに結んだハンカチに吸い込まれる。
「みことが無事ならいいんだよ……。うさぎちゃんが心配してる。家に帰ろう……」
ぞうさんは小さな声でそう言って、私の手を撫でた。
「マイレディ、警察が上がってくるようだ。ボクはランドセルに入らせてもらうよ」
セオルはそう言って私の背中側に回る。
ランドセル……? そっか。私が壁に当たっても、頭や背中を打たなかったのは、ランドセルのおかげだったんだ。
「みこと、首は痛くないかい……?」
ぞうさんが弱々しい声で、それでも私の心配をする。
「い……痛いのは、ぞうさんの方だよ……」
「確かに、今痛くなくても、マイレディにはむちうちの症状が出るかも知れないね。むちうちというのは……」
セオルがむちうちの説明をして、それから千山くんにも傷の中に瓦礫の破片が入っているかも知れないので病院に行くようにと細かく指示を出している。
「ぞうさん、本当に……ごめんなさい、痛いよね……」
すぐ家に帰って、ぞうさんを治さなきゃ……。
でも、縫うために針を刺したら、ぞうさんは痛いんじゃないかな。
でもこのままじゃずっと痛いままで……。
「痛くないよ……。僕は……ぬいぐるみ、だから……」
ぞうさんは今にも途切れそうな声で、優しくそう言った。
そんなの嘘だよ。
だって潰されたら苦しいって言うじゃない。
うさぎちゃんに尻尾引っ張られて、痛いって言ってたでしょ。
痛くないはずなんか、ないよ……。
「樹生さん……、ぞうさんと、セオルも。その、本当に、ごめん。俺が……」
「君たち、大丈夫か!?」
千山くんの声を遮って、二階に上がってきた警察官のライトが私たちを照らした。
「……破裂しねーな……」
千山くんの言葉に、私も「ほんとだね」と答える。
「そんなにギリギリの退避では、安全とは言えないからね」
「ってことはまだ間に合うんじゃねーの?」
言うが早いか、千山くんは駆け出した。
「いけない!」
セオルが叫ぶ。
私は、千山くんを連れ戻そうと慌てて走り出した。
千山くんの背中に手を伸ばして、服が指先に触れた時、すごい音がした。
何かが顔に当たって、私たちはまとめて廊下の壁に叩きつけられた。
私の顔に当たったのは、千山くんの背中だった。
爆発、したんだ。
頭がくらくらして、真っ暗で、息が苦しくて、右も左もよくわからない。
「ってぇ……! っ、悪ぃ! 樹生さん大丈夫か!?」
私の上から重い何かがどいて視界が開けた。息が楽になる。
「マイレディ、頭を揺らしてしまったようだね。急に動くと危ない。ゆっくり、起き上がれるかい?」
あ。セオル。
千山くんも心配そうに覗き込んでいる。
よかった、千山くんも無事みたいだ。あちこち小さな傷があるのは、爆発で散った瓦礫の破片だろうか。
血が出てる傷もあるけど、大丈夫かな……。あ、でも顔は怪我してないみたいだ。
セオルの言った通り、職員室のボトルに近かった場所の窓ガラスは割れてそこらじゅうに飛び散っていた。
「え? は? さっきから喋ってんのって、これ……セオルのぬいぐるみじゃねーのか!?」
「ようやく気づいたのかい?」
「お、俺頭打ったから……? いや、打ってねーな。じゃあまさか、今の爆発で俺は死んで……!?」
「君は生きているよ。だが、君の軽率な行動のせいでマイレディもボクの仲間も大変な目に遭った。この責任については後程しっかり問わせてもらうよ?」
セオルは冷たくそう言うとまた窓際に飛び乗って……叫んだ。
「いた! 犯人だ!」
千山くんが窓に飛びつく。
「どこ!?」
「あそこだ」
きらり、と月光にセオルのかざしたステッキが光る。
下では警察官が数人校内に入ろうとしている。
けれど校舎に沿って校庭の隅を走る黒づくめの犯人に警察達は気付いていない。
すうっと千山くんが息を吸う音がして、私は反射的に両耳を塞いだ。
「おまわりさんっっ!! 校庭!! 逃げている奴が犯人だ!!」
千山くんの声が校庭中に響き渡る。
警察官が手にしたライトを校庭に向ける。
照らされて、犯人が飛び上がる。警察官が走り出す。わぁ、速い……。
犯人は必死で逃げていたが、フェンスをよじ登ろうとしたところで追いつかれて、警察官たちに取り押さえられた。
ホッとして私は視線を校内に戻す。あれ? ぞうさんは……?
