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第三話 二回目の犯行予告と意外な一面 (5/5)
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「まだ誰か残ってるのかー?」
あ、まずい。先生だ。さっきの千山くんの叫び声で気づかれたのかも。
私はセオルを素早くランドセルに戻して蓋を閉める。
同じ失敗を二度やらないように。
「まだ三人も残ってたのか。一斉下校なんだぞ、すぐ帰りなさい」
一組の、体格のいい男の先生に叱られて、心臓がギュッとなる。
「すいませーん。宿題忘れて取りに戻ってましたー。今帰りまーす」
千山くんがいつもの大きな声で返事をすると、先生は「まったく千山は忘れ物ばっかりでしょうがないな」と言いながら、私達が出た教室に鍵を閉めた。
そっか。戸締りして回ってるんだ。
あの日も私達が出たらすぐに教頭先生が鍵を閉めてたよね。
犯人が生徒なんだとしたら、写真を戻したのはやっぱり朝だろうな。
明日は学校に来るのが早い子の情報を集めてみようかな。
「二人とも、悪ぃな。調査の邪魔しちまってさ」
下駄箱で千山くんが謝った。『調査』のところは、いつもよりもずっと小さな声で。
もしかして、秘密の調査だと思ってるのかな?
まあ、内緒にしてくれるならその方が助かるけど。
校庭に出ると、もう生徒は一人も残っていなかった。
「俺さ、一コ下に妹がいてさ。そろそろプールの写真もらってくると思うんだよな。また爆破予告とかきてるしさ、同じように妹達の写真盗まれたりしたら嫌だよなぁ……」
校門までの間、千山くんは私たちと並んで歩きながらそんな事をぼやく。
へー、千山くんはお兄ちゃんなんだなぁ。
私にとってのぞうさんみたいに、つい妹の心配をしてしまうお兄ちゃん。
今日は千山くんの色んな一面を知ってしまった。
おさいほう……特にレースが好きなところ。
お兄ちゃんなところ。
人の大切なものを、大切にしようとしてくれるところ。
言葉は乱暴だし声は大きいけど、千山くんって私が思ってるほど怖い人じゃないのかも?
「それじゃ、ちやまくん、また明日ね」
校門を出たところで挨拶をしたら、千山くんが小さく眉を寄せた。
あ、あれ? にらまれるほどじゃなかったけど……、やっぱり私嫌われてる?
「あの方は何をなさってるんでしょうか」
咲歩の声にそっちを見れば、校門側の道からひとつ曲がった先で、学校を囲むフェンスの外から校舎をじっと見ている人がいた。
マスクにサングラスをかけて帽子を目深に被ったその人は、校舎をじーっと見つめては、手元の紙に何やら書いて、また校舎をじーっと見つめる。
「絵でも描いてるのかな?」
「私には、彼は何か……計算しているように思えるのですが」
「計算?」
「ええ、時々長さを測るような仕草をなさってますし、校舎の大きさでも測っているのでしょうか」
「何のために?」
「こーゆー時は挨拶してみりゃいーんだよ」
私たちが立ち止まった横を、千山くんはずんずん大股で通り過ぎて、その人の方に向かう。
確かに、小学生があいさつすれば地域の人はだいたいあいさつを返してくれるよね。
そしたら「何してるんですか?」って千山くんなら普通に聞いてくれそう。
ところが、千山くんが元気に「こんにちは!」とやるより早く、その人は近づいてくる千山くんの姿を見ただけでバタバタと駆け去ってしまった。
「何だあれ、マジもんの不審者じゃねーか」
私達がかけよる頃には、取り残された千山くんのご立腹な独り言がはっきり聞こえた。
「何してたんだろうね」
「先生かケーサツに連絡したほうがいーんじゃねーの?」
「確かに怪しい人だったけど、ただ校舎を見てたってだけで通報するわけにはいかないよ」
私が言うと千山くんは「そりゃそーだな」と言って小さく苦笑した。
あ。もう一面発見した。
千山くんってあんまり笑わないけど、笑うと子どもっぽい顔になって可愛いんだ。
あ、まずい。先生だ。さっきの千山くんの叫び声で気づかれたのかも。
私はセオルを素早くランドセルに戻して蓋を閉める。
同じ失敗を二度やらないように。
「まだ三人も残ってたのか。一斉下校なんだぞ、すぐ帰りなさい」
一組の、体格のいい男の先生に叱られて、心臓がギュッとなる。
「すいませーん。宿題忘れて取りに戻ってましたー。今帰りまーす」
千山くんがいつもの大きな声で返事をすると、先生は「まったく千山は忘れ物ばっかりでしょうがないな」と言いながら、私達が出た教室に鍵を閉めた。
そっか。戸締りして回ってるんだ。
あの日も私達が出たらすぐに教頭先生が鍵を閉めてたよね。
犯人が生徒なんだとしたら、写真を戻したのはやっぱり朝だろうな。
明日は学校に来るのが早い子の情報を集めてみようかな。
「二人とも、悪ぃな。調査の邪魔しちまってさ」
下駄箱で千山くんが謝った。『調査』のところは、いつもよりもずっと小さな声で。
もしかして、秘密の調査だと思ってるのかな?
まあ、内緒にしてくれるならその方が助かるけど。
校庭に出ると、もう生徒は一人も残っていなかった。
「俺さ、一コ下に妹がいてさ。そろそろプールの写真もらってくると思うんだよな。また爆破予告とかきてるしさ、同じように妹達の写真盗まれたりしたら嫌だよなぁ……」
校門までの間、千山くんは私たちと並んで歩きながらそんな事をぼやく。
へー、千山くんはお兄ちゃんなんだなぁ。
私にとってのぞうさんみたいに、つい妹の心配をしてしまうお兄ちゃん。
今日は千山くんの色んな一面を知ってしまった。
おさいほう……特にレースが好きなところ。
お兄ちゃんなところ。
人の大切なものを、大切にしようとしてくれるところ。
言葉は乱暴だし声は大きいけど、千山くんって私が思ってるほど怖い人じゃないのかも?
「それじゃ、ちやまくん、また明日ね」
校門を出たところで挨拶をしたら、千山くんが小さく眉を寄せた。
あ、あれ? にらまれるほどじゃなかったけど……、やっぱり私嫌われてる?
「あの方は何をなさってるんでしょうか」
咲歩の声にそっちを見れば、校門側の道からひとつ曲がった先で、学校を囲むフェンスの外から校舎をじっと見ている人がいた。
マスクにサングラスをかけて帽子を目深に被ったその人は、校舎をじーっと見つめては、手元の紙に何やら書いて、また校舎をじーっと見つめる。
「絵でも描いてるのかな?」
「私には、彼は何か……計算しているように思えるのですが」
「計算?」
「ええ、時々長さを測るような仕草をなさってますし、校舎の大きさでも測っているのでしょうか」
「何のために?」
「こーゆー時は挨拶してみりゃいーんだよ」
私たちが立ち止まった横を、千山くんはずんずん大股で通り過ぎて、その人の方に向かう。
確かに、小学生があいさつすれば地域の人はだいたいあいさつを返してくれるよね。
そしたら「何してるんですか?」って千山くんなら普通に聞いてくれそう。
ところが、千山くんが元気に「こんにちは!」とやるより早く、その人は近づいてくる千山くんの姿を見ただけでバタバタと駆け去ってしまった。
「何だあれ、マジもんの不審者じゃねーか」
私達がかけよる頃には、取り残された千山くんのご立腹な独り言がはっきり聞こえた。
「何してたんだろうね」
「先生かケーサツに連絡したほうがいーんじゃねーの?」
「確かに怪しい人だったけど、ただ校舎を見てたってだけで通報するわけにはいかないよ」
私が言うと千山くんは「そりゃそーだな」と言って小さく苦笑した。
あ。もう一面発見した。
千山くんってあんまり笑わないけど、笑うと子どもっぽい顔になって可愛いんだ。
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