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第三話 二回目の犯行予告と意外な一面 (4/5)

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廊下の方からパタパタと小走りな足音と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「やっべー、忘れ物しちまったよ。あーくそ、あいつらもう帰っただろーな……」
この大きすぎる独り言はもしかして……?
「うん? 二人とも何してんだ、忘れ物か?」
やっぱり千山くんだ。
噂をすれば何とやらってやつかなぁ? 口にはしてなかったけど。
「えー、うーん、ちょっとね……」
千山くんは自分の机らしき場所をガソゴソやって漢字ドリルを引っ張り出すとランドセルにぎゅうぎゅう押し込んだ。途端、ぱっと顔を上げてこちらを見た。
「ああ、こないだの写真の事か?」

えっ、何で分かったんだろう……。

「確かにあの日も犯行予告があったよな」
「え? ……あ。うん」
視界の端でセオルがチラリと私を見上げた。
今のは『聞いてなかった』って視線だった気がする。
そういえば、セオルには言ってなかったかも。
でも、写真どろぼうと爆弾予告って関係ないよね?

「こんな風に一斉下校になった教室に忍び込んで、写真を返した……とかな?」
千山くんの言葉に、私はランドセルの影に隠れていたセオルがどんな顔をしているのか気になってしまった。
セオルは小さく首を振った。そうだよね。ぷっぷちゃんの話では犯人は学校の生徒みたいだし、わざわざ放課後に忍び込む必要はないよね。
私が思わず動かした視線を追って、千山くんがセオルを見つける。
「なんだそれ、ぬいぐるみか?」
止める間もなく、トトト、と千山くんは咲歩の席まで来てしまう。
「え、と、これは……」
「これセオルじゃん。いいよなセオル。強いし優しいしすげー頭いいしさ。ぬいぐるみなんてあったんだな」
とセオルに手を伸ばしかけて、千山くんはピタッと動きを止めた。
「手に取って見てもいいか?」

あ。この前、咲歩の机を勝手に覗いた事、千山くんやっぱり気にしてたんだ。
「いい――」
いいよ。と思わず返事をしそうになって、慌てて飲み込む。
セオルは確かにぬいぐるみのフリが上手だった。
他の人に捕まった時の訓練って言われて、私が握ってぷにぷにしてみたりもしたけど、うさぎちゃんみたいにくすぐったがったり笑ったりしなかった。
でも、だからって知らない人にわざわざさわられたくはないだろうし……。
「――って、言いたいのは、そのっ、やまやまなんだけど、えっとっ」
「別に、貸したくなきゃいーって」
千山くんはぶっきらぼうにそう言ったけど、慌てて両手をバタバタさせる私を見て、ちょっとだけ笑った。
「つか、そこまで慌てなくても、無理にさわったりしねーよ。大事なもんなら、誰にもさわられたくねーってのもわかるし」
大事なもの……。千山くんにはセオルが私にとって大事なものに見えたんだ。
縫製ほうせいがすげーきれーに見えたからさ、近くで見てーなって思っただけ」
そっか、千山くんも手芸部だもんね。縫製ほうせいが気になる気持ちは私もわかるなぁ……。
「あ、えっと、じゃあわたしが握ってるのを見るだけなら……」
思わずそう言ってしまった私に、千山くんはちょっとだけ目を見開いた。
「いーのか? 無理すんなよ?」
「大丈夫だよ」
千山くんがずいっと私の前に来て、私が抱き上げたセオルをマジマジと見つめる。
「うーわ、すっげーていねい……。生地の目までピッタリ揃ってんな……」
お母さんの作業がほめられるのはなんだか嬉しくて、でもちょっとだけ恥ずかしくて、むずむずしてしまう。
「ん? こんなとこにこんな模様あったか?」
「あ、それはわたしがぬったの」
「マジで!? すげーな……。樹生さんは刺繍ししゅう上手いって内野さんからも聞いてたけど、もうこれプロ級じゃねーの?」
そんなじっくり見られると恥ずかしいけど、褒めてもらえるのはすごく嬉しい。
「でしょう? みこちゃんは本当にぬい物がお上手なんですよっ」
咲歩がなぜかじまんげに言うのが、妙に可愛い。咲歩はその勢いのまま、くるりと私の方を向いた。
「みこちゃん、千山さんは編み物がとてもお上手なんですよっ」
その話は部活の時にも咲歩から何回か聞いたけど、作品を見たこともなかったし、ふーんって思っただけなんだよね。
「編み物っつーかレース編みな。俺のとこは母さんが裁縫さいほう苦手でさ、針仕事は教えらんねーからって編む方から入ったんだ。でもやっぱ俺もレース刺繍ししゅうやってみてーな」
私の刺繍ししゅうを見つめながら、千山くんはキラキラと瞳を輝かせて言った。
「レース? レースってあの、透けてて、ヒラヒラしてるやつ?」
そんな言葉が千山くんの口から出てくるなんて……私の聞き間違いかな?
「ぁ、やべ」
千山くんはあわてて自分の口を押さえた。
「千山さんはレースが大好きなんですよ」
「ちょ、内野さんっ!」
千山くんの悲鳴がかった叫び声は、相変わらずとんでもなく大きかった。
うう、耳がキーンってする……。
うわあ、千山くん、耳まで真っ赤になってるよ。
そんなに恥ずかしかったんだ?
千山くんのすぐ近くだったセオルは、表情こそ変えずに堪えてるけど一番辛かっただろうなぁ。
「い、いいと思うよ、レース刺繍ししゅう。難しそうだけど、わたしも今度やってみようかな」
私はとにかくフォローを入れてみる。
千山くんは腕で真っ赤になった顔を隠してたけど、私の言葉を聞いた途端、ぱあっと周りにお花が咲くのが見えた気がする。
「……じゃ、じゃあ、そのさ、もし、樹生さんがよかったら、俺に刺繍ししゅうを教え……」
その時、廊下から声がした。
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