3 / 32
1話 俺は、もう大人です(3/5)
しおりを挟む
夕方……と言っていいのかわからないが、おひさまとか言う花が少しずつ閉じてゆくと辺りは徐々に薄暗くなる。そんな頃、いつものようにザルイルが仕事から戻った。
ザルイルは、夕食の支度をしながら俺に話した。
「朝と昼は、出来合いやハンで済ませてしまうから、その分夕食だけは私が作ろうと思ってはいるんだが……」
ハンというのは、パンのように数日保存できるふわふわもこもこした食べ物だ。味も見た目もパンに近いが、この世界にも小麦があるんだろうか?
料理をどでかい机の上に並べ終わって、ザルイルが子ども達を呼ぶ。
良い父であるザルイルだったが、残念なことに彼はあまり料理が得意でないらしい。
今日も、子ども達は出された料理を一口食べて、難しそうな顔になった。
いったい今まではどうしていたのかと思えば、俺を拾う前日までは通いの家政婦さんを雇っていたらしい。
その人が腰を痛めて辞めてしまい、今は代わりの人を探してもらっているところだと言う。
「私より魔法や術に詳しい者に相談してみたのだが、ヨウヘイが我々ほどに大きくなるためには、体を構成するための要素がたくさん必要になる」
子ども達より先に食事を終えたザルイルが、俺に大きな手を差し出してくる。
「ヨウヘイ、私の手に乗ってもらえるだろうか」
ライゴが俺を机の上に乗せていたので、俺はそのままその大きな手に乗った。
それにしてもデカい。
ロボット物の、ロボットとパイロットくらいの大きさの違いがあるな……。
ザルイルは何やら呪文のようなものを唱える。
俺の乗った手が一瞬だけほわんと光った。
「?」
「うーん。君には魔力がほとんどないね」
言われて、正直がっかりした。だって異世界転移ともなれば、そういうのってなんかこう、桁外れに持ってたりしそうだろ?
まあしかし、俺の場合は状況も状況だし、夢の中みたいなもんなんだろうな。
俺は俺のままでしかないらしい。
ここで死ねば目が覚めたりするのかも知れないが、イキナリそれを試すほどの度胸は俺にはない。
「これは友人のアイデアなんだが……」と、ザルイルが提案したのは、ライゴとシェルカを半分の大きさにして、その分の要素を俺に注ぐという案だった。
「そんな事が……できるんですか……?」
俺の言葉にザルイルは柔らかく微笑んで「できるよ」と答えた。
「ただ、本人達の了承が必要だけれどね」
それはもちろん。と俺が頷けば、ライゴはすぐに「僕いいよっ!」と答える。
ザルイルは、そんな息子にほんの少し目を細めて、真剣な表情で語りかけた。
「ライゴ、よく聞きなさい。これにはリスクがある。お前はその間、いつもより小さい大きさで過ごさないといけないよ?」
「うんっ」
「できることも、いつもの半分だ。逆に、ヨウヘイはお前と同じ大きさになる。シェルカの同意があれば、お前の倍ほどの大きさになるだろう。ヨウヘイが、お前達を攻撃しようと思えば、お前達はやられてしまうかも知れないよ?」
「え……」
ライゴが、考えてもいなかったという顔でザルイルを見上げて、それから俺を見る。
俺は、苦笑を返した。
襲ったりなんかしないよ。と思いはしたが、それを口にしたところで何の保証にもならないだろう。
しかし、俺に懐いているライゴはともかく、ザルイルはこんな提案をしてくるほどに俺を信用してくれているんだろうか。
それとも、この世界の住人たちはこんな小さな子にも自己責任を負えと言うのだろうか。
「うん……、大丈夫。僕、それでもいいよ」
ライゴの決意のこもった言葉に、ザルイルは大きな大きな手で息子の頭を優しく撫でた。
「シェルカは、まだ気にしなくていいよ。その気になったら声をかけておくれ」
ザルイルはそう言って娘の頭も撫でた。
嬉しそうに目を細めるシェルカ。
うーん。父親にはこんな顔も見せるんだよな。俺の前ではいつも不安そうに固まった顔ばかりだが。
まあ、今までだって人見知りはどのクラスにもいた。こういうのは、焦っちゃダメなんだよな。
ザルイルは、夕食の支度をしながら俺に話した。
「朝と昼は、出来合いやハンで済ませてしまうから、その分夕食だけは私が作ろうと思ってはいるんだが……」
ハンというのは、パンのように数日保存できるふわふわもこもこした食べ物だ。味も見た目もパンに近いが、この世界にも小麦があるんだろうか?