「立てるかい?」というセオルの声がした方を見ると、そこには廊下にぺしょりと潰れた何かの塊が……。
「ぞうさんっ!?」
ぞうさんはお尻と背中のところが大きく裂けてわたがのぞいていた。
「……みこと……」
ぞうさんの声は、とても小さかった。
どうしよう。どうしたら……。
私は震える手でポケットからハンカチを出して、ぞうさんのケガしたところを包んで結んだ。せめて、わたがこぼれないように。
「ぞうさ……」
涙が溢れてきて、息が詰まる。
「そう、か……そのぬいぐるみも、樹生さんのだったのか……」
千山くんが、爆発の時このもふもふが顔にくっついてきたと説明した。
千山くんの顔にケガが無かったのは、ぞうさんが守ったからだったんだ。
「ぞうさんごめんっ。ごめんね……。ぞうさんはダメだって、危ないってずっとわたしを止めてたのに……。わたしのせいで、こんな……」
涙がぽたぽたと落ちて、ぞうさんに結んだハンカチに吸い込まれる。
「みことが無事ならいいんだよ……。うさぎちゃんが心配してる。家に帰ろう……」
ぞうさんは小さな声でそう言って、私の手を撫でた。
「マイレディ、警察が上がってくるようだ。ボクはランドセルに入らせてもらうよ」
セオルはそう言って私の背中側に回る。
ランドセル……? そっか。私が壁に当たっても、頭や背中を打たなかったのは、ランドセルのおかげだったんだ。
「みこと、首は痛くないかい……?」
ぞうさんが弱々しい声で、それでも私の心配をする。
「い……痛いのは、ぞうさんの方だよ……」
「確かに、今痛くなくても、マイレディにはむちうちの症状が出るかも知れないね。むちうちというのは……」
セオルがむちうちの説明をして、それから千山くんにも傷の中に瓦礫の破片が入っているかも知れないので病院に行くようにと細かく指示を出している。
「ぞうさん、本当に……ごめんなさい、痛いよね……」
すぐ家に帰って、ぞうさんを治さなきゃ……。
でも、縫うために針を刺したら、ぞうさんは痛いんじゃないかな。
でもこのままじゃずっと痛いままで……。
「痛くないよ……。僕は……ぬいぐるみ、だから……」
ぞうさんは今にも途切れそうな声で、優しくそう言った。
そんなの嘘だよ。
だって潰されたら苦しいって言うじゃない。
うさぎちゃんに尻尾引っ張られて、痛いって言ってたでしょ。
痛くないはずなんか、ないよ……。
「樹生さん……、ぞうさんと、セオルも。その、本当に、ごめん。俺が……」
「君たち、大丈夫か!?」
千山くんの声を遮って、二階に上がってきた警察官のライトが私たちを照らした。
1
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
『空気は読めないボクだけど』空気が読めず失敗続きのボクは、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられて……
弓屋 晶都
児童書・童話
「空気は読めないけど、ボク、漫画読むのは早い方だよ」
そんな、ちょっとのんびりやで癒し系の小学六年の少年、佐々田京也(ささだきょうや)が、音楽発表会や学習発表会で大忙しの二学期を、漫画の神様にもらった特別な力で乗り切るドタバタ爽快学園物語です。
コメディー色と恋愛色の強めなお話で、初めての彼女に振り回される親友を応援したり、主人公自身が初めての体験や感情をたくさん見つけてゆきます。
---------- あらすじ ----------
空気が読めず失敗ばかりだった主人公の京也は、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられる。
この能力があれば、『喋らない少女』の清音さんとも、無口な少年の内藤くんとも話しができるかも……?
(2023ポプラキミノベル小説大賞最終候補作)
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。
桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。
山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。
そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。
するとその人は優しい声で言いました。
「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」
その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。
(この作品はほぼ毎日更新です)
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
図書室はアヤカシ討伐司令室! 〜黒鎌鼬の呪唄〜
yolu
児童書・童話
凌(りょう)が住む帝天(だいてん)町には、古くからの言い伝えがある。
『黄昏刻のつむじ風に巻かれると呪われる』────
小学6年の凌にとって、中学2年の兄・新(あらた)はかっこいいヒーロー。
凌は霊感が強いことで、幽霊がはっきり見えてしまう。
そのたびに涙が滲んで足がすくむのに、兄は勇敢に守ってくれるからだ。
そんな兄と野球観戦した帰り道、噂のつむじ風が2人を覆う。
ただの噂と思っていたのに、風は兄の右足に黒い手となって絡みついた。
言い伝えを調べると、それは1週間後に死ぬ呪い──
凌は兄を救うべく、図書室の司書の先生から教わったおまじないで、鬼を召喚!
見た目は同い年の少年だが、年齢は自称170歳だという。
彼とのちぐはぐな学校生活を送りながら、呪いの正体を調べていると、同じクラスの蜜花(みつか)の姉・百合花(ゆりか)にも呪いにかかり……
凌と、鬼の冴鬼、そして密花の、年齢差158歳の3人で呪いに立ち向かう──!
クラゲの魔女
しろねこ。
児童書・童話
クラゲの魔女が現れるのは決まって雨の日。
不思議な薬を携えて、色々な街をわたり歩く。
しゃっくりを止める薬、、猫の言葉がわかる薬食べ物が甘く感じる薬、――でもこれらはクラゲの魔女の特別製。飲めるのは三つまで。
とある少女に頼まれたのは、「意中の彼が振り向いてくれる」という薬。
「あい♪」
返事と共に渡された薬を少女は喜んで飲んだ。
果たしてその効果は?
いつもとテイストが違うものが書きたくて書きました(n*´ω`*n)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる