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第四話 夜の学校と爆弾 (2/4)
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「セオル、不審者さんはどこにいるんだと思う?」
走りながら聞くと、セオルはランドセルから「おそらく職員室だろうね」と即答した。
セオルは今日帰るとすぐ、家のコルクボードに貼ってある学校の見取り図を見ていた。
「怪しい人物が立っていたのはここで間違いないかな?」とセオルが図を指すので「そうだよ、よくわかったね」と返事をしたのはほんの数時間前の事だ。
「セオルは不審者さんが何をしてたか分かってるの?」
「これはあくまで推論だけどね。あの男は職員室の広さを測っていたのさ」
「何のために?」
「あの男が仕掛けようと思っている何かが、その空間に対して十分な作用を及ぼすように。だろうね」
「何かって、何?」
「それについてはまだ判断材料が足りないが、なるべく凶悪な物でないことを祈るよ」
セオルの言葉に、ここまで走り続けてポカポカのはずの背中がゾクリとふるえた。
ようやく見えてきた学校の門を、私はためらわずに乗り越えた。
あの重い門を、もたもた開けてなんかいられない。
ぞうさんはサッと私の頭にのぼっていた。
「ここからは静かに。慎重にいこう」
ランドセルから出てきたセオルが、私の肩にのぼって言う。
私とぞうさんはうなずいて、静かに職員玄関の扉を押した。
鍵がかかっているはずのそこは、すんなりと開いた。
「侵入口はここのようだね」
セオルが小さく呟く。靴は脱ごうとしたらセオルに止められた。
私はちょっと申し訳ない気持ちで、土足で校内に入った。
慎重に階段を上がっていく。
遠くで何かプシュッという音が聞こえた気がしたけど、立ち止まって耳をすましても、何も聞こえない。
「この時間に教職員が誰もいないなんて珍しいね。予告状の影響なのかな?」
セオルの話では、学校の先生というのは私達児童が帰った後も、夜まで学校で仕事をしているものらしい。
「予告状で教職員を早く返し、警備時間までの間に侵入を試みたのだとしたら、中々に計画的な犯行だね。しかし、そんな計画を練る男がはたして下調べを事件当日にするだろうか……?」
照明が全て消された二階の職員室からは、ぼんやりと明かりが漏れていた。
やっぱりここに、誰かいるんだ……。
「樹生さん!?」
小さな声で呼ばれて、声のした方をよーーーく見ると、千山くんが職員室の廊下の書類ケースの影にいた。
「ちやまくんっ、大丈夫!? どこもケガしてない!?」
私がそっと近づくと、千山くんは言った。
「なんでこんなとこ来たんだ、あぶねーからすぐ帰れ」
……はい?
「あ……、危ないのはちやまくんでしょ!? さーちゃんと私がどれだけ心配したと思ってんの!?」
思わず言い返すと、千山くんは慌てて立ち上がった。
「なっ、何言っ――もがっ」
声が大きい!!!
私は慌てて千山くんの口を押さえてしゃがませる。
フッ。と職員室の明かりが消えた。
職員室の中から、カチャ、と小さな音の後、ヒタ、ヒタ、ヒタ、とかすかな足音がゆっくり近づいてくる。
ど、どうしようっ。こっちに来る!!
「落ち着いて、その机の下に隠れて。動かないで」
セオルの指示に従って、私たちは机の下で息を殺した。
ひんやり冷たい廊下の、硬い床の感触。
階段側の窓からは月の光が明るく廊下を照らしていて、私達が隠れているところだけが真っ暗な闇に包まれている。
不審者はしばらく無言で廊下を見回してから「気のせいか」と呟いて職員室の中へ戻った。
「もういいよ」
セオルの声に私ははぁぁぁぁぁっと詰めていた息を吐く。
静かに、だけどね。
すると、どこからかふわっと甘い香りがした。
なんだろう、この匂いはどこかでかいだことが……。
走りながら聞くと、セオルはランドセルから「おそらく職員室だろうね」と即答した。
セオルは今日帰るとすぐ、家のコルクボードに貼ってある学校の見取り図を見ていた。
「怪しい人物が立っていたのはここで間違いないかな?」とセオルが図を指すので「そうだよ、よくわかったね」と返事をしたのはほんの数時間前の事だ。
「セオルは不審者さんが何をしてたか分かってるの?」
「これはあくまで推論だけどね。あの男は職員室の広さを測っていたのさ」
「何のために?」
「あの男が仕掛けようと思っている何かが、その空間に対して十分な作用を及ぼすように。だろうね」
「何かって、何?」
「それについてはまだ判断材料が足りないが、なるべく凶悪な物でないことを祈るよ」
セオルの言葉に、ここまで走り続けてポカポカのはずの背中がゾクリとふるえた。
ようやく見えてきた学校の門を、私はためらわずに乗り越えた。
あの重い門を、もたもた開けてなんかいられない。
ぞうさんはサッと私の頭にのぼっていた。
「ここからは静かに。慎重にいこう」
ランドセルから出てきたセオルが、私の肩にのぼって言う。
私とぞうさんはうなずいて、静かに職員玄関の扉を押した。
鍵がかかっているはずのそこは、すんなりと開いた。
「侵入口はここのようだね」
セオルが小さく呟く。靴は脱ごうとしたらセオルに止められた。
私はちょっと申し訳ない気持ちで、土足で校内に入った。
慎重に階段を上がっていく。
遠くで何かプシュッという音が聞こえた気がしたけど、立ち止まって耳をすましても、何も聞こえない。
「この時間に教職員が誰もいないなんて珍しいね。予告状の影響なのかな?」
セオルの話では、学校の先生というのは私達児童が帰った後も、夜まで学校で仕事をしているものらしい。
「予告状で教職員を早く返し、警備時間までの間に侵入を試みたのだとしたら、中々に計画的な犯行だね。しかし、そんな計画を練る男がはたして下調べを事件当日にするだろうか……?」
照明が全て消された二階の職員室からは、ぼんやりと明かりが漏れていた。
やっぱりここに、誰かいるんだ……。
「樹生さん!?」
小さな声で呼ばれて、声のした方をよーーーく見ると、千山くんが職員室の廊下の書類ケースの影にいた。
「ちやまくんっ、大丈夫!? どこもケガしてない!?」
私がそっと近づくと、千山くんは言った。
「なんでこんなとこ来たんだ、あぶねーからすぐ帰れ」
……はい?
「あ……、危ないのはちやまくんでしょ!? さーちゃんと私がどれだけ心配したと思ってんの!?」
思わず言い返すと、千山くんは慌てて立ち上がった。
「なっ、何言っ――もがっ」
声が大きい!!!
私は慌てて千山くんの口を押さえてしゃがませる。
フッ。と職員室の明かりが消えた。
職員室の中から、カチャ、と小さな音の後、ヒタ、ヒタ、ヒタ、とかすかな足音がゆっくり近づいてくる。
ど、どうしようっ。こっちに来る!!
「落ち着いて、その机の下に隠れて。動かないで」
セオルの指示に従って、私たちは机の下で息を殺した。
ひんやり冷たい廊下の、硬い床の感触。
階段側の窓からは月の光が明るく廊下を照らしていて、私達が隠れているところだけが真っ暗な闇に包まれている。
不審者はしばらく無言で廊下を見回してから「気のせいか」と呟いて職員室の中へ戻った。
「もういいよ」
セオルの声に私ははぁぁぁぁぁっと詰めていた息を吐く。
静かに、だけどね。
すると、どこからかふわっと甘い香りがした。
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