11 / 32
3話 やっぱりめちゃくちゃデカかった(3/3)
しおりを挟むザルイルは最近、家にいる間はずっと俺に体の大きさを分けてくれている。
そのおかげで、炊事も洗濯も風呂も、苦労せずにできるようになった。
そんなわけで、振り返れば、ザルイルの目は俺とそう変わらない高さにあった。
数だけは俺よりずっと多いが。
「ザルイルさん……? 頼み事ってなんですか?」
俺は真っ直ぐ尋ねる。聞いてみないことには分からないが、なんにせよ、ザルイルがそんなに思い詰めてしまうほど、断れない頼みってことなんだろうしな。
「その……会社の後輩が、出張に行く間……、子を預かって欲しいらしい」
「はあ……。どのくらいの期間ですか?」
「期間は三日だ……が……」
が……?
ザルイルは深く深く溜息をつく。
「その子は、気性の荒い……、トラコン種なんだ……」
虎、コン……??
あ、これあれだろ。
濁点つけたりするやつ――…………って、まさか……。
ド……ドラゴン、だったり、する、のか……!?
「ヨウヘイや、子ども達が食べられるのではと思うと、中々言い出せなくてな……」
「食べられる!?」
思わず聞き返せば、ザルイルは渋い顔で頷いた。
「ああ、彼らは肉食だからな」
「そういう問題ですか!?」
「怒らせない限りは、殺されるほどのことにはならないと思うのだが、それでもリスクは十分にある……」
ひえええ、いや、流石にそれは、断りたいな。
俺はともかくとしても、可愛いライゴやシェルカ、リーバちゃんまで危険にさらしたくはない。
俺が言葉に迷っていると、ザルイルが目を伏せた。
「そうだろうな。……私も、それが良いと思う」
諦めたように背を向けて台所を後にしようとするザルイルに、俺はふと違和感を感じる。
いつもライゴとシェルカの事を大切にしているザルイルが、こんなことわざわざ悩むだろうか。
「……もし、俺が引き受けなかったら、その子はどうなるんですか?」
俺が尋ねれば、ザルイルの肩が小さく跳ねた。
「その子は……、保育園に通っているので、園に預けられる」
ん……? それなら別に、俺が預かる必要はないんじゃないか?
ホッとした俺に、ザルイルの言葉が続いた。
「ただ……夜から朝までの間は、寝かされて檻に入れられる」
なるほど。そういうことか……。
寝かせて、ではなく寝かされて、という言い方も引っかかるな。
ザルイルは、その子がそんな目に遭うのが納得できないんだろう。
それで、自分の子達を危険に晒すと分かっていても、俺に声をかけたというところか。
この人……っていいのか分からないが、ザルイルは、クールそうに見えるけど結構人情家だよなぁ。
俺も、保育園児くらいの子が檻に入れられる様は……、うん、ちょっと受け入れ難いな。
「分かりました。俺でどこまでできるか分かりませんが、そのお話、お引き受けします」
覚悟を決めた俺の言葉に、ザルイルはガバッと振り返った。
「本当か……っ!」
そんな、八つもある瞳で見つめられてしまうと、なんだか逃げ場がなくて居心地が悪いな……と、俺は内心苦笑する。
「ヨウヘイにも子ども達にも、守護の術を徹底してかけると約束する。いざという時にはあの子を拘束できるように、この腕輪も持っていてくれ」
そう言って、ザルイルは使い捨ての拘束専用アイテムだという腕輪を俺に渡した。
どうやら、言い出せない間にも準備だけはしていたようだ。
二日の休みを挟んで翌朝、ドラゴンの子はリリアさんと一緒にやってきた。
緑の鱗がつやつやとおひさまの光を受けて輝いている。
ばさり。とその背で立派な翼が羽ばたけば、巣の形をした家を強風が襲う。俺なんか簡単に吹き飛びそうだ。
俺は巨大なそのドラゴンの子を見上げて大きく頷く。
……うん。でかいよな。知ってた。
つっても、リリアさんに比べたら全然ちっさいよな。
いやあ、そろそろ俺の大きさの感覚もバグってきたかな!?
「この子のママはぁ、朝一番の便で出ないとだったからぁ、あたしが連れてきたのよぅ」
リリアさんがいつもの軽い口調で説明してくれる。
どうやら、ドラゴンの母親は既に出張先へ旅立ったらしい。
しかし『朝一番の便』って……。この世界にも、なんかそういう移動機関っぽいものがあるのか……?
こんな馬鹿でかいサイズの生き物を乗せて……? まるで想像もつかんな……。
俺は、ひとまず疑問を頭の隅に追いやって、目の前で俺を見下ろしている立派なドラゴンをよく観察する。
ザルイルよりほんの一回り小さいくらいの、緑の鱗がつやつやしたドラゴンは、巣の前に降り立つと、六つの金色の目で俺を見下ろして言った。
「お前がボクの面倒をみる? そんな毛も生えてないようなチビが!?」
正面切って言われると、いっそ清々しいな。
俺は既に、朝の支度用にザルイルから要素をもらってはいたが、それでも子ドラゴンの半分程度だもんな……。
まあでも、お前とリーバちゃんから要素をもらえば、俺の方が大きくはなるわけだが。
事前に親から了解をもらっていたというザルイルが、サッとリーバと子ドラゴンから要素を集める。
途端に、巨大なドラゴンは人に近い姿へと変わる。
「はぁ!? 何だこの格好は、ふざけてるのか!?」
もう六歳くらいだろうか、言葉も達者な子ドラゴンは、文句もペラペラだな。
人型になっても、彼は緑の髪に大きな尻尾とツノに、ギョロリとした金色の瞳が六つあった。
「お前はボクの事をなんだと思ってるんだ!?」
ビッ、と指を突きつけられて、俺は苦笑いを浮かべる。
「え? ええ、と……トラコン、だろ?」
「そうだ! ボクは誇り高いトラコン族のニディア!! それがどうしてこんな辺鄙でボロっちいところで! こんな、ちんちくりんで、毛もない赤子のような格好で過ごさなきゃならないんだ!!」
うん、語彙力が豊富だね。すごいね。
シェルカは二ディアの剣幕にすっかり怯えて棚の向こうに隠れてしまっている。
ライゴも、なんと声をかけたものかと悩んでいる様子だ。
リーバに至っては、ニディアの怒鳴り声で泣き出してしまった。
「しかもこんな、一つ目二つ目ばかりの低俗な奴らと一緒にだなんて。母上は一体何をお考えなんだ!!」
俺は、思っていたよりも手強そうな相手に、内心で流れる汗を拭った。
そのおかげで、炊事も洗濯も風呂も、苦労せずにできるようになった。
そんなわけで、振り返れば、ザルイルの目は俺とそう変わらない高さにあった。
数だけは俺よりずっと多いが。
「ザルイルさん……? 頼み事ってなんですか?」
俺は真っ直ぐ尋ねる。聞いてみないことには分からないが、なんにせよ、ザルイルがそんなに思い詰めてしまうほど、断れない頼みってことなんだろうしな。
「その……会社の後輩が、出張に行く間……、子を預かって欲しいらしい」
「はあ……。どのくらいの期間ですか?」
「期間は三日だ……が……」
が……?
ザルイルは深く深く溜息をつく。
「その子は、気性の荒い……、トラコン種なんだ……」
虎、コン……??
あ、これあれだろ。
濁点つけたりするやつ――…………って、まさか……。
ド……ドラゴン、だったり、する、のか……!?
「ヨウヘイや、子ども達が食べられるのではと思うと、中々言い出せなくてな……」
「食べられる!?」
思わず聞き返せば、ザルイルは渋い顔で頷いた。
「ああ、彼らは肉食だからな」
「そういう問題ですか!?」
「怒らせない限りは、殺されるほどのことにはならないと思うのだが、それでもリスクは十分にある……」
ひえええ、いや、流石にそれは、断りたいな。
俺はともかくとしても、可愛いライゴやシェルカ、リーバちゃんまで危険にさらしたくはない。
俺が言葉に迷っていると、ザルイルが目を伏せた。
「そうだろうな。……私も、それが良いと思う」
諦めたように背を向けて台所を後にしようとするザルイルに、俺はふと違和感を感じる。
いつもライゴとシェルカの事を大切にしているザルイルが、こんなことわざわざ悩むだろうか。
「……もし、俺が引き受けなかったら、その子はどうなるんですか?」
俺が尋ねれば、ザルイルの肩が小さく跳ねた。
「その子は……、保育園に通っているので、園に預けられる」
ん……? それなら別に、俺が預かる必要はないんじゃないか?