料理をどでかい机の上に並べ終わって、ザルイルが子ども達を呼ぶ。
良い父であるザルイルだったが、残念なことに彼はあまり料理が得意でないらしい。
今日も、子ども達は出された料理を一口食べて、難しそうな顔になった。
いったい今まではどうしていたのかと思えば、俺を拾う前日までは通いの家政婦さんを雇っていたらしい。
その人が腰を痛めて辞めてしまい、今は代わりの人を探してもらっているところだと言う。
「私より魔法や術に詳しい者に相談してみたのだが、ヨウヘイが我々ほどに大きくなるためには、体を構成するための要素がたくさん必要になる」
子ども達より先に食事を終えたザルイルが、俺に大きな手を差し出してくる。
「ヨウヘイ、私の手に乗ってもらえるだろうか」
ライゴが俺を机の上に乗せていたので、俺はそのままその大きな手に乗った。
それにしてもデカい。
ロボット物の、ロボットとパイロットくらいの大きさの違いがあるな……。
ザルイルは何やら呪文のようなものを唱える。
俺の乗った手が一瞬だけほわんと光った。
「?」
「うーん。君には魔力がほとんどないね」
言われて、正直がっかりした。だって異世界転移ともなれば、そういうのってなんかこう、桁外れに持ってたりしそうだろ?
まあしかし、俺の場合は状況も状況だし、夢の中みたいなもんなんだろうな。
俺は俺のままでしかないらしい。
ここで死ねば目が覚めたりするのかも知れないが、イキナリそれを試すほどの度胸は俺にはない。
「これは友人のアイデアなんだが……」と、ザルイルが提案したのは、ライゴとシェルカを半分の大きさにして、その分の要素を俺に注ぐという案だった。
「そんな事が……できるんですか……?」
俺の言葉にザルイルは柔らかく微笑んで「できるよ」と答えた。
「ただ、本人達の了承が必要だけれどね」
それはもちろん。と俺が頷けば、ライゴはすぐに「僕いいよっ!」と答える。
ザルイルは、そんな息子にほんの少し目を細めて、真剣な表情で語りかけた。
「ライゴ、よく聞きなさい。これにはリスクがある。お前はその間、いつもより小さい大きさで過ごさないといけないよ?」
「うんっ」
「できることも、いつもの半分だ。逆に、ヨウヘイはお前と同じ大きさになる。シェルカの同意があれば、お前の倍ほどの大きさになるだろう。ヨウヘイが、お前達を攻撃しようと思えば、お前達はやられてしまうかも知れないよ?」
「え……」
ライゴが、考えてもいなかったという顔でザルイルを見上げて、それから俺を見る。
俺は、苦笑を返した。
襲ったりなんかしないよ。と思いはしたが、それを口にしたところで何の保証にもならないだろう。
しかし、俺に懐いているライゴはともかく、ザルイルはこんな提案をしてくるほどに俺を信用してくれているんだろうか。
それとも、この世界の住人たちはこんな小さな子にも自己責任を負えと言うのだろうか。
「うん……、大丈夫。僕、それでもいいよ」
ライゴの決意のこもった言葉に、ザルイルは大きな大きな手で息子の頭を優しく撫でた。
「シェルカは、まだ気にしなくていいよ。その気になったら声をかけておくれ」
ザルイルはそう言って娘の頭も撫でた。
嬉しそうに目を細めるシェルカ。
うーん。父親にはこんな顔も見せるんだよな。俺の前ではいつも不安そうに固まった顔ばかりだが。
まあ、今までだって人見知りはどのクラスにもいた。こういうのは、焦っちゃダメなんだよな。
1
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

ダンジョンの隠し部屋に閉じ込められた下級冒険者はゾンビになって生き返る⁉︎
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
Bランクダンジョンがある町に住む主人公のカナンは、茶色い髪の二十歳の男冒険者だ。地属性の魔法を使い、剣でモンスターと戦う。冒険者になって二年の月日が過ぎたが、階級はA〜Fまである階級の中で、下から二番目のEランクだ。
カナンにはAランク冒険者の姉がいて、姉から貰った剣と冒険者手帳の知識を他の冒険者達に自慢していた。当然、姉の七光りで口だけのカナンは、冒険者達に徐々に嫌われるようになった。そして、一年半をかけて完全孤立状態を完成させた。
それから約半年後のある日、別の町にいる姉から孤児の少女を引き取って欲しいと手紙が送られてきた。その時のカナンはダンジョンにも入らずに、自宅に引きこもっていた。当然、やって来た少女を家から追い出すと決めた。
けれども、やって来た少女に冒険者の才能を見つけると、カナンはダンジョンに行く事を決意した。少女に短剣を持たせると、地下一階から再スタートを始めた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる