混沌世界で、どデカい異形生物に囲まれて、大きくなったり小さくなったりしています。

弓屋 晶都

文字の大きさ
上 下
7 / 32

2話 俺が、撫でてもいいのか……?(2/3)

しおりを挟む
「え? 俺に、赤ちゃんの世話……ですか?」
それから数日経ち、シェルカの羽の腫れもすっかり引いた頃。
俺の作った夕飯を皆で食べていた席で、ザルイルは言いにくそうに切り出した。
「ああ……、どうしても、どこにも預かってもらえないらしくてな……。シッターさんも誰も捕まらないそうなんだ」
困った様子で琥珀色の目を伏せるザルイル。
彼を助けたい気持ちはあるが、それにしたって、見たこともないような異形生物の、しかも赤ちゃんの面倒なんて、荷が重過ぎる。
「でも……、俺人間以外の赤ちゃんなんて、世話した事ないからどうしたらいいか……」
俺が正直に伝えれば、ザルイルは深く頷いて答えた。
「それは向こうにも了承をもらっている。ライゴ達のようにしてもらっていいそうだ」

……つまり、人間の赤ちゃんのような見た目になった、その子を世話すればいいんだ?
それなら、まあ……。
でも俺、〇歳児のクラス持った事ないんだよな。
一歳くらいの子ならいいんだけど……。
あ。そうか、俺がそのくらいの子だとイメージしたらいいんだ?

「ええと、じゃあ、できる限り、やってみます」
俺はここで世話になってる身だし、他に行くあてもないしな。
やるだけやってみるか。

――そう思った俺だったが、その子を見て、三歩は後ずさった。

「こっ……これが、赤ちゃん……」
ライゴの五倍くらいはあるだろうか。
手も足もない、ニョロニョロした姿。でも蛇と違って鱗のようなものは見当たらない。
つるっと言うよりぬるっとした真っ白なその体に、背筋が凍る。
そして目が……、一つ、しかない……のかな? これ。
眠っているらしく、閉じられたままの瞳。けれどそれは一つ以外見当たらなかった。
もしかして、これが原因で保育園に入れなかったのか……?
「名前は、リーバというらしい」
ザルイルが名を教えてくれる。
「リーバ……ちゃん、くん……?」
思わず口に出してしまった言葉に、その子の保護者らしき大蛇……。
いや、大蛇なんてもんじゃないな、崖というか、壁というか、とにかく大きな生き物が答えた。
「あ、女の子ですぅ」
「リーバちゃん……。お預かりしますね。今日の体調や様子はいつもと変わりありませんでしたか?」
尋ねれば、ママさんらしき巨大な生き物が、その体には似合わない至って普通の喋りでペラペラとリーバちゃんの普段の様子から好きな遊びまでがっつり語ってくれた。
う、うん……。よく寝る子らしいし、なんとかなるといいな……。
他人に預けるのは初めてと言うところにちょっと不安を感じつつも、俺はその子を受け取った。
人の姿として。
腕に収まるサイズになってくれて、ホッとする。
自分と同じくらいのサイズじゃ抱き上げられないところだった。
その辺はザルイルが調整してくれたらしい。
腕の中ですやすや眠っている赤子を名残惜しそうに眺めながら、ママさんはザルイルと去っていった。
……ザルイルの会社の同僚とのことだったが、あの大きさの同僚がいる会社ってどんだけでかいんだよ……。
俺は、俺の想像を遥かに越えてしまった現実に、考えることを諦めた。

とにかく、今はこの子の事だな。
腕の中の赤ちゃんに視線を下ろすと、ぱち。とその目が開いた。
真っ白な体と髪に、よく映える血の色のような真っ赤な瞳。
俺がこの子は一つ目だと思ったせいか、それともこういう器官は増やせないのか、その子は赤ちゃんの姿でも一つ目のままだった。
額のあたりに目がある事に若干の違和感はあるが、それでもやっぱりちっちゃい子は可愛いな……。
泣く事なく、あたりをキョロキョロと見回している子を、ライゴとシェルカが覗き込む。
二人は、保育しやすいようにと人型をしていたが、今日の俺は、この子のおかげでライゴやシェルカの倍以上のサイズがあった。
二人に見えるように、と少ししゃがむ。
途端に、リーバちゃんが泣き出した。
「おっと」
抱き上げてゆらゆら揺らしながら様子を見る。
シェルカは急な鳴き声にびっくりしたのか、人型になっても残っている獣型のふわふわの耳をぴょこんと引っ込めた。
そんな仕草もまた可愛い。
シェルカは今日、ピンクベースのふんわりしたワンピースを着ている。
ライゴは園児服でイメージが固定されてしまったのかいつも変わらない姿だが、シェルカは変化の度に俺がこんな服だと可愛いだろうなぁと思った通りの姿で現れるので、毎日少しずつ髪形や服が違っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~

斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている 酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

処理中です...