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第7話 エピローグ (1/4)
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ログアウトの途端、辺りが暗くなる。
目を閉じてもう一度目を開くと、そこはいつもの私の部屋だった。
通知を切っていた通話アプリを開くと、ズッ友のところが『99+』というこれ以上ない数字になっていた。
あれから四人は一体どれだけ話し込んでいたんだろうか。
私は、まずクラスのグループ会話を遡って…………遡りきれずに、検索して冬馬くんを見つける。
冬馬くんに声をかければ、冬馬くんがすぐに坂口くんを呼んでくれて三人だけの複数会話ができた。
なんて言われるだろうかとドキドキしていた私に対して、冬馬くんは「みさみさは、花坂だったのか」と言っただけだったし、坂口くんには教室で倒れた時のお礼を言われてしまって、そう言えば、と思ったりした。
『さっき公式見てたんだけど、まだメンテの終了時刻は未定みたいだね』
坂口くんが言うと、
『今見たら、Eサーバーだけのメンテ予定がこの後順次全サーバーで大規模メンテになるって書いてあるな』
と、冬馬くんが言った。
『それって、きなこもちが全部のサーバーの全部のマップを回るって事?』
私が尋ねると、二人が答える。
『そうだろうな』
『多分そうだねー』
『大変だねぇ……。お腹ぺこぺこになりそう』
私は、きなこもちがよく出していたお腹すいたマークを思い浮かべる。
私の手の上で、黄色い石をもぐもぐ美味しそうに食べていた。
もう、あの子にああやって黄色い石を食べさせることもないんだな……。
そう思ったら、ぽろりと涙がこぼれた。
カタナ達との会話がひと段落して、私は数時間放置していたズッ友グループの会話を恐る恐る開いてみる。
『みさき、おかえり』
声をかけてきたのは玲菜だった。
『ただいま』
と私が返事をすれば、玲菜は
『とりま、ログ読んでおいで』
と言う。
『了解』とスタンプを押して、私は長い長いログを辿った。
最初のあたりはまだ玲菜がご立腹で、ひまりもアイカも、玲菜に『あんたたちにはデリカシーがない!』と叱られていた。
デリカシー……って、なんとなくニュアンスは分かるんだけど、正確にはなんだっけ。と検索してくれば、それはどうやら『相手のことを考えたり気遣ったりする力』みたいで、結局はカタナの言う想像力に繋がるものだと理解する。
そのうち、追い詰められた二人は
『でも、遥やみさきみたいに、人の話に合わすばっかの人にはなりたくないし!』
『玲菜はいっつも自分が正しいみたいな顔してさ! そういう強い人には弱い奴の気持ちなんて分かんないんだよ!!』
『うちらがいつもどれだけ傷付いてると思ってんの!?』
と逆ギレを始める。
遥は『酷い……』と泣いてるスタンプを送っているけど、遥の打たれ弱さを思えば、これは本当に泣いてるかも知れないなぁ。
もしかしたら、アイカもひまりも泣いてるとは言わないだけで、画面の向こうでは泣いてるのかも知れないけど。
『傷付いた人が被害者だっていうなら、アイカやひまりが傷付けた人の方がずっと多いでしょ?』
玲菜は、冬馬くんたち以外にもクラスのグループ会話でアイカやひまりに傷付けられただろう子達の名前と内容を並べてゆく。
しかも時系列を遡りながら。
うーん。玲菜はよくこれだけ全部覚えてたなぁ。
もしかして、今までずっとメモでも取ってたんだろうか。
だとしたら意外と玲菜って執念深いのかも……。
クールでサバサバしてる印象だったけど、普段クールに見えるのは感情をあんまり表に出さないだけで、怒りとかもずーっと溜め込んでから爆発するタイプだったんだ……。
私は、じわりと冷や汗を滲ませながらログを読み進める。
『みさきじゃないけど、私もあんた達には失望したよ! あんた達と同じグループだと思われるのが恥ずかしい!!』
『じゃあもう友達やめればいいじゃん!』
『みさきはもうログも見てないみたいだし、私たちなんてどうでもいいんだよね』
『あたしはアイカとふたりで全然いいしー!!』
『玲菜は、みさきと遥と三人グループでも作ればいいじゃん!』
なるほど、それは悪くないかも……?