ホッとした俺に、ザルイルの言葉が続いた。
「ただ……夜から朝までの間は、寝かされて檻に入れられる」
なるほど。そういうことか……。
寝かせて、ではなく寝かされて、という言い方も引っかかるな。
ザルイルは、その子がそんな目に遭うのが納得できないんだろう。
それで、自分の子達を危険に晒すと分かっていても、俺に声をかけたというところか。
この人……っていいのか分からないが、ザルイルは、クールそうに見えるけど結構人情家だよなぁ。
俺も、保育園児くらいの子が檻に入れられる様は……、うん、ちょっと受け入れ難いな。
「分かりました。俺でどこまでできるか分かりませんが、そのお話、お引き受けします」
覚悟を決めた俺の言葉に、ザルイルはガバッと振り返った。
「本当か……っ!」
そんな、八つもある瞳で見つめられてしまうと、なんだか逃げ場がなくて居心地が悪いな……と、俺は内心苦笑する。
「ヨウヘイにも子ども達にも、守護の術を徹底してかけると約束する。いざという時にはあの子を拘束できるように、この腕輪も持っていてくれ」
そう言って、ザルイルは使い捨ての拘束専用アイテムだという腕輪を俺に渡した。
どうやら、言い出せない間にも準備だけはしていたようだ。
二日の休みを挟んで翌朝、ドラゴンの子はリリアさんと一緒にやってきた。
緑の鱗がつやつやとおひさまの光を受けて輝いている。
ばさり。とその背で立派な翼が羽ばたけば、巣の形をした家を強風が襲う。俺なんか簡単に吹き飛びそうだ。
俺は巨大なそのドラゴンの子を見上げて大きく頷く。
……うん。でかいよな。知ってた。
つっても、リリアさんに比べたら全然ちっさいよな。
いやあ、そろそろ俺の大きさの感覚もバグってきたかな!?
「この子のママはぁ、朝一番の便で出ないとだったからぁ、あたしが連れてきたのよぅ」
リリアさんがいつもの軽い口調で説明してくれる。
どうやら、ドラゴンの母親は既に出張先へ旅立ったらしい。
しかし『朝一番の便』って……。この世界にも、なんかそういう移動機関っぽいものがあるのか……?
こんな馬鹿でかいサイズの生き物を乗せて……? まるで想像もつかんな……。
俺は、ひとまず疑問を頭の隅に追いやって、目の前で俺を見下ろしている立派なドラゴンをよく観察する。
ザルイルよりほんの一回り小さいくらいの、緑の鱗がつやつやしたドラゴンは、巣の前に降り立つと、六つの金色の目で俺を見下ろして言った。
「お前がボクの面倒をみる? そんな毛も生えてないようなチビが!?」
正面切って言われると、いっそ清々しいな。
俺は既に、朝の支度用にザルイルから要素をもらってはいたが、それでも子ドラゴンの半分程度だもんな……。
まあでも、お前とリーバちゃんから要素をもらえば、俺の方が大きくはなるわけだが。
事前に親から了解をもらっていたというザルイルが、サッとリーバと子ドラゴンから要素を集める。
途端に、巨大なドラゴンは人に近い姿へと変わる。
「はぁ!? 何だこの格好は、ふざけてるのか!?」
もう六歳くらいだろうか、言葉も達者な子ドラゴンは、文句もペラペラだな。
人型になっても、彼は緑の髪に大きな尻尾とツノに、ギョロリとした金色の瞳が六つあった。
「お前はボクの事をなんだと思ってるんだ!?」
ビッ、と指を突きつけられて、俺は苦笑いを浮かべる。
「え? ええ、と……トラコン、だろ?」
「そうだ! ボクは誇り高いトラコン族のニディア!! それがどうしてこんな辺鄙でボロっちいところで! こんな、ちんちくりんで、毛もない赤子のような格好で過ごさなきゃならないんだ!!」
うん、語彙力が豊富だね。すごいね。
シェルカは二ディアの剣幕にすっかり怯えて棚の向こうに隠れてしまっている。
ライゴも、なんと声をかけたものかと悩んでいる様子だ。
リーバに至っては、ニディアの怒鳴り声で泣き出してしまった。
「しかもこんな、一つ目二つ目ばかりの低俗な奴らと一緒にだなんて。母上は一体何をお考えなんだ!!」
俺は、思っていたよりも手強そうな相手に、内心で流れる汗を拭った。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活
破滅
ファンタジー
総合ランキング3位
ファンタジー2位
HOT1位になりました!
そして、お気に入りが4000を突破致しました!
表紙を書いてくれた方ぴっぴさん↓
https://touch.pixiv.net/member.php?id=1922055
みなさんはボッチの辛さを知っているだろうか、ボッチとは友達のいない社会的に地位の低い存在のことである。
そう、この物語の主人公 神崎 翔は高校生ボッチである。
そんなボッチでクラスに居場所のない主人公はある日「はぁ、こんな毎日ならいっその事異世界にいってしまいたい」と思ったことがキッカケで異世界にクラス転移してしまうのだが…そこで自分に与えられたジョブは【自然の支配者】というものでとてつもないチートだった。
そしてそんなボッチだった主人公の改生活が始まる!
おまけと設定についてはときどき更新するのでたまにチェックしてみてください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる