上 下
12 / 32

4話 折り紙とシャボン玉(1/4)

しおりを挟む
「ボクのことは放っておいてくれ!」
と、お怒りのニディアを部屋の隅に置いたまま、俺は家の仕事をこなしつつ、いつものようにリーバのおむつを変えたり、離乳食をあげたり、そうこうしているうちに、おやつの時間になった。

「今日のおやつはゼリーだぞー。あ、じゃなかった。セリーだぞー」
声をかければ、ライゴが大慌てで駆けてくる。
「セリー!? 大好きーっ!」
「先におもちゃを片付けておいで。おやつは手を洗ってからだぞ」
俺の言葉に、ライゴは大慌てでおもちゃを片付けに戻った。
部屋の隅で絵本を読んでいたニディアも、チラチラとこちらをうかがっているようだ。
ゼリー、好きなのか?
昨夜のうちに仕込んでおいた、俺の特製三層ゼリー。
星型のゼリーが入って星空みたいで綺麗だと、向こうでは評判だった一作だ。
まあ、こっちに星があるのかどうかは知らないが。
最初に手洗いまで済ませて来たのは、シェルカだった。
俺はその頭をよしよしとたっぷり撫でて、スプーンとゼリーを渡す。
ふわふわしたピンクの髪を撫でられて、うっとりと目を細める姿が愛らしい。
ライゴもシェルカも、人型になってもやはり撫でられるのは好きみたいだ。
次に、慌ててやってきたライゴにも同じ事をして、それからニディアに声をかけた。
「ニディアも一緒に食べないかー?」
俺の声に、二ディアの小さな肩が揺れる。
もしかして、声かけられるの待ってたのか?
二ディアは読んでいた本をパタンと閉じると、いかにも渋々という雰囲気を醸し出しつつこちらへ歩いてくる。
「…………仕方ないな。お前がどうしてもと言うなら、食べてやらないこともないぞ」

どんだけ素直じゃないんだよ。
いや、ある意味素直か??
「せっかく作ったから、食べてくれると嬉しいよ」
俺は内心苦笑しながらも、笑顔でニディアの席を引き、スプーンとゼリーを出す。
流石に撫ではしない。

二ディアが食べ始めるのを横目で確認しつつ、ラックで待っていてくれたリーバを抱き上げる。
「お待たせ、いい子で待っててくれたんだな」
小さな頭を軽く撫でれば、サラサラとした細い髪が指の間をすり抜ける。
リーバの原型はあんなにぬめぬめしてるのに、人型では白い髪も肌もサラサラしていて、俺はその事実に救われていた。もしこれで、抱き上げた子がヌメッとした手触りだったら、二重の意味で抱き落としてしまいそうだ。
リーバにも、俺の膝の上でリンゴとニンジンのようなものをすりおろしてゼリーと合わせたものを食べさせてやる。
ライゴとシェルカは、二人して代わる代わるに「おいしーおいしー」と連呼しながらもぎゅもぎゅ食べていた。
そんなに美味しそうに食べてもらえると、作りがいがあるな。

「……不味くは無い」

お?
ニディアの言葉にそちらを見れば、ちょっとだけ不服そうに口を尖らせながらも、スプーンを休ませる事なく口元に運ぶ姿があった。
「お褒めに預かり光栄だよ」
俺が応えれば、ニディアは俺をチラと見て不服そうな顔をしつつも弾んだ声で言った。
「ふん。最初からそういう殊勝な態度でいればいいんだよ」

これは結構……会話ができそうじゃないか?
確かに、ザルイルさんも気性が荒い種だとは言ったが、悪い子だと言われたわけじゃないしな。
本人の納得できない環境に無理矢理放りこまれたんだ。そりゃ不服だったよな。

二ディアは、器の中に一欠片のゼリーも残さず完食した。


おやつの後、中々寝付けずグズグズだったリーバをやっと寝かしつけて、慎重に布団に下ろす。
……ぃよし、着地成功だ。
俺は、子供部屋の低いテーブルで折り紙をしていたシェルカの元に早足で向かう。
「お待たせ。どこまでできた?」
最近シェルカは折り紙にハマっていた。
シェルカはライゴの妹ではあったが、人型ではそこまで年齢差を感じないな。
男女差だろうか。小さい頃は女の子の方がなんでも器用にできるしな。
今日のシェルカはふわふわのピンクの髪を左右で緩く三つ編みにしておさげにしていた。
今日も可愛いなと思いながらそのふわふわの頭を撫でると、シェルカは紫色の瞳を嬉しげに細めた。

「ここまでできたのか、早いな。次はこうやって……」
俺の知っている限りの折り方を紙に書いて図解しているが、俺にはそこまでたくさんの折り紙バリエーションがない。
この世界にも折り紙の本とか探せばあんのかな……?
少なくとも、この家の子ども用の本棚にはそれらしき本はなかった。
今夜ザルイルさんに聞いてみるか。

二人でせっせとコマを折っていると、後ろからニディアが覗き込んでくる。
「……なんだこれは……」
なんか微妙に声に動揺がにじんでるな。
もしかしたら、折り紙自体がここにはない文化なんだろうか。
「これは、紙を折って形を作る遊びだよ。ニディアもやってみるか?」
「……やってやらんこともない」
俺は苦笑を堪えつつ、折り紙を渡す。
といっても、色紙を正方形に切った俺の手製の折り紙だから、ちょっとだけ歪んでんだよなぁ……。

風船、船。やっこさんにパカパカ占い……と、ニディアは流石に手先も器用で、教えたら教えた分だけすぐに覚えて次々作ってゆく。

その横で、ようやくシェルカがコマを完成させた。
これは二枚で一つになるやつで、よく回るんだが、折る手順も結構多くてシェルカの歳だとそこそこ難しいんだよな。
「ついに完成だな。よく頑張ったぞ、偉いなぁ」
いつもより力を込めて頭を撫でると、シェルカの「えへへ」という小さな声。
嬉しそうな顔に、俺まで嬉しくなる。
「回してみようか?」
「う、うんっ」
俺が回していいと言うので、若干ずれていた中心をそっと直しつつ回してやれば、勢いよく回るコマに歓声が上がった。
「わあっ」
「すごい……」
二ディアもくるくる回るコマを夢中で見つめている。
二人の声に、ライゴもやってきた。
「なになに?」
そうなると思って作っておいたコマを、ライゴにも渡してやる。
「これ、コマって言うんだ。こうやって持って、回してごらん」
コマ自体は、この世界にもあるだろうか……? 多分、あるよなぁ……?
そんなことを考えつつも、ライゴが回せるようになるまで見守れば、三度ほどでコツを掴んだライゴが「すごいすごい」と連呼しながら、嬉しそうにコマを持ってゆく。
「平らなとこで回せよー」
「はーい」
うずうずしている様子のニディアにも、シェルカが見本にしていたコマを渡してやろうと振り返った時、シェルカのコマは机の上でバラバラなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

妖精王オベロンの異世界生活

悠十
ファンタジー
 ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。  それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。  お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。  彼女は、異世界の女神様だったのだ。  女神様は良太に提案する。 「私の管理する世界に転生しませんか?」  そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。  そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。

料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました 。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。 令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。 そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。 ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

処理中です...