と思いながら進めると、そう思ったのは私だけだったのか、玲菜が言い返している。
『違うでしょ!? 同じグループの友達だからこそ、あんた達にはまともになって欲しいの!!』
『まともって何よ! 何がまともじゃないわけ!?』
『あたしは十分まともだしー!!』
『私達の事まともじゃないと思ってるような人に、友達になってもらわなくていいですー!!』
うーん。混沌としてきた……。
そのまましばらく殺伐とした会話が続く。
二対一で不利になってきたのか、玲菜が苛立ちとともに叫ぶ。
『遥も見てるんだったら何とか言いなよ!』
『私は……』
と、遥がぽつりぽつりと細切れで発言を始める。
『私は……アイカの明るくて元気なとこ好きだし……ひまりのテンション高くて突き抜けてるとこも好きだし……、みさきの優しくて気配りが上手なとこも、玲菜のしっかりしてて頼れるとこも好きだよ……。五人で……一緒にいたいよ……』
たっぷり十分以上かけて、途切れ途切れの遥の言葉が続いていた。
『えーんえーん』と涙に濡れるスタンプがその後はいくつも続いている。
遥だけじゃなくて、アイカもひまりも、玲菜まで号泣のスタンプだ。
これは多分四人ともリアルで泣いてたんだろうなぁ……。
そのあとは、涙に浄化されたのか、アイカとひまりが色々な事を少しずつ反省し始めている。
その中の『みさきの、いっつもお母さんに呼ばれたとか家族でご飯行くとか言うのが羨ましくて……』という言葉に驚いたりもした。
アイカとひまりは小学生の頃の学童保育からの友達らしくて、お互い両親共働きで帰りも遅くて、夕飯も家で一人で食べてるらしい。
アイカのお兄さんは去年まで一緒に夕飯を食べてたらしいけど、大学生になったら友達と済ませて来ちゃう方が増えたんだって。
なるほど……。二人がずっと通話アプリにいるのは、一人が寂しいからだったんだね。
私はご飯どきにスマホ触ったらダメって言われるけど、二人にはそんなこと言ってくれる人が、そもそもそばにいないんだ。
遥も中学からは両親共働きになって、週に三日は夕飯が一人だから、皆が話してくれるのが支えになってるって言ってた。
私は、毎日親とご飯を食べるのが当たり前だと勝手に思ってしまってたけど、それぞれの家でこんなに違うんだ……。
目を閉じてもう一度目を開くと、そこはいつもの私の部屋だった。
通知を切っていた通話アプリを開くと、ズッ友のところが『99+』というこれ以上ない数字になっていた。
あれから四人は一体どれだけ話し込んでいたんだろうか。
私は、まずクラスのグループ会話を遡って…………遡りきれずに、検索して冬馬くんを見つける。
冬馬くんに声をかければ、冬馬くんがすぐに坂口くんを呼んでくれて三人だけの複数会話ができた。
なんて言われるだろうかとドキドキしていた私に対して、冬馬くんは「みさみさは、花坂だったのか」と言っただけだったし、坂口くんには教室で倒れた時のお礼を言われてしまって、そう言えば、と思ったりした。
『さっき公式見てたんだけど、まだメンテの終了時刻は未定みたいだね』
坂口くんが言うと、
『今見たら、Eサーバーだけのメンテ予定がこの後順次全サーバーで大規模メンテになるって書いてあるな』
と、冬馬くんが言った。
『それって、きなこもちが全部のサーバーの全部のマップを回るって事?』
私が尋ねると、二人が答える。
『そうだろうな』
『多分そうだねー』
『大変だねぇ……。お腹ぺこぺこになりそう』
私は、きなこもちがよく出していたお腹すいたマークを思い浮かべる。
私の手の上で、黄色い石をもぐもぐ美味しそうに食べていた。
もう、あの子にああやって黄色い石を食べさせることもないんだな……。
そう思ったら、ぽろりと涙がこぼれた。
カタナ達との会話がひと段落して、私は数時間放置していたズッ友グループの会話を恐る恐る開いてみる。
『みさき、おかえり』
声をかけてきたのは玲菜だった。
『ただいま』
と私が返事をすれば、玲菜は
『とりま、ログ読んでおいで』
と言う。
『了解』とスタンプを押して、私は長い長いログを辿った。
最初のあたりはまだ玲菜がご立腹で、ひまりもアイカも、玲菜に『あんたたちにはデリカシーがない!』と叱られていた。
デリカシー……って、なんとなくニュアンスは分かるんだけど、正確にはなんだっけ。と検索してくれば、それはどうやら『相手のことを考えたり気遣ったりする力』みたいで、結局はカタナの言う想像力に繋がるものだと理解する。
そのうち、追い詰められた二人は
『でも、遥やみさきみたいに、人の話に合わすばっかの人にはなりたくないし!』
『玲菜はいっつも自分が正しいみたいな顔してさ! そういう強い人には弱い奴の気持ちなんて分かんないんだよ!!』
『うちらがいつもどれだけ傷付いてると思ってんの!?』
と逆ギレを始める。
遥は『酷い……』と泣いてるスタンプを送っているけど、遥の打たれ弱さを思えば、これは本当に泣いてるかも知れないなぁ。
もしかしたら、アイカもひまりも泣いてるとは言わないだけで、画面の向こうでは泣いてるのかも知れないけど。
『傷付いた人が被害者だっていうなら、アイカやひまりが傷付けた人の方がずっと多いでしょ?』
玲菜は、冬馬くんたち以外にもクラスのグループ会話でアイカやひまりに傷付けられただろう子達の名前と内容を並べてゆく。
しかも時系列を遡りながら。
うーん。玲菜はよくこれだけ全部覚えてたなぁ。
もしかして、今までずっとメモでも取ってたんだろうか。
だとしたら意外と玲菜って執念深いのかも……。
クールでサバサバしてる印象だったけど、普段クールに見えるのは感情をあんまり表に出さないだけで、怒りとかもずーっと溜め込んでから爆発するタイプだったんだ……。
私は、じわりと冷や汗を滲ませながらログを読み進める。
『みさきじゃないけど、私もあんた達には失望したよ! あんた達と同じグループだと思われるのが恥ずかしい!!』
『じゃあもう友達やめればいいじゃん!』
『みさきはもうログも見てないみたいだし、私たちなんてどうでもいいんだよね』
『あたしはアイカとふたりで全然いいしー!!』
『玲菜は、みさきと遥と三人グループでも作ればいいじゃん!』
なるほど、それは悪くないかも……?
と思いながら進めると、そう思ったのは私だけだったのか、玲菜が言い返している。
『違うでしょ!? 同じグループの友達だからこそ、あんた達にはまともになって欲しいの!!』
『まともって何よ! 何がまともじゃないわけ!?』
『あたしは十分まともだしー!!』
『私達の事まともじゃないと思ってるような人に、友達になってもらわなくていいですー!!』
うーん。混沌としてきた……。
そのまましばらく殺伐とした会話が続く。
二対一で不利になってきたのか、玲菜が苛立ちとともに叫ぶ。
『遥も見てるんだったら何とか言いなよ!』
『私は……』
と、遥がぽつりぽつりと細切れで発言を始める。
『私は……アイカの明るくて元気なとこ好きだし……ひまりのテンション高くて突き抜けてるとこも好きだし……、みさきの優しくて気配りが上手なとこも、玲菜のしっかりしてて頼れるとこも好きだよ……。五人で……一緒にいたいよ……』
たっぷり十分以上かけて、途切れ途切れの遥の言葉が続いていた。
『えーんえーん』と涙に濡れるスタンプがその後はいくつも続いている。
遥だけじゃなくて、アイカもひまりも、玲菜まで号泣のスタンプだ。
これは多分四人ともリアルで泣いてたんだろうなぁ……。
そのあとは、涙に浄化されたのか、アイカとひまりが色々な事を少しずつ反省し始めている。
その中の『みさきの、いっつもお母さんに呼ばれたとか家族でご飯行くとか言うのが羨ましくて……』という言葉に驚いたりもした。
アイカとひまりは小学生の頃の学童保育からの友達らしくて、お互い両親共働きで帰りも遅くて、夕飯も家で一人で食べてるらしい。
アイカのお兄さんは去年まで一緒に夕飯を食べてたらしいけど、大学生になったら友達と済ませて来ちゃう方が増えたんだって。
なるほど……。二人がずっと通話アプリにいるのは、一人が寂しいからだったんだね。
私はご飯どきにスマホ触ったらダメって言われるけど、二人にはそんなこと言ってくれる人が、そもそもそばにいないんだ。
遥も中学からは両親共働きになって、週に三日は夕飯が一人だから、皆が話してくれるのが支えになってるって言ってた。
私は、毎日親とご飯を食べるのが当たり前だと勝手に思ってしまってたけど、それぞれの家でこんなに違うんだ……。
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